2020.01.20

河川の利活用とミズベリング人材の育成

愛媛県東温市にできたスラックラインパークに行ってみたら、領域横断をかろやかにこなす公務員がいた

この記事をシェアする

日本初のスラックラインパーク誕生

愛媛県東温市を流れる重信川の河川敷公園(霞堤のなかにある)重信川かすみの森公園に、スラックラインができる「スラックラインパーク」が全国にさきがけてオープンした。整備したのは東温市で、日本スラックライン連盟愛媛県支部が協力した。この場所はかわまちづくり支援制度に平成31年3月に登録され、スポーツによる地域の活性化が目指されている。その目的とも合致しているとして、整備が推進された。

実は、このスラックライン、日本全国で愛好者がいるものの、あそべるフィールドがなくて困っている。人知れず公園の樹などを利用してラインを設置しているが、公園管理者からの風当たりが強く、「とにかくダメ」と禁止されていることが多いという。

スラックラインパークを視察している模様。スラックラインを触っているスーツの方が松山さん

このスラックラインの魅力にはまったひとりの男がいた。友人に誘われ、動画をみせられ、多少スポーツには自身があり、まあすぐに飛んだり跳ねたりできるだろうとたかをくくっていたそうだが、実際やってみると、「うまれたての子鹿」の状態で、足がプルプルしてまともに立つことすらできない。そんななかでもコツを掴み、体幹をうまくつかえるようになり、少しずつ着実に上達していくこのスポーツのふところのひろさを感じ、すっかりこのスラックラインの魅力にはまってしまったのだ。

 

彼の名は松山芳士さんといい、現職が国土交通省四国地方整備局河川計画課の課長補佐という職にある。いわゆる、河川を管理する側の人間でもある。そんな彼が、「自由に」川でスラックラインできないか?とかんがえたのは、スラックラインの愛好家たちとの「どこでやればいいのか」という会話のなかからだった。

 

ふたつの立場

松山さんは自分のなかに、河川管理者の立場と、自由に使いこなしたいというふたつの立場があることに気がつき、それをうまく活かすことで仕事も愛好家としても両方の立場を楽しめるのではないかとかんがえた。

それは、ふたつの立場のそれぞれのひとたちに、互いの立場を理解してもらうことで実現すると考えた。利用者には、遊びたいだけの利用者に責任をもってもらうことを説き、前例を重んじる役所の仲間には、その意義を説明して口説いた。

河川管理者の立場もわかる、利用者側の立場もわかる、ということでそれぞれをつなぐバウンダリースパナの役割をこなしたのが、松山さんの立場だったのだ。

その松山さんがこの取り組みを心配なくすすめることができたのは、スラックライン連盟愛媛県支部の支部長をつとめる堀内裕美子さんの真摯な態度があったからだ。

日本スラックライン連盟愛媛県支部長をつとめる堀内裕美子さん

実はこの公園のなかの施設、スラックラインのひとたちだけがつかえるわけではなく、自由使用の範囲で使える。公共空間の排他独占的利用にはなっていない。河川敷地準則の特例占用などひつようですらない。スラックライン連盟はこの場所で金銭の授受が発生しているわけでもない。普通にかんがえると、運営費はどうなっているのか心配になるところだ。

 

スラックラインの柱。地元の鉄工所が制作した。

 

 

ただ、スラックラインパークができたことで得られた自由さに対する感謝の気持ちを、この支部長はずっとわすれないことが大切だと感じている。「これまで何年も地元の人に怒られたり肩身の狭い思いをしながらスラックラインをやってきた。国土交通省と東温市の協力で専用のスラックラインパークができたことで、誰に気兼ねすることなくスラックラインを楽しめるようになったことを、忘れてはならない。ずっと使い続けることやたくさんのひとが使ってくれることが恩返しとなる」

ミズベリング人材とは?

松山さんは、四国の河川にたずさわる公務員の人材育成にも取り組んでいる。松山さんの領域をこえて仕事を楽しむさまはすでに四国の職員のなかからは一目おかれている。これまでも、たくさんの河川を使いこなし、いままでにない価値を地元と一緒になってつくってきた実績もある。ただ、そのプロセスは実は小さな積み重ねのうえになりたったもので、一朝一夕にできるものではないのだが、後輩たちにとっては松山さんの最初の一歩がどんなものだったのかがわからないので目指すことがむずかしい高い山のように感じてしまう。

松山さんは、「自分が遊びにいきたいと思える川に自分自身がコミットして、自分の川を自慢できる河川屋を育てることが、人材育成、そしていい川づくりにつながるとおもっています。ぜひ自分の川で自慢できる面白素材をみつけてください」と後輩たちの背中を押している。

「つくる」より「使う」の時代。使う目的はさまざまある。東温市かすみの森スラックラインパークの場合は、自由に気兼ねなくスラックラインを楽しめる場所、としての価値があるから使いつづけることができる。継続的な営みがうまれることを「事業」と呼ぶとすれば、金銭が発生して雇用がうまれることで継続的な営みにつながることもあるが、金銭が発生しなくてもそこに思いがありつづければ継続的な営みにつながることもある。

 

東温市かすみの森スラックラインパークは、民間活用ではあるが、金銭の授受が発生しないので、河川の自由使用の範疇ででき、既存の河川と公園のルールでできてしまう事例である。しかしながら、使う側、使わせる側の両方の立場をうまくつないだミズベリング人材によるミズベリングの好事例であろう。そして、それは公共の仕事をしているみなさんの働き方そのものについて問いかけている。

 

ミズベリスト紹介

松山 芳士

川遊び大好きアクティブ系河川管理者/四国地方整備局河川計画課課長補佐

カヤック、ラフティング、キャンプ、スラックラインなど、水辺の遊び全般を「仕事も遊びも全力で」をモットーに担当。趣味は、自分が川で遊ぶために、「川で遊んだこともない人間がいい川をつくれるはずがない」と言って、若手を巻き込み川に連れ出すこと。

 

この記事を書いた人

株式会社水辺総研代表取締役、RaasDESIGN代表、BOAT PEOPLE Association理事、水辺荘発起人 、一級建築士

岩本 唯史

公共空間としての水辺がよくなることで、社会がよくなると考える。建築家として建物のリノベーションを主に設計の仕事をしている傍ら、都市をリノベーションするのであれば、公共空間である水辺を外して考えることはできないと考え活動している。BOAT PEOPLE Associationのメンバーとして、いままでさまざまな水辺のトライアンドエラーを繰り返して社会に水辺の空間のあり方とつきあい方を提案してきた。 2005年横浜トリエンナーレ出展作品「Life on Board II」「内閣府都市再生モデル調査事業、FLOATING EMERGENCY PLATFORM」「地震EXPO09(BankART)」「東京アートポイント LOB09-10」など。最近は横浜の水辺を「使い倒す」ことを目的に、水辺のソーシャルスペース「水辺荘」を日ノ出町たちあげ、都市に新しい風景をつくる試みをたくさん行っている。

過去の記事

> 過去の記事はこちら

この記事をシェアする