2020.01.31

【体験レポート】自然と一体になる!? 秩父ジオグラビティパークを通して、川や地形を楽しむ新しい地域活性のカタチを提案! ~後編~

産業観光部観光課の担当として2年目となる宮前さんは、前任者から引き継ぎ秩父ジオグラビティパークのオープンを実現した立役者の一人。プロジェクト立ち上げからオープンまでの経緯を教えてくれた。

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12月某日、東京から電車で1時間30分ほどのところにある埼玉県秩父市の「秩父ジオグラビティパーク」を訪ねた。前編は、同施設の担当者である小井土 悠(こいど ゆう)さんに、日本初の施設運営にかける想いや市や地元の人たちとの関わり方などの話をお聞きした。後編では、オープンまで奔走した秩父市観光課の宮前 拓朗さんにインタビュー。行政側の視点として、日本初の事例をつくるに至るまでの苦労や今後の期待、取り組みについてお聞きした内容をレポートする。
前編はこちら→https://mizbering.jp/archives/26539

ひとつの相談に、秩父市が動き出す

産業観光部観光課の担当として2年目となる宮前さんは、前任者から引き継ぎ秩父ジオグラビティパークのオープンを実現した立役者の一人。プロジェクト立ち上げからオープンまでの経緯を教えてくれた。
秩父ジオグラビティパークの最寄駅である三峰口駅の数km先には、2007年(平成19年)まで三峰ロープウェイがあり、駅前は三峯神社の参拝客で溢れ、賑わいのあるエリアだったのだそう。ところが、時代の流れとともに徐々に賑わいに陰りがみえ、駅周辺が閑散となってしまったという。そんな状況に市も危機感を抱いていた中、東京で開催された観光PRのイベントに市が出展した際に、ブースに訪れた一人が秩父ジオグラビティパークの運営会社の代表であるデビッド・スコットさんだった。

「デビッドさんは、ニュージーランド出身で自然の中で楽しむ様々なアクティビティの運営などの実績を持っている方です。そんな彼から、日本で新しいアクティビティ施設ができる候補地を探しているという相談を受けて。市にとっても動き出す大きなきっかけになる出会いだったと聞いています」と宮前さん。

秩父市役所 産業観光部 観光課 宮前拓朗さん

秩父に訪れたこともあり、地域に魅力を感じていたデビッドさんは、自社のアクティビティ施設のことだけではなく秩父を盛り上げたいという想いを持っていた。「何度も秩父に足を運んでくれて、当時の担当職員と一緒に各所の橋を見て回ったと聞いています。そして現在施設のある白川橋付近は駅からも近く、駐車場もありインフラが整備されているので適しているのではないか、ということになったようです」と宮前さんは当時を振り返る。

こうして、市は民間施設の誘致活動の一環として具体的な事業計画に乗り出しこの事業が地域活性化の起爆剤になると信じて、動き出した。

行政の立場から、できることをとことんやる

河川を活用したバーベキュー施設などの事例はあっても、河川上空で展開する同様のアクティビティ施設運営の前例が国内にない中でのプロジェクトのスタートには、さまざまな手続きを要し非常に大変だったという。まず、民間が河川利用をすることのハードルを乗り越えるために、どのような方法があるかを埼玉県の水辺再生課に相談した。そこで、今回の事案に活用できるのは、『水辺空間とことん活用プロジェクト』ではないかと助言を受ける。

埼玉県が実施している「水辺空間とことん活用プロジェクト」とは、国の政策に則って、埼玉県が県管理の河川において都市や地域の活性化を推進する事業である。県の管理する一級河川であることが条件で、候補地の荒川は条件をクリアしていた。宮前さんは「当時、ルールに沿いながらも民間事業者がどうすれば河川区域で事業活動をできるのかを模索した結果、県の事業を活用することがベストだったのだと思います」と振り返る。県水辺再生課や地元の秩父県土整備事務所などにも相談しながら進めていたが、前例のないことであるためみな手探りだった。1件の手続きに2~3か月を要するなど慎重を期したという。

最寄駅の三峰口駅

ただ、プロジェクトスタートから約3年で施設をオープンさせたのは非常に早い動きのように思う。その点は「ベースにできるものをそれぞれ生かすことができたからだろう」と宮前さんは話す。プラットフォームの基礎となる部分は一からの建設ではなく、旧橋台を使用することが可能とわかり、工期の短縮やコストカットなど大きなメリットがあった。しかし、橋台跡とその周辺は道路敷であることがわかった。公道である土地を民間に貸すためには数多くの手続きと時間が必要。ところが、当地は過去に県から市へ管理移譲を受けていることが判明したのち、市が道路としての用途を廃止し、民間への賃貸借も可能な「普通財産」とする手続きをとったのも、スムーズに進められた要因のひとつのようだ。これらは、民間だけの力ではなかなかできないことである。行政(基礎自治体)が主体となって動いたからこその結果だ。

また、地元の合意形成を図るために市が中心となって、地元の自治会長、観光協会、鉄道、埼玉県などによって構成される協議会を2018年6月に立ち上げた。事業実施のための準備を進める中、同年8月には運営事業者の公募を実施し、Geo Gravity Park Chichibu株式会社が選ばれた。事業者の選定時や、その後の関係者への説明の際には、さまざまな意見を受けたという。「もちろん関係者の皆さんからすんなりと了承を得られたわけではなく、その過程には安全面や治安、ゴミの問題などご指摘もありましたが、どのようにクリアしていくのかていねいに説明し、ご理解いただくことができました」と宮前さんは話す。地元関係者のお宅に一軒一軒出向いて説明をしたり、地権者との交渉にも立会いスムーズに進むようにも努めた。

話を伺っていると、秩父市は観光振興の行政視点から民間事業者をバックアップしようという熱量、そして行動力を感じる。前例のないことに、市も行政の立場でできることを精一杯やる。そんな姿勢や行動は、事業者にとっては心強い。
秩父市も事業者の熱意に後押しされ、行政として全面に立ち、協力体制の素地をつくりあげた。

こうして、秩父ジオグラビティパークは秩父市と施設使用契約を結び、埼玉県から河川占用の許可を得たのち、2019年3月に晴れてオープンとなった。

大地の成立ちからわかる地域の魅力。秩父をまるごと楽しんで!

今回、宮前さんの話を伺う中で、秩父の土地の奥深さに興味を抱いた。
「ジオパーク」と呼ばれる地形や地層からその地域の歴史や文化、産業、人々の暮らしなどを知ることができる世界の取り組みをご存知だろうか。全国各地、日本のジオパークは現在44か所ある。

秩父地域も「ジオパーク秩父」として認定を受けており、地形や地質そのものの魅力だけではなく、大地の成立ちから紐解いた秩父のまちのストーリーを伝えている。

秩父の街がある秩父盆地の中は、河川の中・下流域に流路に沿って発達する階段状の河成段丘(かせいだんきゅう)という地形になっており、その地形ゆえに成り立った独特の文化・産業が色濃く残っている。そんなところから始まり、「実ははるか昔、秩父盆地は海だった!(クジラやサメの化石も発見されている)」、「秩父は、近代地質学において、先駆けとなるさまざまな研究がされてきた『日本地質学発祥の地』である」、「雄大な山々や珍しい地形、巨大な岩などを信仰の対象として、神社や秩父札所が成立し、人々が守り伝えてきた場所が今も点在している」、さらには「絹織物で発展した秩父夜祭の歴史、奥秩父にある秩父鉱山の貴重な鉱石に魅せられた歴史上の人物の物語」など……約3億年といわれる秩父の大地の営みやそれに密接なかかわりをもった文化や暮らしを知ることで、より秩父という地域の魅力がわかる。なによりも、見聞きしたものは誰かに話したくなる興味深い話ばかりだ。

「ぜひ地形や地質から読み解くことができる秩父の奥深さを知ってほしい」と熱く語る宮前さんもまた、大人になり秩父の大地の歴史に魅せられた一人だ。

人工的につくられた観光スポットなどに行って楽しむのもよいが、ジオパークのような大地が語る物語からは、まちそのものを知り、楽しむことができる。直接触れることだけが川を楽しむ方法ではなく、成り立ちから川を知る、触れるというのもまた水辺活用のひとつだと、教えられた。

ちなみに、「秩父ジオグラビティパーク」の『ジオ』はこのジオパークから採用している。アクティビティを楽しみながら、ジオ(地球・大地)の魅力を感じてほしいと施設名に想いを込めている。

秩父という地の奥深さを知り、またアクティビティに挑戦したいと思った。

施設内では昔の白川橋の歴史やジオーパークについて説明が展示されている

オープンして約10か月。それぞれの反応と今後の課題

かつて吊り橋だった場所に、形を変え『キャニオンウォーク』として吊り橋が復活したことに、懐かしさを感じて遊びにきてくれる地元の方や、採れた野菜を秩父ジオグラビティパークのスタッフに持ってきてくれる人もいて、地元の人が施設に関心を持って関わり始めている。
「駅前のお店にも人が増えましたし、ジビエ料理の『いのしか亭』さんはお店から秩父ジオグラビティパークへの送迎、お弁当の配達なども始めました。地元の動きが活発になっていくのが少しずつ見えるようになり、嬉しいですね」と宮前さん。
この施設が誕生したことによって、少しずつかつての活気を取り戻そうと地元住民にも前向きな変化が生まれているようだ。

秩父市が地元だという宮前さんは、地元の人たちのことを語ってくれた。
「秩父の人たちは、少々警戒心は強いかもしれません。新しいことにも非常に慎重に行動します。しかし、自分たちにとってよくなることだと確信すると行動力を発揮します」
そんな住まう人の特性を理解しているからこそ、寄り添ったコミュニケーションができ、地元の協力や理解につなげることができたのだろう。

また、秩父ジオグラビティパークとしても単に施設運営をするだけにとどまらず、地元とのコミュニケーションを大切にしている。地元の清掃活動にもスタッフが参加して一緒にゴミ拾いをしながら和気あいあいと交流をしているそうだ。自社のホームページに、施設の案内だけではなく秩父の観光紹介をするなど、秩父のために何かしたいという行動が、市にとっても地元にとっても喜びにつながっている。

秩父ジオグラビティパークHPより

さらに、秩父ジオグラビティパークがひとつのきっかけとなり、市役所内でも部署の枠を超えて協力し合う気運も生まれてきているようだ。市の施政方針においても、協力することが盛り込まれており、バックアップする姿勢を大きく打ち出している。こうした動きを聞くと、地元にとってインパクトが大きく、新たなシンボルになると期待されているのがわかる。

地元と運営事業者、行政という立場はあれど、理解しようとする小さなやり取りの積み重ねが、互いの信頼につながり、それぞれの行動へとつながっている。

今後の課題は、「平日の来場者を増やすこと」と宮前さんは話す。
ゴールデンウィークや夏休みのトップシーズンを除いては、まだまだたくさんの人に来てもらえるきっかけをつくる必要がある。「今はインバウンドに力を入れています。運営会社だけではなく、市にも海外戦略担当がいますので連携をしながら海外向けの情報発信コンテンツを充実させていこうと取り組んでいるところです」。各地域の旅行会社に営業をかけることもあるのだという。秩父ジオグラビティパークの話をすると関心を寄せてくれ、団体旅行のプランにも組み込んでもらえることも少しずつ増えているそうだ。

維持管理も大切にしながら、引き続き施設をバックアップする想いは変わらない。2020年春の新たなアクティビティも誕生する予定で、これからますますの盛り上がりが楽しみだ。

この記事を書いた人

草野明日香

新卒で大手鉄道会社に入社し、営業や開発部門を経験。2017年より“生き生きと働く人たちを伝えるとともに、誰かの背中を押していけることをしたい”とフリーライターとして活動を開始。雑誌WEB記事、創業者などのインタビュー記事執筆を行いながら、地域のフリーペーパー、パンフレット制作等の編集を行っている。また、地域や人を応援できる場づくりにも携わるようになり、現在は東東京の創業支援ネットワーク「イッサイガッサイ」のイベント企画など事務局業務も行っている。お酒好きが高じて、ときどき「スナックあすか」の名前で人や仕事がつながる場の企画運営にも挑戦中。趣味は、お酒、旅行、お笑い鑑賞。

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