2020.07.02

川づくりは3次元へ〜ミズベリング・インタビュー:国立研究開発法人土木研究所 中村 圭吾さん

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測量・設計・施工で3Dデータが活用できれば、河川技術の地産地消が可能になる

3次元川づくりとは?

ー中村さんは現在、土研(国立研究開発法人土木研究所)の河川生態チームと自然共生研究センターの2つのポストを兼任してらっしゃいます。今日詳しくお話を伺う3次元川づくりのことも含めて、基本的には河川に関わるお仕事だと思いますが。

中村:研究として進めているものは、主に3つありまして、1つは、河川環境管理の高度化です。今日お話する3次元川づくりがその主なものとなります。
2つめは、環境DNAの河川生物調査への活用というものです。ある川の水を汲んできてそこに含まれているDNAを調べるだけで、生息している生きものがわかるという技術が環境DNAです。川の環境を守ろうというとき、流域も含めた生きものを把握する必要があるのですが、それを効率的に知るための技術です。
3つめが、水辺空間デザイン・まちづくりの検討です。これはミズベリングとも関わるところですが、水辺空間デザインと河道設計手法の融合や、水辺のデザインに関わる合意形成やかわまちづくりの検討といったところの取り組みになります。

ー3次元川づくりはどんな技術なんでしょうか。また、それによってどんな効果やメリットがあるのかを教えてください。

中村:簡単に言うと、河川管理の調査、計画、設計、積算、施工、維持管理というそれぞれのプロセスに3次元データを活用して、生産性を向上させるという考え方です。
測量を3Dで取って、そのデータをもとに3Dのまま設計をし、設計した3Dデータをそのまま建設機械に入れて施工をする、という技術です。3Dプリンタという技術がありますが、あれを河川の工事現場でやってしまうわけです。

福井県日野川での3次元設計と施工の事例

中村:これは福井県の日野川での湿地創出の事例ですグリーンレーザー(ALB:Airborne LiDAR Bathymetry)を使って上空から測量をして3次元のデータをとり、CADで3次元のまま設計し、そのデータをLandXMLというフォーマットで書き出して、CIMに長けた地元の建設会社に渡し、建設機械で施工しました。

湿地帯の部分は、水位が変化しても湿地が確保される曲線のデザインになっているんですが、これは3次元でないとできなかったでしょう。2次元の図面をもらっても、こういうかたちになるというのは現場の人もおそらくイメージできない。

昔の技術でやるとしたら、木杭などを使って位置や高さを指示する丁張りというものをつくって、それを目安にしてかたちをつくることになりますが、すごい複雑になって、現場の人たちも困ってしまう(笑)。

本来の川の環境というのは、三次元的に複雑なかたちなのに、これまでは直線的な設計になりがちでした。設計を曲線で書いても、図面は複雑になるし、丁張りも複雑になって危ないので、現場合わせで複雑にしていたんですね。
ーまず測量が3次元になったということが大きいわけですね。

 

中村:そうです。技術面で大きいのは、測量技術が急激に三次元化していることです。これまでは基本的に昔ながらの方法で測量していたのですが、水中まで測れるグリーンレーザー(ALB)で空からスキャンをし、三次元でカタチをとれるようになったんです。

九頭竜川におけるグリーンレーザによる河川測量

中村:こうした測量技術の進化と並行して、政府がi-Constructionを打ち出し、ICT土木を推進するという動きが出てきました。3Dデータを建設機械に入れて施工し、土木の生産性を上げていくことになりました。測量と施工が3次元化していくことになったわけです。

施工の技術でもうひとつキーになっているのは、準天頂衛星みちびきの存在です。GPS精度を向上させるこの人工衛星によって、建設機器の位置をより正確に制御できるようになってきています。今後、衛星の台数が増えていくことで、ますます精度がよくなっていくでしょう。

i-ConstructionはH27-28あたりから現場でもどんどん浸透していったんですが、測量と施工のあいだの設計が課題で、二次元の測量データをつないで三次元的にしたものを建設機械に読ませているというのが現状です。

技術的にはALBによる測量、CAD等による3次元設計、ICT建機による施工が実現しているので、これらを統合してシームレスな3次元川づくりを目指しているのがわれわれの取り組みです。

川のデザインの3次元化

中村:デザイン・設計の3次元化はまだ途上です。3次元のカタチを、3次元のまま設計するのはなかなか難しい。3次元CADは基本的には直線で構成されているもののほうが適している。いっぽう河川など環境の設計は、直線ではなく複雑な線でできているので、「もうちょっとここを深く、少し広く」という感じで粘土をいじるように設計していきたい。

そのトライアルというカタチで、国交省・九州技術事務所と我々が連携して開発している技術RiTER VRを紹介します。

これはUnreal Engineというゲーム制作のためのゲームエンジンを使って、サイバー空間上で粘土をいじるようにして3次元設計する、という試みです。

 

ーこれはすごいですね。測量や設計、施工が3次元化することによって「工夫された複雑な地形」が精密につくれるようになると、どんなメリットがあるんでしょうか?

中村:治水面と環境面でのメリットがあります。

治水については、三次元化によって治水がより精密に検討できるようになります。たとえば川が曲がるところには深い淵があったり、局所的に水位が上がったりしますが、そうした水の流れを詳細に考慮しながら、治水のための設計と施工ができるようになります。

たとえば、「ここは流速が出るから護岸は貼るけれど、あっちはそれほど流速はでないから護岸を貼らないで削ったままにしておこう」といった判断がきめ細やかにできます。うまくやればコスト縮減にもつながる。水のなかの川底のかたちがわかると、橋脚の周りの深ぼれ(洗掘)などもわかるので、道路管理上も効果的です。

環境面でいうと、生物というものは基本的に複雑な地形を利用して生息していますから、生物によい川をつくるにあたって、地形が3次元で精密にわかることは重要です。どういう生き物が、どういう水深、流速のところに棲むというのはある程度わかっています。じゃあそういう生きものを守りたいというとき、適した水深、適した流速の場所をどのくらいつくるかデザインできるようになる。景観や、生物の棲みやすい空間を考えて、複雑なかたちを3次元で再現できるようになってきたわけです。

ー設計段階で地域住民との合意形成をする時のツールとしても使えそうですね。

中村:そうですね。RiTER VRで水中や水辺をリアルに作成して、周辺地形は航空写真をはめ込んだりすると、まちを鳥の眼で見たようなイメージもつくれますし、そこにVRでも入れます。川べりを散歩するようなイメージを体験してもらえたり、ミズベリング的な活用やまちづくりの合意形成にも使える。それをとにかくスピーディに進めたいということで開発している技術です。

河川技術の地産地消

ー中小河川は、自治体管理だと財源や予算もあまり多くないと思うんですが?

 

中村:飛行機で測量するALBの技術は、まだ最低でもひと業務数百万円レベルで高いですが、最近はドローンに載るALBが出てきているので、都道府県や市町村でどんどん活用するようになるのも時間の問題かなと。

あとはそもそも、中小河川は測量データが無いことが多いので、一から取るのであればALB(グリーンレーザー)を飛ばしたほうが安かったりもすることもあります。実際、静岡県などは取り出しています。

 *Link航空レーザ測深(ALB)で取得した静岡県伊豆半島付近の3次元点群データダウンロードページ

 

ドローンのALBが普及したら、操縦できる人が地元にいればできますし、iRICという河川の流れや河床変動計算をするソフトは無料なので理解している人がいればタダで使える。3次元データで施工ができるi-Constructionの建設機械は地方でも結構持っているところがある。そうなると、ドローン+ALBで地形をとって、iRIC等で計算・設計し、施工までを、地元業者中心にハイレベルでできるようになります。

地元だけで高度な川作りができるようになってくるんです。これを僕は「技術の地産地消」と言っています。

そもそも国のi-Constructionの大きな狙いは生産性の向上ですが、地元だけでできれば、移動コストがからなくなるというメリットもあります。地方創生にもつながります。

そしてなにより地元で一連の過程を担ったほうがきめ細やかな仕事ができるんです。地元の業者にとっては、自分たちの地域の川なので愛情がある。ともすればその川で育った人が担当だったりします。地元の川だからなんとかいいものにしたい、汚い風景は作りたくない、という熱い思いで取り組むことになる。それもいいところだと思います。

災害復旧とまちづくり

ー中村さんは災害復旧の際にも、多自然川づくりアドバイザーとして行かれると聞きましたが、どんな課題がありますか?

 

中村:災害復旧の時というのは、予算も短時間でつきますし、とにかく復旧を早くやらなくてはいけないし、地域の方からも求められますので、環境のほうがおろそかになりがちです。

そこで、災害復旧といえども環境に配慮した川づくりができるようにいろいろな仕組みを作っています。

具体でいうと、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」というものがありまして、その中で川の環境を守るための条件をつけています。たとえばコンクリートの明度は6以下にする、といった基準を入れて、景観上悪くないものを作ろうとしています。すべての現場に浸透しているかというとまだこれからですが、よくなって来ていると思います。

中小河川の川づくりというのは、普段はあまり動いてないことが多い。予算も災害の時にしかつかないことも多い。だからこそ、災害のときに環境を一気にいい方向に変えることもできるんですね。

 

ーそういった川は、地域にとって大事な場所だったり、地域の持続可能性と深く関わることもありますね。

 

中村:仰るとおりです。私たちが取り組んでいる中小河川の多自然川づくりというものも、これまでは治水と環境が主だったんですが、景観というものを考慮するようになって、次のステップとして、地域の資産としてどう保全し再生し、また創造するか、というところを考えています。

災害復旧のときに、まちづくりまでまで含めての川のデザインというのはなかなかできないことも多い。現場の公務員は復旧だけでも疲弊しちゃうことも多いです。

 

ーそういう場面で、3次元川づくりの技術が入っていって、スピーディかつ低コストに、調査から設計、施工までできるようになるとしたら大きな可能性がありますね。

 

中村:仰るとおりです。短時間でアウトプットが出てくることは、災害復旧ではとても大事です。また、これまではなかなかイメージも難しかった、周辺の景観も含めたデザインもしやすくなるので、災害復旧なんだけど、まちづくりも考慮したようなものが少しづつ出来てくると思います。

最近感じるのは、意識が高い地域は災害復旧の川づくりでも、まちづくりを考えている。この地域の未来を創るような川の災害復旧を考えたい、という言葉が公務員からもでてきます。治水はもちろん、自然環境も保全して、プラスまちづくりまでやっていきたいんだ、というニーズは地元にも公務員にもでてきている。意識の変化を感じます。

川づくりとまちづくりの関係

ー根本的な問いなんですが、川づくりがまちづくりに貢献できるところってどんなところだとおもいますか

中村:1つは貴重な自然環境ですよね。水辺というのはちょっとした余暇、仕事の後とかにふらっと集まれる場所だったりします。そういう癒やしの機能は大きいんじゃないですかね。水があるというのはやっぱり大きいと思います。

僕らは河川管理者側なので、ついつい川を重視しすぎるきらいがあるんですが、いつも言っているのは、まちづくりとしては川はあくまでツールだということ。そこは勘違いしないようにしなくちゃいけない。

ーまちの中での川の価値を考えはじめることも重要ですね。河川の人たちのボキャブラリーと、都市とかまちづくりの人たちのボキャブラリーがこれまで違ったんですが、3次元川づくりの技術などを使って、過程やお互いのボキャブラリーが可視化され、わかりあえるツールにもなるのかもしれません。

 

中村:そうですね。河川管理者だけではわからないし、市区町村のまちづくり担当がどう考えているか、そして市民がどう思っているかも大事です。

そういった横断的なコミュニケーションのきっかけに、この技術はなると思います。グリーンインフラもそうですが、多機能なので、いろいろな部局で横断的にやらなくてはいけないですし、多様なステークホルダーの間のコミュニケーションツールとしても有効だと思います。

 

中村 圭吾  (NAKAMURA Keigo)さんプロフィール

国立研究開発法人土木研究所 水環境研究グループ河川生態チーム 上席研究員 兼 自然共生研究センター長。
1971年三重県紀北町(奇跡の川、銚子川の町)生まれ。1994年大阪大学工学部土木工学科卒、同年建設省入省。ノルウェー道路公団(1992年IAESTE研修員)、土木研究所河川環境研究室、スイス連邦工科大学(EAWAG/ETH)客員研究員、国土交通省砂防計画課課長補佐、河川計画課課長補佐、国総研・河川研究室主任研究官、近畿地整・福井河川国道事務所長等を経て現職。
専門は、河川環境、生態工学。主な著書に「エコテクノロジーによる河川・湖沼の水質浄化」(ソフトサイエンス社)。芝浦工業大学・連携大学院・客員教授、博士(工学)、技術士(建設部門)。いろいろな外国語を少し話す言語オタク。

 

この記事を書いた人

淵上周平

1974年神奈川県生まれ/ふたご座。大学では宗教人類学を学び、日本各地のお祭りや聖地を巡る。出版社にて編集者、その後WEBベンチャーへの参画、地域活性・社会起業のWEB媒体の編集執筆業などを経て現在にいたる。株式会社シンコ代表。ほかに株式会社エンパブリック取締役など。

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