2016.07.08

島根県の離島・海士町のポップアップ船がお台場に出現! 島の魅力を体感するクルージング。

地域の魅力を伝える「第三の場所」としての水上の「船」

まちづくりのイベントや地域の魅力を伝える場所として、水辺を使う事例が昨今、増えてきています。でも、せっかく水辺に行くなら、たとえば「船」をイベントの舞台としてフル活用してみるというのは、いかがでしょうか。参加者全員で水上に浮かんで海や風を体感する特別感や、陸上の固定的な人間関係の垣根を取り払う「第三の場」としての効果も手伝って、さらに魅力的な場作りができるのではとミズベリングは考えます。そこで、今回は、東京・お台場で船を利用した島根県・海士町のポップアップイベント【AMA Oyster Cruise 〜ゆらゆらしながら海士町に想いを馳せる〜】(主催:島根県海士町役場NPO法人Ubdobe)に参加し、その様子をレポートします。今回のイベントは、少子高齢化にいまなお直面する海士町が、介護職員の移住者を広く募集するために企画されたナイトクルージング。お台場の船を”ポップアップ船”に見立てて、海士町という島を限りなく再現してみることで、島の魅力や問題までを広く共有して知ってもらおうという狙いで、参加者には、特産品の岩牡蠣を堪能しつつ、時に海士町の踊りを舞い、時に音楽を楽しみながら、海士町のまちづくりや少子高齢化問題と移住について考えるトークも用意された盛りだくさんのイベントです。それだけでなく、参加費はなんと無料!

島根県・海士町といえば、財政破綻の危機に直面していた町を、名物町長と“日本一安い給料で日本一働く町職員”を中心に、斬新なまちおこしで奇跡のV字回復を遂げた町として一躍有名になった「あの島」。その海士町が、音楽やアート、エンターテイメントを通じて医療福祉の活性化と市民の社会参加推進を目指すNPO法人Ubdobe(ウブドベ)とタッグを組んで企画した船上イベントなら、きっとひと味もふた味も違ったおもしろい企画になるはず….と、高まる期待を押さえつつ、お台場を目指しました。

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夕方6時にお台場の船着場に着くと、すでに長蛇の列。事前に申し込みを受け付けた参加者160名が船に乗り込むとすぐに振舞われたのが、海士町自慢の「隠岐・海士の岩がき春香」。粒が大きくて旨みをたっぷり含んだみずみずしいこの岩牡蠣は、市場価格1個1000円だとか….。おにぎりと一緒に提供されました。

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島特産のハーブティ「ふくぎ茶」と日本酒「承久の宴」は、なんと飲み放題!

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1階の窓ガラスには、海士町の魅力や取り組みを伝える各種パネルが展示されました。海の幸など特産物の紹介、そしていま島が力を入れている教育制度(島前高校魅力化プロジェクト)についてのパネル展示や、山内道雄町長のまちおこしに賭けた熱い思いも。

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参加者全員が乗船すると同時に、イベントがスタート。まず「海士町」って、どこにあるのか、いったいどんな島なのか? イベントを企画したNPO法人Ubdobeの小野木大悟さんによる司会で、現地の写真や映像を使ったトークが始まりました。

日本海に浮かぶ隠岐群島の中の一主島である海士町。人口約2400人、高齢化率38.9%と過疎高齢化が進んでいて、一時は財政破綻目前で「島が消滅する」と言われる危機的状況に。しかし、役場が中心となって島をあげての新産業の育成や職員自ら給与カットをするなど徹底した経費削減につとめて、見事なV字回復を経て島が再生。いまや「まちづくり」をリードする地域として、国内外から注目を集めるようになりました。さらに豊かな自然と食文化、温かい島の人々に魅了されるひとは多く、現在では人口の約1割を移住者が占めるという、ちょっとめずらしい現象まで起きているとか。とはいえ、少子高齢化の問題は、いまも島の重要な課題のひとつ。今後も進んでいく島の高齢化と人手不足は避けられそうにもなく、高齢者はケアを受けるために島を離れざるをえなくなるケースも出てきている。住み慣れた島で、安心して死ねるにはどうしたらいいのか。「生き生きと死ねる島」を目標に掲げている海士町の社会福祉協議会の取り組みを聞きながら、いま何をすべきなのかというテーマは、町だけでなく、どんな地域にも共通する課題だけに、参加者は真剣に耳を傾けていました。

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「海士町は、自然も食も豊かだけど、なにより人が魅力的。ぜひ、興味を持った方は、一度遊びに来てみてください。特に介護職員や看護師の方は大歓迎です」と呼びかけた、海士町町役場・健康福祉課の沼田洋一課長。

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トークの後は、海士町の伝統・しゃもじ踊りをみんなでトライ! しゃもじを打ち鳴しながら、隠岐の民謡「キンニャモニャ」にあわせて踊るのが海士町の伝統行事で、毎夏には色とりどりの衣装に身を包んだ踊り子が行列で踊るキンニャモニャ祭りが開催されるそうです。沼田課長も自ら、お手本を披露して、一気に会場がヒートアップ。かなり場が和んだところで、音楽イベントがスタート。

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ライブ演奏のハイライトを彩ったのは、自称『水産系”アイドル”ユニット』の漁港。
漁港は、千葉県にある浦安魚市場で働く魚屋でありながら音楽活動を行う”船長”こと森田釣竿さんと深海光一さんからなる2人組の音楽ユニット。「日本の食文化を魚に戻し鯛(たい)!」をモットーに、魚の美味しい食べ方や、魚介類をプロモーションするオリジナル曲を演奏したり、演奏の合間には、船長による見事な包丁さばきも披露するパフォーマンスも。東日本大震災以降は、甚大な津波被害を受けた宮古、大船渡、石巻の沿岸部3地域にライブハウスを建ててまちの復興を目指す「東北ライブハウス大作戦」にも参加、ライブ活動の収益金を寄付を続けていることもあって、今回の海士町イベントには「岩がきの新産業化で島を復興させた海士町のイベントと聞いて、ぜひ出演したいと思いました」と二つ返事で引き受けての出演になりました。

IMG_9116 ♫タンパク良質、ミネラル豊富、黒潮運ぶ自然の恵み、知ればわかるさ、マグロの強さ♫ と、鮪の食文化を歌った代表曲『鮪 マグロ節』で盛り上がる会場。合間に「海、士、町!」と海士町コールの大合唱も。

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天然の南マグロを解体をしながら、マグロの頭のさばき方、料理の仕方をラップ調で説明する”船長”こと森田釣竿さん。「みんなマグロっていうと大トロ、中トロばかりに注目するけど、脳天や頬肉、エラ肉だって美味しい。捨てるところはひとつもないんだぞ!」。勉強になりました。

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「海士町を盛り上げ鯛!」という船長の一言で、さばいたマグロの頭は、その場で競りに。この日は2500円で落札、収益金は海士町町役場に全額寄付されました。ライブ演奏のグッズ販売がポスターでもTシャツでもなく鮮魚というのが徹底しています。

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”漁港”からまちをつくる男達が職種を越えて熱くガッツポーズ! 漁港のふたりと、東京での出版社勤務を辞めて、6年前に海士町に移住、現在では漁業協同組合に勤務する藤澤裕介さん(中央)と記念撮影をパチリ。漁港は、海の日にあたる7月18日にNEWシングル「イカ」を発売予定で、現在、浦安市場で先行販売中だそうです。漁港公式サイト

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その後は、DE DE MOUSEのDJをバックに、音楽に合わせて踊る人もいれば、海士町の美味しい食材に舌鼓を打つ人、海士町の沼田課長を囲んで海士町について詳しい話を聞く人、漁港のメンバーと水産業について語る人、介護の未来を語る人…..などなど、思い思いの時間を過ごしました。

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夜風と海風が気持ちいい屋上のデッキ。

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船上という、非現実的な会場のせいか、参加した人たちの心の垣根も取り払われたようで、初めて会う人同士でも、あちこちで自然と会話や笑いが生まれていました。

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ラストは、野外フェスなど自然の中でのライブ演奏に定評があるno entryのライブ演奏で、会場の盛り上がりも最高潮に。

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これが島を救った特産品の岩がき「春香」。それまで産業化が難しいとされていた岩牡蠣。というのも、本島への輸送に時間がかかるため、どうしても鮮度が落ちてしまい値段が下がってしまうことがネックだったからだそうです。しかし、本島から来た若手移住者と地元の若手漁師がタッグを組んで、町役場を巻き込み、食材の細胞組織を壊さずに新鮮さを保ちながら凍結できるCASシステムを導入。さらに、町役場の人たちが自ら本土やドバイなどに渡って販路を切り開いたことで、いまでは島を支える一大産業になり、島のV字回復につながったそうです。現在では魚介類のCAS凍結品だけでなく、これらの食材を使った調理品・加工品のCAS凍結出荷も行っているとか。今回提供された「春香」もCASシステムで輸送されたものですが、冷凍されたものだとは言われるまで気づかないほどみずみずしく、フレッシュでした。(詳しくは、株式会社ふるさと海士のホームページでどうぞ。)

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21時に船が港に戻ってイベントが終了。「楽しかった!」「美味しかった〜」「海士町に行ってみたい」という声が多く上がった会場で、沼田課長を含めた海士町の方々も笑顔で帰路につきました。

今回のイベントの企画者である医療福祉のNPO法人Ubdobe代表の岡勇樹さんと小野木大悟さんに話を聞きました。

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企画のきっかけを教えてください。
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<岡>海士町の方から、「少子高齢化と若者の島離れによって、高齢者施設の介護職員が不足していて困っている」という相談をいただいたことがきっかけでした。「このままの状態が続くと、数年後には、島の高齢者が要介護状態になると、いずれ島の外に出ていかざるをえない状況になってしまう」と。今後も、島の高齢者が“生き生き”と生きて“生き生き”死ねる島であるために、海士町独自の福祉システムの構築を一緒に実現してくれる仲間を探すお手伝いができるんじゃないかと思って、まず、海士町に興味のある介護職員を島に連れて行くツアーを企画したんです。
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<小野木>実際に海士町に行ってみたら、自然が豊かで、人が温かくて、いい場所だなって、あっという間に魅了されましたね。まずは、都市部で働く福祉介護職員の人たちに広く海士町のことを知ってほしい!と思って、今回の船上イベントを企画しました。
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水辺を活用した“船上イベント”にした理由を教えてください。
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まず海士町に興味持ってもらう事が大切なので、海士町を印象づけるような「パンチ力のあるイベントをやらないと」と思ったんですよね。僕の中で海士町といえば、綺麗な海。美味しい食事、優しい人とゆったりとした時間が印象的でした。船上パーティなら、その島の雰囲気を少しでも再現できるんじゃないかと思ったし、ゆったりとした時間の中で参加してくれた皆さんで海士町について知ったり、福祉の今後を考えられたらって思いました
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自分で言うのも何だけど、今回のイベントは、「美味い」、「気持ちいい」、「楽しい」が揃ったいいイベントだったよね。僕は船上イベントを企画するのは2度目だったけど、今回は特別でした。小野木君がオーガナイザーでありながら、司会もできる人なので助かりました。やっぱりプロジェクトに強い想いを持つ人自身がイベントの司会をつとめるのって大事なんですよ。彼はお客さんの酔っ払いレベルにあわせて、真面目な部分は真面目に、おちゃらけた部分も交えて話せる人なので貴重な存在なんです。(小野木さんに向かって)まあ点数で言うと、2点だけどね(笑)
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えっ? もちろん2点満点で、ですよね?(笑)
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(笑)。船上にした利点はどこにありましたか。
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船って、やっぱり非現実的な高揚感がありますよね。デッキに出て、船上からの海や夜景を見ながら、気持ちのいい空間でイベントができたので、参加者の距離が近かかったし、トークイベント中も話を集中して聞いてもらえた気がします。イベントの合間には、あちこちで会話や議論が自然に生まれていました。
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海士町という島の魅力って、自然も食ももちろんですけど、やっぱり「人」なんですよ。だから、島の人たちの魅力と、島に行ってきた僕たちの”海士町愛”が直に伝わる場作りが必要だったんですよね。そういう意味では船の上というのは、正解だったかもしれないと思いました。
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大変だった点はありましたか?
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予算がぎりぎりまでわからなかったこともあって、船のブッキングに手間取ったくらいですね。週末はほとんどの船が予約で埋まっているんですよ。それくらいです。
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それでイベントの告知が直前になってしまったけど、結果的に海士町の魅力に引き寄せられて人も集まったしね。結果、160人も。
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海士町から来た町役場の方たちは、イベント中、参加者の方から質問を受けたり、よく声をかけられたりしていたみたいですね。お客さんも実際に海士町で生活している人から生の声を聞くチャンスなんで生き生きしてました。今後もより多くの人に海士町の魅力を伝えていきたいので、引き続き頑張りたいなと思いました。そう言えば、沼田課長が船から外を見ていて「海が汚れていますね」と言われていて、はっとしました。東京の海も、もっとキレイにしたいなと思いました。
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まあ、海士町の海と比べちゃうと……。海士町の海は、本当に澄んでいてキレイなんですよ。
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そうなんでしょうね。でも、東京でも海士町の雰囲気を感じられるイベントだったと思います。今後の企画や予定があれば、教えてください。
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来月8月4日から3泊4日で、海士町ツアーを企画しています。海士町の事をより深く知りたい介護職員の参加を広く募集中です。詳しくは、海士町プロジェクトのリンクを参照の上、ご連絡ください。また、これは海士町関連ではありませんが、Ubdobeとしては7月7日に、年齢や障害の有無にかかわらず全ての人が利用可能なユニバーサルデザインの玩具・食器を扱うセレクトショップ『HALU 〜Unique & Universal〜』を三軒茶屋の商店街にオープンしました。医療福祉相談窓口付きのレセクトショップは業界初じゃないかと思うので、こちらもよろしくお願いいたします。http://halu-shop.com

この記事を書いた人

編集者・ライター

鈴木沓子

新聞社を経て独立、主にアートやメディア、都市の公共性をテーマに、編集・執筆・翻訳をおこなう。愛車SURLY パグスレーで、川沿いや浜辺など水辺ライドをゆくのが楽しみ。共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)、『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』(パルコ出版)、『BANKSY’S BRISTOL Home Sweet Home』(作品社)など。

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