2024.07.16

石巻の川とまちの関係のいま

産業利用から市民の憩いの場へ。復興を機に変化した石巻の水辺

古くから川湊(かわみなと)として旧北上川を中心に栄えてきた宮城県石巻市は、2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波で壊滅的な被害を受けました。この震災を契機に国は、石巻を津波・高潮・洪水から守るための堤防整備計画を策定し、水防災だけではなく市民の集いの場としての「水辺空間」の整備を目的とした、「かわまちづくり」を進めてきました。

(図1:日和山から見た石巻旧北上川の河口エリア 中央地区)

旧北上川河口部の復旧復興事業は2021年度に完成し、2022年4月23日に完成式典がにぎやかに開催されました。旧北上川右岸の「中央地区」は、石巻市の「水辺の緑のプロムナード計画」「かわまち交流拠点事業」と連携した堤防一体空間として整備されており、地域のにぎわいを創出した模範となる先進的な取組として「令和4年度かわまち大賞」を受賞しています。

(図2:「令和4年度かわまち大賞」受賞イベントの様子 画像提供:国土交通省 北上川下流河川事務所)

石巻市は、震災復興基本計画と連携し、中心市街地の活性化の起爆剤として、この水辺空間を活用した数多くのイベントを開催してきました。これまでに、旧北上川でのカヌー・ヨット乗船体験や、石ノ森萬画館をスクリーンにした野外映画上映会「かわべでシアター」や「石巻復興マラソンウォーキング」などが行われ、にぎわいを創出しています。また、学校教育の場としても活用しており、他の地区でも散策や祭りなどを通じて市民が集い交流できる「憩いの場」として活用を図っています。

(図3 :石巻市震災復興基本計画第4章市街地エリアp95図「被災状況と主な課題」を元に作成)

石巻のかわまちづくりの実施にあたっては、学識者、景観・デザインの専門家、地域代表者、行政委員、デザイン系コンサルタント、関係機関、公募による市民など多様な方々の参加によって、景観の基本方針や堤防・護岸等のデザイン、拠点地区の整備の方向性などについて時間をかけた丁寧な検討と議論が行われました。

この制作過程と人々の思いが広く周知され、また後世へ継承されることを願って 「石巻かわまちづくりデザインノート」(2022年4月発刊、ダウンロードはこちらから)が作成されました。この事業は東日本大震災からの復旧・復興による「街の安全と安心の象徴」であると同時に、かつては漁業などで産業利用されていた水辺が地域の憩いの場へと変わった「大きな変革点」にもなった、と書かれています。

旧北上川中央地区の堤防一体空間「石巻かわまちオープンパーク」を占用主体である石巻市と使用契約を締結し企画・運営を行っている、石巻の街づくり会社「街づくりまんぼう」(都市再生推進法人、以下街づくりまんぼう)の街づくり事業部・苅谷智大(かりやともひろ)さんに2024年現在の状況について、お話を伺いました。

堤防利活用事業の現状

石巻市は現在、河川敷地の占用に関するルール「河川敷地占用許可準則」に基づき、「都市・地域再生等利用区域」の指定を目指しています。2020年8月から始まった社会実験「石巻かわまちオープンパーク」は、堤防上のスペースを全6区画に分け、飲食店や売店、オープンカフェの営業活動や市民によるイベント開催といった利活用に取り組んでいます。「私たち街づくりまんぼうは、これらの施設利用者の募集やサポートを担当し、エリアのマネジメントを行っています」(苅谷氏)。

(図4『かわまちオープンパーク旧北上川中央地区堤防一体空間 施設使用者募集要項』より引用・作成)

(図5 石巻かわまちオープンパーク運営のスキーム図 提供:街づくりまんぼう)

水辺を新しい公共空間のアイコンに

取り組みの開始から4年目を迎えた現在、「堤防上だけでなく、水辺エリアの価値向上と、市民の水辺への愛着醸成が重要」(苅谷氏)。これまで、自主イベントやキッチンカー、上映会などを実施してきましたが、収益化も課題となっています。

2022年度の市民意識調査では、回答者の6割が「知っている」、3割が「訪れたことがある」と答えていますが、「震災を機に水辺との関わり方が変わり、以前は生業として港と関わる人が多かったけれど、今後は川を地域資源とし、多くの人が親しむ魅力ある場所と認識されることで、地域全体の価値が高まる。これにより、収益化を見据えた再投資の仕組み作りの議論が進むのではないかと考えています」(苅谷氏)。

そのため、「単純に人を呼ぶことや売り上げを上げることよりも、市民の憩いの場としての位置づけをしっかりと作っていくことが大切。今の業務の本来の目的は、ここでしか体験できない、市民主体の活動を支援し、その価値を高めることだと思っています」(苅谷氏)。

(画像6人々が集いにぎわう水辺空間の様子 画像提供:国土交通省 北上川下流河川事務所)

持続可能な運営体制の構築

水辺ならではの体験価値を高めることが期待される一方で、水上アクティビティや焚き火、バーベキューなど、活動コンテンツを増やしていくためには、地元の大学生や若者、地元事業者などを巻き込み、さまざまなアイデアを集めた持続可能な運営体制を構築することが求められています。

「街づくりまんぼうが昨年主催したイベントは2件でしたが、利用者からの持ち込み企画は18件に上りました。全イベントの総来場者数は7500人でした。

堤防というロケーションを楽しみたい市民が次々に集まり、ここでやってみたいと思う『チャレンジの場』として盛り上がることで、イベントの企画運営や収益事業への主体的な参加を促進したいと考えています」(苅谷氏)。

(図7石巻専修大学の学生が企画し実施した2月24日実施「酔居テラス」 夜の水辺を楽しむ試み 撮影:小林直子)

まちと一体化した水辺のありかたの模索へ

街づくりまんぼうは、水辺を「新たな公共空間」と位置づけていますが、天候に左右されるという課題もあります。このため、事業やイベントのイニシャルコストを抑えながら事業者の参入を促進する取り組みを模索してきました。

「水辺エリアだけでなく、河川以外の制度も活用し、地域全体のにぎわいを増すことを目指しています。地元の観光施設や観光事業者との連携も強化し、地域経済の振興に貢献しています。

当社が管理運営するマンガミュージアム『石ノ森萬画館』の昨年度来館者数はおよそ50万人を数えますが、さらにコンテンツ産業との連携を図り、アニメーションなどの分野で若い世代や新規参入者が技術力を育成する街となることも目指しています。

水辺エリアの利活用への関心を生むためには、まち全体としての方向性を揃え、共通のルールを作り、堤防を含めたエリアの運営を一体化する努力が必要です。具体的には、観光協会や市役所との協力を通じた定期的な清掃活動やメンテナンスといったアクションを検討しています。

また、流域、沿川で繋がっていくことも考えています。旧北上川河口のかわまちづくり整備は、河口から全長約4.8km(右岸は石巻大橋まで、左岸は真野川水門まで)に及びます。堤防沿いの道は連続しており、徒歩や自転車、キックボードなどでの利用の可能性を見込んでいます」(苅谷氏)。

(図8 街づくりまんぼうの街づくり事業部の苅谷智大さん 本人提供)

永続的な取り組みのスタートライン

丁寧に時間をかけて形成された「川とともに生きる新しい石巻」は、これからが本当のスタートと言えるフェーズにあります。堤防の維持や補修にとどまらず、沿川の社会状況や地域の人々の意識の変化に対応しながら、常に進化し続ける「街の未来」は、永続的な取り組みであり、地域の人々によって醸されていきます。

このプロジェクトは、「川は美しく見えているか」「馴染みある川になっているか」という問いを背景に整備されており、「堤防があるからこそ街の魅力が増すような堤防、という宿命を背負っている」と、「石巻かわまちづくりデザインノート」に記されています。

震災復興を契機に石巻の水辺は大きく変わることを余儀なくされました。そのなかでも、未来を見据えて、生命財産を守るだけでなく、過去の歴史を大切にしながら未来の石巻のひとたちの豊かさに寄与する水辺のあり方への模索にこれからも注目です。

この記事を書いた人

「二子玉川まちメディアfutakoloco」編集長、「チームうなラボ」フェロー

小林直子

futakoloco 編集長&ファウンダー。主に公民連携分野のフリーランス・ライター/エディター。法律専門書出版社勤務と米国大学院留学(高齢化社会政策)を経て、2016年〜2022年、自らの暮らしの場である二子玉川のエリアマネジメント法人で情報・広報戦略と水辺などの公共空間における官民共創事業に従事。最近は生まれ育った西多摩の多摩川および秋川の水辺界隈でもじわりわくわく活動中。 暮らしを起点にした「本当にクリエイティブな社会」のタネを自らのアンテナで見つけ、リアルに伺った物語を記録し続けることがいま、とっても楽しいです!

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