2014.03.03

北極圏の水辺で地球の未来を考える

科学者とクリエイターが探検船で極地を巡り、地球環境問題について考えた

image1ゆっくりと氷山に接近する極地探検船「グレゴリー・ミケレフ号」。静寂があたりを包み込む。

ケープ・フェアウェル・プロジェクトは科学者と作家、アーティスト、デザイナー、ミュージシャン、メディア関係者などが極地探検船に乗り込み、北極圏グリーンランドの沿岸部を巡りながら地球環境と気候変動について考えるという試み。それぞれの分野からトップレベルの人材が参加し、2週間にわたり共に航海を行う。プロジェクトの総合ディレクター、デビット・バックランド氏氏によれば、プロジェクトの目的は航海を通じて参加者に肌で環境問題を感じ取ってもらい、そこで得た体験を元に作品や著書、番組などを通じて自分たちの言葉で世界中に発信していくというものである。こうした情報発信が人々のマインドに変化を引き起こし、最終的には現代の大量消費文明のあり方を根本的に変えていこうというものなのである。ケープ・フェアウェル・プロジェクトはバックランド氏の哲学に共感した英国政府、企業、財団などの協賛で運営されている。例えば2008年の“Disko Bay”の航海では、46名がロシアの極地探検船「グレゴリー・ミケレフ号」に乗船し、日本からは音楽家の坂本龍一氏も参加している。

image2グリーンランドをバックに全員で記念撮影。中央左寄りにはあの人の姿も!

ケープ・フェアウェルは、ある数学者とバックランド氏との出会いからスタートしている。数学者は分析の結果、気候変動の影響の大きさに気付いてはいたが、この問題があまりにも複雑でイメージしにくいため、一般の人への理解が浸透していないことを憂慮していた。そのため2人はアートの手法を使い、よりシンプルでわかり易く、なおかつ美しい方法で世界中に情報発信する必要があると考えたのである。バックランド氏によれば、アートとは単に絵画や美術品の展示ではなく、人間同士のコミュニケーションを刺激し、社会に良い変化をもたらすものだという。

4つの風船を使い大気中の二酸化炭素の体積を可視化しようとするアーティストの試み。

テレビ番組のクルーも同乗し、リアルタイムで活動を記録していく。

自身がヨットマンでもあるバックランド氏によれば、異業種の専門家が交流する場として船ほど完璧なものはないという。普段は出会うことがない人々が狭い船内で共に移動し、食事をし、共に作業する。北極圏ではテレビ、携帯電話はもちろんラジオさえ聴くことができない。参加者は外部から完全にシャットアウトされ、大自然の中で地球環境について考え、とことん語り合うのである。キャビンで夜な夜な繰り広げられる熱い議論はときに明け方まで及ぶと言う。たしかにオフィスの会議室とは全くちがうアイディアがどんどん涌き出してきそうな感じがする。このプロジェクトを見ていると、バックランド氏の船に対する愛着と、人間に対する深い興味が感じられる。

image5小さなゴムボートを使いパフォーマンスを行うコメディアン。壮大な自然と人間の小さな営みのギャップがなんとも面白い。

ところで少し視点を広げて地球のことを考えてみよう。地球は海と陸からなる惑星である。海と陸(もしくは水と土と言ってもよいかもしれない)が出会うところには広大な水辺がうまれ、波、干満の差、潮流といったさまざまな自然現象を生じさせている。北極圏で感じる水辺はきっと壮大で神聖な体験に違いない。しかし、私たちの日常を考えれば、家の近所を流れる小さな川も自然現象としては同じである。もしかすると私たちが水辺に親しみを感じる瞬間があるとすれば、それは地球が水の惑星であることに気付き、この星に暮らしていることを本能的に思い出させる瞬間なのかもしれない。
バックランド氏が今後の構想を語ってくれた。近年気候変動の影響により北極圏の氷が薄くなり、ヨーロッパから北極圏経由でアジアへ抜けることができるようになったという。「だから次回は日本との共同プロジェクトをやりたいんだ」と語ってくれた。

ケープ・フェアウェル・プロジェクトへのリンク(英語のみ)

image6一日の活動を終え、母船であるグレゴリー・ミケレフ号に帰る小型ボート。

この記事を書いた人

一般社団法人BOAT PEOPLE Association 代表理事

井出玄一 /GenIde

ロンドン芸術大学 CCWカレッジおよびロンドン・カレッジ・オブ・ファッション 国際事業参与 公益財団法人リバーフロント研究所主催の”水辺とまちのソーシャルデザイン懇談会”コメンテーター プラントエンジニアリング会社、店舗開発、地域振興系シンクタンクなどを経て現職。 川から日本がカワることを目指しています!ミズベリングはカワリング!

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