2014.03.19
ミズベのお花見

川の上から桜を見てみよう
桜の季節
啓蟄(二十四節季の1つで、虫達が冬篭りを終え地中から出てくる時季。今年2014年は3月6日に当たる)が過ぎついに春一番(*1)を先陣に春の嵐(with花粉)がやってきている関東です。
みなさんも今年の厳しい冬を乗り越え、暖かい春を待ち望んでいたのではないでしょうか。
暖かさと共に強風のため水辺は荒れているため春。季節の変わり目では気圧配置の変化により強風・雨という天候はよくあることなので、少し穏やかな春を陸地にて待っている筆者であります。
写真は、伊豆大島にて2014年3月撮影。
春といえば、春に対するイメージは十人十色あると思いますが、やはり多くの方が待ち望むのは「桜」ではないでしょうか。というよりも「桜」のおかげで春の始まりはあわただしいと思います。
新年度もそろそろ始まり、お花見を企画している人や会社の部署、そして桜祭りを開催する地域も多く、その準備で忙しいのでは。
『古今和歌集』でも
春の心は のどけからまし」
と在原業平が詠うように、「桜」はまず開花予想してその準備、三部咲き、七部咲き、満開、そして散り往き葉桜、と数日間の盛衰に合わせ予定を決めるため翻弄され、忙しない気持ちでいっぱいな方は昔からいます。この歌はまさに今の私の心境とぴったりマッチしています。
桜と川の関係
このように「花見」というのは、日本では昔からの行事であったわけですね。
特に、水辺において花見を楽しむ人たちも多くいらっしゃいますので少しご紹介します。
例えば、宮沢賢治の「隅田川」では、
桜は青き 夢の列
汝は酔ひ痴れてうちおどる
泥洲の上に うちおどる
母をはるけき なが弟子は
酔はずさびしく そらを見る
その芦生への 芦に立ち
ましろきそらを ひとり見る
と、葉桜となった干潮時の隅田川河岸にて、酔って踊る人もいれば、故郷の母を思う人もいます。
一方、河岸ではなく、桜を始めとする春咲き誇る花や、水上を行き交う人々の紹介をして川全体の情景を詠いあげているのが、滝廉太郎作曲・武島羽衣作詞の「花」です。
のぼりくだりの舟人が
櫂のしずくも花と散る
眺めを何に喩うべき
見ずやあけぼの露浴びて
われにもの言う桜木を
見ずや夕ぐれ手をのべて
われさしまねく青柳を
錦織りなす長堤に
暮るればのぼるおぼろ月
げに一刻の千金の
眺めを何に喩うべき
この歌の中で登場するのが、「櫂」を使って隅田川を航行する「舟人」です。
歌としては、うららかな春の隅田川を漕ぐ彼らの櫂から滴り落ちる「しずく」も花のように散っている光景を「眺めを何に喩うべき」と美しい景色をこの歌い手は歌っているわけですが、当の「舟人」たちはこの景色をどう思っているのでしょうか。
もちろん「舟人」であっても、それは自分の生計を立てるために頑張って漕いで働く人でもいらっしゃるわけですが、この咲き誇る桜にはきっと感動し、1年の節目を感じるのでしょう。
<脚注>*1:春一番とは、冬から春へ移り変わる時季に初めて吹く南よりの強い風のことを言います。関東地方では、a.立春から春分までのあいだ、b.日本海に低気圧があること、c.強い南寄りの風(風向は東南東から西南西まで、風速8m/s以上)が吹き、d.気温が上昇することが条件となります。
船からの水辺の花見
このように水上から花見をするというのも、日本の水辺都市においては最も興味深い楽しみであります。
そのメリットを、特に人力の舟(ここではシーカヤックやSUPなど)を使用した例でいくつか紹介しましょう。
(1)桜は川がお好き
河岸に咲いている「桜」は、川に向かって枝が伸び川へ頭を垂れるように咲き誇ります。
河岸の土手から花見をしたのでは、きちんと桜と向き合えない。
場所によっては、両岸から頭を垂れている桜によって「桜のトンネル」が生まれます。
(2)陸では混雑、川面は独占
花見で最も大変なのは場所取り。
桜が咲く限定された期間で、休みが同じ人たちが、特定の場所に一気に集まる。まるでハイシーズンのテーマパークのようで、こういう場が好きならいいのですが、私は1時間で疲労困憊、ノックアウトでございます。
一方、川面は皆無であります。まさに独り占め花見。
(3)渋滞の河口より浅い中流域へ
前述した②で「水上では独り占め」と明記しましたが、そんなこと考える方はもちろん私以外にもいらっしゃるようです。
例えば屋形船や観光船、プレジャーボートなど花見のために海から河口へ入りそのまま遡上していく渋滞がたまに発生します。
ここで肝心なことは、「船」であるならば「川の水深」と「船の喫水」を気にしなければならない、ということです。
「川の水深」:川面から川底までの深さ
「船の喫水」:船が水上にあるときに、船体が沈む深さ
つまり、船底を川底に擦って乗り上げてしまったら「座礁」といって身動きとれないようになってしまいます。
一方、手漕ぎ舟(シーカヤックやSUP)などは、喫水が数十cm。
これならば混雑する下流域を一気に抜け、誰もいない中流域まで漕いでからゆっくりと安全に花見ができるってもんです。

(4)桜散り往くもなお
桜の楽しみは、蕾を愛で、三分咲き八分咲きと楽しみ、満開で大いに感動し、桜吹雪に涙する。こんな劇的な自然の変化を数日にて催されるわけですが、私が最も好きな桜の景色はその後に生まれます。
それは「花筏」。川面は散り行く桜の花びらで染められ、その中をゆっくりと漕いでいくのです。
自分で漕ぐのであればエンジン音がなく、桜色の水面を切り裂く舟と漕ぐ櫂の音だけが聞こえる時間。頭上からはまだ桜吹雪が絶えず降り注ぐ。なんて贅沢な時間だと思いませんか。
いかがでしたか。水上から花見というのもなかなか趣があると思いませんか。
今年は桜前線これからゆっくりと北上してきます。
もし「水上からのお花見」をご興味持たれたら、ぜひお住まい近くの水辺を探してみましょう。
もちろん「一人で漕ぐ」ということに抵抗ある方は、屋形船やプレジャーボートなどでのお花見も充分に堪能できますので、ぜひチャレンジを。
私から1つオススメの桜ツアーを紹介するとしたら、横浜大岡川にて今年も開催される「桜まつり」。
ここでEボートクルーズを行います。
手漕ぎですが、みんなでゆっくり漕ぐので初めての水辺にもぴったりですよ。
大岡川桜祭りEボートクルーズ
この記事を書いた人
水主(櫓や櫂による舟の漕ぎ手・「かこ」と呼びます)
NPO法人 横浜シーフレンズ理事(日本レクリエーショナルカヌー協会公認校)
帆船日本丸記念財団シーカヤックインストラクター
水辺荘アドバイザー
横浜市カヌー協会理事
東京海洋大学大学院(海洋科学)在学中に、東京や横浜で海や港のフィールドワークをシーカヤックを通して学ぶ間に街中の水辺の魅力に引き込まれ現在に至ります。 大都市の水辺は、多くの旅人が行き交い賑わう場所で、また自然と対峙するアウトドアでもあります。 水辺をよく知ることが、町や歴史や国を知り旅の深みを増す契機となり、 また水辺の経験により自己を顧みる機会となります。 日本各地において水辺の最前線で活動しているプレーヤーの紹介を通して、水辺からの観光、地元の新たな魅力、 水辺のアウトドアスポットに触れる機会を作っていきたいです。 シーカヤックインストラクター(日本レクリエーショナルカヌー協会シーシニア)、一級小型船舶操縦士、自然体験活動指導者(NEALリーダー)。趣味は、シーカヤック・SUP(スタンドアップパドルボード)スキンダイビング・シュノーケリング・水中ホッケー・カヌーポロ・ドラゴンボート、そして島巡り旅。
過去の記事