2014.09.29
世界ほろ酔いリバー・ウォーク メルボルン・ヤラ川編
ビール飲みながら川を歩けば、川の未来が見えてくる!かもしれない・・・
ではまずは、川の歴史から・・・(昔話調に)
昔むかし、この辺にヤラヤラ族というアボリジニの人々が住んでいたそうな。ヤラヤラという名前は、この写真の辺りに昔あった滝の流れる音から取った名前なのじゃ。(日本語のサラサラとかピチャピチャとかと同じだな、多分)。
そしたら遠くから白い人達が船でやってきて、自分たちの船を通すためにヤラヤラ滝をまるごとダイナマイトで爆破したそうな。(これ本当の話)。
白い人達は多少は申し訳ないと思ったのか、この川をヤラ川と名付けたそうじゃ。
というわけで、メルボルンのヤラ川をぶらついてみる。
ヤラ川はオーストラリア大陸南部から南極海に流れ込む、全長わずか250㎞ほどの川。オーストラリア第2の大都市メルボルンはこのヤラ川沿いに発展し現在に至っている。
ヤラ川の最初の印象は、静かなのんびりした川というイメージ。川幅もさほど広くはなく、この写真のあたり(中心部)でも100m弱であろうか。東京の隅田川が約100mだから大体同じような川幅だ。オーストラリア大陸の広さを考えると、ちょっと拍子抜けするくらい小振りな川なのである。
水の色は茶色がかっているが、これは上流から粘土質の土の粒子が入り込むためだ。ただ、後で判ったことだが、水の色とは関係なく、水質は意外と汚染されているらしく、それはそれで問題になっている。のどかな川の風景とは異なる意外な一面。それをのぞけば水量もおだやかでのどかな川である。
ヤラ川を散歩してもう一つ気付いた点は、橋がやたらに低いということだった。これは舟運にはあまり利用されてこなかったということを意味する。実際、小型観光船やプレジャーボートを見かけることはあったが、業務船はほどんど見かけなかった。
ところでこのヤラ川、都市計画や水辺の再開発では知る人ぞ知る成功事例でもある。その理由を一言で言えば、川沿いが再開発された結果、大きな集客効果を発揮するようになり、川が都市全体の活性化に大きく貢献したから。
メルボルン市はもともとヤラ川沿いの高台に造られた街だった。しかし川向こうの“サウスバンク”と呼ばれるエリアは低地で湿地であったため、基本的には街は川に背を向けて造られていたのだ。川沿いは長らく鉄道の線路、倉庫、工場、港湾施設として使用されていた。ところが1970年代あたりから街の人口が増加し、サウスバンクの有効活用が模索されるようになったのだ。
川の活用の最初のきっかけになったのはビクトリア州立アートセンター(コンサートホール、美術館、飲食店などの複合施設)と川沿いの遊歩道を一体的に整備したこと。これにより一般の人々が徐々に川沿いに出て行くようになった。その後もマンションやホテルが順次建設され、いまでは国際コンベンションセンター、ショッピングセンター、マリーナ、カジノなども包有する一大商業地区となっている。
特に素晴らしいと思ったのはこれらの商業施設が切れ目なく木製の遊歩道で繋げられていること。人々は散歩したりジョッギングをしたり、またカフェでのんびりと川を眺めたり、とても快適な空間になっているのだ。(なまけ者の私はジョギングはしなかったが・・・)
さて、ここでヤラ川がどのように活用されているかをより良く知るため、河川の管理体制を見て見よう。川の大部分を管理するのはビクトリア州公園局(Parks Victoria)。川はパブリックスペースという捉え方をしていて、基本的には川は市民のものであり、誰でも使う権利が保障されている。河口部近くの港湾地域を除き、ヤラ川はそのほとんどを公園局が管理している。そう言われてみれば、この独特ののんびり感は公園として管理されているせいかもしれない・・・と思った。
さらに公園局が川の両岸(つまり陸地)のどの範囲までを所管にしているか調べてみた。なぜかというと、陸地と川がどの程度一体的に管理運営されているかを知りたかったからだ。日本の川の場合、水面、護岸、土手などをそれぞれ別々の役所が管理し、さらに陸側の背後地は別の自治体が管理しているケースが多いため、川と背後地との一体的な運用が非常に難しくなっている。いわゆる縦割り行政の手法がいま問題となっているのだ。
一方、ヤラ川の場合は川から陸側へ20メートルまでは公園局の管理地域であるとはっきり決められている。(Water Industry Act 1994, 3. Definitions “waterways land”)。細かい話に聴こえるかもしれないが、川と背後地(つまり街)の一体的な運営管理を可能とするという点ではこれはとても大切なことだ。法律の文章からはそのような意図を感じた。
また、この川はゾーニングがとてもはっきりと区別されている。大雑把に言えば、公園的なのどかな雰囲気と商業的な活気のある雰囲気の場所が明快に分かれている。これが川に独特のリズムを作り出しており、散歩をしていてもなかなか楽しい。これは著者の推測だが、一体的な管理運営がなされているからこそ、合意形成のたらい回しを避けて、きちんとした大方針が決めやすいのではないだろうか。
そんなヤラ川で見つけた印象に残った風景をご紹介します。ちょっとマニアックですが・・・
水質汚染は長年ヤラ川の大きな問題となっている。急速な工業化の過程の中で垂れ流しにされたオイル、油脂、重金属などの有毒物質が川底に溜まっているらしく、川の流れが早くなったり、高速のスクリューで水流が発生すると水質に影響してしまうらしい。また水量は乾期には少くなり、水が停滞してしまうため、大腸菌などが発生しやすい。その結果、水質はいまだに改善しておらず、現地ではヤラ川は汚い川、というイメージが定着しているようだ。この辺は水量の多い日本の川とはだいぶ事情が異なる。地元の知人に「泳いだことあるか?」と聴いたところ、「冗談だろ。身体に悪いぞ」との答えが返って来た。笑
今回ヤラ川を歩いてみて意外だったのは日本の川との類似点が結構あり、これからの日本の水辺利用のヒントになるのではないかという点だった。類似点としては、
・ 川幅がさほど広くなく、大都市の川としては比較的小振りだという点
・ かつて川は都市の裏側を流れていたが、開発を経て都市が川に向いてきた点
・ 橋が低いため小型船しか航行できない点
・ 急速な工業化のため、水質の問題が残っている点
などが挙げられる。
一方、管理運営に関しては日本よりもかなり進歩しているように見えた。最大のポイントは川と陸側との一体的な運営である。川と陸の縦割ではなく、一つの役所(ビクトリア州公園局)が一元的に集中管理しており、その結果これまでの再開発計画が非常にスムーズに進んできたという印象を受けた。こうした点は今後日本の川にとっても大きなヒントになるのではないだろうか。
かつてアボリジニの人々が平和に暮らしていたヤラ川は今日すっかり変貌し、メルボルンの重要な商業観光資源となった。やはり川は都市にとっての大切な資源であり、都市の活性化に対して大きな役割を担っている。今回のリバーウォークではそのことをあらためて認識することができた。
ロンドン芸術大学 CCWカレッジおよびロンドン・カレッジ・オブ・ファッション 国際事業参与 公益財団法人リバーフロント研究所主催の”水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会”コメンテーター プラントエンジニアリング会社、店舗開発、地域振興系シンクタンクなどを経て現職。 川から日本がカワることを目指しています!ミズベリングはカワリング!