2018.11.12

【特別論考】ミズベリングがグッドデザイン賞金賞受賞ってどういうこと?!

ミズベリングが2018年にグッドデザイン賞を受賞した背景を論考します。

ミズベリングプロジェクトがグッドデザイン賞金賞を受賞することができました。まず、この賞の受賞にあたり、これまで水辺を我が事のように思い、さらにミズベリングの活動を我が事のようにおもい、地域で実践されてきた方々を祝福するとともに、この活動をこれまで応援いただいたことへの感謝を申し上げます。

この賞はプロジェクトを推進してきた事務局だけのものではありません。この賞に応募するにあたり、ミズベリングプロジェクトが行ってきた限られた手法によって、地域がこれだけ盛り上がった、地域でこれだけ主体的な人たちが現れた、とうことをアピールさせていただきました。事務局がこの4年ちょっとやってきたことといえば、みなさんのやる気にそっと後ろから手を差し伸べたことだったのではないかと思います。その結果、全国で呼応していただいたみなさんのやる気の渦が全国的に大きなムーブメントとなり、ミズベリングという言葉がある種の言霊を身にまとうことになりました。それがさらに多くの人々のやる気を応援する。そのようなポジティブな循環を生み出したことこそ、私たちが審査員に対してアピールしたことで、それが評価を受けたのだと思います。

なので、みなさん、本当におめでとうございます!この賞は、ミズベリングプロジェクトに関わってくださったみなさまのものなのです!

グッドデザイン賞に応募時に提出したパネル

みなさんが祝福されていることはご理解いただいたと思いますが、そもそもくだんの賞が、グッドデザイン賞。なかには頭のなかに疑問符が浮かばれたかたもたくさんいらっしゃると思います。
だって、グッドデザイン賞ですよ。なにかプロダクトを作っているわけではないし、ホームページやロゴのデザインがそんなに凝っているわけでも抜きん出ているわけではないのに、なにが評価されたのか、疑問を持たれるのは当然だと思います。
この受賞がどういうことを意味するのか、私なりに説明を試みたいと思います。
なにを隠そう、ミズベリングディレクターを務める私、岩本唯史は建築家でもあります。この賞を1957年に創設された方々のなかにも建築家の大先輩である坂倉準三氏がいらっしゃいました。デザインは私のミドルネーム。その資格・・・、あるかなあ。

グッドデザイン賞とは

グッドデザイン賞は、デザインによって私たちの暮らしや社会をよりよくしていくための活動の一環で通産省の主導で創設され、1957年から実施されている歴史ある賞です。シンボルマークのGマークを一度はご覧になった方がいらっしゃるのではないでしょうか?

グッドデザイン賞金賞のロゴマーク
グッドデザイン賞の理念は、5つの言葉を掲げています。

人間(HUMANITY
もの・ことづくりを導く創発力
本質(HONESTY
現代社会に対する洞察力
創造(INNOVATION
未来を切り開く構想力
魅力(ESTHETICS
豊かな生活文化を想起させる想像力
倫理(ETHICS
社会・環境をかたちづくる思考力

デザインの優劣を競う制度ではなく、あくまで審査を通じて新たな発見を、社会に共有し、次なる創造へつなげる仕組み、だそうです。この理念は2009年に再編されました。それまでに、どのような紆余曲折があったのか、紐解いてみたいと思います。そこには、デザインの歴史とデザインの本質があるはずです。

グッドデザイン賞の歴史から見える、「デザイン」の価値の変遷

グッドデザイン賞はこれまで、5つのフェーズを経験してきたそうです。
まず最初が復興のフェーズ、「復活の時代」。戦後の復興から経済大国への成長、デザインの盗用問題から発した意識啓蒙と企業内デザインの導入を経て、日本が失ったアイデンティティをデザインを通して復活させるフェーズでした。確かにいまとはデザインに求められる価値観は違いそうです。時代がどう違っているか、が現代におけるデザインの価値を知る上でのポイントです。

「復活の時代」(グッドデザイン賞ウェブサイトからの引用、以下断りなき画像も同様)

二番目に、「ジャパンオリジナルの時代」。1979年のウォークマン、1981年のホンダシティなどを通して、世界に対して日本のデザインが高い発信力をもった時代でした。この辺の時代のグッドデザイン賞は、みなさんが抱かれているグッドデザイン賞像と一致するのではないでしょうか?なにせ、日本が世界で一番発信力があった時代、なのですから。

「ジャパンオリジナルの時代」

第三が「価値変化の時代」。バブル景気を経て、阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、エコロジーやユニバーサルデザインの勃興などを経験した時代、社会はその価値観を徐々に変化させましたが、同時にグッドデザイン賞も「コミュニケーションデザイン部門」を新設(2001年)するなど、変化しました。1998年、グッドデザイン賞は行政のスリム化の流れのもとに官の手を離れ、民営化されます。

「価値変化の時代」

第四は「価値多様化の時代」。2000年代に入ると、ICT(Information and Communication Technology)が急速に発展します。グローバル化、情報化などを経て、多様な価値観が入り混じる時代のデザインは、それまでの「産業的視点から審査を行う」方針から、「近未来の生活者の視点に立つ」という、サプライサイドからディマンドサイドへの方針転換を行った時代です。その時、先の5つの言葉「人間・本質・創造・魅力・倫理」という5つの言葉がグッドデザイン賞の理念として掲げられました。

「価値多様化の時代」

第五のフェーズ、「共有の時代」をいま迎えています。あらゆるものがネットワークで繋がる時代に、日本では東日本大震災を経験し、想定外の出来事が起こりました。「いま自分たちにできることはなにか」「いま本当に必要なものはなにか」という根源的な問いを多くの人々が持った時代に、デザインはいま再定義を求められている、と公式ホームページには書かれています。

「共有の時代」

そして、2018年グッドデザイン賞の審査の結果発表を経て、私が感じたこと。それは、この賞が評価しようとしていたのは、モノそのものではなく、そのまわりにまつわるコトだということが、非常に鮮明になったということです。

「モノからコト」の時代

今回、ミズベリングプロジェクト以外の金賞受賞作品のうち、ファイナリストにのこった6つのプロジェクトはすべて、ものの形の良し悪しが審査対象になったわけではありません。大賞を受賞した「おてらおやつクラブ」に至っては、僧侶が貧困問題に取り組んだお寺の活動で、形があるものですらありませんし、デザイナーが壇上にあがって表彰を受けていません。その時点で、デザインの定義が揺らぎます。しかし、そこに2018年時点でのデザインの本質があると、審査員の方々は思われたのでしょう。グッドデザイン賞は、前出の通り、「あくまで審査を通じて新たな発見を、社会に共有し、次なる創造へつなげる仕組み」なのです。グッドデザイン賞は受賞作の選定を通してデザインの本質に迫り、デザインを再定義を試みているのです。
つまり、グッドデザイン賞が今年迫ったデザインの本質とは、かならずしもモノがあることが前提なのではなく、人々がどれだけ関心を寄せたり、心を動かすかということこそデザインだ、ということではないでしょうか?
そしてそこが、デザインがデザイナーやプロダクトの作り手の領域を超えて、多様な人々が共有できる価値として再定義を試みている、最前線なのです。
デザインが美しさや視覚情報による優劣、あるいはプロダクティビティや産業的視点で判断してきた時代が長く続きました。しかし、今回のグッドデザイン賞が評価しているものがかつてデザインという概念がまとっていたものとは違った価値観だということは理解していただけたと思います。

2018年度のグッドデザイン大賞「貧困問題解決に向けてのお寺の活動 [おてらおやつクラブ]」

そんな時代に、ミズベリングプロジェクトがグッドデザイン賞をいただいただけでなく、金賞までいただけた、ということはどういうことなのでしょうか?

「つくるから使うへ」の時代に、水辺ではじまった活動への評価

ミズベリングに対する審査員評を引用いたします。

審査委員の評価

法制度の整備がすぐに実空間の変化に繋がるわけではない。だからこそ、それぞれの地域のステイクホルダーが連携し・アイディアを出し・実践することが大事になる。本プロジェクトは、水辺に親しみ使いこなしたいユーザたちの心に火を付け、日本各地の水辺に変化をもたらすきっかけをつくった。水辺と人・まちとの関係を継続的なものにするために不可欠な官民の人材育成につながっていることも評価したい。

担当審査委員| 岩佐 十良 太刀川 英輔 並河 進 服部 滋樹

なんという的確な評価!まさにそういうことだと思います。そうなってほしいという願望も含みます。審査員のみなさんの言語化能力に舌を巻きました。

ミズベリングがスタートした時、使われない河川整備に対する問題意識を国土交通省のかたから聞きました(ソーシャルデザイン懇談会)。それはつくることから使うことへの時代の変化を予測していたかのような問題提起でした。使う主体が、つくる主体と異なる。そのときに、どのように領域を超えてともに創造的になれるか、ということがミズベリングのきっかけになっています。

デザイナーや建築家は、デザインによって人のこころを動かすことができるということを体感的に知っています。すぐれた建築やすぐれたプロダクトが豊かさをもたらしてくれたり、社会を変えたりするのは、そのものの力ではありますが、人が突き動かされるという力がデザインによって発生しているからです。おそらく河川技術の専門家も、多自然かわづくりを通して人々の笑顔や生活に豊かさをもたらすことを感じていらっしゃるのではないかとおもいますが、話はおそらくいっしょです。

デザインが人の心をうごかすという本質的な価値に重きをおき、さらにデザイナーの領域を超えてたくさんの人々と共有できる価値観への移行への予感を提示してくれたのが今回のグッドデザイン賞の意味です。また、ミズベリングも使われない河川環境をどうにか使われるものにしたい、そういう河川環境づくりのためには、官民が垣根を越えて肩書きをはずして未来志向でともに推進するんだ、という考え方に基づいています。ミズベリングジャパンのイベントの時に、当時の国土交通省の局長が「つくるから使うへ」と宣言しました。まさに時代の最先端をいくデザインの世界とも共有できる価値観であり、河川環境の一線でたくさんの方々が持たれていた問いは、日本をリードするデザインの現場でも問われることになった、非常に根源的な問いなのです。その問いに対して、仮説をたてて地域の方々とともに盛り上げてきたミズベリングプロジェクトが評価された。そのような時代の転換期でミズベリングプロジェクトがグッドデザイン賞を受賞したことの意味をかみしめたいと思います。

平日昼間なのにもかかわらず、受賞記念のパーティに全国から集まってくれたミズベリング仲間たち

グッドデザイン賞ミズベリング・プロジェクトホームページ
https://www.g-mark.org/award/describe/48255?fbclid=IwAR3WE74giv1iTaZFV7wKoA1MpkfRQyItuIuwKeZWN62gPyFb9tttLeeJfsA

この記事を書いた人

ミズベリングプロジェクトディレクター/(株)水辺総研代表取締役/舟運活性化コンソーシアムTOKYO2021事務局長/水辺荘共同発起人/建築設計事務所RaasDESIGN主宰

岩本 唯史

建築家。一級建築士。ミズベリングプロジェクトのディレクターを務めるほか、全国の水辺の魅力を創出する活動を行い、和歌山市、墨田区、鉄道事業者の開発案件の水辺、エリアマネジメント組織などの水辺利活用のコンサルテーションなどを行う。横浜の水辺を使いこなすための会員組織、「水辺荘」の共同設立者。東京建築士会これからの建築士賞受賞(2017)、まちなか広場賞奨励賞(2017)グッドデザイン賞金賞(ミズベリング、2018)

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