2014.10.15

TRIBUTE BENCH
カナダで見つけた、水辺の素敵な仕組み

市民が主体的に公共空間の整備に参加するメニュー

バンクーバーに旅行に行ってきました。知りあいのマンションに泊めさせていただいて、まず環境の良さにホレボレ。歩いてすぐの場所に、こんなにうっそうとした森があり、そのあいだを美しい川が流れています。魚釣りをしている方もいました。マスをねらっているんだとか。

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マンション自体が森に囲まれている。

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ここはウェストバンクーバー市でバンクーバーのダウンタウンからはレインボーブリッジ的な橋(ライオンズゲートブリッジ)を渡ってすぐのところにあります。見えているのはキャピラノ川。都市の中心近くにこんな環境があるなんてすごいとあらためて感心しました。

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ライオンズゲートブリッジの向こう側がウェストバンクーバー市

散歩道も整備されていて、ウェストバンクーバーのトレッキングコースの一部でもあるようです。犬の散歩やジョギングなどさまざまに活用されています。

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黒いラブラドールとともに走る女性二人。夢に出てきそうなシアワセな光景。

さて、そんな環境を散歩していたら、川を望む素敵なベンチを発見。
私のような異邦人でも、ここに居てもいいんだなと感じさせられます。バンクーバーは世界で最も住みやすい町の座を毎年争っていますが、こういう小さい積み重ねが評価を高めているんじゃないかなどと思いました。

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いいベンチです。場所といい、大きさといい。

さて、このベンチ。よくみると背もたれのところに銅製のプレートが埋め込まれています。なんと書いてあるのでしょうか。

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ロスとマクシーン・マクグレーテン/愛情深い両親であり祖父母—永遠に我々の心とともに。

なんだかとてもプライベートなことが書いてあるような気がします。他のベンチも見てみましょう。

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パトリシア・アン・ハーディ/抽象芸術家

有名な方なのかしら?

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メリル デ・ビュイスト
親愛なる友人/常に我々の心に

友達に愛された人だったのですね。

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アラステアM・ニコル(1921-1998)を偲んで、ウェストバンクーバー市のロータリークラブが寄付しました。

なるほど。寄付なんですね。この川沿いに限らず、公園、海岸沿いの遊歩道、ピクニックパークなどのありとあらゆる場所にこのベンチは見られます。そこでウェストバンクーバー市の公園管理をしているセクションに突撃取材をしてきました。

対応してくださったイアン・ハラスさんはウェストバンクーバー市の公園整備担当の部門の方。

岩本 唯史
このベンチ(ウェストバンクーバー市ではTRIBUTE BENCHという)はどれくらいあるのですか?
イアン・ハラスさん
イアン・ハラスさん(以下I・Hさん) いやーどれくらいっていわれてもたくさんありすぎてわからないよ。それぐらいたくさんあるんですよ。(笑)
岩本 唯史
寄付する人はどれくらいお支払いになるんですか?
イアン・ハラスさん
I・Hさん このベンチは10年で償却されることになっていて、10年単位で寄付をいただきます。10年間の設置と同等の費用をいただいていて、それが2500カナダドル(25万円ぐらい)です。10年経つと、その後は改めて寄付いただいた人に継続の意志確認をし、継続される場合は再度寄付をいただきます。いただかない場合は、別の方を公募します。
岩本 唯史
文言については、なにかルールがあるのですか?
イアン・ハラスさん
I・Hさん もちろん他人を攻撃したり、社会的に受け入れられない表現はお断りしています。文言の決定にあたってはガイドラインとともに、私たちの部門が責任をもって編集します。この編集方針にお従いいただけない方からは寄付をいただきません。またお墓ではないので、あまりお墓っぽくならないようにも気をつけています。
岩本 唯史
人気すぎて、ウェイティングリストがあると聞いたのですが。
イアン・ハラスさん
I・Hさん そうなんですよ。ま、場所によってなんですが、常に60人ぐらいがお待ちになっています。
岩本 唯史
どんな場所が人気なんですか?
イアン・ハラスさん
I・Hさん 水辺ですね。それと多くの方が利用される散歩道です。
岩本 唯史
今年はどれぐらいの数を整備されるのですか?
イアン・ハラスさん
I・Hさん 今年は150〜200台位を整備する予定です。
岩本 唯史
どれくらい前からこの仕組みはあるのですか?
イアン・ハラスさん
I・Hさん 20年位かな。私がこの市に採用されたときはすでにありましたね。
岩本 唯史
この仕組みは、ウェストバンクーバー以外でもあるようですが、カナダや北米では普通のことなのですか?
イアン・ハラスさん
I・Hさん そうですね。いろんな市や自治体がこの仕組みを採用しています。
岩本 唯史
この仕組みのメリットを教えてください。
イアン・ハラスさん
I・Hさん ひとつは、整備費用を税収に依存しないで済むこと。また、ベンチ設置への住民の要望が高いこともあります。また寄付をする方にとっても、寄付が税金の控除扱いになるので、所得の大きい方にはありがたがられています。ウェストバンクーバー市は所得が高い人がたくさんお住みになられているエリアですので、この制度は非常にうまくいっていると言えます。

市民が主体的に公共空間の整備に参加するためのメニューを用意しているウェストバンクーバー市のこの取組み、とても示唆的だと思いました。
ウェストバンクーバー市のTRIBUTE BENCHESのウェブサイト

さて、帰国して執筆のためにネット検索していたら、同じような制度が日本にもありました。
思い出ベンチ事業 東京都建設局

残念ながら水辺のエリアはないですが、もしこの記事でご興味をもたれたら、平成26年度の募集が現在進行中ですので、問い合わせされたらいいんじゃないでしょうか?

この記事を書いた人

ミズベリングプロジェクトディレクター/(株)水辺総研代表取締役/舟運活性化コンソーシアムTOKYO2021事務局長/水辺荘共同発起人/建築設計事務所RaasDESIGN主宰

岩本 唯史

建築家。一級建築士。ミズベリングプロジェクトのディレクターを務めるほか、全国の水辺の魅力を創出する活動を行い、和歌山市、墨田区、鉄道事業者の開発案件の水辺、エリアマネジメント組織などの水辺利活用のコンサルテーションなどを行う。横浜の水辺を使いこなすための会員組織、「水辺荘」の共同設立者。東京建築士会これからの建築士賞受賞(2017)、まちなか広場賞奨励賞(2017)グッドデザイン賞金賞(ミズベリング、2018)

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