2020.01.22

【体験レポート】自然と一体になる!? 秩父ジオグラビティパークを通して、川や地形を楽しむ新しい地域活性のカタチを提案! ~前編~

東京から電車で1時間30分ほどのところにある埼玉県秩父市の「秩父ジオグラビティパーク」を訪ねた。ここは、2019年3月に日本初の重力系アクティビティパークとして誕生した施設。荒川の河川区域を活用して地域の活性へとつなげる水辺空間をつくった、新たな事例だ。

冬の訪れが感じられるようになった、12月某日。
東京から電車で1時間30分ほどのところにある埼玉県秩父市の「秩父ジオグラビティパーク」を訪ねた。ここは、2019年3月に日本初の重力系アクティビティパークとして誕生した施設。荒川の河川区域を活用して地域の活性へとつなげる水辺空間をつくった、新たな事例だ。
今回は前編と後編に分け、施設の担当者である小井土 悠(こいど ゆう)さん、事業者の想いをカタチにするべく奔走した秩父市の担当者の宮前 拓朗さんにインタビュー。施設の成り立ちや新たな事業に挑戦する行政や地域、民間事業者の関わりについてお話を伺い、実際にアクティビティを体験した模様をレポートする。

秩父ジオグラビティパーク

秩父鉄道の三峰口駅から徒歩約10分ほどのところに、「秩父ジオグラビティパーク」はある。非常に都心からのアクセスもよく、施設は駅近だ。駅のそばには、自己申告制の無人駐車場がありなんともアナログな感じが楽しい。
駅のほうから、施設に向かうため橋梁を渡ると存在感のあるプラットフォームが見えてくる。見るからに高い位置に設置されている空中施設を見て、到着前からドキドキが止まらなくなる。


この日本初の重力系アクティビティ施設は、埼玉県の「水辺空間とことん活用プロジェクト」を活用して誕生した施設である。県は、河川区域の有効活用を推進し、地域活性化を図ろうとする市町村を支援する。秩父市が河川活用をして地域に盛り上がりをつくる民間事業者を公募し、アクティビティ施設の展開を検討していたGeo Gravity Park Chichibu株式会社が選定され事業の実現となった。秩父市と同社が施設使用契約を結び、運営されている。

「本当に市の担当者や、地域の人たちの理解と協力がなければ実現できなかった。とても感謝しています」と話すのは、運営するGeo Gravity Park Chichibu株式会社の担当者である小井土さん。同社は国内外のアクティビティスポーツの施設運営のプロ。取材に訪れた日は、代表のデビッド・スコットさんに会うことは叶わなかったが、ニュージーランド出身のデビッドさんは日本でアクティビティ施設を運営したいと候補地を探していたときに、東京の観光PRイベントで秩父市の担当者に相談をしたことがあったという。デビッドさんは、以前秩父に訪れたこともあり、地域の魅力を感じていたそうだ。この相談がきっかけとなり、秩父市が中心となって具体的な事業計画が進行し、施設使用者の公募を行った。同社は真っ先に手を挙げた。秩父市は、近年、観光客が増加傾向にある秩父地域において、新たな観光の目玉をつくろうと模索していたところにきたインパクトある提案だったのもあり、地域活性の希望を見出した。

行政やまちの人たちの協力があったからこそ、実現した

こうしてプロジェクトが立ち上がったのは、2017年のこと。
ただ、日本に事例のないアクティビティ施設の整備であったこともあり、地域に新たな施設が誕生することに対して、地元の理解を得るのが大変だったという。特に吊り橋を歩いたり、川に向かって飛び降りていくアクティビティのため、当初地元では安全性に対する懸念が多く挙げられていた。

「私たちは、安全な環境で最大限楽しんでいただけるよう安全面など厳しいトレーニングを積み、アクティビティの認定者となったメンバーがお客様を案内しています。使用する器具も運営も常に安全第一です。その姿勢や運営の考え方を、地道に地元の方に伝えていきましたね。でも、ありがたかったのは市の方たちも一緒に説明をしてくれたことです」と振り返る、小井土さん。

運営する事業者にとってみれば確かに地元の理解を得ることは大事なことではあるし、そのための説明する時間は必要だ。そこに、市の担当者も寄り添ってくれた。実現に向けて、共に地元の人たちに安全面だけではなく、秩父ジオグラビティパークができることによる地域の盛り上がりや未来を住民たちに話してくれたのだという。ていねいに説明して回ってくれたことで、次第に地元住民の理解も深まっていったそうだ。地元を最も理解しているからこそ、成せることである。市役所が本気で地域をなんとか盛り上げたいという想いを持って動いたことが大きなきっかけとなって、近隣の方が自身の土地を駐車場とすることを提案してくれたり、さまざまなことに協力してくれる雰囲気ができた。
地元に起こる新しい動きにワクワクして庭の木を整え、自宅から施設が見えるようにしてしまったという人も現れるほどだ。

秩父ジオグラビティパークは、こうして市の強力なバックアップ、そして地元の人たちの理解によって実現することができたのだ。
それぞれの立場を超えて、共に盛り上げようとする気概が生まれたのは、秩父にますますの活気をつくるうえで、大きな収穫になったはずだ。

秩父の盛り上がりをつくり、地元の誇りになるように

2019年3月に、長さ100m、幅65cmの吊り橋を渡る「キャニオンウォーク」、そして全長約100m、高さ60mを超える場所で渓谷を往復する日本有数のジップライン「キャニオンフライ」がオープンし、続いて6月には国内初の空中ブランコ型アクティビティである「キャニオンスイング」がオープンした。現在は、代表を含め7名の体制で運営をしている。各メディアにも取り上げられ、じわりじわりと利用者が増えている状況だ。

小井土さんによると、リピーターのお客様の中には空中での体験が快感となって、毎週早朝の電車でやってきては気の済むまでアクティビティを楽しむ強者もいるのだとか。意外にも、若者だけではなく利用者の年齢層は幅広く、40代以上の利用が多いのだそう。
また地域外からの来訪者だけではなく、地元住民もこの施設をひとつのコミュニケーションの場として捉えてくれているようだ。荒川両岸に架かる「キャニオンウォーク」の吊り橋は、旧白川橋の橋脚を利用してできたものなのだが、地元住民はかつて渡っていた橋が形を変え復活したのが懐かしくなってアクティビティに挑戦する人もいるし、秩父ジオグラビティパークのスタッフに地元で採れた食材をお裾分けしてくれることもある。

一方で、秩父ジオグラビティパークも単に施設運営だけではなく、例えばハロウィーン時期に通常なら15歳以上しか利用できないキャニオンウォークを、条件に満たした小学生に特別に体験できるようにするなど、地元の子どもから大人まで交流する機会をつくることを大切にしながら運営にあたっている。

「秩父の人たちに受け入れてもらえているという実感が嬉しいです。秩父ジオグラビティパークをきっかけに、秩父に訪れる人を増やし地域の魅力を知ってもらうことや、地元にとってもこの施設が誇りになるような存在になっていきたいです」

そんな施設の成り立ちと前向きな話を聞いたら、実際にアクティビティを体験してみたくなってきた…!

重力アクティビティを体験…!

この日訪れたメンバーで、「キャニオンスイング」「キャニオンウォーク」「キャニオンフライ」の3つのアトラクションにそれぞれ挑戦してみた。

利用するにあたり同意書に記入をして、スタッフの人がていねいに説明をしながら、ハーネスをつけてくれた。こんなにガッツリとハーネスを付けて体験するのは初めて…!それでもまだ、怖さよりワクワクする気持ちが勝っている。これは余裕でいける…!?

まずは、「キャニオンスイング」に挑戦。
スタッフの案内でスタート位置につこうとするも足がすくみ、ここで恐怖を感じ始める…足元には見事な渓谷が広がっているが、だんだんとそんな景色を楽しむ余裕がなくなってきた。

ロープにぶら下がった状態で落下位置まで足場から飛び出す。これがとてつもなく怖い…!
「5・4・3・2・1…」とカウントダウンのあと一気に落下。もう絶叫せずにはいられなかった。しかし、落下してからブランコのようにスイングし始めると、途端に楽しむ余裕が出てきて、自然のおいしい空気を吸いながら見事な景観を堪能できた。
準備してから、落下して戻ってくるまでわずか10分ほどの出来事ではあったが、体験後はなんだかスッキリと爽快な気分に。
高いところが決して得意ではなかったが、実際に体験してみると自然の中に飛び込んでいく感じが新鮮で楽しかった。(何度もやるのはちょっとまだ抵抗はあるけれど…!)

続いては、「キャニオンウォーク」と「キャニオンフライ」をセットで体験。
「キャニオンウォーク」は荒川の上空60mの位置にある100mの吊り橋を往復する。しかも、足元の木の板には隙間が…これもまた落下とは異なるスリルがある。揺れる吊り橋を足を踏み外さないようにドキドキしながら慎重に進む。100mの距離を自分の足で歩くのはなかなか恐怖の時間だ。しかし、慣れてくると余裕で笑顔も出せるようだ。感覚さえ掴めたら写真を撮る余裕も出せそう。(この日は、頭にカメラを付けて歩いたために、終始身体がこわばっていました…。笑)

そして、「キャニオンフライ」は一番私たちが挑戦しやすいアクティビティかもしれない。
幼少期に公園で遊んでいたジップラインと同じだ。高さはあるけれど…。
ターザンのように風を感じながら荒川の上空を進むのは、懐かしい気持ちとともに楽しい。

とにかく、どのアクティビティもスリル満点だ。豊かな自然を必死に見ながらも、渓谷には叫び声がこだまする。これまでなかった秩父の新たな景色が生まれている。
初めての体験で、これまで経験したことのない恐怖を覚えたが、実際にチャレンジしてみるとなんとも爽快な気持ちで、癖になりそうだ。

「自然と一体化できるような施設には適した地形だった」と小井土さんが言う通り、景観は見事。自然に飛び込んでいく感覚は、都心では味わえない新しい体験だ。
一度挑戦してみてはいかがでしょう?

前編は、秩父ジオグラビティパークの小井土さんにお話を伺い、実際にアクティビティを体験してみた。後編では、水辺の利活用によって地域活性化を図ろうと取り組んだ秩父市役所の担当者である観光課の宮前拓朗さんに、行政の視点から秩父ジオグラビティパーク実現までの経緯や考えをお聞きし、その内容をお届けする。

この記事を書いた人

草野明日香

新卒で大手鉄道会社に入社し、営業や開発部門を経験。2017年より“生き生きと働く人たちを伝えるとともに、誰かの背中を押していけることをしたい”とフリーライターとして活動を開始。雑誌WEB記事、創業者などのインタビュー記事執筆を行いながら、地域のフリーペーパー、パンフレット制作等の編集を行っている。また、地域や人を応援できる場づくりにも携わるようになり、現在は東東京の創業支援ネットワーク「イッサイガッサイ」のイベント企画など事務局業務も行っている。お酒好きが高じて、ときどき「スナックあすか」の名前で人や仕事がつながる場の企画運営にも挑戦中。趣味は、お酒、旅行、お笑い鑑賞。

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