2022.02.28

非日常?いや、日常? 日高市の可能性に挑戦するカフェ&コワーキングスペース「CAWAS base」

2021年5月、埼玉県日高市に新たな複合型ワーケーション施設「CAWAZ base」が誕生した

新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの働き方や生き方に大きな変化をもたらした。リモートワークの推進によって、ここ数年で、コワーキングスペースは増加が続く。そんななか2021年5月、埼玉県日高市に新たな複合型ワーケーション施設「CAWAZ base」が誕生した。手がけたのは、株式会社CAWAZ 代表取締役社長の北川大樹(たいき)さんだ。東京からUターン移住をして、なぜ施設をつくったのか。なぜ、水辺のあるロケーションを選んだのか。施設の成り立ちとともに、事業やまちに対する北川さんの想いを聞いた。

バックパッカーで気づいた、地元の可能性

埼玉県日高市は、県の南西部に位置する都心からアクセスのよい、身近な田舎。市の東西に圏央道や国道が走り、JR八高線とJR川越線、西武池袋線が乗り入れていて、鉄道でもお出かけしやすい。「遠足の聖地」と呼ばれるほど、豊かな自然に囲まれ、アクティビティも楽しめる地域だ。

そんな日高市で、2021年8月、カフェ&ワーケーション施設「CAWAZ base」が誕生した。手がけたのは、株式会社CAWAZ 代表取締役社長の北川大樹さんだ。約420坪の敷地にあった古民家をリノベーションしたカフェ&コワーキングエリア(築60年の古民家をリノベ)をはじめ、コワーキング会員専用エリア、ウッドデッキ、トレーラーハウス、キャンプサイトがある複合型ワーケーション施設だ。場所を選ばないワークスタイルを提供している。

隣接する高麗川を前に夢を語る北川さん

株式会社CAWAZは、任意団体「CAWAZ」として2017年からプログラミング教室や地域の社会事業の取り組みをスタートさせ、日高市を中心に教育事業を展開してきた。

2021年1月に地域のまちづくり活動を行う株式会社CAWAZとして法人化させ、最初に手がけたのが「CAWAZ base」。この場所を拠点に、地域と一体になった観光や移住促進、起業支援、教育事業を展開し、埼玉県西部地域発の社会変革を目指している。

北川さんは、高校卒業後から約5年程、バックパッカーとして海外を旅していたという。他国をまわるうちに、次第に日本や地元・日高市のことを客観的に見るようになっていき、地元のよさや可能性を感じるようになった。

バックパッカー時代の北川さん

きっかけを与えたのは、北川さんが南米・コロンビアで出会った社会活動家の横山研二ディアスさんだ。日本とコロンビアのハーフで、現地では著名な講演家として日本と南米の文化の違いなどユーモアを交えて話すのが人気だったという。

「横山さんと出会って、現地で半年間一緒に仕事をさせてもらいました。南米をよくしようと活動する姿を間近で見てきて、地元の日高市は周囲から見ると味気ないまちかもしれないけど、ポテンシャルがあると思うようになりました。『味気ない』というのがデメリットなのではなく、むしろ『新しい味』をつくれる可能性があると気づきました」。

地元に面白いものがないなら、自分でつくればいい。「自分がどこに根をはって生きていくか、を考えたときに地元以上に必然性のある場所はないと気づいた」という北川さん。バックパッカーの経験が「CAWAZ base」誕生につながったようだ。

社会人となり、東京で友人と会社を立ち上げるなど、IT事業で挑戦をしていた北川さん。2019年の年末にCAWAZ baseの土地を購入する機会を得た。東京での仕事はあったものの、コロナ禍でリモートワークも推進され、東京でなければならない理由が特になくなった。

日高市を魅力的だと思える場所にしたい。

この機会を逃したくないと、北川さんは地元でまちに関わる事業をすることを決意し、日高市にUターン移住した。

「仕事」と「遊び」に境界線のない場所

北川さんが現在の場所を購入する以前は、友人が20年程賃貸で住んでいたという。「日高市でビジネスをするならここしかないと考えていたんです。友人から大家さんが土地を売りに出すらしいと聞きつけて、直談判して購入させてもらいました」。

北川さんは「図書館」のような情報や出会い、文化的な営みを愛する人が集う住民に開かれた公共の場に魅力を感じていた。そこで「秘密基地」の意味を込めて「CAWAZ base」と名付けた。「この場所に人が集い、また何かが広がっていく、まちのプラットフォームになってほしい」という願いを込めた。

やることは決めたものの自己資金のなかった北川さん。そんなとき、かつて南米でお世話になった講演家に地元での挑戦を相談していたところ、想いを買って出資をしてくれた。

「僕はいろいろと遠回りをしてきたので、社会人になるのが遅かったですが、振り返ると無駄なことは何もなかったと思っています。チャンスをもらい、それを掴むことができたというのはありがたいですね」とサポートしてくれる周囲への感謝を語る北川さん。

施設は、北川さんをはじめ地元の友人らを巻き込みながら、築60年の古民家をカフェにするなど大半をDIYでつくりあげた。自然に囲まれた環境はもちろん、手づくりの温もりある施設は、それぞれゆるやかな時間の流れを感じられる。

北川さんは「眺めるだけではない、体感できる川があるロケーションが魅力」と話す。



林は個人の所有で、遊歩道から川は埼玉県が管轄する河川区域となっていた。北川さんは林の所有者に草むしりや流木の片付けなど清掃を担うことで了解を得て、林の一部を開拓して川に抜ける小径をつくったのだ。

現在、アウトドアチェアを無料で貸し出しを行っており、コワーキングの会員がちょっと気分転換のために川辺に椅子を持ち出して作業をすることも可能だ。カフェに訪れた人が、ちょっとした散歩としてさっと遊歩道に出ることもできる。訪れた人に強制することなく、ゆるやかな活用ができるようになっている。

小さな取り組みのようだが、小径ひとつが施設と自然を活かして精神的な豊かさをもたらしている。

CAWAZ baseはカフェやコワーキングのほかに、BBQやキャンプ、イベントもできる。ワーケーションとして訪れる人やファミリー層が中心にやってくる。最近では、IT関連の中小企業がチームビルディングや交流会の場、打ち合わせ場所にするなど、行政や企業が活用する機会も増えてきている。親子や友人同士がお出かけとして楽しんでいる光景と仕事をしている光景が交差している。「仕事」と「遊び」に境界線がなく、非日常のような日常が広がっている。

「小学2年生まで、この川沿いは僕の通学路だったんですよ(笑)」と懐かしそうに話す北川さんは、このまちに戻り、思い出深い場所を活かした取り組みができていることに喜びを感じていることがうかがえる。

コワーキングスペースで仕事する会員の方

楽しみ方を模索して、日高市を豊かにしたい

CAWAZ baseの来客だけではなく、スタッフも拠点の魅力に惹かれ、多様な人が集まってきている。現在、カフェには4名のスタッフがいる。北川さんは1人のアルバイトスタッフの話をしてくれた。

「本業はフロントエンジニアをしている30歳のアルバイトスタッフがいます。週末だけの勤務ですが、デジタルな仕事をする人が、リアルな場でお客様と接して、またそれが本業に活かされることもある。まちの盛り上げに一役買いたいと希望して来てくれるというのはありがたいですし、こうした働き方はこれからは多くなってくると思っています」。

「仕事っぽく仕事をする時代ではなくなってきたと実感をしています。こうした場の良さはなかなか数値化もできないし、理解されるまでには時間はかかるかもしれませんが、僕らの場所を探し出して利用してくださる方たちが少しずつ増えているのはありがたいですね」と北川さん。CAWAZ baseは、訪れる人や関わる人それぞれがいろんな楽しみ方を模索できる場所になっているようだ。

地元・日高市をより面白いまちとして活性化させたいという想いからオープンした「CAWAZ base」だが、今後、どのようにまちに滲み出し、展開していこうと考えているのだろうか。

「まず、地域にお金が落ちる仕組みが必要だと思っています。高麗川沿いの遊歩道を5分歩けば曼殊沙華で有名な『巾着田』がありますし、出世明神として広く知られている『高麗神社』など観光スポットがある。でも、地域が経済的な恩恵をあまり受けられていない」と北川さんは課題を感じている。

「CAWAZ base」のように人が訪れるきっかけをつくり、日高にお金が落ちれば観光資源を活かすことにつながり、さらに住人たちの生産性が高まり税収が増える。やがて、まちが豊かになっていく……というストーリーを描いている。

北川さんは、まちづくりにおいてビジネス視点をどこまでも大事にしている。

「まちや人を幸せにするためには、持続可能であることが大切だと思っています。これまで会社を立ち上げてきた経験で、お金がなければ持続できないことを実感してきました。稼ぐことは後回しにしてはいけない問題だと思っているので、ソーシャルな活動ほどビジネスマインドが重要だと感じています」。

「観光は外貨を稼ぐ有効な手段。日高市は、非常にコンパクトなまちでポテンシャルがあると思っているので、水辺をもっと有効に活用して周辺に足を運んでもらえるようにしていきたい」と北川さん。今年、テントサウナを体験できるサービスをスタートする予定だ。「サウナに入って、川を水風呂代わりに使う……。ここだからこそ可能な体験になると思います」。

地域住民を置いていかない形で、資源としてどのように活用するかを考えていきたいと、意気込む。

「僕は地元であることと移住者の両方の側面を持っているので、いろんな方と有効なコミュニケーションがとれているのかもしれません。ただ、そうしたアドバンテージを除いても、現状に疑問を持つとか、『こうなりたい』というビジョンを持つことはとても大事だと思っています」。

隣接する川でカワケーションする風景も

北川さんは、日高市でまずは自分が事業を通して「日高市のような人口5万人規模のまちで起業し、飯が食えるということ」を示し、まちに勢いをつくろうとしている。

カフェとコワーキングスペースを運営するのはあくまでも手段。北川さんは、日高市の新しい未来をつくろうとしているのだ。「このまちはまだまだよくなる!って信じられないと、こんなことできない(笑)」と照れくさそうに話す北川さん。

「事業もまちも『人』の力が必要。日高市を盛り上げようとする人が増えていったらいいなと思っています」

「CAWAZ base」を通して、日高市の可能性に挑み、まちの人たちを豊かにする活動はまだ始まったばかり。今後、まちにどんなムーブメントをつくってくれるのか楽しみだ。

 

■CAWAZ base
https://cawaz.co.jp/

この記事を書いた人

草野明日香

新卒で大手鉄道会社に入社し、営業や開発部門を経験。2017年より“生き生きと働く人たちを伝えるとともに、誰かの背中を押していけることをしたい”とフリーライターとして活動を開始。雑誌WEB記事、創業者などのインタビュー記事執筆を行いながら、地域のフリーペーパー、パンフレット制作等の編集を行っている。また、地域や人を応援できる場づくりにも携わるようになり、現在は東東京の創業支援ネットワーク「イッサイガッサイ」のイベント企画など事務局業務も行っている。お酒好きが高じて、ときどき「スナックあすか」の名前で人や仕事がつながる場の企画運営にも挑戦中。趣味は、お酒、旅行、お笑い鑑賞。

過去の記事

> 過去の記事はこちら

この記事をシェアする