2016.03.15

ミズベリング・ジャパン開催!全国各地からミズベリスト600人が結集。

「水辺をベースにした地域活性化に向けて、立場を越えて意見交換し、横のつながりをつくろう」という掛け声で始まったこのフォーラム。当日は、全国各地からミズベリスト約600人が大集結! 今回で第2回目を迎えたミズベリング・フォーラムでは、より実践的な水辺の活用アイディアや実際の取り組み事例についてのプレゼンテーションが中心となり、全国各地にミズベリストとその取り組みが広がってきたことを実感できる機会になった。

変化する日本の水辺事情

青や水色の風船で彩られた会場は、ミズベリングDJが音楽を流し、登壇者による屋台が立ち並んで、お祭りムードを演出していた今回の「ミズベリング・ジャパン」。会場周辺には、ドリンクバーカウンターや、水辺やまちづくりに関する本を即売する「ミズベリング・ブックセンター」(青山ブックセンターとのコラボレーション)、水辺活用について気軽に行政相談できる「国土交通省よろず相談屋台」、Googleストリートビューの“川版”ともいえる新サービス「RIVER VIEW」の展示、公共空間を豊かにするためのアイディアを創発する「ソトノバカフェ」などなど、盛りだくさんの屋台や展示が立ち並んで、目に楽しい。ひとつひとつ見学して歩いているうちに、あっという間にオープニングの時間に。

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まず登場したのは、当事務局のプロデューサーとディレクター陣。
「今、日本の河川空間で何が起こっているのか、そしてこれからどんなことを起こしていくのかを、みなさんで共有して、実際に各プレイヤーがつながる場になれれば」と挨拶したのは、山名清隆プロデューサー。続いてディレクターの岩本唯史さんが「日本では土地の面積に比べて河川が占める割合が大きいにもかかわらず、実際には公的団体の管理下にあって、その地域資源はほとんど活用されずに機会が損失されていました。しかし規制緩和がスタートしたことによって、水辺の商業利用が進んでいます」と話し、過去の水辺をめぐる混沌とした状況をいかに打破して活性化へとつなげていくために「ミズベリング」プロジェクトがスタートしたか、その背景を改めて説明した。ディレクターの真田武幸さんからは「ミズベリングではいま『町おこしに川を使いたい』という相談の電話が、月に10本ぐらいかかってきます」と報告があり、ミズベリングの存在や、水辺活用への関心は徐々に広まっているようだ。

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司会進行役のミズベリング・プロジェクト事務局 プロデューサーの山名清隆さんと国土交通省 河川環境課 課長補佐の田中里佳さん。そしてディレクターの真田武幸さん、岩本唯史さん。

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先行イベントとして行われた、日本橋川に架かる首都高高架下への映像照射実験の映像。映像アーティスト中村敬さんがオフィス用のプロジェクター8台で「日本の四季」をテーマとした映像インスタレーションを照射した。

全国における水辺の活用・最前線

第1部では、今まさに全国各地の現場で、水辺の活用や開発に挑戦するミズベリスト4人が登壇。1人20枚のスライドを1枚あたり20秒使ってプレゼンテーションを行う形式で、水辺活用のアイディアから実践までの実体験を発表する「全国先進水辺動向プレゼンテーション」を開催した。

「東京・二子玉川で、人と自転車のためだけの橋を作りたい」という“個人的妄想”を語ってくれたのは、東浦亮典さん。「マルシェとかお祭りもこの橋の上でやってみたい。地域団体がいろんなアイディアでこの橋を活用していくことで(世田谷区と川崎市の)両自治体での交流が広がるだけじゃなく、地域の経済も活性化されるはず」と話した。

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東急電鉄株式会社 都市創造本部 開発事業部の東浦亮典さん

そして九州・福岡からは「福岡水上公園計画」の内容が明らかになった。現在、福岡市の水上公園の中に、公園とレストラン施設が一体化した水辺空間を作るという計画をすすめる花村武志さんは、「今年7月にオープンするこの水上公園は、福岡の中心地である博多と天神の間に位置し、今後開発予定のウォーターフロントや、福岡市の再開発プロジェクト「天神ビックバン」にも続く立地。再開発のトリガーになる」と意気込みを語った。そして7月17日には、全日本SUP選手権九州予選大会が開催予定とのことで、その準備に向けて、さらに盛り上がってきている様子。

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西日本鉄道株式会社 都市開発事業本部の花村武志さん

3人目の登壇者は、水都大阪パートナーズ理事の泉英明さん。民間によるゲリラ的な水辺活用イベントを、大阪府・大阪市・経済界が連携して下支えするという両輪で、次々と水辺を盛り上げている大阪。その基盤には「自由と責任のマインドで、”自分たちで公共空間を使いこなしていこう”という精神、そして失敗してもチャレンジを認めて評価する風土」があるとのことで、水辺活用の鍵はやっぱり「人」にあることを実感。

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水都大阪パートナーズ理事の泉英明さん

最後は、川沿いに建築するホテル計画で、建築法規の問題に直面した苦労話を披露してくれた綿引孝仁さん。今年の秋、清澄白河・隅田川沿いに建設予定のホテルに川床を設置する計画を立てたものの、川床が「建築物」か「(準用)工作物」かで、東京都からストップがかかってしまったという。「建築物」と解釈された場合は、重量の問題で堤防の上での建設は難しくなる。今や川床を持つカフェやホテルは全国でも珍しくないが、建築基準法の運用は各自治体で異なり、それを突破する難易度もそれぞれ異なるとのこと。綿引さんは、ミズベリング事務局を通して、行政、大学教授、地元のプレイヤー、NPOに相談協力を求めて対策を練り、やっと「工作物」で建築審査が通って、いまはオープンに向けて準備作業に余念がないという。

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株式会社リビタ 地域活性化ホテル準備室の綿引孝仁さん

メディアや市民の目線で見た、水辺活用法。

全国の水辺活用・最前線の発表が終わった後は、建築や都市計画からの視点だけではなく、より市民の目線に立った、メディア側からの水辺活用法の意見提案に入った。

街にとっての水辺の重要性、そして街の良さをインフラ設備ではなく「住みごこち」で評価する新しい指標軸が必要だと提言したのが、ネクスト HOME’S総研 所長の島原万丈さん。これからの街を評価する指標軸は「インフラ設備がどれだけ整っているか」という経済的な合理性・機能性を主軸にしたものではなく、「コミュニティへの帰属」「匿名性」「ロマンスが生まれるか」といった「人間関係」と、「豊かな食文化」「自然を感じられる」、歩いていて楽しいといった「身体性」という”センシュアス度”を計る2つの指標軸が必要になると説明。センシュアス度の高さが、幸福実感度や居住満足度の上昇につながると話し「Sensuous City(センシュアスシティ/官能都市)」という造語を提案した。

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ネクスト HOME’S総研 所長の島原万丈さん

また、パリのセーヌ川の橋やニューヨークのブルックリンブリッジパーク、そして江戸時代の両国大橋などの例を挙げて「水辺は都市をセンシュアスにする」と指摘、都市における水辺文化の重要性について指摘した。

最後に、雑誌「ソトコト」編集長の指出一正さんが登場、新卒で気仙沼市の唐桑半島に移住した「ペンターン女子」や、長浜市の米川にシェアスペース「どんどん橋プロジェクト」を立ち上げた若者たちの実例を挙げながら、若者の移住動向における水辺の価値について話をした。自他共に認める“無類の釣り好き”の指出さんは、日頃からお子さんを川に連れていって、釣りや川遊びを通じて、河川の歴史や文化、環境の大切さを教えているとのことで、「ミズベリング・子育て論」も披露した。

そして魅力的な水辺づくりに人を巻き込んでいくソーシャルな視点として大切なのは、まず「“自分ごと”として楽しい」ことであること、そこから水辺に何度も足を運んでくれる「”限りなく友達に近い”関係人口」を増やしていくこと、さらに自分が関わることで得られるワクワク感の源「未来を作っている手応え」をもつことの3点がポイントになると結んだ。

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月刊ソトコト編集長の指出一正さん

有識者による水辺活用をめぐる本音トーク!

第2部では、官民から有識者3人が登壇し、水辺活用についての本音のクロストークを開催。登壇者は、辻田昌弘氏(東京大学 公共政策大学院特任教授)、馬場正尊氏(公共R不動産・OPEN A代表)、そして 金尾健司氏(国土交通省 水管理・国土保全局長)。

最初のテーマ《ミズベリングで何が変わった?》では、馬場さんが「昔は、水辺を使いたい民間と管理する行政の対立構造の溝は深くて、利用申請をするたびに、これはダメあれもダメって禁止事項を挙げられて玉砕して帰って来る……という話をよく聞きました。でもここ数年そういう話はめっきり聞かなくなりましたね。状況はかなり変わってきていると思います」と話すと、金尾さんが深く頷いて同意。「先日ダムが結婚式の場として活用されました。長く河川の仕事をしていますが、一昔前は、とても考えられなかったこと。しかし、もともと自然災害の多い国なので、防災対策は大切で、いまでも治水は重大な課題として考えなければいけません。しかし都市部を見る限り、施設はかなり出来上がっています。ですから今後インフラ設備は、“つくる”から“使う”に移行する時代だと思っています」と話し、官民の関係性が大きな転換期を迎えていること示唆した。

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東京大学 公共政策大学院特任教授の辻田昌弘さん、公共R不動産・OPEN A代表の馬場正尊さん、国土交通省 水管理・国土保全局長の金尾健司さん

《水辺で儲かる?》というテーマでは、金尾さんは、河川敷地の民間占有期間を3年から10年にするパブリックコメントの募集が始まったニュースに触れた。「水辺を活用する時に(河川)敷地の占用については、占用許可準則があります。公的主体は10年の占用機関が認められていますが、民間は3年なんです。しかし、それではビジネスが成り立たないという声を、民間の方から多くいただいたため、今回10年に引き延ばすために意見募集を開始したところです」と話した。この発言を受けて馬場さんは「これは民間企業にとって本当に大きな改善になる。3年だと建物の投資を回収するのが非常に厳しいので、河川利用を始めるハードルが低くなると思います。これは素晴らしい」と絶賛。「いますぐパブリックコメントを書いてください」と会場の参加者に呼びかけた。

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《公共空間活用とオリンピック》というテーマでは、金尾さんは「歌川広重が描いた「名所江戸百景」の絵画118作品のうち、89枚は水辺を描いています。江戸の名所の3/4は水辺に関係しているので、今度の東京オリンピックでは、ぜひ海外から来る方々に、東京の水辺も積極的にアピールしていきたい」と意欲を見せた。これに対して馬場さんは「オリンピックは公共空間を新しく使う社会実験の場としては、格好のチャンス。ロンドンオリンピックの時には、オフィシャルパートナーではない市民団体や民間団体が企業スポンサーを避けて、公共空間で自由なアクティビティを仕掛けていきました」とロンドンの事例を紹介。さらに「プライベート・パブリック・パートナーシップ」の頭文字を取った『PPPエージェント』という新しい職能を提案した。「やっぱり民間企業と行政の間で調整をする人が必要だと思うんです。これまでは行政が担っていて、何かあったら全部行政が責任を取らないといけない。もしその間にエージェントとして調整する機関があれば、民間も行政もグッと楽になりますよね。責任分担をはっきりすれば、水辺活用に着手するハードルが下がり、活性化が進むんじゃないかと思います」と話した。
その発言に対して辻田さんは「官民の関係性が変わってくると、間に入る人は絶対に必要ですね。行政と企業の間でご苦労されている人たちは経験されていると思いますが、民だと当たり前だと思っていることが、官の理屈では通らない。ミズベリングにように、官と民の間のコーディネーターは必要です」と官民の間をつなぐ “翻訳者”の必要性を改めて訴えた。さらに辻田さんは「五輪前に、あと1点だけ行政にお願いしたいことがあります。東京の湾岸、海、川と、それぞれ国土交通省の中では担当窓口が違うとお聞きしました。2020年に向けて、ここは一本化していただきたいと思います」と提言。すると金尾さんは「そうですね、ぜひ持ち帰らせていただきます」と頭を下げる場面もあって、会場からは拍手が上がった。

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最後のテーマ《地方創生と水辺》では、金尾さんが「九州南の川内川では、蛍を鑑賞しながら、1時間くらい舟下りができます。こうした川本来の価値を上手く使って、地方創生へとつなげていってほしい」と口火を切ると、辻田さんが「地方創生も昔と違って今はお金がないので、手持ちの資源としての川は、大事なポイントだと思います。一方で、川はどこにでもあるもので、渓谷がすごく綺麗などの特性がなければ、どう価値付けしていくか難しい。けれど、川の利点は上流から下流まで市町村つながっていること。ですから、ひとつの地域では難しくても、川を起点に、市町村が連携して何か企画できるといいですよね」と川の活用の利点と難しさについても言及した。
馬場さんは「地方創生という考え方の大きな転換は、いまある自分たちの環境を見直して、その価値をいかに最大化して活用するかというメッセージだと思うんです。その枠組みも、行政主導型ではなくて、”走る民間”を行政がどうサポートするかという形になっている。ですからミズベリングのように民間と行政がいかにパートナーシップを組んで、規制を緩和できるか。その時に大切になってくるのが、魅力のある空間を再発見できるメディアと生活者の市民の目線です。そのふたつの目線で価値を発見して、企画し、行政がサポートする。その三角形を作れた自治体が、これからの地方創生の勝者だと思います」と話したところでクロストークは終了。

ダジャレで「ミズベリング宣言」

そして最後は堂薗俊多さん(国土交通省河川環境課河川環境保全調整官)によるエンディング。堂薗さんは、ミズベリングの効用をダジャレで四大文明になぞらえた「ミズベリング的四大文明」を披露。その4つとは、天気のいい日に水辺にイスを出す「イスダス(インダス)文明」、川で運動するお父さんが増えるとメタボが減って健康度が上がる「メタボガレア(メタポタミア)文明」、川の未来を考える人は地域の中で世代を超えた交流を拡げて若々しくなる「エイジプット(エジプト)文明」、公共空間を使った新しいビジネスが生まれる「広画(黄河)文明」……。
公共空間を楽しく変えていこうという「ミズベリング宣言」とも言えるプレゼンで、最後は笑いと共に幕を閉じたミズベリング・ジャパン。

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閉会後の会場では、参加者が地域や組織や業種という垣根を超えて交流する「リングリングリングパーティ」が開催!
オープンマイク形式で全国からの(+ベルギーの公共ファニチャーデザイナー)ミズベリストたちのプレゼンや、登壇者と直接語り合うことができる屋台「センシュアスバー」や「ソトコトカフェ」なども登場。

「水辺」をキーワードに、たくさんのアイディアや意見交換、そして名刺交換が行われ、水辺活用の未来について、理解と交友が深まるきかっけになった様子。この出会いを機に、今後も全国各地の水辺で新しい試みや創造性が広がっていくことを期待せずにはいられません。

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「ミズベリング ジャパン」のページ
http://mizbering.jp/MJ

この記事を書いた人

編集者・ライター

鈴木沓子

新聞社を経て独立、主にアートやメディア、都市の公共性をテーマに、編集・執筆・翻訳をおこなう。愛車SURLY パグスレーで、川沿いや浜辺など水辺ライドをゆくのが楽しみ。共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)、『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』(パルコ出版)、『BANKSY’S BRISTOL Home Sweet Home』(作品社)など。

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