2014.04.16
目黒川 ほろ酔い川見物
人は桜に集まるのか、それとも水辺に集まるのか
夕方、中目黒で打合せを終え、自転車に乗ってすぐ近くを流れる目黒川を目指してみた。最近噂には聞いていた目黒川の桜祭りの賑わいを確かめるためだ。
一昔の前の目黒川と言えば典型的な都市河川で、人通りの少ない街の中をひっそりと流れる川という印象であった。コンクリート護岸に囲まれた、とりたてて特徴のない川であった。以前と比べ水質はかなり良くなっていたとはいえ、一見しても川なのか用水路なのかドブなのか、よく判別がつかない。ましてや川を積極的に楽しむ人などはめったにいない、という状況であったと思う。
しかし今回桜祭りを見物して驚いた。平日の夕方であったが、自転車も前に進めないほどたくさんの人で賑わっており、京都かどこかの観光地のような様相を呈しているではないか。じつは中目黒辺りの目黒川はここ数年じつは飲食店やおしゃれなセレクトショップなどがどんどん開店しているのだ。(近所で古くから営業している喫茶店のマスター聴いたところ曰く、こんな日が来るとは思ってもみなかった、らしい)。
桜のトンネルのような川沿いをゆっくり漕いでゆくと、中には屋台を出して飲み物や焼き物を売る人もいる。人々は川辺に沿って歩いたり、立ち止まって桜を眺めたり、屋台で買ったビールを傾けたり、自由な時間と空間を満喫している。
ところで今日のお題、「人は桜に集まるのか、それとも水辺に集まるのか?」を考えながら行き交う人々を観察してみる。この日は川辺からも橋の上からも写真を撮る人が沢山いたが、カメラレンズはほぼ例外なく桜を狙っていた。川底を眺める人などはほとんどなく、ほぼ例外なく桜を見上げていたのである。
目黒川は暴れ川でもあるため、川底がとても深い。そのため水面はずっと下にあるように感じられる。この写真でも判る通り、水面は地面よりも遥か下(おそらく4メートルくらい)を流れているため、水に触れることはもちろん、流れの音を聴くこともできない。これも人々が川辺に関心を持てない大きな理由であることは間違いないだろう。
ところでヨーロッパの川や運河は人と水面の距離感が近いことがひとつの大きな特徴である。その上手すりやフェンスはほとんどなく、いつでも水面にアクセルできるようにデザインされている。日本のようなコンクリート護岸がそびえ立っている川は見たことがない。また運河は水門により水位が調整されているものが多く、船の交通量の多さと相まって親しみが湧くものが多い。
さて、本日のお題の答えは明らかなようだ。あたりまえの話だが、今日目黒川を訪れている人は桜を見るためにここへ足を運んでいるのであり、川を見に来ている人は(著者以外)ほとんどいないだろう。やはり桜のパワーはすごいのだ。
だが、もし仮に目黒川の水量がもっと豊富で、水面が近く、ボートに乗り降りできるように場所になれば、ここは都内でもかなりスペシャルな場所になるのは間違いない。そうすれば桜は散ってしまったあとでも、人は水辺を楽しむために集まる可能性は十分にある。
目黒川の未来に思いを馳せながらブラブラ歩いていると、ベルギー製のホワイトビールを売る屋台を見つけた。ぐびぐびっとやると、のどごし爽やかな香りが口中に広がり、なんだかいい気分になってきた。
ロンドン芸術大学 CCWカレッジおよびロンドン・カレッジ・オブ・ファッション 国際事業参与 公益財団法人リバーフロント研究所主催の”水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会”コメンテーター プラントエンジニアリング会社、店舗開発、地域振興系シンクタンクなどを経て現職。 川から日本がカワることを目指しています!ミズベリングはカワリング!