2014.06.25

究極のミズベリングは都市河川で泳ぐこと?!

”目黒川で泳ぎ隊“ 大竹隊長、目黒川はもう泳げますか?

目黒川は世田谷区を水源とし、目黒区、品川区を通りぬけ天王洲付近で東京湾に注ぎ込む長さ8キロほどの川です。あまり知られていませんが、周辺には下北沢、中目黒、代官山、大崎などのおしゃれなエリアが点在しています。しかし、川岸はほとんどコンクリートで固められ、水面に近づく事さえ出来ない典型的な都市河川。水質は以前よりもかなり改善したとはいえ、モスグリーン色の水が流れており、夏場には独特の“香り”を発生してしまうこともある川なのです。
ところが、この目黒川で泳ぐ人たちのグループがいると聴いて驚愕したのは私だけではないでしょう。
今回は目黒川で泳ぎ隊の隊長、大竹幸義さんにお話を伺いました。

まず最初に川に入った時はどんな感触だったか教えてください。
ぼくは元々品川が地元なんですが、目黒川は昔よりは遥かにきれいになってた、って感じですかね。意外と心地よい感じだったです。顔付けなければOKかなと。ぼくらは海水が川に流れ込んでくる満潮時を狙うので、そこまで汚い感じではなかったです。
とは言え東京の川ですから清潔ではないですよね。水質汚染とか匂いは気にならなかったですか?
川に入る前に一応目視と水質検査はします。あまりにも水質が悪い場合は入りませんが、今までないですね。以前ある方が目黒川の水質を調査したところ、雑菌のレベルは“家庭用の風呂を5日間くらい放置したのと同じくらいのレベル”だったそうなんです。あ、なんだ、それならいいやって(笑)。あと目黒川は高度処理水というのを流しているので、かつてとは格段に水質が良くなったんです。ただ、大雨の時は下水が溢れて流入しますのでかなり水質は落ちることはありますが。

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“目黒川で泳ぎ隊”の大竹隊長。
川を泳ぐその表情からは恍惚感さえ感じられる。
この日、川の両脇岸にはたくさんの人が集いメンバー数名と共に
入水するのを心配そうに見守ったが、無事東京湾まで泳ぎ抜いた。
みどり東京・温暖化防止プロジェクトホームページより
活動をはじめたきっかけは何だったのですか?そもそもなぜ目黒川で泳ごうと思ったのですか?
僕自身南品川育ちで、子供のころから川や水辺を見ながら育ちました。昔はもっと水辺が使われていて船も多かった。その影響かどうか判りませんが、学生のころから湘南や千葉の海でサーフィンを始めるようになり、一時は波を求めて小笠原に移住したこともあるんです。当然僕自身は川や水辺にはとても興味を持っています。ところが、いま5年生になる息子がいるんですが水辺への意識がほとんどないんですよ。同じ地元で育っているのにです。ですからそんな子供たちに大人が本気で川で楽しみ、遊んでいる姿を見せたいと思ったんです。
それと品川区の水辺は高層マンション建設が盛んで、近年約3万人の新住民が移り住んできているのです。でもやっぱり水辺に住んでいるという意識は希薄ですし、マンションに住む子供たちはなおさら水辺に住んでいるという意識はないと思います。せっかく水辺のある品川区に住んでいるのにもったいないと思うようになりました。渋谷区じゃこんな経験はできないよ、と。そんなこともあり、自分がこれまでの海での暮らしで得た水辺の文化みたいなものを品川に持ち帰れたらいいな、というのがあります。

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地元住民も仰天の橋の上から「ハイ、ポーズ!」。これは目立つ!
最初に始めた時の周囲の人の目はどうでしたか?
やっぱりこんな光景は見たこともないことですから奇異の目ですね。ただ事前にいろいろな関係者に説明はしました。地元にも行きました。警察、消防、品川区、教育委員会には事前に許可をもらってやっています。安全のこともありましたし。また事後の報告もしています。
役所とのタイアップはどのように行っているんですか?
品川区はいま水辺の利活用に力を入れているんですが、実際にどうやればいいのか、めぼしいアイディアは当時なかったんですね。最初は川で泳ぐことも防災船着場を使うこともダメだと言われ続けましたが、いろいろな提案をして、じゃどうすれば実現可能なのか役所と何回も協議しながら企画を練りました。今では品川区の河川下水道課の協力体制があり、区の職員も泳ぎ隊のメンバーとして一緒に泳いでくれたりしています。他にも水辺を使ってハゼ釣りや子供を船に乗せるイベントなどもやっています。

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大人が楽しそうに川で泳いでいるあいだ、子供たちは川沿いをお掃除。ん、なんか逆転してないか?(笑)
しかし、あえて大人が本気で遊ぶのが目黒川流。
いまはどんなスタイルで活動されていますか?
毎年8月に川泳ぎをやっています。今年で4年目になります。京浜急行の新馬場駅の近くの品川区の防災船着場が拠点で、大きな目的は川のゴミ拾いです。ぼくらはライフジャケットを装着して川に入り、Eボートという大型の手漕ぎカヌーやモーターボートがサポート隊として伴走します。船着場から東京湾の河口まで約2キロを1時間程度泳いで下ります。

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モスグリーン色に染まった目黒川で手をつないで楽しそうに泳ぐ男女たち。
そう、彼らこそ驚愕の都市河川水泳クラブ“目黒川で泳ぎ隊”である!
2キロというと結構距離がありますが疲れませんか?
さっきも言ったように干満に合わせて入るので、引き潮に合わせると意外と楽なんです。川下りみたいな感じで。ただ途中流れがなくなってしまい、船で引っ張ってもらったりすることもありますが。
今後の目標を教えていただけますか?
同じ街でも陸側と水辺側では目に見えない溝があるんです。ぼくらは両者の間の橋渡しをしたいと思ってやっている部分もあります。事実、今まで地元でもほとんどお付き合いがなかった水辺側の企業さんからイベントを一緒にやろうとか、協賛してくれたりといろいろな動きに繋がり始めています。今後は品川の水辺で船を使った水上カフェを実現したいと思っています。私は飲食店やキッチンカーの運営をしているので比較的やりやすいと考えています。
また、SUP(スタンド・アップ・パドル=サーフボードに立って漕ぐウォータースポーツ)、カヌー、Eボートなどを織り交ぜた都心の水上スポーツクラブなどは機会があったらやってみたいです。
小笠原で学んだことは、水辺というのはとにかくシンプルな遊び方をした方がいいってことです。お金をかけてゴテゴテ作り込んでもしょうがない。水辺と、自分の体力と、水に対する知識だけあれば楽しめるんです。

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泳ぎ隊は今夏も目黒川を泳ぐ予定です。もし見かけたら大きな声で、「泳ぎたーーい!」と声をかけてください。
きっとあなたも仲間になれるはず。

お話を聴いて、大竹さん達はいい活動されてるなーと思いました。サーフィンを通じて得た海の経験を自分の街に持ち帰ろうなんて、なんとも素敵なことだと思います。また、一見無茶な遊びに見えても、きちんと地元にも話を通して、多くの人のサポートを得ながら続けているのもすばらしいと思いました。

それと今回取材して感じたのはこの活動が確実に街に波及し始めているということです。地元では彼らはちょっとした有名人ですし、彼らの行動は間違いなく人々の“川は泳げない”というイメージを変えつつあります。実際メンバーも増え続けているそうです。私自身、初夏の目黒川を眺めながら「あれ?これってもしかしたら結構泳げるかも」と無意識に思っていたりするのです。おっーと、危ない危ない!まだ早いよー、と心のブレーキをかける自分でした。それだけ川に対するネガティブなイメージを変えつつあるのです。

それにしても、クレージーな遊びを本気でやっている大人はいいですね。言葉に嘘がないからお話伺っていてとても気持ちが良いです。そしてこういう大人を見て育つ子供たちもうらやましい。早く大人になりたくてしょうがないでしょう。そしてきれいな目黒川で泳ぎたいでしょう。目黒川の子供たちの未来は明るい!と思った取材でした。

追伸:先日江戸川でふざけて飛び込んだ友人を助けようとして、後から飛び込んだ高校生の両名が溺死するという痛ましい事故がありました。詳しいことは判らないのですが、ライフ・ジャケットを装着していればこのような事故は容易に防げたものと想像します。安全でカッコいいミズベリング・ライフはライフ・ジャケットの装着から!です。
(目黒川で泳ぎ隊では水に入る時は必ずライフ・ジャケットを装着しているそうです)

この記事を書いた人

一般社団法人BOAT PEOPLE Association 代表理事

井出玄一 /GenIde

ロンドン芸術大学 CCWカレッジおよびロンドン・カレッジ・オブ・ファッション 国際事業参与 公益財団法人リバーフロント研究所主催の”水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会”コメンテーター プラントエンジニアリング会社、店舗開発、地域振興系シンクタンクなどを経て現職。 川から日本がカワることを目指しています!ミズベリングはカワリング!

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