2025.02.28

PLAY BACK! ミズベリング2013-2025

ミズベリングの社会的インパクトとは何か?

おかげさまでミズベリングは、2024年の年度末で2013年度から11年間継続して活動することができました。

これもひとえに、ミズベリングの趣旨に賛同し、一緒になって盛り上げていただいた各地の地域の皆様や新たな領域にチャレンジをしてきた行政の皆様、企業、団体として意思決定をして参画した皆様のおかげでございます。

事務局を勝手に代表し、御礼申し上げます。

この年度末の機会に、一度振り返って考えてみたいと思います。

事務局から自らあまり語ってこなかったことでもあります。そもそもミズベリングのアウトカム(成果)はなんなのか?

ミズベリングが成し遂げたもの

ミズベリングに対する評価はさまざまあると思います。一言にミズベリングが成し遂げたものはなんなのか?語るのは難しいところがあります。

もともと事務局は情報を発信する側ではあったものの、情報を網羅的に集約することはなかなか難しいものがありました。

事務局の役割は、それぞれの地域ごとにどのような成果をあげられてきたか、なるべく近くに寄って把握するために記事を執筆したり、ご当地で開催されるミズベリング〇〇会議に置いて、当事者の方々からお話をお伺いしたりと、それなりに努力はして参りましたが、そもそも仕組みとしてピラミッド構造を指向して作った体制ではなく、情報集約に向いていたとはいえません。むしろ、アドホックにアジャイルに、アメーバ的な運動体を目指していたと言えます。

それは、定量的な指標では測りきれない、水辺の魅力創出には必要なファクターがあったからだと思います。

そのファクターについては後述します。

ミズベリングの6つの施策

ミズベリング事務局が実施していたことは、単純化すると6つの施策に集約されます。

シンボルマークは各地に広がり、200を超えるシンボルマークを世の中に送り出すことができました。

ご当地会議、ミズベリング〇〇会議は、これまで水辺を自分ごとにすることをためらっていた日本中のさまざまな人たちが参加する機会を作り、自らの手で水辺の未来を作り出すことへの期待とワクワク感をもたらすプラットフォームになってきました。

そして会議室から飛び出し、実際に水辺に出て多様な人たちと一緒に時間を過ごし水辺のポテンシャルを体感し、共有する。そんな機会を作ってきたのが「水辺で乾杯」という全国イベント。その後、洪水被害を受けているさまざまな地域への思いを寄せる機会にもなり、全国で一斉に行うことの意味が深まりました。毎年、2万人を超える方々と一緒に水辺で乾杯を行う、圧巻のイベントに成長しました。

社会実験を励行し、多くの地域で試行的な取り組みとしてのミズベリングのイベントが行われたことは、イベントそのものの質や量も増えたことは言うまでもありませんが、失敗をも糧に地域をより良い方向に導く、まさに実施と検証の繰り返しによる水辺のあり方を模索する文化を育むことにつながったように感じます。

この公式ウェブサイトの編集、取材を通し、全国の水辺の取り組みを行うさまざまなセクターの方々の実情をお聞きし、記事にすることができました。情報を発信するところには情報がさらに集まります。

その結果、全国で水辺の特異的な取り組みの誕生を目撃し、それを全国の方々に共有するミズベリング・インスパイア・フォーラムの実施につながり、その中で事例だけではなく、それを推進する「人」、さまざまな魅力的なミズベリストの誕生を皆さんと共に喜びました。

単純に見えるこれらの施策を淡々とミズベリング事務局はこなしてきた結果、ミズベリングは水辺の利活用の促進というテーマで次のようなアウトカム(成果)を作り出すことができたのではないかと考えます。

ミズベリングのアウトカムとインパクト

ミズベリングの11年の活動によって、さまざまな成果が得られたのではないかと思います。社会的インパクト評価の手法である、ロジックモデルを模して、ミズベリングのアウトカムを整理すると上のような図になるのではないかと考えます。(筆者である岩本の私見であり、いかなる団体の意見を代表するものではありません)

水辺の利活用に関する認知度が向上

水辺を民間があれこれ考えるということができない時代があったというのがすでにもう驚きです。私自身がかつては水辺で何かをしようとした時に、さまざまなたらい回しにあったことを考えると、現在は隔世の感があります。2013年以前というのはそういう時代でした。

水辺の利活用事例の質、量の向上

数えるほどしかなかった水辺の利活用事例ですが、今日ではその事例は多様で、それぞれの地域に根差したものが数もたくさん増えました。毎年のように素晴らしい事例が生まれ、事務局としても全てを訪問することが難しくなったことはうれしい悲鳴です。

かわまちづくり計画の質の向上

かわまちづくり支援制度で生まれてくる水辺空間は必ずと言っていいほど出来上がった後の市民や民間の関わりを意識するものばかりになりました。かつては、そうではなかったのです。かわまちづくり計画にミズベリングの取り組みが言及されることも増えました。

水辺のあり方に関する社会通念の変化

水辺が地域社会にとって、かつてはどういう存在で、今日ではどういう存在として見出されるようになったか比較すると、水辺に対するものの見方が変わったと言えるのではないでしょうか?愛着を持っている人がいたとしても、愛着があることをあらゆる形で表現ができ、新たな可能性を探求できる場所、探求した先に実際に変化を起こすことができるかもしれない場所。

水辺に関わる人々の属性の変化

これまで水辺に関わってきた人々とは異なる属性の人々が水辺に関わるようになりました。具体的にいうと、これまでは水辺の環境の保全に関心があった人が中心だったとすると、今日ではまちづくりなどの分野で、水辺を含む地域全体のあり方に関心がある人々の関与が増えたと言えるのではないでしょうか。

これらの成果の結果、さらに次の二次的な成果につながったと言えると思います。

二次的な成果

ミズベリングが、市民や企業が水辺に主体的に関わるための社会的な基盤となった

ミズベリングというキャッチフレーズがあることで、市民や企業が水辺に関わることそのものが肯定されるようになりました。ミズベリングがそれぞれの地域や関わる人々、企業の創意工夫によってあらゆる形に変わりうる柔軟な概念であることが、多様な関わりを生み出しました。

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ミズベリングが基礎自治体の水辺利活用における主体性発揮のキーワードになった

河川敷地を使いこなしていくためには、河川管理者と共に基礎自治体の主体的な関与が不可欠です。ミズベリングは基礎自治体にとって、使いこなす市民・民間と共に水辺のあり方に関わっていくための標語になりました。市民や民間の「やりたい」を受け止める行政側にとっても、正解がない中でそれぞれの行政の都合に合わせてながら創意工夫を行うテーマになりました。

ミズベリングが、行政の今後の仕事のあり方に一石を投じた

市民や民間の潜在的なニーズを引き出し、参加を促し、試行的な取り組みを通じて、見えなかった世界が見えてくるような仕事がミズベリングにおける行政の取り組みです。組織の外との関わりによって成果を出していく仕事のあり方によって、行政の仕事のあり方に一石を投じたように思います。

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結局人に行き着く

水辺の担い手はどのような主体なのか?これまでも繰り返し立てられてきた問いです。これまでも河川に関わるさまざまな市民の方々がいました。そんな中で、ミズベリングの11年の取り組みを通して、新たな担い手像が生み出されてきたと言えるのではないでしょうか?水辺の利活用を通して河川そのものに関心が高まり、流域全体のことを考える人々が生まれた事例は事欠きません。

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中には、水辺に関わった人たちが中心市街地活性化にそのまま関わるようになった自治体もあると聞きます。

民間企業も、行政も、一般の市民も、それぞれのミズベリングの活動をそれぞれが規定していく過程を通じて、水辺とはなんなのか、地域にとって水辺はどういう存在であり得るのか?市民が参画するということはどういうことなのかを、自らが考える機会になっていったのだと思います。その機会があることそのものがミズベリングの魅力であると思います。

ミズベリングにはマニュアルはありません。ここが前述の「定量的な指標では測りきれない、水辺の魅力創出には必要なファクター」に関わるところなのではないかと考えます。

つまり、創意工夫、主体性を発揮し、地域における水辺のあり方を自ら考え表現したり事業創出できるような人たちの出現や成長そのものが、水辺の魅力創出に必要なファクターで、そのような人々との奇跡的な出会いを通して多くの人々が勇気を持って自分たち自身も変わりたいと思えるようなプラットフォームにミズベリングがなったとしたら、こんなに素敵な話はありません。

今後への期待

確かに11年間の活動を通して、水辺の利活用についてお伝えし、応援するプロジェクトとしての役割をミズベリングは十分に果たした、と言えるのかもしれません。

しかし、さまざまな人々が主体的に関わる社会の実現をアウトカムとして具現化できることが分かったいま、水辺の利活用にとどまらず、他のテーマや領域に広げていけるのではないか、という可能性を見出すことができます。実際に、流域治水に関するミズベリング的な検討を行ったことがありますが、気候変動にどのように水防災の視点で市民や民間企業が参画するかは、まさにこれから発展の余地がある分野だと思います。

ミズベリング的流域治水ソーシャルデザイン宣言

他にもきっと今は見えていない分野があると思います。それはそれぞれの自治体や流域、エリアごとに異なるニーズがあるのだと思います。

それでも、どのように対話を行い、どのような成果をそれぞれが認め、それぞれがお互いの主体性を認めあいながら、新しい価値を創造する社会の実現にとって、なくてはならない土台なのではないでしょうか?

この記事を書いた人

ミズベリングプロジェクトディレクター/(株)水辺総研代表取締役/舟運活性化コンソーシアムTOKYO2021事務局長/水辺荘共同発起人/建築設計事務所RaasDESIGN主宰

岩本 唯史

建築家。一級建築士。ミズベリングプロジェクトのディレクターを務めるほか、全国の水辺の魅力を創出する活動を行い、和歌山市、墨田区、鉄道事業者の開発案件の水辺、エリアマネジメント組織などの水辺利活用のコンサルテーションなどを行う。横浜の水辺を使いこなすための会員組織、「水辺荘」の共同設立者。東京建築士会これからの建築士賞受賞(2017)、まちなか広場賞奨励賞(2017)グッドデザイン賞金賞(ミズベリング、2018)

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