2023.01.11

八王子市議会が仕掛けるミズベリング

いきなり硬い話ですが、市議会は条例の制定や予算の決定を行う組織です。行政とは一線を画し、市長と同じように、民意の代表として公選される存在で、地方分権の世の中においては今後より重要な役割を担うとされています。

そのような組織が、ミズベリングの活動にどんな関係があるのか?予算を獲得してくれたり、議決してくれたことで役割を果たしてくれていることはなんとなくわかっていても、その実態は多くの人にとって謎につつまれているのではないでしょうか?

水辺の利活用においては「市民」や「行政」による官民連携がこれまでクローズアップされてきて、議会の方々がいち市民として参画される機会はあったにせよ、議会が仕掛けるミズベリングというのは聞いたことがありません。

八王子市の場合

その市議会には地方自治法に基づき条例で設置される委員会という組織があります。委員会は議会で審議される案件に、専門的知識や経験を生かし事前審査を行うための審議機関で、例えば八王子市においては、常任委員会は4つ設置されていて、そのひとつが都市環境委員会です。その範囲は、都市計画、道路、交通、公園、河川、下水道、環境、資源循環などにわたります。これらの事項について、市の事務の調査、補正予算・条例などの議案や請願等の審査を行っています。

八王子市独自の取り組みとして、政策立案機能を強化するため、議案の審査とは別に、各常任委員会が主体的にテーマを設定し、調査活動を行っています。令和3年にこの都市環境委員会が調査テーマとして掲げたのが、「水のまちづくり」でした。

 

八王子市の水辺の現状

八王子には多様な水辺があります。多摩川流域の18の一級河川があり、山岳から扇状地、河岸段丘にわたってさまざまな水辺の様相がみられるのが八王子の水辺の面白いところです。

武蔵陵墓地をのぞむ都立陵南公園は高度に環境整備されて利用されている水辺の公園

八王子市ではこれまでも「ガサガサ探検隊」による子供の環境学習と水辺活用に関する意識啓発を毎年事業として行ってきました。

また、流域に生息する魚類を展示する「アクア802」(802は八王子にかけている)を市の職員が自ら運営しています。

そのほか、湧水を生かしたまちづくりの構想などもありました。

そんななか、課題として市と市議会都市環境委員会は共同で以下の課題を挙げ、取り組む必要があるとしています。

  • 水辺に触れ合える空間の不足
  • 河川環境、安全意識の向上
  • 河川利用上のマナーの向上(特にゴミ問題)

八王子市議会都市環境委員会の取り組み

市議会都市環境委員会はさまざまな会派からなる委員会です。全員が参加し、さまざまな調査研究が行われてきました。ミズベリング・インスパイア・フォーラムにもお越しいただき、全国の水辺の利活用事例を知っていただいた上で、さまざまな視察先で知見を貯めてこられたといいます。

その上で、八王子市と八王子市議会都市環境委員会は以下3つのテーマについて、行政の担当課をそれぞれつけて所掌を跨いで水辺の取り組みを進めるということでタッグを組むことなりました。

市と市議会都市環境委員会のタッグで進めるミズベリング

 

 

「水辺の利活用河川環境・安全意識の向上」というテーマにおいては水環境整備課、「水辺の公園の利活用促進」は公園課、「水辺の利活用を通した地域の活性化」は土地利用計画課が担当することになりました。一見関係ない部署が水辺の担当がつくというのはミズベリング成功の極意とも言えるのではないかと筆者は考えていますが、行政の縦割りにこだわらない横串横断的な役割分担が可能になったというのは、市議会が仕掛けるミズベリングの大きな特徴と言えるでしょう。

実証実験→検証→仕組みの検討へ

市と市議会都市環境委員会のタッグで、八王子を流れる「浅川」において、まちの賑わい拠点づくりを行うため、イベントを実験的に実施し、その有効性や市民ニーズを把握することになりました。

”ミズカツ”は八王子における水辺利活用の実証実験の愛称である

 

 

・八王子市の水辺活用のブランドイメージづくり

・水辺空間を活かしたイベントの実施

・モニタリングの実施

・検証→定着に向けた仕組みの検討

3つの拠点が設定され、それぞれにおいて実証実験が行われました。

3つの拠点が実証実験エリアとして設定された。

多賀公園 水辺遊び802

浅川と南浅川の合流地点にあり、河川管理者の管理区分を跨ぐ場所でもあります。八王子市役所からもほど近く、また休日は高尾山方面に駆け抜ける自転車利用者が通過する河川沿いの自転車通行の拠点でもあります。

この場所では、地域でプレーパークを定着させたい団体による河川敷地内のプレーパークの実施実証実験と、飲食や八王子が得意とするキャンプ用品メーカーなどの展示販売などが行われ、実際公園内で八王子市内のメーカーがつくった焚き火台をつかって焚き火が行われていました。

河川敷でのプレーパークの実証実験

 

 

公園内では八王子市内のアウトドアメーカーなどが出店して展示会が行われていた

原宿児童遊園(都立陵南公園)FARMART

南浅川沿いで、皇室の御陵のそばにあるということで環境整備が行き届いた場所でもあります。掘り込み河川区間となっていて、水辺とまちの関係が非常に近いこともあり、この沿川にある児童公園を利用したマルシェなどの実証実験が行われました。

実施主体八王子市内を拠点に、「食」を切り口として「アート」に触れる期間限定マーケットを開催しているFARMARTさん。すでに多くのファンが定着していることもあり、多くの人が訪れていました。

八王子は市域は広く、このエリアをただ通り過ぎるだけでその魅力を知らない方も多く、このイベントを通じてこのエリアの魅力に触れたという人が多かったのが印象的でした。

南浅川が掘り込み河川になっていて、利活用がしやすい環境が整っている

 

 

このようなイベントが地域に受け入れられるかどうか。実証される。

このほか、2022年9月24日に実施された、「オンガタマルシェ」は雨で天候が不安視される中実施され、多くの人々が訪れたという。

それぞれの拠点ごとにキープレーヤーがいて、実施しているのも印象的でした。

トライ&エラーを繰り返して高速でPDCAをまわしてほしい

都市環境委員会委員長の馬場貴大議員はこういいます。

「これから都市環境委員会としては提言をまとめていきます。そのあとは市役所に引き継ぎます。まだまだ端緒についたばかりですが、次年度以降も予算を要求したと聞いておりますので、市役所の職員はこれまでの取り組みをふまえて、協力に推進してくれるはずです。まだまだ発展途上ですので、トライ&エラーを繰り返して、高速でPDCAをまわしてよりよい成果につなげてくれることを期待しています」

 

 

 

 

議会報告会開催

八王子市議会では、同市の議会基本条例に基づき、議会報告会を1月19日(木)に開催を予定しています。
申し込み不要、入場無料だそうです。この機会に、市議会都市環境委員会さんの「水のまちづくり」の調査などについてお聞きになられてはいかがでしょうか?

内容

各常任委員会が行っている「所管事務調査」について

 総務企画委員会:ポストコロナを見据えた危機管理の在り方

文教経済委員会:児童生徒の登校支援~マンパワーとICTの活用~

 厚   生  委 員 会:幼少期における発達障害の現状・その相談支援体制
こども基本条例に関する調査・研究

 都市環境委員会:水のまちづくり

開催日時

令和5年1月19日(木曜日)

午後7時から午後8時20分(開場・受付は午後6時30分から)

会場

東京たま未来メッセ【八王子市明神町3-19-2】
(JR線八王子駅より徒歩5分、京王線京王八王子駅より徒歩2分)

URL

https://www.city.hachioji.tokyo.jp/contents/shigikai_1/houkokukai/p031435.html

この記事を書いた人

ミズベリングプロジェクトディレクター/(株)水辺総研代表取締役/舟運活性化コンソーシアムTOKYO2021事務局長/水辺荘共同発起人/建築設計事務所RaasDESIGN主宰

岩本 唯史

建築家。一級建築士。ミズベリングプロジェクトのディレクターを務めるほか、全国の水辺の魅力を創出する活動を行い、和歌山市、墨田区、鉄道事業者の開発案件の水辺、エリアマネジメント組織などの水辺利活用のコンサルテーションなどを行う。横浜の水辺を使いこなすための会員組織、「水辺荘」の共同設立者。東京建築士会これからの建築士賞受賞(2017)、まちなか広場賞奨励賞(2017)グッドデザイン賞金賞(ミズベリング、2018)

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