2021.01.20

大正区の賑わいづくりと、大阪舟運の拠点を目指す「タグボート大正」

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京セラドーム大阪の近く、一級河川、尻無川沿いに地元の感度の高い若年層が注目する施設があるのをご存じだろうか? コンセプトは「つくるが交わる」。名称を「タグボート大正(TUGBOAT_TAISHO)」といい、船を髣髴とさせる外観の施設内には、大阪界隈で人気の“尖った”飲食店が集う。1階は、カフェ・レストランエリアとメインのフードホールエリア「新カモメ食堂街」、3階はバー・スナックエリアから構成されている。2020年1月のオープンと同時に注目スポットとなり、週末になると20代後半~30代のカップル、男女グループが集まってくる。
「当初ターゲットとして考えていたのは、①地元の方々、②情報への感度が高い若年層、③京セラドーム大阪への来場者、④インバウンドなどの4つの層の方々でした。施設オープンとほぼ同時にコロナ禍が始まりましたが、2020年のGW明けには、地元の方々や感度の高い若年層を中心に、来客数が戻ってきました。公園のような感覚で立ち寄ってくださるようですね」と当施設の企画・運営に携わる株式会社RETOWNの代表取締役、松本篤氏は話す。

(写真/介川亜紀)

(写真/特記以外、RETOWN)

当施設を核としての賑わいづくりは、大阪市大正区の要望でもある。人口は年々減少して2018年には大阪市24区中で最下位に、空き家率は大阪市の平均14.8%を下回る17.8%など、昨今は人気が少なく寂れた雰囲気が漂っていた。
「プロ野球球団、オリックス・バファローズの本拠地で、年間に相当数のコンサートも行われる『京セラドーム大阪』は区境付近、西区側に位置しています。大正区側のJRや地下鉄の駅経由でアクセスするものの、来場者は滞留せずに現地に直行してしまう。これまで駅付近には若年層が興味を持つような飲食店などがなかったのが一因です」と同社社長室室長の岡野正太郎氏は説明する。

「大正リバービレッジプロジェクト」として民間再生整備事業計画に認定

そこで2014年、大正区は「尻無川河川広場周辺エリア活性化協議会」を設立し、2015年に社会実験として「Taishoリバービレッジ」を開催した。「川と海のまち・大正区に忽然と現れた、南国リゾートムードの秘密基地」をコンセプトに、手ぶらで楽しめるバーベキューや小型船クルーズなどを行い、当初1ヶ月で約1万4,000人の来訪を記録した(https://mizbering.jp/archives/18266)。

この結果をもとに、2016年に大正区は「にぎわい創造拠点整備・管理運営事業」の公募型プロポーザルを実施し、現タグボート大正の事業者であるRETOWNを選定。同社は、河川敷地をフードホールのほか飲食店、水上ホテル、オフィス、広場などとして一体的に整備するとともに、大阪・湾岸エリアなどの水辺拠点を結ぶ舟運事業を計画した。

2019年3月には、国土交通省が、上記に含まれる施設整備事業「大正リバービレッジプロジェクト」(床面積合計1574.91m2、広場1352.24m2)について、民間都市再生整備事業計画に認定した。民間と国土交通省、地方公共団体が連携して水辺を活用する「ミズベリング」プロジェクトとして、初の認定となった。
ちなみに河川敷地は大阪府の所有であり、大正区が事業協定に則ってRETOWNに転貸している。

河川敷地の耐荷重が建築物のハードルに

「河川敷地に建築物をつくるのは、思いのほかハードルが多かったですね」と、岡野氏は思い返す。大きな課題は河川敷地の耐荷重だった。荷重は1t/m2未満に限られていることから、鉄筋コンクリート造や鉄骨造ではなく木造でごくシンプルな“大きな器”をつくって、さらに建物を杭で支えるような仕組みを検討したという。ところが、地面の掘削工事を始めると、以前の建物の痕跡である明治時代の旧護岸などの地中障害が見つかり、杭が打てない箇所も出てきた。その結果、設計のやり直しとなり工期が大幅に遅れてしまった。
同施設の目玉コンテンツである船上レストランは、そのようなハードルを解決した格好だ。「レストランは台の部分は船、上物は建築という状態になります。議論の挙句、船舶として認可を取ることになり、船舶としては近畿運輸局から、建築としては一般財団法人日本建築センターから評価いただきました。このような組み合わせの施設も評価方法も、双方にとって初めてのことだったと聞いています」(岡野氏)
レストランは室内から川面に向かっての眺めがよく、同時に船が接岸しているような特徴的な外観を生み出すという、好結果をもたらした。

「つくるが交わる」を実現するため、あえて分離発注を選択

施設のコンセプト「つくるが交わる」=つくることで人が交わる、賑わいを生みだすという状態を体現するため、大手ゼネコンには発注せず、RETOWN自ら複数の工務店や鉄工所、家具会社などに分離発注する方式を取った。
「分離発注を選んだのは、できる限り工事費を抑え、テナント料を引き下げて、私たちの望む“尖った”飲食店を誘致する目的もありました。食の力はとても強い。昨今の福島や天満(いずれも大阪市)のように、食を通じてまちをつくっていこうと」(岡野氏)
誘引力のある施設にするため、魅力的な飲食店を集積することは悲願だった。そのような飲食店のオーナーと事業者RETOWNという関係性ではなく、あくまでも「一緒に場をつくり上げる」というスタンスで運営していく。そうすることで、場としての魅力が増し、地元の人たちも応援してくれるのだという。

舟運事業を立ち上げ、ベイエリアと市内を繋ぐ

冒頭に説明したように、タグボート大正のもうひとつの柱として整備を進めているのが舟運事業である。タグボート大正のある場所は、水都大阪を象徴するような、川と海に囲まれたロケーションだ。もともと渡船などの水上交通が発達しており、船を使えば海まで30分程だという。それでいて、難波や梅田からも近く、JRや地下鉄なら約10分で移動できる。
「その地の利を生かして、タグボート大正は市内とベイエリアを繋ぐターミナルタウンを目指します。これにより、賑わいを恒常的なものにしたい」(岡野氏)

今、ここをターミナルとして、観光リバークルーズのみならず、ユニバーサルスタジオジャパン(以下、USJ)のほか万博会場やIRの候補になっている夢洲(ゆめじま)への定期船を企画中だ。USJへの定期船は片道約30分の想定である。新型コロナウィルスの感染者数の状況などをにらみながら、2021年春頃をめどに開始する。

舟運拠点を増やし、相乗効果で大阪中心部の水辺を活性化へ

現在、大阪を中心に営業している店舗や、地産地消に取り組む店舗を中心に、レストランやカフェ、バーなど全18店舗の飲食店が稼働し、うち2店舗はRETOWNの直営だ。今後は、引き続き「つくるが交わる」をテーマとして、アーティストなどを軸にしたスクール、シェアアトリエ、ワークショップを行う施設に着工する。さらには、川に浮かぶホテル、「Water Hotel PAN AND CIRCUS」の建設も予定している。
「ホテルはギャラリーを併設して、川に浮かぶ美術館といったコンセプトを目指しています」と松本氏は話す。

最後に、代表の松本氏に今後の展望を聞いた。ひとつめのポイントは施設でのイベントの強化だ。「イベントを通じて、タグボート大正をベースとしたコミュニティに地元の方々を巻き込んでいきたい。多様な方々に興味を持っていただくために、弊社だけでなく、テナントの皆さん主催のイベントも行いたいですね」(松本氏)
そしてもうひとつのポイントは舟運事業である。タグボート大正にとどまらず、船で立ち寄れる拠点を増やし、関係者の協力を得ながら大阪市全域の水辺を活性化していきたいとする。
「複数の拠点が協働すれば、相乗効果で集客を見込めます。寂れつつあった水辺の拠点の再生も可能かもしれない。各拠点付近にアートに関する施設などを設けて、アート巡りをするようなクルーズもいいですね」(松本氏)

コロナ禍の終焉に伴い、大阪中心部が“ミズベ”から一層の明るさと賑わいを取り戻す。そんな未来が見えてきそうだ。

この記事を書いた人

介川亜紀

住宅、建築、都市、まちづくりがフィールドのフリーランス編集者。特に建築や都市・まちの「再生」に興味津々で日本全国を飛び回っている。 仕事と並行し、明治大学大学院で再生マネジメントと都市計画を学び2016年修了。

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