2023.11.22
民間や市民と連携しながら、国交省の総合力を活かすために 〜ミズベリング・インタビュー:国交省水管理・国土保全局長 廣瀬昌由さん
ーまずは廣瀬局長のこれまでの経歴をお聞かせください。またこれまでの人生やお仕事の中で、河川との関わりで経験したことや印象に残っていることはどんなことでしょうか?
廣瀬局長(以下敬称略):
廣瀬局長(以下敬称略):現在、水管理・国土保全局長として、風水害、土砂災害等の自然災害から国民の安全、安心を確保するという仕事が多くを占めています。
私が入省したのはバブル時代でした。入省まもなく、公共事業に向けられる目はより厳しくなり、その進め方や環境への配慮の仕方を変えていかなくてはいけないという変化の時を迎えました。それ以前、たとえば高度成長期は、急増する水需要に対応するためにダムの建設を急いだり、河川の上に高速道路を整備したりといった公共事業が行われましたが、長良川河口堰の建設の前後からは、説明責任に加えて、特に環境との調和という視点から、仕事の進め方が変化しました。
平成6年、当時の河川局では、河川計画課、治水課、開発課の3課で河川、ダム等の計画、事業の実施、管理等を担当していましたが、環境を主に扱うのは河川計画課の下の河川環境対策室という部署でした。環境に対する要請の高まりをうけて、平成7年に3課が再編され、環境施策の充実を図るために、河川環境課が設置され、私はその初代河川環境対策係長の辞令をうけました。
当時は、現在ミズベリングで進めているような、水辺で接点をもつというよりは、水質環境や生態環境など、環境のなかでも、自然環境が仕事の重きを占めていたと思います。都市内の河川の価値は高いという議論があり、河川審議会の下に都市内河川小委員会が設置され、河川を活かした都市整備の方向性等についてとりまとめがされました。実際、隅田川などは、耐震対策をしながら散策路を作って川とまち・ひとの接点をうまく作っていて、水辺と一体となったまちの空間整備が進められていました。その後、水辺の拠点整備を進める水辺プラザや水辺を学習の場として活用する水辺の楽校などの施策を進め、平成23年には河川敷地占用許可準則が改正され、河川空間のオープン化がはじまり、より民間の方ともつながることになり、現在に至ると思います。
個人的な川との関わりとしてはいくつか象徴的な経験があります。子どものころの話ですが、父が地域ではゴリと呼ばれていた底生魚をとって佃煮にするのが好きでした。朝早くから地元の大堰川に行って、ゴリを捕ることに付き合わされていました。その時、入った川の底の石がヌルヌルしていたことが記憶に残っています。
また入省してから、30歳くらい、岐阜の木曽川上流工事事務所で勤務している時に、郡上八幡を訪問する機会があり、まちの中に水路がたくさんあって、そこを流れる水の音がとても心地よかったことを覚えています。せせらぎの音は1/fのゆらぎと言いますか、周波数の幅があって、それを聴く人間の気持ちよさにつながるんだということを実感しました。
その後、夏に家族で、湧水で有名な柿田川の近くの源兵衛川というところに行きました。そこには、水に入れる場所があって、子どもたちと透明な水に入ったとき、その水が冷たくてとても気持ちよかった記憶が、キャーキャーと楽しそうな子どもの声と一緒に鮮明に残っています。記憶に残っているどの経験も、河川やその空間を、触覚や聴覚など五感で感じたという共通点があります。
東日本大震災のときに、発災後2週間後くらいだったと思いますが、現在そこから復興を遂げられ、かわまちづくりでがんばっておられる名取市の名取川沿いの閖上地区に行った時のことが強く印象に残っています。周辺の家屋は津波で流されていて、そこにあった生活の営みの音、人がいる音がまったく聞こえませんでした。また、いろいろなものが燃えた後の匂いも漂っていました。さらに、触覚を刺激される、肌が痛いような感覚を受けたことをよく覚えています。
自然には厳しい面も優しい面もあって、それが多様に混在しています。それを五感で感じる機会があったことは、今の自分の仕事への姿勢に繋がっているように思います。
ー河川行政で注目しているポイントや、想いをお聞かせください。
廣瀬:以前の公共事業は、河川管理者は堤防やダムを整備する。住民に対してそれを説明し、理解をいただくというものでした。現在、豪雨が激甚化、頻発化する中で、河川管理者だけが河川整備をするだけでは、安全・安心が確保できなくなっています。
住民の方には、例えば洪水時の避難を、”自分ごと”として考えていただくことが必要です。また都道府県、市町村の防災を担当している方や、福祉、まちづくりを担当している方とも一緒になって、被害をできるだけ小さくするにはどうしたらいいか、連携して取り組んでいくことが求められていると思います。
国交省では、近年の気候変動を踏まえ、流域全体で行う総合的かつ多層的な水災害対策を「流域治水」として推進しています。「被害をできるだけ防ぐ」「被害対象を減らす」「起こることを前提にできるだけ被害を減らす」という三本柱で取り組む流域治水のキーワードは、「連携」です。あらゆる関係者が協働して、それぞれの立場で主体的に取り組みながら「連携」をしていく。これは治水面だけでなく、水辺の活用でも同じだと思います。
河川は1年365日いつも怖いわけではなく、穏やかな普段の時のほうが常態です。この怖い時と普段の時をどのように繋げるかという視点もあると思います。地球温暖化も進行しているので、河川行政が防災の面を強力に進める必要はありますが、防災対応が社会全体で実行されるためには、普段から多くの方に川に関心を持ってもらうことが大事だと思います。行政、企業、個人が連携をして、それぞれの当事者として対応力を高めていくことが、現在の河川行政では大事だと思っています。
ー連携を進めていくために大事なことはなんでしょうか?
廣瀬:高度成長期には、行政と住民の皆さんの役割分担は明らかであり、「このような効果のために、ダムを作ります。こうつくって、こうなります。建設にご理解、ご協力ください」と説明するのが主で、住民の参加型で一緒にものを考えることはなかったと思います。今、流域治水を進めるにあたっては、自治体の直接の防災担当の方だけではなく、福祉や教育等の関係部局の方、住民の代表者にもプレイヤーとして参加してもらう仕掛けや場を作っていくことが必要だと思います。先ほども”自分ごと化”と言いましたが、自らの発意で行動を起こしていただけるような仕組みをどう構築するかが大事かなと思います。水辺の利用、活用については、よりその視点が大事かと思います。私たちの知識だけでは足りないし経験も少ないので、民間の方、他分野の人との連携が必要であると強く思っています。
ー河川空間とまちづくりへの想いを聞かせてください。また”リバサイト”ができて、河川の占用期間が20年になり、今後どう発展していくでしょうか?
廣瀬:河川空間を民間に開放して10年を超えたということで、国交省でも現在その検証をしていますが、どういうふうに次のステップに入ったらいいかなということを考えています。当初はじまったときは「都市内河川の」という冠がついていて、今もその方向での利用が多いですが、一方で河川価値をより高めるためには、ミズベリングの取組のように都市だけではなく、いろいろなところでやっていくことが大事ではないでしょうか。
水難事故は今も起こっていますし、BBQのゴミの問題などもあります。公的空間なので、一定のルール化はもちろん必要です。
防災においては、”楽しい”という方向はなかなか難しいところもありますが、当然といえば当然ですが、水遊びをしている人は楽しそうです。河川の利用については、基本的には参加している人が楽しいと思える取組が発展すると思います。最初に山名さんたちがミズベリングをはじめられた時は、正直なところ「どうなるんだろう?」と思っていましたが、現在までその活動を拝見していていいなと思うのは、関わっている人たちが楽しそうなんですね。打合せは水辺でやることが多くなっていたり、定期的に集まり我々では考えられない領域の方ともネットワークが広がっていたりします。
防災では「50年に1度の災害に備える」のようなゴールがありますが、河川の利用では、地域の特性でいろいろなゴールがあっていいと思います。地域の特性でいろいろなゴールがあり、参加した人たちがそれぞれ工夫をしながら、ひとつのゴールを目指すのではなく軌道修正をしながら楽しく進んでいくのがよいのではないかと個人的には思っています。
ーかわまちづくりについての想いを聞かせてください。
廣瀬:かわまちづくりも、まちが活性化する流れの中で川を活用していただけるようになるといいのかなと思っています。まちづくりとは、やはり自治体のご担当、その連携の強化が必要かと思います。まちという概念を広く捉えれば、かわまちづくりと道の駅との一体化等、いろんなアイデアがでる、民間の方も入ってくる機会も多い、公費をうまく入れて連携をはかり、都市部だけではなく全国でいい事例を横展開して広げていきたいなと思っています。
防災の視点で、都市計画の担当の方と河川管理者の接点ができると、その延長でどうしたら普段の生活で利用できるかという話もできるし、かわまちづくりの話にもなる。素晴らしいビジョンを持っている首長さん、アイデアを持っている市町村の方も多くいらっしゃるので、多様な背景を持った人たちと連携していけるといいと思います。
ー防災でも都市計画でもまちづくりでも、いろいろな背景の人たちの連携が必要だと。
廣瀬:都市計画においては防災も意識してもらう必要があります。都市計画では、例えば高齢化社会における移動の利便性などを考慮されると思いますが、そこには防災、具体的には避難の視点をいれていただくことが必要だと思います。このような議論のなかで、いろいろな背景をもった人がいること、新しい価値観にもつながる議論ができますし、そこは国交省が総合力を発揮できるところでもあると思います。
国交省は組織として現場を持っていて、現場に一番近い出張所、事務所から、本局、本省と繋がっている縦の総合力があります。また都市局、道路局、住宅局など横の連携による総合力もある。そして調査設計の段階から計画、設計、管理までの全体を俯瞰した総合力も必要です。出先がある、組織としての縦の総合力、多様な事業がある横の総合力、調査から管理までの総合力をもって、国民の皆様に還元する役割があります。
もうひとつは現場力です。以前内閣府防災に出向した経験がありますが、内閣府は出先がないので、現場の情報は各省庁等が頼りです。内閣府の、全体を取りまとめるヘッドクオーターとしての機能は当然重要ですが、政府全体で適切な災害対応をとるためには、現場に事務所を置いているので生の情報がわかる国交省の現場力は非常に大切だと思います。
河川の利用でも、川の特性や地域の特性に根ざし、地域の人たちと一緒に考え、そこに培った現場力を活かして進めることが大事だと思います。ただ、本省から一律にゴールを決めるのではなく、それぞれの地域の価値観の中で多様に進めてもらうことは、国交省等の現場力を活かすということでもあると思います。
ー現場で働く職員たちに働き方のメッセージをお願いします。
廣瀬:達成感を大事にしたいと思います。長良川河口堰や徳山ダムの効果を地域の方からお聞きした時、八ッ場ダムが試験湛水で効果を発揮した時、本当によかったと思いました。先輩方、関係者のご苦労も振り返り、高揚した気持ちになりました。また、些細なことですが、事務所でダム事業を担当していた時、住民への説明会でそれまでのプレゼン方法であったオーバーヘッドプロジェクターではなく、新しいツールであるパワーポイントを導入して資料を作成してプレゼンしたことがありました。今となっては当たり前のことですが、それまでパワポには触ったこともなく、課の職員と、正直、苦労して資料を作りました。住民からの反応が良かった記憶が鮮明に残っています。このように、普段の業務の中でのちょっとしたことも含めて、達成感を感じられるように、組織として、さらにそれぞれ個人も工夫する職場を実現できれば、仕事にもやりがいが出てくると思います。
また、連携、チームワークよく取り組める組織を目指したいと思います。多様で柔軟な働き方の創造、各地の水辺づくり、かわまちにも通じるところがあると思います。多くの方の笑顔が見られるのは、やりがいにつながると思います。
ーさいごにミズベリング10周年ということで、メッセージをお願いします。
廣瀬:ミズベリングは地域の中で関係者と一緒に取り組まれるようになり、ある意味、社会にビルトインされてきていると思っています。このことは、ミズベリングの集合写真の、参加者の方々の笑顔を見るとわかります。”リング”が実現している。職員にとってもそうで、多様な領域の人たちとつながりができて、それが続いている。このようなつながりは、まちづくりなどの事業だけでなく、流域治水などにも生きてくると思います。リングが大きくなって、相乗効果でまたいろいろなリングができ、繋がっていくといいなと思っています。
この記事を書いた人
ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、 水辺好きの輪を広げていこう!という意味。 四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。 あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、 モチベーション、イノベーション、リノベーションの 機運を高めていく運動体になれば、と思います。
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