2019.04.24 Wed

門前仲町に「深川川床」誕生。

門前仲町に「深川川床」誕生。

2019年3月22日、門前仲町に川沿いの景色や桜並木を堪能できる「深川川床」が誕生しました

    伝統、文化を発信、新たな賑わいの拠点に

    門前仲町に「深川川床」誕生。

    江東区で花見と言えば水辺である。仙台堀川公園、猿江恩賜公園、清澄公園、大島小松川公園などといくつか有名なスポットがあるが、中でも多くの人に知られているのが門前仲町駅の南側を流れる大横川沿いの桜並木だろう。両岸から川面に枝を伸ばす並木の見事さに加え、15年前からは『お江戸深川さくらまつり』(主催:深川観光協会)が開かれており、舟の上から桜を眺めたり、江戸情緒あふれる新内流しに耳を傾けたりと多彩な楽しみが用意されているからである。

    江東区の水辺に「川床」という新たな魅力

    2019年3月23日、その大横川や桜並木をさらに満喫できるスポットが誕生した。石島橋近くの「深川川床」である。川床といえば京都の鴨川や貴船、新しいところでは2009年から始まった大阪の北浜テラスが有名だが、首都圏でも2013年から5年間の社会実験を経て2018年3月に民間事業者が指定された地域内で河川敷地の利用を可能にする「かわてらす事業」が始まり、深川川床はその第一号案件であり、今後、都市地域再生等利用区域に区域指定された石島橋から巴橋の右岸の区間に川床を設置するプラットフォームとなる。

    ちなみに読み方は「ふかがわかわゆか」。大阪の北浜テラスの実現に関わった松本拓氏によると、「とこは床の間のように上にあるもので貴船のような上流のものをさし、ゆかは鴨川のような下流側にあるものを指す」とのことで、ここは京都の文化にならったわけである。2002年以来活動してきたNPO法人江東区の水辺に親しむ会が川床の物理的設置者、占有者となり、川沿いにある大正10年創業の割烹料理店「金柳」が使用者としてそこに「川床金柳」という店を出すという形である。



    開業前日のオープニングイベント

    開業前日にお邪魔した。門前仲町駅から歩いて行くと石島橋には何人かが代わる代わる立ち止まっており、写真を撮っている様子。一緒になって眺めてみると、これは確かに目立つ。大横川は両側に桜並木があり、南側には歩道があるのだが、さほど人の気配はない。北側に至っては柵があって桜に近寄ることもできないのだが、その中にあって川床のある場所にだけ人が集まり、賑やかで温かな雰囲気。川床の中央には大横川沿いではもっとも早く花をつけるという巨木もあり、道行く人がなんだろう、覗いてみたいと思うのは無理もない。


    石島橋から川床を眺める

    入り口の様子

    上流にある埼玉県小川町の檜が材料

    橋のたもとに新設された通路を通って川床へ。割烹金柳の建物と階段で繋がる川床は全体で60㎡ほどと面積だけでみるとさほど広くはないが、屋外で目の前が川という開放的な場所であるためか、面積以上に広い印象。使用されている木材は大横川の荒川上流に位置する埼玉県小川町の檜。耐久性の高い加熱処理が施されており、木の素材感を活かすと同時に水辺の景観にもなじむ、自然な姿である。これは企画・設計監修に携わった竹中工務店が進めている「木を通じて川上と川下をつなぐ」森林グランドサイクル構想の一環で、12月、1月には深川の川床実現に尽力した人たちが小川町を訪れ、森林伐採、製材の現場を視察するなどして交流を深めたとか。

    川床には、埼玉県小川町の檜を加熱処理した木材を使用

    埼玉県小川町での視察

    木材を提供した大河生産森林組合の笠原貞次組合長は結婚するまで深川で生まれ育ったそうで、今回のプロジェクトには縁を感じるとしみじみ。「小川町では昭和30~40年代に植えた杉、檜がちょうど切り頃。川床をきっかけに首都圏近郊にも良い材木の産地があることを知っていただければありがたい」。深川はかつて木場のあった木のまちでもあり、川床はその歴史をも踏まえた存在であるわけだ。


    小川町上・下流の交流会

    護岸工事で川は遠い存在に

    開業に先立つイベントでは地元の関係者が次々に挨拶したのだが、その中で印象に残ったのはかつての大横川の様子。水路として動力船や筏が行き来していた風景を覚えている人もおり、このまちの風景が短期間で大きく変わってきたことが分かった。割烹金柳の魚住昭子氏によれば、そもそも今回作られた川床がある場所までが川だったという。

    それが水害対策、地震対策で現在の耐震護岸に変わったのは1970年代。護岸の完成とともに川と民間の土地の間には立ち入ることのできない空間が生まれた。そこに桜が植えられたのは1980年代。桜の名所はほんの少し前に生まれたものだったのである。しかも、桜の植樹には花や葉がゴミになる、毛虫が嫌だなど反対も多かったとか。同様に川の左岸(南側)は住宅の玄関側に当たるため、遊歩道が設置できたものの、右岸(北側)では住宅前面を不特定多数が歩くことになると反対があり、遊歩道は作られないことになった。川は毎日の生活からは遠い存在になってしまったのである。

    川床設置前の右岸

    川への意識が変化し続けてきた10数年

    それから40年近く。特に前出の江東区の水辺に親しむ会が活動を始めて以来、地元の人たちの水辺に対する意識は大きく変わったと同会の須永俶子理事長。引っ越してくるまでは江東区に良いイメージを持っていなかったという須永氏だが、水辺の豊かさ、他人と関わろうとする人の素晴らしさに感銘を受け、区内で活動を続けてきた。「江東区は震災と戦災で焼け野原になり、何も残っていないように見えたものの、インフラとしての川はちゃんと残っていましたし、阪神大震災以降、輸送路としての水路を見直す動きもあります。今後は川床のように地元の人や外からの人たちが集まる場が求められるなど、水辺の役割も変化しています」。

    江東区の水辺に親しむ会・須永俶子理事長。水辺での活動はすでに20年以上の歴史をもつ水辺のレジェンドでもある

    川床の構想が生まれたのは2年ほど前のこと。地元に本社のある竹中工務店が社内でまちづくりコンペを行い、170ほどもあった提案のうちから一位に選ばれたのが深川をかつてのように木の香るまちにというものだった。同社ではその実現に向け、地元と協働を模索してきた。

    地元が一丸になって協働、1年足らずで実現へ

    「昨年の1~2月くらいでしょうか、地元の関係者が集まった酒席で大阪や福岡で川床が盛り上がっているという話から深川でも作れないかと大いに盛り上がったことがありました。なんとか実現できないものかと思っていたところ、昨年5月に東京観光財団が新しい試みに助成金を交付するという話があり、応募したところ、10件のうちに選ばれたのが7月。そこから急ピッチで実現に向かって動き始めました」(竹中工務店まちづくり戦略室・高浜洋平氏)。

    竹中工務店まちづくり戦略室・高浜洋平氏

    江東区水辺に親しむ会が中心となって「深川の川床による水辺の賑わい創出プロジェクト」が立ち上げられ、かわてらす設置を提案。これを受けて2013年からの社会実験でノウハウを持つ東京都建設局と大横川を管理する江東区が連携して調整にあたり、そこに地元町会、観光協会等が加わった大横川川床協議会が地域の合意を得るなどの作業を経て完成したのが深川川床。2019年1月に河川管理者である江東区が大横川の巴橋から石島橋までの右岸(北側)を都市・地域再生等利用区域に指定したことで、前出の料亭金柳が事業者として川床を使用することも決まり、河川占用許可の手続きを経て、桜の開花と合わせるように急ピッチで工事が進められ、オープンに漕ぎつけたというわけである。


    占用スキーム。占用、設置、使用で別々の許可になっている。

    会議の様子

    いずれは川床が連なる風景の実現を

    今後、お江戸深川さくらまつりの期間中(2019年は3月23日~4月7日)は朝10時~20時(19時半ラストオーダー)まで食事や飲み物を提供する予定(以降については時間、メニューともに検討中)。飲食だけでなく、深川の歴史や文化、伝統芸能などにまつわる情報発信、イベントなども計画されているそうで、そちらも楽しみ。開業前夜には地元の芸者さんが飛び入りで日本舞踊を見せてくださるなど、この土地ならではのサプライズがあり、そうした楽しさが伝わればおおいに盛り上がりそうだ。


    川床では、食事や飲み物を提供予定


    オープニングイベントでは、地元の芸者さんが飛び入りで日本舞踊を披露

    とりあえず一店からスタートした深川川床だが、いずれは巴橋から石島橋までの間に川床が連なる姿を目標としているとか。かつては東京にも京都のような川床があったはず。震災、戦災で埋立てられ、昭和30~40年代にどぶ川となり、厄介者とされた川が再度賑わいや楽しみの場として再生される日を期待したいものである。

    Writer's Profile
    中川寛子

    住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30数年不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)「解決!空き家問題」(ちくま新書)等。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

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