2015.10.08

市民に愛される川を軸に、まちの回遊性を向上させる千歳川 “CHITOSE RIVER CITY PROJECT”

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千歳市の3つのエリアを繋ぐ千歳川

千歳川は北海道中西部を流れる石狩川の支流で、支笏湖フレ岳に発し、延長108km、流域面積1,244km2となっている。本流の石狩川は、延長268km で信濃川、利根川に次いで全国3位、流域面積 14,330km² は利根川に次いで2位という大きな河川である。千歳川の特徴としては、石狩平野の低地に位置し、河川勾配がとても緩やかなため、巨大な石狩川から増水時に水が40kmも遡上して洪水が度々起こるということである。水田地帯の下流部ではいくつかの遊水地をつくることと、堤防強化により治水事業を行っている。

千歳市は石狩平野の南端に位置し、千歳川に沿って、上流域の支笏湖、中流域の空港・市街地、下流域の農業地帯の3つの特徴的なエリアを持つ。また、年間1900万人が利用する新千歳空港と鉄道網、高速道路網が結節する北海道の交通の要所である。さらに、支笏湖洞爺国立公園や温泉、石狩地方で最も生産量が高い農地を有しており、観光資源にも恵まれている。一方で交通の便がよいゆえ「通過型の街」になりやすく、滞在型の観光客が少ないことや、東西に細長い地形から観光スポット間の回遊性が不足していることも課題となっている。千歳市では、”空が結ぶまち千歳・水が繋ぐまち千歳”をキャッチフレーズに「回遊性の向上と滞在時間の延長」を基本目標とした『千歳市観光振興計画』を平成23年に策定した。その中で、千歳川は、支笏湖、市街中心地、農村地帯の3つのエリアをつなぐ象徴的な存在としてクローズアップされるようになった。

千歳市の3つのエリアをつなぐ千歳川/千歳市観光振興計画より

グリーンベルトと一体的に整備された河川空間

千歳空港からJR千歳線を10分ほど乗り、千歳駅で降りて実際に千歳市の市街地を歩いてみる。千歳駅西口からまっすぐつづくメインストリートをしばらく歩くと、ビル街の中に公園化された緑地帯が現れる。木陰に季節の花々が咲く芝生のゾーンや、広場とステージがあったり、千歳市のセントラルパークと言えるような空間で、なかなか心地がよい。この緑地帯はグリーンベルトと呼ばれており、もともとは戦時中、防災のために作られた空間である。千歳市の都市デザインの中で資産といえる空間だが、老朽化も進み、近年、市により再整備事業が行われた。グリーンベルトは街区のグリッドに沿って、メインストリートとクロスしている。

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千歳市のセントラルパークであるグリーンベルトは千歳川とクロスする

すこしグリーンベルトを歩くと、広場の幅が広がった。幾つものテントが立っており、人びとで賑わっている。本日開催のイベント”CHITOSE RIVER CITY PROJECT 2015 ~千歳川で会いましょう~”の会場だ。

広場はちょうど堤防の上に築かれており、ゆるやかな芝生の斜面が川へとゆったり伸びている。芝生斜面には人びとが思い思いに座って、北海道の初夏のやわらかな光のもと、川べりに設置されたステージのバンド演奏を楽しんでいる。川は千歳川だ。初めて見る千歳川の印象は、市街地にあって、こんなに水が綺麗な川はみ見たことがない、ということだ。水が綺麗なだけではなく、低水路(通常時に水が流下する部分)内のヤナギなどの渓畔林、ガマなどの水辺の植生も豊かだ。清らかな水面をバックに、人が入ることができるワンド状の浅瀬、なだらかな芝生の傾斜面、緑道、階段状のテラス、そして堤防上の広場という要素が一体として整備されており、とても気持ちのよい水辺空間が出現している。このシームレスなデザインは、実は、行政管理者間の縦割りを越えて、別々の事業を調整しながら行われた成果である。


広場の整備は市のグリーンベルト再整備事業の一貫として行われたものである。グリーンベルト活性化基本方針の中に、水辺空間のあり方も位置づけられた。河川管理者の北海道開発局札幌開発建設部千歳川河川事務所は、市と協議を行い、グリーンベルト再整備事業との整合や利用者に配慮した河川空間をデザインした。グリーンベルト前の河川空間は、もともとは垂直型に近い掘り込み護岸で、人が水面に近づきにくい形状であった。新たなデザイン案によって、掘り込み護岸は撤去され、水辺で人が遊ぶことができる浅瀬をつくり、水面まで芝生の傾斜面を形成させ、堤防上の広場と擦りつけた。左岸と広場は平成24年に、右岸は平成26年に竣工した。


(上)グリーンベルト活性化基本計画全体像(下)計画での公園・河川空間の擦り付けプラン

”CHITOSE RIVER CITY PROJECT”

河川空間のインフラ整備は完了した。あとは、どう人に利用してもらうのかが課題となった。「もっと川を活用してまちづくりをしたい」という機運が千歳市の幾人かの人びとのあいだで高まった。そんな折、2014年に千歳青年会議所(JCI)が創立50週年を迎えた。JCIは、今後の10年間の運動方針のひとつとして「地域の魅力を輝かせよう」を策定した。その中に、千歳川に生まれた広場で今後10年かけて常設型のオープンカフェを作っていこうという事業計画”CHITOSE RIVER CITY PROJECT”がビルトインされた。2014年7月、二日間にわたって、初めて千歳川グリーンベルトでのイベントが開催された。以降、毎年イベントを行い、市民に河川空間の魅力を知らしめ、まずは仮設型の屋台村を作るのがJCIの目標だ。2015年の3月には、「千歳川の可能性と未来像を語り合おう~CHITOSE RIVER CITY PROJECT ×ミズベリング~」を開催。千歳川河川事務所とミズベリングとワークショップを行い、千歳川の可能性について参加者と想像を膨らませ、千歳川の未来像を模造紙に描いた。

CHITOSE RIVER CITY PROJECT ×ミズベリングで描かれた千歳川の未来像

2015年7月19日、20日に行われた第二回目のイベント”CHITOSE RIVER CITY PROJECT 2015″。浅瀬の上に作られたステージで、千歳在住ミュージシャンの演奏が行われ、広場では屋台テントで地産地消のフード&ドリンクスが販売され、多くの市民でにぎわった。随時、ラフティングボートでの千歳川・清流下りが行われ、また、千歳川を舞台に「美人時間」が撮影を行ったことがユニークな点だ。夜間には、河川の緑樹を背景にプロジェクションマッピングを使用したライブが行われ、幻想的な河川空間が出現した。

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折しも、2015年8月に、グリーンベルトから少し下流に位置する道の駅「サーモンパーク千歳」がリニューアルオープンした。この施設の目玉は、淡水では日本最大級の水槽を有する「千歳水族館」で、千歳川を遡るサケの群れを水中展示室から直接、観察することができる。「サーモンパーク千歳」はたくさんの観光客が押し寄せる人気施設に生まれ変わった。「サーモンパーク千歳」から千歳川沿いに遊歩道を十五分ほど足を伸ばせば、グリーンベルト付近の水辺だ。にぎわいがあれば人は歩く。”CHITOSE RIVER CITY PROJECT”は、千歳川に沿って市内の観光資源をつなぐプロジェクトでもあったのである。

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千歳青年会議所、千歳川河川事務所のみなさん

自然の豊かさを市民に愛される川

「水が綺麗なのがいい」。千歳川に関して、CHITOSE RIVER CITY PROJECT 2015”に参加した市民から、よく聞いた言葉だ。水が綺麗とは、水質だけに限った話ではない。河川管理者が、千歳川に関する無作為選出の市民討議会を行った時、「自然が残っている」、「中洲がある」、「野鳥や虫がいることがいい」、「護岸もあるが、このまま自然を活かした状態がいい」といった意見が出たという。千歳川の水の綺麗さを基盤とした自然環境の豊かさそのものが、市民に好まれていることが分かる。

そんな自然の恵みが、空港のすぐそばという利便性の高い都市の真ん中を流れていることが、千歳市に住む人びとのアイデンティティにもなっている。サケも遡上し、綺麗な水が流れる都市河川。都市と農村、多自然が融合したアーバン・ネイチャーを満喫できるエリアであるからこそ、ひとが回遊性したくなる魅力があるのではないだろうか。

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この記事を書いた人

ランドスケープ・プランナー/編集者

滝澤 恭平

ランドスケープ・プランナー/編集者 「ミズベリング・プロジェクト」ディレクター、株式会社水辺総研取締役、ハビタ代表。 『ハビタ・ランドスケープ』著者。1975年生まれ。大阪大学人間科学部卒業、角川書店に編集者として勤務。2007年工学院大学建築学科卒業、ランドスケープ設計事務所・愛植物設計事務所にランドスケープデザイナーとして勤務後独立。2014年東京工業大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。以降、九州大学大学院工学府都市環境システム専攻博士課程にて都市河川再生とグリーンインフラの研究を行う。2015年水辺総研を共同設立、全国の水辺のまちづくりや河川再生を精力的にサポート。2019年、日本各地の風土の履歴を綴った著書『ハビタ・ランドスケープ』刊行。地元の水辺として、東京杉並区の善福寺川を市民力で里川にカエル「善福蛙」で活動を行っている。

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