2015.10.21

ミズベリング世界会議IN OSAKAレポート

国内外のミズベリスト集結

10月9日から11日の三日間に渡り、大阪堂島リバーフォーラムを会場に、ミズベリング世界会議IN OSAKAが開催された。水都大阪を世界へ発信するとともに、国内外の先進的な取り組みを結集させ、水辺を活かした「ミズベ経営の実現」を目指すことが目的である。

一日目・ミズベリングシンポジウム

初日は夕方からミズベリングシンポジウムが行われた。世界の魅力的な水辺最新事例に関わったパイオニアの話を聞きたい、というオーディエンスが詰めかけ堂島リバーフォーラムは満員となった。プレゼンテーターとして次の四人が登場した。アメリカのサンアントニオから、River Authority(リバー・オーソリティ)のSteven Schauer(スティーブン・シャウアー)さん。バンコクからチュラロンコン大学建築学部准教授でバンコクのURBAN DESIGN AND DEVELOPMENT CENTER のディレクターのNiramon Kulsrisombat(ニラモン・クンスリソムバット)さん。パリからは、パリ市都市計画アトリエ(APUR)にて、セーヌ河岸改造計画のディレクターであったPatricia Pelloux(パトリシア・ペルー)さん 。そして大阪からE-DESIGN代表取締役、水都大阪パートナーズ 理事の忽那裕樹さん。

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<サンアントニオ>
サンアントニオは、街の中心部を貫通するリバーウォークによって、年間1000万人以上の観光客を引きつける長期滞在型観光都市となっている。この都市も、一時はゴーストタウン化した時期があり、1960年代から、市民参加により川の再生が始まった。リバー・オーソリティのスティーブンは、市民のイニシアティブがなければ長期的なプロジェクトは不可能と言い切る。リバー・オーソリティは意思決定機関でなく、行政と市民の真ん中に仲介役として立っている。「ボイス・オブ・サイエンス」の視点がとても重要で、意思決定のための科学的なデータを生成している機関であるという。サイエンスは、水質や生物といった環境側面だけでなく、経済的側面にも及ぶ。どれだけの予算があり、その出資比率と内訳、どれほどの経済効果があったかというデータもきっちり公開している。エリアマネジメントでは、PID(public Improvment Dsitrict)とよばれる手法を使い、ダウンタウン地区のビジネスオーナーから資金を集め、エリアに再投資して街を豊かにする仕組みなどを行っている。

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上:PIDのサービス、下:プロジェクトのパートナーと予算比率表

また、重視されているのは、市民を巻き込むためのイベントで、一年中行われているという。興味深かったのは、「ウォーリアーズ」(戦士)という雑草駆除のイベント。アメリカ人の参加者のツボをつくネーミングなのではないかと推測する。数字とイメージを交え、リバー・プロジェクトの成果を淡々と語るスティーブンに対して、「スティーブンはビジネスマンのようで、とても行政関係者にようには見えない」という司会からのコメントを受け、「褒め言葉と受け取っておきます」と彼は笑った。

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上・中:年中行われている多様な川イベント、下:リバー・オーソリティのスティーブン

<バンコク>
18世紀のチャオプラヤ川は東洋のベニスと呼ばれ、人びとは川に近いところで生活していた。しかし、現在では、川辺の空間の大変がゲートとフェンスで覆われており、公共空間としてアクセスできる空間はたったの14.7%しかないということであった。水辺のパブリックスペースが非常に少ないので、照明が限られており、夜のチャオプラヤ川はとても暗いという話が印象的だった。

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上:チャオプラヤ川の75.1%はアクセス不可空間である。下:川の水辺の多くは民有地で占められている。

最近、状況にチャンスが生まれてきているのは、道路・鉄道の再整備があり、川を戦略軸としたバンコクの再生マスタープランが立ち上がったことだ。手をつけやすい案件として、チャオプラヤ川流域の中のヤナワ地区に目を付けて再開発のプランニングを進めている。ここでは寺院や政府など公共系の建物が土地の85%を占めているので、開発が進めやすいという利点があった。アクセシビリティの可能性をオープンにするために、まず1.2kmの遊歩道を川辺につくった。計画段階で、ステークホルダー別会議や全体会議などを組み合わせた、丁寧なオープンプロセスを取り、市民から十分なサポートを取り付けたと述べる。まさに現在進行形の現場で格闘している、ニラモンの姿が感じられた。

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ヤナワ地区でのチャオプラヤ水辺空間再開発パース

<パリ>
パリのパトリシアのプレゼンで特徴的だったのは「実験」というキーワードだ。計画ありきでなく、まず実際に社会実験してみる、そしてその効果を人びとに知ってもらい、共感を得て、継続的に都市変革を進めていくという姿勢だ。パリのセーヌ川の河岸には高速道路が通っていた。1974年にノートル・ダムの景観に関わるという理由で市民が高速道路に反対してから、21世紀になって、交通や文化、レジャーなどいろんな活動をミックスしたセーヌ川の水辺都市空間を作ろうということになった。1996年からまず日曜だけ高速道路を開放するという社会実験を通して、2002年からは一夏、高速道路をビーチに変えるまでに至った。それ以来、高速道路を大通りに変えようということで、いろいろな場所で横断歩道のための信号をつけたり、船着場から直接美術館にアプローチするための歩行通路をつくったり、とにかく歩行者のために街と川をリコネクトする様々な改修事業を行っている。

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上:セーヌ川沿いの高速道路は社会実験を通して、夏季にビーチとなるに至った。下:右岸では歩行者のために高速道路に信号を付け、左岸では完全に遊歩道化した。

また、新たに生まれた水辺の公共空間を人びとに提供して、好きなように使ってもらえるようにプログラム管理をしている。2014年には400万人の利用者があったことで、「パリはデザインの次の時代に入って、サービスを提供する段階に移った」というパトリシアの言葉も印象的だった。

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上:フロート(浮島)を水面に設置し、遊歩道と一体化したガーデンを生み出した。水質浄化も兼ねている。下:市民が表現したいことを実現できるインスタレーションスペース。

<大阪>
忽那さんは大阪は街を使いこなすのがうまい人が多いと話す。いろんな人たちが違う使い方をしているので、交換を起こしてみる。そんなことが、街に誇りを持つことにも繋がっていくと述べる。水都大阪では、市民がやりたいことを集める仕組みをつくって、実現していくようにしている。大阪カンバス事業は、アートでそれを行った。

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上:大阪の「水と光のまちづくり」ビジョン、下:大阪カンバス事業でのアート作品

最近では、夜の景観や、舟運ということにも力を入れ始め、陸で行っているイベントを川からつなげるネットワークである「大阪シティクルーズ」なども行っている。エリアマネジメントやBIDなどを実現していくことが今後の目標であるという。

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大阪の水辺利活用の将来像。BIDによるにぎわい施設運営などが描かれている。

二日目・ミズベワークショップ

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二日目は、国内外から、30人もの「ミズベリスト」たちが集まって、ミズベワークショップを行った。ミズベリストたちは①全国ミズベリング◯◯会議チーム、②全国水都ネットワークチーム、③プロモーション(編集者)チーム、④海外登壇者チームの4つのテーブルに別れてディスカッションした。4つのテーブルを取り囲み座った会場のオーディエンスには、ヘッドホン・レシーバーが渡され、チャンネルを合わせると、関心のあるテーブルのトークが聞けるという趣向だ。ワークショップのテーマとして、ミズベの利活用5つの視点「見つける、伝える、設ける、育てる、広げる」が設定された。

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以下にワークショップで出た意見をいくつかピックアップする。
①見つける・伝える
・いろんな人や情報をつなげるキーマンが必要。行政もキーマンになれるポジションにある。
・担い手から担い手へ自分事化して伝える。
・アートトリエンナーレのように、地域外の人に入ってもらい見つけてもらう。
・綺麗な写真をきちんと使う。
・蝶を捕まえるバタフライイベントのようなライトだけどセンスがあるネイチャーイベント。
②設ける
・そこだけにある風景を大切に。
・ミズベの景観がよくても、水質の問題は大きい。
・市民参加はプロセス共有が大切。
・できるだけ多くのコンセンサスを取る。
・社会実験を長く伸ばして本設に移る。
・デザインでなくサービスを提供する。
③育てる・広げる
・上流と下流ではミズベリングの性質は全然違う。
・流域マネジメントの必要性。
・水鳥など生物は、行政区を越えて流域全体につながる。
・防災という視点もミズベリングに組み込む。
・行政に異動があってもプロジェクトをつなげる仕組みが必要。
・世代を越えてつなげていく。

三日目・ミズベトークショー

三日目は、午前中に関西の建築、都市計画系の8大学の学生による、ミズベのアーバンデザイン、エリアマネジメントをテーマした提案プレゼンテーションがあった。かなりクオリティが高い発表も含まれていた。
午後からは水辺都市の再生、観光まちづくりの専門家である大阪府立大学観光産業戦略研究所長の橋爪紳也さんの基調講演をきっかけとして、ミズベのプロフェッショナルである8人のパネリストによるトークセッションが行われた。

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橋爪先生のプレゼンでは、大阪が江戸時代に、ミズベを使いこなしていた都市であったこと。近代に入ってから、東洋のパリといわれるまでなったようにモダンなミズベの都市を作り上げたこと。そして、国際観光都市として、工業や産業をアピールする場所としてミズベ空間も使われるようになっていったことが、豊富な画像や映像資料で伝えられた。また、ヨーロッパの水辺利用の最新事例も紹介された。

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上:江戸期の中之島・天満周辺のにぎわい。中:大正〜昭和初期のモダンシティ中之島。下:イタリアの都市では、河川空間にブランドショップのイルミネーションが。

トークセッションでは、大阪府のミズベ行政マンである藁田さんが、行政マンが腹を割って話す技術の重要性を語り、役所側とやり手側の利害が一致するかどうかを話し合う場をつくることが大事であると述べた。パリでは行政官自らがイベント設営を行い、市民とのコミュニケーションがうまれたとの話題も出た。ミズベの経営という視点で、サービス、運用、マーケティングなどに対応した組織をつくり、ポジティブな意見を取り入れる場をどんどんつくることが必要との意見交換があった。ランドスケープデザインの福岡さんからは、エコロジストやPRといった人材も必要であると話があった。
大阪のミズベでプレイヤーがなぜ多いのかという疑問に対して、PRプロデューサーであり舟運事業を行う伴さんから、大阪では、奥さんと社長の二人だけの規模の企業のオーナーが、意思決定早くやってみることが多いとの話があった。また、伴さんから川沿いを飛行場にした水上飛行機プロジェクトの紹介があった。もともと大正、昭和の大阪には水上飛行機場があって、ビジネスマンは普通に利用していた文化もあったことも伝えられた。

左:橋爪紳也さん。右:伴一郎さん

ミズベのすべてを語り尽くす3日間。海外の最新水辺事例のパイオニアと、全国の産官学のプロフェッショナルなミズベリストのキーパーソン、そしてミズベに関心がある市民と学生が、一堂に会しミズベに関する議論を行った。ぞれぞれの国や地域のミズベの歴史を引き継ぎながら、やる気がある市民や民間のコミットメントを引き出す仕組みをいかに回すかが、共通のテーマとなっているようだった。ミズベに対する熱いエンカレッジメントが大阪から生まれ、それぞれのミズベの現場に持ち帰られたと感じた。

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この記事を書いた人

ランドスケープ・プランナー

滝澤 恭平

ランドスケープ・プランナー、博士(工学)。 「ミズベリング・プロジェクト」ディレクター、株式会社水辺総研取締役、日本各地の風土の履歴を綴った『ハビタ・ランドスケープ』著者。大阪大学卒業後編集者として勤務。2007年工学院大学建築学科卒業、愛植物設計事務所にランドスケープデザイナーとして勤務後独立。2022年九州大学大学院工学府都市環境システム専攻博士課程修了。都市の水辺再生、グリーンインフラ、協働デザインが専門。地元の葉山でグリーンインフラの活動を行う。

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