2020.11.05

3企業が協働で水辺の課題を克服。 工業専用地域の運河沿いに生まれた憩いの場、 「汐浜テラス」

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東西線東陽町駅から徒歩5分ほど、企業のオフィスや集合住宅が立ち並ぶ細い通りを抜けた当たり、見回すと汐浜運河沿いに小さな緑地帯とオープンエアのウッドデッキテラスが目に入る。コロナ禍での緊急事態宣言が解除された後の7月15日にオープンした「汐浜テラス」だ。東陽・新砂地区運河ルネサンス協議会と東京都江東区を拠点とする株式会社IHI、スカパーJSAT株式会社、株式会社竹中工務店が連携して整備を進めてきたものだ。

ここは、近隣住民はもちろん周辺で働く人たちが、目の前の汐浜運河を眺めながら一休みする場所として設けられた。そばにある赤いコンテナは「CONTAINER CAFE2187」。門前仲町の焼き鳥の名店「アポロ」が出張し、ランチや喫茶などを供している。昼時ともなれば、サラリーマンたちがベンチに座り、人気のランチバッグに舌鼓を打っている。さらに、この場が地域コミュニティの拠点となるよう、コロナ感染症の収まり具合を見極めつつ、お祭りやヨガ教室を開催するなど積極的に活用していく予定だという。

官民連携で、段階的に魅力的なミズベを育てる

周囲を見渡すと他に人が気軽に立ち寄れるような、広場などは見当たらない。そういった中で、なぜここにこのようなデッキを企画することになったのだろうか?

江東区には河川や運河が縦横無尽に走り、同テラスが設けられたこの東陽町エリアは汐浜運河沿いに位置する。戦後、企業のオフィスや倉庫、集合住宅などが徐々に集積し、働く人や住民も増えていった。並行して運河沿いに散歩道や緑道などが設けられたものの、そこまでのアクセスが整えられておらず十分に活用されなかった。まちと運河沿いの散歩道の間には護岸が設けられ、散歩道に出るには階段を昇降しなくてはならない。また、それまでに設けられた憩いの場は散歩道からやや離れていてせっかくの水面が見えず、人がわざわざ足を運んでくつろぐような場ではなかった。
「また、工業専用地域が広がっているため、人が気軽に集えるような小規模な店舗は建てられないことも、閑散とした雰囲気を生む一因になっていました」と竹中工務店まちづくり戦略室副部長の高浜洋平さんは説明する。

竹中工務店 まちづくり戦略室副部長 高浜洋平さん(左)/スカパーJSAT株式会社スカパー東京メディアセンター所長 天沼啓幸さん(中央奥)/株式会社IHI物流施設・住宅グループ岡田拓巳さん(右)/

一方、江東区の観光推進プランでは汐浜運河は地域資源とされ、「水辺に親しむ観光プログラムの充実」が目標に掲げられていた。その一環として、2018年からは官民連携で、東陽町1、2丁目、新砂1丁目の町会、企業などが「歩いたら健康になる緑道」を運河沿いにつくるプロジェクトを開始、2019年には健康をテーマにした緑道「フィットネスロード汐浜運河」として整備を進めた。健康増進に寄与する「バランスウォーキング」(歩行姿勢測定)、「ステップウォーキング」(歩幅測定)などの仕掛けのほか、緑道沿いに健康に関する企業や施設が点在していることから、ハーブ類を置いたスタンドを設置した。

しかしながら、このように緑道に工夫をこらしても、ほとんどの人はウォーキングやジョギング、ペットの散歩などで通るだけで、賑わいにはつながりにくい。そこで、人が自然と溜まり、賑わいを生む場所として企画されたのが「汐浜テラス」である。社会実験プロジェクトという建付けで迅速にスタートを切った。IHI社会基盤・海洋事業領域都市開発SBU物流施設・住宅グループの課長、岡田拓己さんは「この辺の特徴は水際にあると思います。水際を生かしたまちづくり、コミュニティづくりがふさわしいのではないでしょうか」と語る。

約3年前から竹中工務店がまちづくり分野に活動を広げ、暗中模索していたこともプロジェクトの実現を後押しした。「水辺での展開は社会貢献、ビジネスチャンスにつながる可能性もある、と考えました。まず小さなところから挑戦していこうと」と高浜さんは話す。

所有形態の異なる隣接した敷地を、法人が協働して開発

実は、「汐浜テラス」が設置された対象地ももともと、使う人が少なく閑散としていたという。面積の9割ほどは竹中工務店の敷地を、スカパーJSATが借地しているいわゆる公開公園だ。運河に沿って東西に細長く、近隣住民は通り抜けることがほとんどだった。道路に接する西側は保育園が利用するなどしていたが、東側には木々がうっそうと茂り、蛇が出るなどの苦情も寄せられていた。また、東南角及び接する運河の一部はIHIの敷地に当たるが、接道していないため活用が難しい状況だった。

そこで3社は協働し、対象地を近隣の人々が集い、恒常的に賑わいコミュニティが生まれるような場所への総合的な改修を計画した。3社が出資、設計は竹中工務店が担当した。水辺を眺めながら憩えるように、運河に近いIHIの敷地にウッドデッキテラスを設置。飲食店の併設を必須と考えていたが、店舗などの建築物を建てられないことから、他のさまざまな手段を検討した。「結果、車両のついたコンテナは“動産”として、ここに置いて飲食店を運営することができると分かりました。BETTARA STAND日本橋(中央区。期間限定イベントスペース)で使用されていたコンテナを借りています」と高浜さん。

テラスから運河沿いの潮風の散歩道に抜ける階段つきの動線までの整備も行った。これは、災害時に運河に繋がる避難や物流の経路も兼ねる。「今後、そこからさらに、運河の水上まで活用を発展させていきたいですね」(岡田さん)と夢は膨らむ。

公園沿いに社屋のあるスカパーJSATのメディア事業部門メディア技術本部メディアセンター管理部長の天沼啓幸さんは、近隣の人たちが楽しみつつコミュニティ形成のきっかけになるような企画をすでにイメージしている。「社屋の壁に映画を投影して近隣の皆さんに見てもらう、“ねぶくろシネマ”のようなイベントを開催したい。これまでは地元との関りが薄かったが、今後は地元の皆さんと積極的に交流していきたいですね」。

これまで、水辺を活用する際に、権利関係が複雑でプロジェクトがなかなか進まないケースが少なくなかった。「汐浜テラス」プロジェクトは、複数の法人が積極的に協働すれば、障壁を打破できるという証ではないだろうか。今後、このような事例が増えていくことを望んでやまない。

汐浜テラス

・場所:江東区新砂1-1-1公園内
毎日9 時~17 時まで地域に開放

CONTAINER CAFE2187:2020年7月15日より、平日11時~14時
(雨天中止、今後時間が変わることがあります)

設置主体:IHI、スカパーJSAT、竹中工務店

管理主体:東陽・新砂地区運河ルネサンス協議会

設計監修:竹中工務店

*11/15には、水辺の大実験と称した、水面を使いこなすイベントが行われます。今年ひっそりと設置された浮き桟橋を使い、SUPやE-BOATなどが乗船できます。また、釣り体験も。日大の海洋建築学科の菅原先生以下門下生たちの手すりをカフェテーブルに変えてしまう実験も行われる予定です。

*記事執筆中に、こちらのエリアが東京都港湾局の運河ルネサンス推進地区に選定されました(2020年10月8日)
運河ルネサンスの各地区の取り組み(東京都港湾局)
東陽・新砂地区運河ルネサンスについて(江東区)

この記事を書いた人

介川亜紀

住宅、建築、都市、まちづくりがフィールドのフリーランス編集者。特に建築や都市・まちの「再生」に興味津々で日本全国を飛び回っている。 仕事と並行し、明治大学大学院で再生マネジメントと都市計画を学び2016年修了。

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