【イベントレポート2】MIZBERING INSPIRE FORUM 20231215 新領域を解き放て!
全国から7人のプレゼンターが登壇、水辺の今を語る
ミズベリングといえば、全国各地での多彩な活動でしょう。今回も全国の7人のプレゼンテーションが行われました。概略をご紹介しましょう。
「なにもない」川内川沿いになにかが誕生
友ダンジェロ有限会社・田尾友輔さん
トップバッターは鹿児島県薩摩川内市の友ダンジェロ有限会社の田尾友輔さん。2021年に地元にUターンした田尾さんは地元のいくつものまちづくりに関わっており、そのうちのひとつが川内川近くの倉庫のリノベーション。
「Uターンしてみて感じた違和感のひとつに『このまちにはなにもない』と言いながら、その『なに』が無いかが具体的ではないということがありました。実際にはないのではなく、楽しいこと、ものを生み出す人、感じる感性がないのかもしれない、だとしたらまずは川内川を楽しむ、楽しめる感性を増やそうとイベントを始めました」。
だが、年に一度のイベントでは限界があると2021年に地元高校漕艇部の艇庫をクラウドファンディングで資金を集めてリノベーションしたのがSOKO KAKAKA。毎週末にオープンするイベントスペースとしてスタート、翌年には常設7店舗が営業する商業施設にリニューアルしています。
「オープンから1年。ポップアップ利用、貸し切り利用などが増えており、月1回の店長会議で施設は回るようになっています」。
同時期には川内川流域かわまちづくり観光活性化事業がスタート。何もないと言われてきた川内川周辺には何かが生まれ、変わり始めているようです。
水辺×夜に新たな可能性
ナイトタイムエコノミー推進協議会・伊藤佳菜さん
「夜」「水辺」と検索をかけると次に出てくるのは「怖い」という単語。そんな現状を変えたいと登壇したのはナイトタイムエコノミー推進協議会の伊藤佳菜さん。夜には文化的価値、社会的価値、経済的価値があるとした上で、震災後、戦災後の東京の都市計画をリードしてきた石川栄耀の「夜の都市計画」という視点が紹介されました。
それによると産業時間であるところの昼間が余暇であり、普通余暇として称しているそれ以外の時間こそが”正味”。つまり、夜こそが人生そのものだというのです。
ところがコロナで夜の外出が減り、多くの人はストレスを感じています。であれば今こそ、夜をもう一度考えてみる、まちづくりにもっと「夜」の視点を取り入れてみてはと伊藤さん。
「パリ、アムステルダム、シドニー、世界には夜も魅力的な都市がたくさんあります。日本もそうした観点を持ってみても良いのではないでしょうか」。
人工都市レイクタウンに水辺を挿入
レイクアンドピース株式会社・畔上順平さん
埼玉県越谷市は市域に一級河川が5本も流れる「水郷」。しばしば浸水被害を受けてきており、その改善を目標に35年前にLake Town構想が作られました。
「2008年に街開きした越谷レイクタウンはその計画を3分の1くらいの規模で実現したもの」とレイクアンドピース株式会社の畔上順平さん。人工的に作られた大相模調整池の周辺には人口2万人超のニュータウンがあり、ウォーターフロントには年間5000万人超が訪れる県内最大の観光地で日本最大のショッピングセンター・イオンレイクタウンがあります。
一見すると水辺を楽しむ雰囲気があるようには思えませんが、畔上さんたちは調節地でのSUPやマルシェなどを数名から始め、徐々にその輪が拡大。現在では越谷市はもちろん、イオンとも連携してまちを盛り上る活動に取り組んでいます。
「イメージは新印象派の画家、ジョルジュ・スーラの代表作『グランド・ジャット島の日曜日の午後』が描く風景。水辺の豊かな日常を醸成し、世界一の人工湖をつくる!を目標にしています」。
そのために現在、水辺で乾杯するためのクラフトビールを作っているのだとか。完成の暁にはぜひ、越谷レイクタウンで乾杯させていただきたいものです。
水辺の街、前橋で官民協働が産んだもの
前橋市役所・田中隆太さん、ショコラティエ・チョコアイカさん
利根川、広瀬川、馬場川とすてきな水辺に恵まれた街、前橋市はこのところ、変化がしばしば話題になる街のひとつ。2016年に官民連携で市民ビジョン「めぶく」を策定、官民で目指すべき将来ビジョンを共有、広瀬川の水辺利活用のアクションからスタートして、今ではさまざまな民間事業が立ち上がるようになってきています。
その前橋市で田中さんが取り組んでいるのはマチスタントという遊休不動産のマッチングによる事業化支援。空き家を使ってまちに新しいプレイヤーを呼び込む事業で、すでに新規出店が20件に及んでいるとか。前橋市が動いていること、街中に面白い人たちが増えていることが分かります。
そんな田中さんが出会ったのが完全紹介制「AikaChocolat」代表で前橋のことが大嫌いだったというアイカさん。昨年まで東京でコンビニエンスストアで商品開発を担当しており、退職後、東京かアメリカで起業を考えていたところ、ある人から「今は前橋だ」とアドバイスされました。
「フランスで買ったジャムに合うパンを探していた時、前橋でイメージどおりのパンに出会い、さらに田中さんに出会い、店舗やいろんな人に出会って大きく事業が展開しました」とアイカさん。
前橋が地域と人、人と世界が繋がる基点となっており、前橋に製造拠点を設けたことで海外でのコラボイベントも多数開くことになったアイカさん。気が付いたら前橋が大好きになっていたとも。
「今は前橋だ」という認識が街に生まれ、アイカさんのような方が事業拠点を設けたいと思えるようになったことが、前橋のこれまでのまちづくりの成果なのです。
前橋は今、世界中のVIPが注目、歩いているとビッグな人に会える街になっているとのこと。まだ訪れたことのない人はぜひ、一度訪ねてみてはどうでしょう。
水辺を庭とする広島の新世代プレイヤーたち
中電技術コンサルタント株式会社・水木智英さん
市内に6本の川が流れ、歴史的に川辺を愛し、使いこなしてきた街、広島ではコロナ禍を受け、令和2年に河川空間の一部を開放、利用する社会実験が行われました。アウトドアで、しかも広島市民にはなじみの水辺空間ですから、社会実験はおおいに賑わい、やめてくれるなという声も多数。
それを受けて社会実験に参加した民間事業者、NPOなどが集まって川辺の町内会としてスタートしたのが100%市民主導の河川護岸公的占用者RIVER DO HOW!という活動です。
水木さんはその団体に理事として関わり、会社に直談判をしてスペシャルパートナーになってもらうことで活動を持続。イベントで使うと同時に河岸の草刈りをするなど地道に活動を続けます。
活動しながら、こうした活動をどう継続していくのか、やり方に悩んだ水木さんは学び直しを決意してMBAを取得。そこから徐々に横の繋がりを広げていきます。市内にはさまざまなまちづくり団体がありますが、それらとの共創活動が生まれていったのです。
さらには広島都心会議、DIG:R HIROSHIMAなどといった官民連携組織にも繋がり、活動は加速。2024年3月には広島市内中心部を丸ごと会場にしたCITY SCAPE!というイベントが開催されましたが、これは民、官の枠を超えてまちづくり団体が一体になったからこそできたもの。水辺に生まれた活動が大きく広がったというわくわくする事例でした。
River Do!基町川辺コンソーシアム: RIVER DO HOW
こちらの取材記事はこちら「RiverDo! 基町川辺コンソーシアムー彼らはなぜ草を刈るのか」
国内初!横浜の水辺を劇場に
Park Line推進協議会事務局長・前田賢治さん
水辺全体を劇場にし、日本で初めて行われたクルージング・イマーシブシアターについて説明してくださったのは2020年に民間マネジメントで公共空間の質的転換を図り、持続的な地域価値向上を地域の価値向上を地域のステークホルダーとの地域連携・地域共創によって目指そうという中間支援組織Park Line推進協議会の事務局長・前田賢治さん。
公共空間マネジメントの4つの領域としては基盤整備、周遊交通、地域資源活用、地域経営を想定しており、今回紹介されたクルージング・イマーシブシアターはまちや水辺空間の観光資源化、水上交通の活性化その他複数の領域にまたがるもの。横浜港や吉田新田等地元の歴史をモチーフにした物語を水上で楽しもうという試みで、聞いているだけでも楽しそう。
ただ、天気に恵まれないことには実現できません。また、国内初の試みでもあり、この料金で席が埋まるのか、特に最終公演が21時~というスケジュールは受け入れられるのかなどいろいろと心配も絶えなかったとか。
しかし、蓋を開けてみると最終回が最初に完売。2日間×6回の12公演は大好評のうちに幕を閉じ、終了後のアンケートには絶賛の声が寄せられました。今後は常設に向けての検討を進めるとのことで、他の都市でもやりたいという声があるとも。
「エンタメ×河川空間は初めての試み。領域的にはこれから伸びるはず」とミズベリングプロデューサーの山名さんも興味津々で、会場からも行ってみたいとの声が多数上がっていました。
知っておきたいミズベリング前史
水辺総一郎さん(水辺を研究して50年)
最後に登壇したのは参加者の皆さんにはどこかで見た気もする水辺研究者の水辺総一郎さん。語られたのはミズベリング前史です。ミズベリングの活動は10年を迎えましたが、それはある日突然に始まったものではないと水辺さん。
「現在では公園、道路、港湾などと多くの公共空間で利活用が進むようになりましたが、その中でもミズベリングが着実に実績を積むことができたのは河川という領域だったからです」と水辺さんが紹介したのは1997年に改正された河川法第一条。
平成9年(1997年)に改正された河川法第一条では、河川法の目的として従前の治水、利水に加えて河川環境の整備と保全が付け加えられました。その背景にあったのは1960年代以降、河川環境が悪化し、遠ざけられた水辺にアクセスできるようにするための市民活動、それに続く長良川河口堰問題での市民と国土交通省の職員たちとの対話だったと水辺さん。
「対話によって仕事の在り方が変わり、それが河川法の改正に繋がりました。市民の関与が明確に位置づけられることにもなったのです*。現在のミズベリングの活動の広がりはその歴史、姿勢の土台の上にあります」。
*註:河川法における市民の関与の記載は下記のとおり。
(河川整備計画) 第十六条の二
河川管理者は、河川整備基本方針に沿つて計画的に河川の整備を実施すべき区間について、当該河川の整備に関する計画(以下「河川整備計画」という。)を定めておかなければならない。
4 河川管理者は、前項に規定する場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
そして、もうひとつ語られたのは市民と水辺の新しい関係が河川行政を変えるということ。対決ではなく、対話で河川を変えてきたことで「行政の皆さんの仕事にも少なからず変化がもたらされたのではないでしょうか?」。
その伝統を踏まえ、これからの気候変動の時代にはミズベリングでできたことが他の領域でもできるのではないかというのが水辺さんの最後のメッセージ。水辺の実践をもっと広い分野に。力強い言葉に勇気づけられた人も多かったのではないでしょうか。
この記事を書いた人
住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30数年不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)「解決!空き家問題」(ちくま新書)等。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。
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