2016.08.25
天神に新しく生まれた水辺の拠点、リニューアルされた水上公園に行ってみた。
博多の水辺の船出。
リニューアルオープンした水上公園から始まる「天神ビッグバン」
博多天神。
有名な繁華街中洲にほど近く、那珂川と薬院新川の合流地点の剣先に位置する福岡市の水上公園がリニューアルし、2016年7月15日にオープンしました。
盛大なオープニングセレモニーが行われる中、取材班ははじめてこの”公園”を目にしました。
公園?建物?
まずびっくりするのが、公園のなかでとっても目立っている真新しいガラス張りの三角形の建物水上公園のリニューアルという言葉から想像できるイメージとはだいぶかけ離れて、建物の存在感がすごい。
この建物、今回のリニューアルに際して実施された福岡市の「水上公園・管理運営事業者」募集の要項に「民設民営の休養施設等」として要求されていた施設で、民間事業者がお金を出して公園の中に建物を建てるというスキームで建てられています。公募の結果選ばれた西日本鉄道株式会社を代表社とするコンソーシアムが建設したのがこの建物なのです。
建物は2階建。1階2階それぞれに飲食店がテナントとして入っています。
「世界一おいしい朝食」で有名な「BILLS」、福岡で注目される中華料理店「星期菜NOODLE&CHINOIS」が入居。取材当日はオープン当日、その翌日ということもあったのかもしれないませんが、入店待ちをする長蛇の列で賑わっていました。
居心地の良いオープンスペースが屋上にできた
屋上は公園が地上から階段で連続しているようにつくられていて、屋上にはまるで船の帆のような布でできた幕が日よけとしてつくられています。ベンチや人工芝が敷かれていて、めいめいが居心地よさそうにすごせる工夫がされています。特に剣先部分では「タイタニックごっこ」ができるようになっていて、ディカプリオやケイト・ウィンスレットの気分が味わえます。
昼時に続々と人がやってきて思い思いに屋上を楽しんでいます
女の子2人はセルフィーに躍起、サラリーマンは芝生にパソコン広げて作業中。
カップルは芝生に寝転がるのを交互に撮影しあい、対岸のビルで働くOL3人は芝生に寝転びながら、普段の寝るときの体勢について語りあっています。
屋上から下を眺めると、街の目抜き通りを通る自動車の向こうに那珂川や薬院新川が見えます。その手前に見えるのが、公園として福岡市が負担して整備した部分です。
公園のコンセッション
この建物は、福岡市に公園の使用料を支払っています。期間はコンソーシアムと福岡市が結んだ協定に定められており、10年の許可期間を設けられていて、さらに更新で最大22年間使用することが可能になっています。使用料は使用する目的ごとに取り決めがあり、飲食店として使う部分に関しては、月額1㎡あたり、900円の使用料を支払うことになっています。
コンセッションといえば、ニューヨークの公園のコンセッションが最近日本でも盛んに紹介されています。
マディソンスクエアパークのコンセッションであるオーガニックやコミュニティをテーマにしたハンバーガー店は、人気すぎて最近この公園以外にも出店し、とうとうNY証券取引所で上場まで果たして日本にも出店するほどに成長してしまっていたり、有名なブライアントパークの事例があります。
企業側が受益するだけにとどまらず、公園行政の歳入も増え、他の公園の設備投資へまわされる好循環がうまれています。
福岡でも、民間が得た利益から使用料を行政が徴収することでいままでになかった歳入が市に増えて、あらたな行政サービスがうまれることが期待されます。
天神ビッグバンのなかでの位置付け
そもそもなぜこの公園がこのような形でリニューアルされる必要があったのかを紐解くと、福岡市が策定した「天神ビッグバン」の存在があります。水辺の活性化が戦略目標を実現させるための手法として位置付けられたのです。
天神ビッグバンが目指す目標とは「国家戦略特区をはじめとする誘導策などにより、天神地区は、付加価値の高いビルへの建て替えなどが進み、ビジネスやショッピング・憩いをはじめ、人・モノ・コトが交流する新たな空間が生まれ、これまで以上に多くの人が活動する一方で、過度に自動車に依存しない、ひとを中心とした歩いて出かけたくなるまちへ生まれ変わる」こと。2015年に始動した「天神ビッグバン」の生まれ変わる街の一歩目の重要な役割を担ったのが、この水上公園のリニューアルなのです。
このリニューアルのキーパーソンとも言える西鉄の社員、花村さんが、突然ミズベリング事務局連絡をくださったのは2015年の7月のことでした。
ミズベリング・プロデューサーの山名清隆さんらが福岡へ出向いてミズベリングについてお話しさせていただいた「水辺活性化セミナーを2015年2月に開催。
そして2016年3月に開催されたミズベリングJAPANに登壇していただいたことでも、ミズベリングのファンのみなさんならご存知かもしれません。
- ミズベリングジャパン、登壇ありがとうございました。そしてオープンおめでとうございます。あのときのプレゼンが実現したということで、ミズベリストの多くの方が福岡の水辺を注目しています。
- ありがとうございます。あれから京急電鉄さんや東急電鉄さん、渋谷のエリマネの方などが視察にいらっしゃいました。
- ミズベリングジャパンのプレゼンテーションで印象的だったのが、紹介されていた水上公園の将来絵図の素晴らしさでした。来てみて、人がたくさんいる風景はまさにあの手書きのパースのようでした。
- 設計士にお願いしたのですが、建設することが目的でなく建物が生まれることによってアクティビティが生まれ広がるので、単なる建築バースでなくアクティビティが可視化されるようなイメージでオーダーしたのです。
- その想いが実現したようですね。たくさんの人々がめいめいの楽しみ方をしている場所になっているなと感じました。
- アクティビティを誘発したいという思いは実際の施設にいろいろと実現されています。例えば、水上公園屋上にはかわいらしいサインを書いてもらいました。
すべて禁止することを推奨するのではなく、この公園ではこんなことをしてもらいたいとディレクションすることが公園の理想形なのではないかと。
- 水上公園に関しては夜の間接照明もいいんです。恋の勝率が上がるというか。
空間そのものがいいから食事して屋上行って「きれいだね」と言われると、自分に対してなのか川とか景色に対してなのかよく分からなくなるんですよ(笑)。
- BGMが流れていて、それも心地いいですね。スピーカーもうまく隠してあります。いままでの公園の概念とはまったく違います。
- そしてこの公園はShip’s Gardenということで船の形状をしていますが、官民協働のpartnershipだとか友達同士で楽しむfriendshipという意味も含まれていますが、skinshipも含まれています。
恋人同士が語らう場、小さな子供と芝生で遊んだり、絵本の読み聞かせをしたり。
いろいろな人たちにとって多様なアクションが叶う場所になってもらえれば嬉しい限りです。
福岡の水辺にかける想い
- 今日、オープンに漕ぎ着けたわけですが、公園のリニューアルオープンがゴールではなく、これからが大切です。どんどん福岡の水辺を広げることが大切です。実は私自身はもう水辺のプロジェクトを人事異動ではなれて、別のプロジェクトに携わっています。また会社としても水上公園オープンと同時に開発部門から管理部門へ担当が移管しますので、つくるまえとつくったあとで水辺との繋がりが希薄になってしまいます。会社では人事異動などでノウハウや知見を簡単に伝承できるものではありませんが、まず情報開示して人を巻き込んで、個人だけではなくムーブメントやライフスタイルやカルチャーにしていけるような動きをずっとしていきながら、他の企業にも広げていければと微力ながら活動しています。
- それは、ソーシャルキャピタル(人的資本関係)を構築することが必要なエリアマネジメントや水辺のまちづくりにおいて、とても重要な課題ですよね。でも西鉄さんのなかでもそういうことを経験した人材がいることはきっと将来プラスになると思うのですが。
- ハード屋がハード屋としての限界を僕は感じていて、もう1度ユーザーファーストに立ち返って意識することがハード屋や国土交通省の中にも芽生えて来ているのと感じています。ミズベリングみたいなふわっとした活動に時代が合ってきているのではないかと思っています。
許可制や治水だけという概念から、そろそろパラダイムシフトしていかなければならないのではないでしょうか。 - 公園自体、ユーザーファーストではなく管理者が管理しやすいようにという概念が多かったでしょうけれども、実際にご自身で管理しなければならない物件を立ち上げてみてその葛藤のようなものはあったのでしょうか。
- 公園管轄は福岡市中央区なのですが、公園の面積はどんどん増えていっているにも関わらず、予算は減っている。
そのため、如何に管理しやすいかや破損しないかという概念が先行しがちなので、民間の力を投入して、例えば間接照明を設置するにしても、電気料金は民間の負担にする、公園で流す有線放送に関してはイニシャルコストもふくめて民間が負担するなどがここでは図られています。つまり、西鉄の費用で負担して公園の方に負荷することに了承を得たのです。
公園内では有料で公共公益に資するイベントを実施することが可能になっているので、ここでイニシャルコストやランニングコストを取り戻せばいいとおもっているのです。
- 公園に民間の力を入れ運営していくことが、まちとしての公共の利益と合致して、価値を高めることになるわけですね。
- ただコストを取り戻す目処は実は立っていません(笑)。
今回水上公園のオープンに合わせ企画したSUPイベントに関しても最終的に600万円ほどかかりましたが、協賛でなんとか賄いました。なかなか協賛をあつめるのも大変だったのですが、福岡地域戦略推進協議会(FDC)の都心再生部会がありまして、都心再生にあたりウォーターフロント開発やセントラルビジネスディストリクトを展開していく中で、リバーフロントの活性化が都市の活性化に繋がるということで、FDC加盟企業から協賛金をお願いしました。
SUPイベントを都心再生のプロジェクトに位置づけてもらうことによって法的機関にお墨付きをもらうことで、関係する企業から協賛金を捻出が容易になる。SUPイベントの冠スポンサーの社長さんは単に水辺が好きだったということで協賛をいただくことに漕ぎ着けました。
- 取材をしてみて、軽やかに駆け周りを巻き込んで行く力がある花村さんの存在そのものに物凄く興味があります。やっぱりそういう多様なクラスターの人たちに関わっていける軽やかな人が核にいるから街を前向きにしていけるのでしょう。
- いや、特に考えてないんですよ。
考えずに動くというか動きながら考えるというか。
例えば、先日SUP体験会のときに思いついたのが、福岡はダイバーシティというテーマがいいかなと。
なんとなくダイバーシティって持て囃されていますが、そこをきちんと細分化してターゲットに対してアプローチすることをやってみたらどうかなと考えているのです。
例えば、水上公園屋上に設置された船の帆を模したタープを、パレード開催時にレインボーに変えることで、LGBTなどいろいろなマイノリティの方達にも寛容な施設として展開してみたい。 - あたらしい水上公園は福岡の心意気が反映されるシンボリックな場所になる可能性がありますね。そんな公園を福岡がもてるようになって、楽しくおかしく官民あげて支えていけるという現状が素晴らしいなと思います。
それ以外に、水上公園をコンセッションすることによって、福岡市はどのようなメリットがあるのでしょうか。
- まず民営部分のレストランに関しては、1平米あたり900円という賃貸収入があります。
また、都市のヘソのような場所が賑わい空間となることで、街の回遊性や滞留時間が長くなってお金をいっぱい落としもらえる。街の新名所ができることによってインバウンド収入アップにも繋がりますからね。総合的に見るといいですよね。
回遊性を生み出すための水上公園をその起点として上手く利用するべく考えて実行まで漕ぎ着けたので、まだまだマイナーな活動なので、勉強会を重ねながら多くの方に水辺の知られざる魅力を知ってもらいたい。
やはり大阪や横浜の前例を学び少し福岡らしさを見出だしながら、他の都市で5年かけて規制緩和できたことを福岡では1~2年でできてしまう可能性もあるとおもっています。
ミズベリング・ファンクラブ福岡という任意団体と属人的なコミットの方法
- 組織の人間なので、水辺に関わってきたプロジェクトから離れてしまうことはある意味仕方ない。でも、このはじめたプロジェクトの開発が終わったからといって私が関与をやめるのはやはり考えにくい。そこで私はミズベリングファンクラブ福岡という水辺を盛り上げていく任意団体をたちあげて、この組織のキャプテンに就任させていただくことにしました。こういう関わり方を持つことによって組織を離れても属人的に関わっていけます。
ミズベリング福岡ではなくファンクラブとしたのは、福岡を名乗るのはちょっとおこがましいというか、ゆるく、ふわっと動いていける組織のほうがいいかなと思ったからです。福岡では今後春吉橋の架け替えにともなって、仮設橋を暫定利用にとどめず賑わい創出のための広場として使うという構想があります。そういうプロジェクトへの水辺に関心がある人たちがコミットしていくプラットフォームとしても有用なのではないかと考えています。
聞き手:岩本唯史(ミズベリング・ディレクター)糸井孔帥(ミズベリング・ライター/水主)
参考文献
水上公園整備・管理運営事業者募集要項【修正版:平成27年4月6日】(PDF) (福岡市)
福岡水辺活性化セミナー 水辺活性化プロジェクト FDC都市再生部会 発表資料(PDF) (作成 FDC事務局長 後藤太一)
再開発プロジェクト「天神ビッグバン」とは (NETIB-NEWS 永上隼人)
『天神ビッグバン』始動! (福岡市 ウェブサイト)
この記事を書いた人
ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、 水辺好きの輪を広げていこう!という意味。 四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。 あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、 モチベーション、イノベーション、リノベーションの 機運を高めていく運動体になれば、と思います。
過去の記事