2024.02.13
RiverDo! 基町川辺コンソーシアム
全国に先駆けて規制緩和された太田川の水辺
広島市内を流れる太田川の水辺は全国に先駆けて2004年、水辺における都市の楽しみ方の創出や都市観光の主要な舞台づくりを目的とした、民間によるオープンカフェや水辺のステージ、船上レストランの実施などを可能とする規制緩和を受けた場所として知られています。
指定を受けてから20年が過ぎようとしているいま、新しい担い手たちが生まれています。
River Do!基町川辺コンソーシアムの誕生
2021年6月1日に、「River Do!基町川辺コンソーシアム」(以下、基町川辺コンソーシアム)が太田川・基町環境護岸の指定された区域において占用許可を受け、公的占用者となりました。2023年3月までこの場所を運営・管理している彼らのフィールドを訪ねると、メンバーたちは河川敷の草刈り真っ最中、でした。
基町川辺コンソーシアムは、「メンバー」という個人の集まりでできています。メンバーは、誰のものでもない公共空間である川や川辺を「自分たちの場所」として捉え、積極的に活用して楽しんだり、力を出し合い自分たちで維持・管理をしていくことが期待されます。
運営組織は、市民・民間事業者(=民)と行政(=官)の中間に位置し、基町環境護岸エリアを拠点とし、
・市民や地域の巻き込み
・市民維持・管理などの役割を担う
・活用のための環境づくり
を進めながら、エリアの価値向上に取り組んでいくことを役割としています。
つまり、メンバーは基町環境護岸の占用区域において、営業行為をはじめとする、これまで禁止とされていた様々な行為が実施できる一方で、組織としてはメンバーとなった市民・民間事業者によるエリアの占用利用の受付窓口となる「利用の申請窓口、開催支援」、身近にある太田川や自然環境とSDGsの結びつきを知ってもらえるようなイベントや取り組みを発信する「プロモーション活動」、様々な得意分野を持った人たちと連携しながら活動する「自主・連携企画の実施」、安心・安全に参加・利用してもらうためのルールや決まり事を説明する「利用時の安全・リスク管理」といった役割を担い、太田川の川辺を「自由と責任」のもとで使いこなし、このエリアの魅力づくりに関わるメンバーやパートナーを増やしていくという使命を持っています。
現在、23人のメンバーが参加している基町川辺コンソーシアム。代表理事である西川隆治さんは「ひろしまSUPクラブ」の代表でもあり、水面利用やさまざまなアウトドアアクティビティの専門家です。また、5人いる理事のうちの1人である岡本泰志さんは、これまでにさまざまな協議会などの事務局などの業務をされていて、社団法人の組成や事務手続き、運営に関する専門家。同じく理事の水木智英さんは、まちづくりコンサルタント、常務理事兼事務局長の堀江剛史さんは、広島で老舗のイベント・音響会社に勤務。多方面で活躍する多彩な才能と個性が集まっています。
組織の設立のきっかけは、新型コロナウイルス感染症の拡大。コロナ禍の影響で公園や川沿いの河岸緑地を利用する市民が増える一方で、イベントの中止や店舗の休業・閉店が目立ち始めた2020年夏、厳しい状況にある方々への支援活動として始まった「#輪になれ広島」へ国土交通省中国地方整備局太田川河川事務所が、期間・区域限定した河川空間を開放する取り組みで参加しました。
太田川河川事務所が基町環境護岸の一時利用者を条件付きで3ヶ月間募集したところ、主に飲食販売やワークショップ、演奏会、イベント開催等に8月の週末を中心とした11日間で9団体に利用されました。その後の利用者などによる座談会で、「利益は少ないが川辺でイベントや店舗利用することは景色も良く、人が密にならず、久しぶりに楽しく会話ができて気持ちが良かった」という声が多く聞かれたそうです。
また、同エリアへの電気、水道、トイレといったライフラインの整備や堤防を駐車場として利用できないかという行政への要望とともにこの土地をもっと自由に利用できないかという意見も寄せられ、さらに座談会参加者らによる公的占用団体を設立する事は可能かといった話題が上がりました。その後、パブリックスペース利用者を中心に、組織体制や活動方針など、公的占用者申請に向けての勉強会や市民の反応を見る社会実験イベント「川辺にきん祭」の開催を経て、なんと約半年後の2021年2月22日、公的占用団体の設立が実現し、River Do!基町川辺コンソーシアムが誕生しました。
「川辺の町内会」マインドとは
基町川辺コンソーシアムは、活動において、
・太田川をもっと楽しもう[Do]
・太田川はかつて人や文化が行き交う[道=Do]だった
・そして、これからの太田川を[どぅ?=Do]していく
という「River Do!」な姿勢を大切にしています。それは、「みんなで太田川を活用し、未来を考えていく運動」です。また、「まちと川がひとつにつながる」というビジョンのもと、ウォーターフロントがひとつに繋がり、市民が参加するムーブメントをつくり、「広島川まつりの復活と“平和”で“健康的”で“美しい”水の都広島にふさわしい川の文化の創造」という目的を掲げています。
西川さんは、「コンソーシアムは、いわば“川辺の町内会”」と話します。このエリアを活用したい人たちが「町内会員」と同意語の「メンバー」として集い、活動拠点である水辺を「自分たちの場所」として愛着を持って自分たちの手で維持・管理します。そうして様々な「River Do!」が生まれ、こうした取り組みが広がっていくことを目指しているのです。
「川辺の町内会」マインドとして、メンバーが大切にしていることとして下記の4つが挙げられます。
- 主体的であること
- ボトムアップであること
- 広島の歴史とこれまでのストーリーを大切にすること
- 「話し合う」より「やり合う(Do!)」を試行する連帯感
このマインドについて、「どれも当たり前でしょ」と、岡本さん。「自分の場所であるという自覚があれば責任は芽生える。自分の家の庭のような感覚があれば、その場所をただ消費・浪費するのではなく、維持していくためにお手入れしようとなるのは自然なこと」といいます。
水辺という公共空間であるならばなおさら、ほかの人々が「使いたくなるような」「愛着を持てるような」企画や活動をする。そう考えれば、草刈りやゴミ拾いといった活動は「町内会マインド」の発露であり、ひとつの結果であるといえます。
広島の水辺プライド:自由と責任
これからのRiver Do!について質問をすると、岡本さんから「水辺という自由な空間であるからこその余地を残すことを大事にしたい」というお答え。
実は、基町川辺コンソーシアムの活動フィールドへ建物を作ったり、インフラやハードを整備したりすればもっと使いやすくなるのでは?という意見が時折寄せられるそうですが、商業施設などのテナントリーシングとは異なる自由な空間において、「自分たちがやれることや工夫できる余地が残されていることが面白い。全て制度やハードに依存せず、余地を楽しむ・楽しんでもらいたい。余地を無くしてしまうのはもったいない」と話します。
その「自由の余地を楽しむ」姿勢は、基町川辺コンソーシアムという、水平的な組織設立の成り立ちにも通じているようです。水木さんは、比較的整えられた河川敷の環境にありながら、必ずしも暮らしている人々に愛着を持って使われている状況ではなかった当時の太田川の水辺を見て、
「世界に誇れる環境があるのに使いきれていない」
と感じたことが、組織設立の必要性へと繋がったと明かします。「その街で暮らす人々が楽しんで生きていないと、その街で楽しい文化は育たない」と、水木さん。そういうプライドがあったからこそ、資金が無いなかでも行政や企業に頼り切らずに作り上げていく、という覚悟が芽生え、広島の水辺のポテンシャルを信じて実体のある活動を進めることができた、と振り返ります。それが公共空間を自由に使う組織の責任であるという「川辺の町内会マインド」の基盤となっていることは間違いありません。
西川さんも「一見、川と関係ない人も加わって、相乗効果によってフィールドが繋がっていく。そういう機運を作っていきたい。関わっている人々が誇りを持てることが大事」と話し、11月3日・4日に開催した「RiverDo!ひろしま川祭り2023」も、主催者と参加者・来場者という垂直な関係性ではなく、メインイベントである広島独自の河川環境を生かしたサスティナブルでダイナミックな「ひろしま国際SUPオープンレース」を応援しに来る方々も一緒になって風景をつくる、という狙いを持っています、と明かしました。
ミズベリングプロジェクト10周年、あらたな活動の地平
川に親しむことで、ふるさとへの思いを育んでほしい。その発信地となるのが水辺。太田川を「自由と責任」のもと、みんなが使える空間に変え、新たなカルチャーを創造し、自分たち自身でまちの価値を高める。誰か決まった存在が定期的にやるだけではなく、「あぶく」のようにいろんな人が出現しては消えて、いろんなものが生まれていく生態系。そういう精神を伝えていく。そのマインドに共感していただける人を増やしたい…
今回ご紹介した熱意のあるこういった人たちは、生もうと思って生まれるわけではないので、「属人的」なところは確かにあります。ライフステージ、就業環境、家族の理解などがなければ、労力をかけて成果を得ることは難しいかもしれません。けれど、民主主義の「自由と責任」といった、私たちの社会の根幹的な信条の価値をきちんと理解する人ならば、彼らの活動に共感できるに違いありません。
ミズベリングプロジェクトは、「人の顔とパッション、それによって出来上がった場所」を紹介し、新しい顔とこれまでを繋ぐ架け橋になりたいと思っています。開始から10周年を迎えたいま、情報の共有を通じてこういった機運が生まれやすく、チームとして編成されやすい仕組みを考え、公共に対する深い理解や、社会との関係における個が果たすべき責任など、あらたな活動の地平が見えてきたように感じています。水辺はその求心力となれると信じて、これからも続けていきます。
その模様は、こちらのリンクからご覧いただけます。
この記事を書いた人
ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、 水辺好きの輪を広げていこう!という意味。 四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。 あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、 モチベーション、イノベーション、リノベーションの 機運を高めていく運動体になれば、と思います。
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