五輪史上初の「水辺の開会式」をパリで目撃!水辺の妖精ブルーマンとその真価を振り返る
史上初めて水辺を舞台に開会式が行われたパリ五輪も、なんだか懐かしいものになってきました。パリ五輪では、セーヌ川での水上開会式をはじめ、公共空間をフル活用した大会運営と都市経営の姿が示されました。
今回の記事では、開会式を現地で体感したミズベリング・プロジェクト事務局の吉次翼と水辺の妖精ブルーマンとの対話を通じて、その真価に迫ります。あの日、現場で何が起きていたのか。どのような苦労と挑戦があったのか。リアルな体験をもとに、最新のミズベの動向を語り合います。

写真左:ブルーマン、写真右:吉次翼
現地での様子を動画で投稿したので、こちらもぜひご覧ください。
開会式の盛り上がりがお分かりいただける動画となっています。
パリ五輪における水辺活用のイノベーション
パリ五輪で一番印象的だったのは、やはり水上開会式でしたね。セーヌ川を舞台にした壮大な演出。水辺活用のひとつの到達点といえるでしょう。そしてこれは、一夜限りの一発勝負ではなく、長年の水辺活用の蓄積があったからこそ成し得たと言えるのではないでしょうか。
そうそう! パリでは、セーヌ川沿いに人工の砂浜をつくり、バカンス気分を味わえるようにした「パリ・プラージュ(パリ・ビーチ)」と呼ばれる水辺活用プロジェクトに取り組んできた歴史があって、その経験が大いに活かされた開会式だったね。
パリ・プラージュについては、過去に
ミズベリング記事でも特集しましたね。水上開会式の仮設スタンド群は、まさにパリ・プラージュのベンチやパラソルが立ち並ぶ場所なども活用して建てられていました。



パリ市庁舎前の仮設スタンド群 。例年、この一帯には、パリ・プラージュの人工ビーチが出現する 。
水辺の外でも、公共空間活用がダイナミックに展開
パリ五輪では、水辺以外での公共空間活用も印象的でしたね。
本当に! たとえば、パリのシンボル・シャンゼリゼ通りには、スポンサー企業のパビリオンや五輪オフィシャルショップの仮設建築が並んでいたよ。まちの一等地を活用することが、スポンサーに対するインセンティブとして上手く機能していたみたい。「公共空間の活用が、大会開催費用に占める広告収入と行政負担をバランスさせることに貢献していた」とも言えるかな。
大会運営と都市経営の両立の影に公共空間の底力あり、ですね。さらに、「公共空間をフル活用するぞ」という姿勢そのものが、国際社会に対するメッセージになっているようにも感じました。
そう! 世界の名だたる都市は今、公共空間の活用を通じて多様性や成長性を打ち出してきている。それに対する「パリの答えはこうだ!」という表現としても受け取れるよね。


道路空間を大胆に活用した五輪仮設建築が立ち並ぶ
水上開会式のリアルな現場感
水上開会式の話に戻りますが、現地で感じたリアルをお聞きしたいです。
現地は土砂降りだったのよね。妖精だって、全身ずぶ濡れはツライのさ。
そうでしたね。当日はずぶ濡れになりながら水上パレードを見守りました。日本国内のように、使い慣れた天気予報アプリや雨雲レーダーが手元になかったので、いろいろな現地サイトを見比べたり、周囲の観客と会話したりして、軽食や着替え、席を立つタイミングを見計らいました。不安もありましたが、だからこそ気象状況と開会式進行がどんどん自分ゴト化していく感覚も味わえましたね。
それはいい気づきだね! 公共空間での活動は、そこにいる人々の環境や防災に対する感度と意識を高めて、自分ゴト化させてくれる面があるよね。そして、選手や観客という立場を超えて、文字どおりひとつの公共“空間”が生まれるのさ。

土砂降りに濡れるブルーマン。セーヌ川の向こうには、修復工事中のノートルダム大聖堂が見える。
リアルな現場感といえば、会場周辺の厳重な警備体制も印象的でしたね。
そう! 日常空間と非日常空間がフェンス1枚でパキッと線引きされている感じ。その光景が何キロにもわたって続いている。産業活動や市民生活への影響も大きかったはずだけれど、そうした苦労も乗り越えて、公共空間での大会をやり切ったというところに、パリの覚悟と熱意を感じたね。

日常生活が続く開会式エリア外(フェンス奥)と厳しい通行規制が敷かれた開会式エリア内(フェンス手前)
パリ五輪のレガシーとは。そして、日本の水辺はどこに向かうのか ―
水上開会式を経てもう半年以上が経ちました。パリ五輪のレガシーはどこにあるでしょうか。
公共空間フル活用型の五輪を経て、パリのまち全体が大きく変化しようとしているね。たとえば、エッフェル塔周辺は巨大緑地になり、パリ中心部へのマイカーの通過交通は2024年冬から全面規制されたんだ。現地では、「五輪開催時の交通規制を通じてマイカー規制に慣れさせて、そのまま規制の恒常化につなげたのでは」なんて声もあるとか。
それが意図的だったかどうかはさておき、五輪をひとつの転機としつつ、まちづくりを力強く進めていることには間違いなさそうですね。世界中の都市が、水辺をはじめとした公共空間活用の新次元を切り拓いていく中で、日本も負けてはいられませんね。
そのとおり! 日本の水辺ももっとクリエイティブに、もっと大胆に使っていくべきだよ。これからの都市は、水辺なしには語れないよ!

花の都でも大人気だったブルーマン
ブルーマンとの対話を通じて浮かび上がったのは、日本の水辺が持つポテンシャルと、まだそこに至っていない現実とのギャップ。パリのように、水辺活用を国内外双方に対しての社会変革のメッセージやパワーに変換していくことが日本にも求められる、と軽快に語るブルーマンの姿が印象的でした。
日本の水辺が持つ可能性を引き出し、都市の活力と未来を創り出すために、ミズベリング・プロジェクトの挑戦はこれからも続いていきます。世界の都市と肩を並べ、そしてその一歩先を行くために、日本の水辺に新しい風を吹き込んでいきましょう。
ミズベリング・プロジェクト事務局。都市開発・運輸交通分野の広報・PRプロジェクトに数多く関わる。近年は、水辺をはじめとした公共空間と広告表現のダイナミックなコラボレーションに挑戦中。津々浦々の「おふね」に乗って、まちやくらしの姿を船上から味わうのが大好き。