2021.08.04
第1回ミズベリング的「流域治水」ソーシャルデザイン研究会が開催されました!
流域治水をミズベリング的にとらえることが必要ではないか。そんな想いでミズベリング事務局とリバーフロント研究所がコラボし、新たに流域治水に取り組むプロジェクトが始まったことは既報の通りです。
ミズベリング的「流域治水」ソーシャルデザイン研究会がスタートします!(https://mizbering.jp/archives/27609)
ミズベリング的流域治水ソーシャルデザイン研究会緊急記者会見
そして2021年6月30日、様々な領域で活躍している皆さんを委員に迎え、第一回目の研究会が開催されました。さて、一体どのような議論がなされたのでしょうか。研究会の様子をリポートします。
シームレスなコミュニケーションの単位としての流域
筆者がリバーフロント研究所に勤めて20年ほどになりますが、前半10年を河川水辺の国勢調査(河川の生物調査)や多自然川づくり、樹木管理など専ら河川環境に関する研究に、その後現在までの10年を河川を活かしたまちづくり(かわまちづくり)に関する研究に携わってきました。仕事柄、「流域」という言葉は当たり前に使っていたので、企画段階で「流域治水」をどうやってみんなと共有すればよいのかということを考えるときに、まず「流域」という言葉自体を知らない人がいる、という事実は新鮮な驚きを持って受け止めました。今回の研究会で様々な議論がなされていますが、「流域」の考え方については個人的に興味深く聞いたパートです。一番印象に残っているのは、「流域はシームレスに範囲を変更できるコミュニケーションの単位」という考え方です。私にとって流域は川の集水範囲ということでどちらかというと自然や物理的なイメージが強い言葉でしたが、「誰もが流域に属している」「河川(流域)はいくつもの河川(流域)が集まってできている」という特徴に基づいた上記の考え方は、とても人間側、自分たちに近い言葉としてイメージできるような気がしました。まさか「流域」という言葉を再定義する日が来ようとは。
様々な分野から成る全体的なエコシステム
また、今回の研究会を通し、「流域治水×○○」として、流域治水と「金融」「評価」「教育」「都市」「農業」「アート」など様々な分野との関係性・必要性があぶりだされました。話を聞きながら、それぞれの分野の話をもっと深堀りしたい、どんな有効策があるのか考えてみたい、と思うとともに、今回はあまり意識的には話されませんでしたが、例えば「評価」と「金融」のようにある分野とある分野が関係していたり、あるいは「教育」のように未来の状況に影響を及ぼしたり、というように、それぞれの分野がある種の関係性・つながりを持っているのだろうと思いました。それぞれの分野を生物群ととらえると、全体を生態系のように捉えられないかと妄想します。ここで、企画委員の太刀川さんが「都市の生態系」という言葉を用いて流域治水との関係性について述べていましたが、実感として胸に落ちるものがありました。実際の生態系の食物連鎖の図では、太陽エネルギーや栄養分、水などで生物群がつながっていますが、流域治水の生態系のそれぞれの分野をつなぐのは、水やお金、人の気持ち・・・etc.となるのでしょうか。まだ見えていない分類群(専門分野)やいま語られていないことがまだまだあるような気がして、次回の研究会が楽しみになりました。
さて、前置きが長くなってしまいました。それでは、当日のレポートをどうぞ。
様々な分野の専門家が集結
土木、産業、景観デザイン、EBPM、生態系、住民参加まちづくり、建築デザイン、水上アクティビティ、ファイナンス、ミズベリング、教育、まちづくり、ソーシャルデザイン、グリーンインフラ、地下水、治山、デザイン、河川計画、多自然川づくり、都市計画、不動産、気象予測といった様々なバックグラウンドを持つ14名の方に委員となっていただき、そのうち12名が出席しました。まずは自己紹介。それぞれに川との関わりや今回の取組みに対する期待について語っていただきました。
流域治水をミズベリング的に考えるとは?
イントロダクションとして、ミズベリング事務局の滝澤ディレクターが「ミズベリング的方法とは?」と題して、これまでのミズベリングの活動紹介を行うとともに、ミズベリング的とはどういうことかというプレゼンテーションを行いました。
また、全国約1,000人を対象に行った「流域」認知度のアンケート調査の結果が示されました。それによると、「流域」という言葉を聞いたことがある人は54.4%。流域治水について考える前に、「流域」という言葉自体を知らない人が結構多いですね。
続いて、企画委員でもある滋賀県立大学の瀧先生より、流域治水に関する国の取組みをご紹介。ご自身の経験も踏まえて、様々な流域治水の取組事例を紹介していただきました。
領域を超えたワークショップ
そしていよいよ、本日のメインイベント、ワークショップです。冒頭、ミズベリング事務局の岩本ディレクターから、ワークショップのテーマ「響くもの探し」について、テーマ設定の想いが語られました。
『流域治水が横断的だということは重要だが、横断的であることが自分事になっているかというとそうでもない。どうしたら「流域治水」という言葉が自分に入ってくるのか、どういうアプローチをしたら誰かに響くのか。「響くこと・響かせあうこと」という言葉をキーワードに話してほしい。』(岩本)
ワークショップは、委員3~4名ずつがA~Dの4つのグループに分かれ、企画委員がそれぞれのグループのファシリテーターとなり行われました。メンバーシャッフルを挟み前半を「流域治水世間話」、後半を「これって流域治水?」という小テーマで議論がなされました。以下、それぞれの小テーマごとに、各グループの議論について要点をご紹介します。
テーマ① 流域治水世間話~流域治水と聞いて思いついたことをなんでも話してみよう~
Aグループ【景観デザイン×ファイナンス】
・自分のアイデンティティはどこかというと、だいたい流域が単位となる。
・食べるとか飲むとか、自分の体の中に入るものがどこからくるかという想像力を働かせると、水を通じて自分と世界がつながっていることが実感できる。
・この水はどこからきてどこにいくのか、ということを考えると流域治水が身近になるのではないか。
・コミュニティをどのように維持するかが大事で、そこにお金を使おうという流れが最近増えている。有事は防災に、普段はコミュニティを醸成するような場として水辺は有効。
・スケールのズームイン、アウトで範囲や流域の境界が変わり、自由かつ連続的に、考えたいことに応じて、同じ流域というコンセプトで範囲を設定できる。
・シームレスな「関係」の単位として、流域ってめっちゃ面白い。
Bグループ【アート×インセンティブ設計×水上アクティビティ】
・子供たちと源流まで歩いてみようというワークショップを実施したが、まちの中の隠れた大自然の発見や体験があり、面白い。
・環境のことは何にも代えがたい大切な話のはずだが、結局お金が原因でできない、ということが世の中あまりにも多い。であれば、コミュニティでお金をいっこ作ってしまえばいい。
・SUPをやって防災の意識が高まるということは多分ない。知るか、聞くかしないとなかなか治水のことは考えないのではないか。
・今の子供たちは学校で水の循環ということをきちんと学んでいるのではないか。
Cグループ【河川管理×都市計画×ソーシャルデザイン】
・流域のことをどうやって自分事化するのかというのは自分にとって大きなテーマ。
・3Dのハザードマップは「これぐらいしないと伝わらないのではないか」と思って作成。
・流域治水教育的なアプローチで、まちのレジリエンスだけでなく個人のレジリエンスを高めることも重要。
・河川管理とSDGsを結び付けることで、仕事で意識し、学校でSDGsを習う子供とのコミュニケーションに役立ち、結果として流域治水につながるというような仕組みにしたい。
・楽しいことや自分がやらなければいけないことをやっていたら、気が付けば流域治水ができている、というところが大事。
Dグループ【社会的インパクトマネジメント×水文学×不動産】
・川があることが地域の誇りにつながる、ということを関係者間で合意できさえすれば、それを測り、何ができるのかを考えていく、ということが社会的インパクト評価の一つのあり方。
・お金を出す側の意識がかわることが今回のプロジェクトのポイントではないか。
・今までは「川の中の防災力をいかに高めるか」という川づくりだったが、流域治水は「あなたの地域どうすんの」という人々への問いかけから始まる。
・興味がない人にいきなり川について話しましょうと言っても難しい。流域治水と言いつつ実は違う価値がある、というようなことをやっていかないと。
・根本にあるのは金銭的モチベーション。損得の話がないと、関心のない人はどこまでいっても関心がない。
・川は防災と利用の2つの軸があるが、後者の方を資産価値としてどう評価していくかというところは工夫が必要。
・流域治水の評価軸みたいなものがあり、それをもとにまちづくりや資産評価が行われるということであれば、みんな流域治水を意識する。
・流域治水に関するアクション内容に応じポイント(リバーセイバーポイント)を付与する、というような共通フォーマットがあると取り組みやすいのではないか。
テーマ② これって流域治水?~どんな流域治水的な取り組みが考えられる?~
Aグループ【デザイン×河川管理×水上アクティビティ】
・屋上緑化も流域治水的と思う。都市の生態系のリカバーと流域治水がつながっているということだが。
・流域治水『後』の都市の方が流域治水『前』の都市よりも魅力的である、という概念がグリーンや遊水地の概念で設計できるはずだが、あまりイメージできない。
・現場の実務的には「そもそも流域って何?」から始まり「治水って何?」の組合せをどう乗り越えるかというのが課題。
・具体的なアクションを普通の人ができると「私も関われる流域治水」となりよさそう。関わり代をつくる。
・普段自分の生活しているところに川や水があるということを知ることが流域治水の第一歩だろうか。語り口の幅がめちゃめちゃ広くなりすぎていて、実感が難しい。
・初めてのSUPで水に落ちることで、この水って飲み水にもなり洪水も防いでいる、ということを体で実感した。この実感自体は流域治水ではないか。
・SUP自体は遊び道具だが、レスキュー道具にもなる。遊びと緊急事態の道具となることを日ごろから意識するだけでも大分理解しやすくなる。
・「ビフォア」の流域治水と「アフター」の流域治水があり、国交省が絵を描いているのはビフォアの流域治水っぽいが、アフターの自助の話はあまりされていない。
・意外と「みんなのため」ばっかり言いすぎて、自分でどうするかというところが抜けているかもしれない。
Bグループ【アート×不動産×都市計画】
・自分たちの住んでいるところと山とか森とか海とがどうつながっているかという想像力を働かせるという教育が、実は子供だけではなく大人にも必要。
・金融機関や金融評価と結びつけた方がよいと思っている。住宅ローンの担保に治水のオプション的に水辺活用も加えて評価できるような仕組みづくりをする。
・災害リスクが高いところに経済的に恵まれない方、災害弱者が集まる傾向があった。その人たちが安全に住めるような社会的な仕組みを作らなきゃいけない。
・地元の人が気づかない魅力はたくさんあるので、ア―ティストと組んでまちづくりを行うことで、観光振興や土地の価値向上、新事業創出の可能性がある。
Cグループ【景観デザイン×ソーシャルデザイン×社会的インパクトマネジメント】
・雨水を貯めるのは流域治水だが、雨水を貯めて水やりなどに利用(利水)すれば水道代節約につながる。つまり、治水と利水は表裏でワンセット。「流域治水」=「流域利水」。
・教育も流域治水の一つかもしれない。どう面白くするかというところで、「ミズベリング的流域治水教育」みたいなものが生まれたらすごく素敵。
・子供は皆川が好きで、子供が大人に与える影響もすごく大きい。アプローチとして、子供が楽しんで学べるかたちを考えるということはすごく面白い。
・小さいときの川で泳いで楽しいという想い出は自分の中にインプットされていて、川が好きな人を川がはぐくむ、という関係がある。
・川遊びや水道代節約など、自分の直接的なメリットになる行動はとりやすいので大事。
・実際には現在日本全国の川はほとんど遊べなくなっている。小さい子だけで川遊びするのではなくそれを見守る知識を持った学生や大人がいるというような、多世代で親しむ水辺の風景を作っていけるといい。
D組後半 【ファイナンス×インセンティブ設計×水文学】
・行政の事業を民間に依頼して成果を支払うというSIBの仕組みを利用して、流域の整備やコミュニティ維持に関する資金調達ができるのではないか。
・治水に興味があること自体が治水であるという考え方。それが広義の治水というイメージ。
・日本の川の流域の大部分は山だったり農地だったりする。農業の価値転換が大事。食から環境問題を考えるというアプローチはよくあるが、食から防災を考えるというアプローチもあるだろう。
・治水をすることは社会にとってよいことであるならば、それはそもそも儲かる仕組みであるべきである
・今日の治水と50年後の治水は、人口や気候の違いで変わっているはずなので、「個々のコミュニティ・状況で答えを自分たちで考える状態を作り出しておく」ということしか答えはないと思っている。
・組織ではなく個人で活動すると子供のためと考えられる部分がある。最終的には、個人でうまく動く仕組みを作らないと気持ちみたいなところは変わらないのかなと感じている。
サロンタイム
サロンタイムでは、くじ引きであたった人が他のメンバーに質問する、という形式で参加者によるクロストークが展開されました。内容を少しご紹介します。
・洪水の危険度によってそこに住む人の経済力の差は今でもあるか? (景観デザイン)
→(不動産)過去の評価を参考にしているだけということもあるが、結果的にそのような状況はある。不動産用語で地位などという。(不動産)
・今後気候変動が進行すると土地の評価も変わり混乱がおきないか?サイエンスが示すものと人間社会のつくったものとの折り合いをどうつければよい?(ソーシャルデザイン)
→これまでの活動では、小さな物語(雨水タンク設置など)を積み重ねても大きな物語(気候変動、貧困など)につながらなかったが、解決策の一つはテクノロジーだと考えている。ひとりひとりの貢献を見えるようにすることが流域治水でも重要。(水文学)
→評価の観点から、もし行動変容が起こったということがデータでとれると測りやすさが飛躍的に向上する。また、テクノロジーを活用して自分のデジタルデバイスに定期的に何かが届いて、それがアクションにつながるというような、日常に情報が入ってきてデータ収集につながるということであれば可能性が広がる。(社会的インパクトマネジメント)
その後、グラフィックレコードを担当した関美穂子さんによりまとめられたグラレコをみんなで共有しました。
『みんながそれぞれの主目的を果たしつつプラスαで治水する、というふうに社会が動き始めているなかで、どうミズベリング的に面白く、自由に、クリエイティブに考えるか、ということで様々な議論がありました。一番盛り上がっていたのは「どう測っていくのか」ということ。テクノロジーで測ることで、社会の大きな物語と個人の小さな物語が繋がり、得につながるといいなと感じました。』(関)
最後に、リバーフロント研究所の塚原代表理事が挨拶を行い、第1回目の研究会は無事終了となりました。参加された方からは、研究会の後「様々な強みのある方々と知り合いになり、話し合うことで大きな気づきがあった」「大変刺激的な研究会だった」「多面的な側面からみることで、ひとつのベクトルでは評価できない価値が生まれる」など、非常に前向きな感想を頂きました。
次回は年明けのころの開催を目指しています。少し時間は空きますが、これから夏本番です。ゲリラ豪雨や台風など油断はできません。家族や友人、近所の人。誰かと流域治水について話してみませんか。そのほんの少しの一歩がみんなの流域治水の一歩につながっています。
福井県大野市生まれ。幼少期より魚釣りをしたり泳いだりして川に親しみな がら育つ。高校3年生の時、NHKスペシャルのテクノパワーという番組で近自然工法に衝撃を受け河川環境への道を志す。現在は専らかわまちづくりやミズベリングなど、河川を活かしたまちづくりに関する調査研究に取り組む。