2023.03.14
水辺の利活用事例調査を通して見えてきた、利活用マネジメントで大事な3つのポイントと利活用適地ロケーション。
ミズベリング事務局では、2022年度に全国の河川で先進的な利活用の取り組みが行われている地域を対象としてフィールド調査を行いました。対象地としては、狭山市入間川にこにこテラス、越谷レイクタウン、東近江市愛知川、岡崎市乙川、港区ウォーターズ竹芝の5つの水辺で調査を行いました。以下にその調査から得られた示唆を利活用マネジメントの観点、水辺利活用適地の観点から整理したものをお伝えいたします。
1.利活用マネジメントの観点からの示唆
(1)主体的に水辺のまちづくり活動を行う「地域主体」が体制に位置づけられ、水辺の価値の持続性を成立させている。
独自の地域ビジョンを持ち、水辺のまちづくり活動を推進する地域の主体が、体制の中に位置づけられることによって、水辺の公共価値の創出・持続と、経済的利益の追求が同時にバランス良く行われている事例が存在した。そのような体制では、水辺の地域主体の意思が利活用方針にも反映され、トップダウンだけでない、ボトムアップな取り組みが水辺の価値、魅力創出に貢献している。具体的には、岡崎のワンリバー、レイクタウンのレイクアンドピースなどの市民組織、愛知川漁協、竹芝干潟アドバイザリーなどの地域主体が挙げられる。このような地域主体は、公共マインドを持って、水辺と地域を活性化する活動、水辺環境の価値を向上させる活動を主体的に行っており、利用者や周辺地域の人々に活動の価値を認められている。行政や企業もこのような地域主体を有形、無形で支援し、協働や連携が行われている。地域環境への主体的な奉仕、世話、関与などを行うスチュワードシップ(Stewardship)概念*1の重要性が近年高まっているが、これらの地域主体は水辺環境に対するスチュワードシップを持つ組織とも考えることができる。
利益追求的な事業者マインドだけでなく、公共マインドを持って水辺の質と価値の向上を目指す地域主体が存在し、両者のバランスが保たれていることが、水辺利用の持続性を担う組織運営には重要である。
*1:Enqvist, Johan & West, Simon & Masterson, Vanessa & Haider, Lisbeth & Svedin, Uno & Tengö, Maria. (2018). Stewardship as a boundary object for sustainability research: Linking care, knowledge and agency. Landscape and Urban Planning. 179. 17-37. .2018.
(2)行政、民間、市民の「橋渡し役」組織の存在。
行政と民間、市民をつなぐ「橋渡し役」組織が存在した。狭山市におけるりそな銀行は、マーケティングな視点から行政と事業者の橋渡し的な支援を行い、民間企業の水辺への事業参入を可能とする条件を整理することで、その実現に寄与した。また、竹芝では、都市再生推進法人の竹芝エリアマネジメントが水辺の占用主体となり、行政と民間の間を地域の利益を調整する半公的な主体として橋渡し役を行っている。行政と市民をつなぐ組織には、レイクアンドピース、ワンリバー、りた、竹芝タウンデザインなどの地域における中間支援的な組織の存在があった。それらの橋渡し的組織は、単年度だけでなく、継続的な取り組みを通して、セクターを越えるさまざまな価値の交換に貢献し、行政だけでは実現できない細やかな協働事業を成立させていた。また、東近江三方よし基金など、地域を越えて、遠方の出資者とプロジェクトの実施者を資金面で橋渡しする中間支援組織の取り組みは、地域だけにとどまらない、水辺を軸とした交流人口、社会関係資本の創出に寄与していた。
以上のように、行政とアクターの間を橋渡しする第三者による、地域における社会関係の調整、構築は水辺利活用の成立、持続の上で重要である。
(3)行政内に水辺のまちづくりにやる気がある担当者が存在し、リーダーシップを発揮し、組織に認められている。
自治体(狭山市、岡崎市)、埼玉県の河川管理者(狭山市、レイクタウン)など、行政内の担当者のリーダーシップが発揮されて各種の協働プロジェクトが促進されている事例がある。これらの事例では、行政担当者が、それぞれの立場を踏まえながら、様々な企画・調整を行ない、プロジェクトの実現の推進役の役割を果たしていた。
狭山市の事例では、担当者が自己成長の場としてもプロジェクトを捉え、内発的な動機づけによってプロジェクトの推進役となった。また、担当者が市民との協働を推進することと、庁内調整を行うことの二刀流を自然にこなせる背景には、そのような担当者をつぶさない組織風土や見守る上司が存在した。この文脈からは、首長などのトップがプロジェクトや担当者の役割を理解していることが理想的な状態と考えられる。
その他事例においても、行政担当者が事業に理解を示しており、協力的な連携があることは事業推進の上で必要であった。
2.水辺利活用適地ロケーション
各事例においては、そもそも立地選定の際に、水辺の利活用に適した場所が選ばれていることがポイントとなっている。水辺利活用の適地項目として、以下の指標となる項目を挙げることができる。
・出水危険性の低さ:出水の影響を受けにくい立地に存在している。防潮堤内背後の内水面としての竹芝、堤防天端の幅広の背後地を利用した狭山、調整池に立地するレイクタウンなどが典型となっている。
・中心市街地の近さ:中心市街地から歩ける距離に水辺が存在している。狭山、レイクタウン、岡崎、竹芝が該当。
・商業施設隣接:水辺に商業施設が隣接している。隣接する計画になっている。狭山、レイクタウン、岡崎、竹芝はそれぞれ水辺の商業施設が立地し、キーテナントが入居している。
・活動拠点性:水辺の活動の拠点となる施設が近くに存在している。岡崎は活動拠点としてのリバーベース、レイクタウンでは艇庫や観光協会施設、竹芝には干潟の維持管理運営のための備品ストック倉庫、会議室などが存在している。東近江でも近隣に漁協施設が存在している。
・アクセス:公共交通でのアクセス性の良さ、自動車、自転車、バイク、歩行でのアクセス性の良さ。駅からの近さ、駐車場、駐輪場を備えていることや、水辺に人がどこまで近づくことができるかなどの項目が存在する。
・回遊動線:水辺が単体として存在しているだけでなく、まちの他の拠点と回遊動線が確立されており、導線の中に水辺が位置づけられていること。このことにより街全体の回遊性が高まると共に、水辺への来訪者も増える相乗効果がある。岡崎のQURUWA戦略などがその好事例である。
以下の表に各事例の水辺活用適地項目をまとめた。
ランドスケープ・プランナー、博士(工学)。 「ミズベリング・プロジェクト」ディレクター、株式会社ハビタ代表、日本各地の風土の履歴を綴った『ハビタ・ランドスケープ』著者。大阪大学卒業後編集者として勤務。2007年工学院大学建築学科卒業、愛植物設計事務所にランドスケープデザイナーとして勤務後独立。2022年九州大学大学院工学府都市環境システム専攻博士課程修了。都市の水辺再生、グリーンインフラ、協働デザインが専門。地元の葉山でグリーンインフラの活動を行う。
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