2014.04.02

めざすのは、ミズベエリア活性型街づくり

JR東日本ステーションリテイリング
三井剛 代表取締役社長 インタビュー

「旧万世橋駅」再生、「マーチエキュート神田万世橋」誕生

2013年9月、千代田区神田の万世橋高架橋に新たな商業施設「マーチエキュート神田万世橋」(以下、「マーチエキュート」)がオープンしました。「マーチエキュート」は、1912年に完成した赤レンガ造りの建造物「万世橋高架橋」をリノベーションした物件。「旧万世橋駅のホーム」から「交通博物館」を経た歴史と記憶を活かしながら、まったく新しい街のにぎわいを創出する商業エリアへと大再生させたことで話題となりました。
そして、「マーチエキュート」は神田川に面する、いわば“ミズベ商業施設”でもあります。しかもただの商業施設ではなく、このミズベエリアの街のムードやにぎわいを創出する“周辺エリア活性型商業施設”を名乗る施設なのです。
そんな「マーチエキュート」開発を手掛けた企業、「JR東日本ステーションリテイリング」の三井剛代表取締役社長にお話を伺いました。

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川に背を向けない、新たな水辺の風景

「マーチエキュート」は、水辺へ開いた施設だとお聞きしました。
「マーチエキュート」を開発するひとつの大きなポイントに、“水辺の風景をつくっていきたい”という想いがありました。開発前の風景は水辺との関係に壁があるような、川に背を向けた施設の構造になっていました。たとえば、「交通博物館」時代は博物館の性質というものあり、窓が閉じられていて、川の風景を楽しめるような構造になっていなかったり。川の存在を感じさせないつくりでした。
左:交通博物館時代(写真提供:鉄道博物館) 右:現在のマーチエキュート外観
「マーチエキュート」では、川と施設を近づけるために、まず動線づくりから仕掛けを考えました。万世橋からの入口としてポーチを設け、そのまま川沿いのデッキへ散策に出られるアイデアを採用。商業施設としては単なる建物の入り口を設けるだけでよかったし、その方が売り場の面積も確保できます。しかし、「“水辺の散策ルート”として、より気軽に接してほしい」という想い、川に向けたオープン性を大事にしたくて、現在の動線設計に至りました。

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水辺とまちの未来創造に向けたメッセージを発信する「水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会」で
「マーチエキュート」開発のプレゼンテーションを行う三井社長
デッキで散策できることによって、ぐっと水辺に近づきましたね。
この街は川との関係が大きな魅力となっており、東京の中に残された数少ない風景です。川をクローズアップして、より街の魅力を高めていくことは開発にあたり非常に重要と考えました。現在はデッキは約1mの幅ですが、倍ぐらいに伸ばしてテラス的な構造にしたい構想もあります(このプランは東京都と幾度にも渡る協議を重ねた末、河川管理が課題になり、継続協議中)。テーブルとイスをセッティングして、オープンカフェで水辺を楽しむ。そんな風景も実現させたいですね。
左:デッキへと続く広めにとられたポーチ部分 右:デッキは川沿いを通り抜けて散策できるように設けられている
左:デッキの幅は約1m 右:室内からも水辺の景色が楽しめる

川ともっと、近づきたい。地元の願いがあった

“川のある街の風景を大事にする”それが「マーチエキュート」なんですね。
「マーチエキュート」を開発するにあたり、“周辺エリア活性型商業施設”と位置づけました。「マーチエキュート」がめざしたのは、大きな意味での神田エリア活性化に貢献できるような施設です。「マーチエキュート」にお客さまがいらっしゃって、楽しんで帰っていってくれればよい、ということだけにとどまらない、「マーチエキュート」へ出入りするお客さまがこのエリアを自由に動きまわり、活気づくような街づくりへ。そのためまず最初に、街をどのように活性化させていくか、という視点にたち、神田エリアの街の方々のご意見をいただく場に多々出向きました。そして、ここ神田の地元の方々が“川との関係を強化していきたい、できるだけ川と一体化したような空間にしてほしい”と願っていることがわかりました。これが冒頭でお話しした“水辺の風景をつくる”という大きな開発ポイントにつながっていったのです。

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この街でしかできない、ミズベエリア活性を

街を活性させる取り組みには、どんなものがありますか?
街全体をひとつのコンテンツとしてつくりあげていくような活動を中心にできたらいいな、と思っています。「マーチエキュート」のお客さまを神田の街へ連れ出す仕組みづくりのひとつに、「神田タイムスリップマップ」を企画・制作・販売しています。これは、大正時代のこの界隈の地図と、いま現在の神田エリアの地図を重ね合わせたマップで、昔の地割と現在の道路や鉄道線路がどう異なるかが一目でわかるようになっています。たとえば秋葉原駅近辺も昔は船の荷揚げ所であり川の物流の拠点だった歴史があったりと、時空を超えた街歩きを楽しめる、というわけです。

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神田タイムスリップマップ1912 平成お散歩マップ付き」は、「マーチエキュート」内ショップ「LIBRARY」にて販売中。
また、町会や周辺エリアの企業間連携などを行い、地域イベントに共同参加したりと、地域との協働事業も積極的に行っています。神田エリアの価値や楽しさを感じてもらうことで、街の活性化のお手伝いをしたい。神田の街から全国の水辺を元気にしていきたい。ここ、神田のミズベエリアでしかできない街づくりを、これからも考えていきたいです。

●プロフィール

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株式会社JR東日本ステーションリテイリング
代表取締役社長 三井剛(みついたけし)
1995年 東京理科大工学部建築学科卒業 一級建築士

略歴

1995年 東日本旅客鉄道株式会社 入社
1995年 東北地域本社(現仙台支社) 仙台建築技術センター 福島分室
1997年 東北工事事務所 建築課
2000年 ㈱日本レストランエンタプライズ出向(営業本部企画部)
2003年 本社事業創造本部資産活用部門 コスモスプランPT
2004年 同 エキナカ開発プロジェクト
2006年 ㈱JR東日本ステーションリテイリング出向(企画開発部 チーフマネージャー)
2008年 同 企画開発部長
2012年より現職(同日取締役就任)

関連リンク

JR東日本ステーションリテイリング
マーチエキュート神田万世橋
写真で見る万世橋駅と街の風景

この記事を書いた人

ミズベリング

ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、 水辺好きの輪を広げていこう!という意味。 四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。 あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、 モチベーション、イノベーション、リノベーションの 機運を高めていく運動体になれば、と思います。

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