2023.03.14

水辺を使いこなすのは誰だ?加古川の取り組み

対話を学ぶ、ミズベスクール6開催レポート

兵庫県の東の端尼崎から西へ山陽本線で行く。六甲山系を水源とする急峻で小さな川をいくつも通り越し、はじめてあらわれる大きな河川敷をもった川が、加古川です。その加古川の下流部にある加古川市で、近畿地方整備局主催のミズベスクール6が2023年1月27日に開催されました。

ミズベスクールとは

近畿地方整備局が主催し開催している取り組みで、今回が6回目の開催。
目的は、ミズベ人材の育成。水辺の活用に興味を持つ市民や企業、行政が一堂に集まり、河川空間の利用制度、プロジェクトの立ち上げや活用のコツを実施者から学んだうえで、持続可能な水辺の賑わいづくりに向けて語り合うイベントです。
4回までは、近畿地方整備局の庁舎で座学とワークショップをあわせた形式で開催していました。これはこれでよかったのですが、会議室で学べることより、現地開催し受講生がうけとることができる情報の質を高める必要があるということで、昨年度から水辺の利活用の取り組みをおこなっている地方自治体で開催する方式も取り入れました。昨年度は福井県永平寺町での開催で、今回がこの方式での2回目の取り組みでした。

加古川市開催

加古川市では水辺のまちづくりの取り組みが進んでいます。ソフト施策として令和3年度より国土交通省の官民一体の協働プロジェクト『ミズベリング』に取り組んできました。令和4年8月にはかわまちづくり計画が登録され(https://www.city.kakogawa.lg.jp/soshikikarasagasu/shiminbu/kyoudou/kasenjiki/36947.html)今後護岸や堤防、河川敷公園などのハード整備や、賑わいの創出や民間事業者による営利活動の実施に向けたソフト事業が計画的に推進されていくことになります。

加古川市役所市民活動推進課のウェブサイトより

加古川市が選定されたのは、これらの取り組みをすすめるなかで、受講生に学んでほしい加古川市ならではの特徴があると私(ミズベスクールのファシリテーターである)が強く推薦したからです。

筆者

 

ミズベスクール6開講

加古川の水辺利活用が行われている場所は、加古川市が発展してきた歴史とも関係が深く、駅にも近く、中心市街地のすぐそばの場所です。

今回のミズベスクールは、加古川駅前の商業施設のなかに新設された加古川市民交流ひろばの会議室で開講しました。まずオリエンテーションが行われた後、岡田康裕加古川市長の挨拶があり、加古川市が力強く水辺の活性化を行い、まちの魅力を高めようとしていること、河川管理者である姫路河川国道事務所の協力がなければうまくいかなかったこと、その過程で多くの市民のプレーヤーの活躍がみられるようになったことなどをご紹介いただきました。

加古川市 岡田 康裕 市長

今年のテーマ

今年度のミズベスクールのテーマは、「官民を超える対話力・行動力を身に付けよう」でした。

戦後、戦災復興や貧困、水害などの課題が山積する中で、とにかくつくることが必要でした。つくることが目的になっていた時代にの「効率的につくるために最適化された制度」をあたりまえとしてきた時代から時代は大きく転換しつつあります。

いかに効果的につかいこなされるか、が大切な時代に入り、「つくる側の論理」だけではいいものがつくれないという時代に、「つかいこなす地域の主体的なひとたちと、いっしょにつくりあげる」ことが必要とされています。

このとき、組織のあたりまえや、地域のなかだけで通用する言葉だけではなく、垣根を超えた対話力が必要になります。

そこが今回のテーマです。それを学ぶためのあらゆる土壌が醸成されている、ということで今回の加古川開催に至ったのです。

フィールドワークの様子

市長も同行して加古川市の中心市街地と川の関係がよくわかるようなフィールドワークをおこないました。

フィールドワークでは、川と中心市街地の関係性や、市民活動のこれまでの経緯などを体感しました。いまはまだ具体的な施設が建設されたり、活動が日常的に行われているわけではありません。ですが、この場所のポテンシャルや課題を共有しともに学ぶという時間が大切なのです。

 

加古川市ならではの特徴

午後のトークセッションでは、加古川市のミズベリングの取り組みの独自の特徴がわかってきました。

 

1. かわまちづくりと並行して、利活用推進のソフト施策がおこなわれていること

これは前述の通り。

2. 市民協働部市民活動推進課が中心となって推進していること

加古川市では、土木や都市政策部局ではなく、市民活動推進課が河川敷の利活用推進を行っています。市民活動が活発になることを目的としている部局が推進していることで、河川敷の利活用が手段として市民活動が活発になるという目的達成のために扱われてきました。

3. 市民活動支援の補助金を水辺用にカスタマイズして、河川敷を活用してイベントを開催する民間主体をサポートしていること

加古川市では「協働のまちづくり推進事業補助金」として、多様な主体による社会一般の利益を目的に実施する事業にかかる経費の一部を補助していきました。

6つの区分に分けて事業を募集していますが、その中の1つ「テーマ設定型」のテーマを令和3年度から「加古川河川敷を活かした新たな賑わいづくり」に設定し、河川敷での楽しいイベントを募集しています。他自治体でありがちな、河川整備や調査費用からイベント費用を捻出するのではなく、もともとあった市民活動支援の補助金をカスタマイズして、民間主体の育成のサポートをしているという特徴があります。

ですから、トークセッションのなかでも担当課長の山野さんは加古川を管理する姫路河川国道事務所に相談しに行くときに当初は困ったといいます。

左:加古川市役所市民活動推進課山野貴史担当課長 右 姫路河川国道事務所(国)春藤千之 総括保全対策官
「河川のことはまったくわからず、わからないということを言っていいかもわからない。でも利用する市民の活動を支援するという立場で、知らないことを強みにして、素直に河川事務所に相談に行ったら、いろいろと教えていただいた。また真剣に検討もしてくださった。こういう関係でいいんだということがわかった。」
この取り組みによって、さまざまな民間の取り組みが河川敷で開催されるようになりました。いままであまり河川を利用したことがなかった団体も河川を利用するようになったり、相互の関係性構築にもつながっているようです。
4. 加古川市の部長、課長クラスが横串連携して取り組んでいること

令和2年12月に加古川市の庁内勉強会が開催され、ミズベリングとはなんなのかについてさまざまな部局のメンバーがあつまりました。この会は、山野課長はじめ加古川市のありかたを真面目に話し合っておられる部長課長のみなさんのゆるやかな関係があって開催されたものと聞いています。

加古川にはさまざまな社会課題があります。その課題解決の手段のひとつとして、河川敷の利活用がかかげられていて、それを市民活動推進課が担当することになっていますが、今回のスクールにも他の部署の担当者のかたがたが様子を見にこられていた通り、このゆるやかな関係が横串連携を担保していて、部局を超えた成果への期待が高まっています。

ワークショップセッション

その後は、加古川の水辺の取り組みで活躍されている市民のプレーヤーのみなさんの活動の報告があった後、受講生がグループになって、プレーヤーからヒアリングをして取材内容を発表するというワークショップが開催されました。

グループインタビューリレーという手法で、対話する相手はどういうひとか、興味をもって、彼らの「なぜ?WHY」に迫ることが求められます。

実際に加古川の水辺で活動されているみなさんにお時間をいただきまして、このセッションにご協力いただきました。

取材した内容をまとめて、ワークショップの最後で全体に共有するということを目的にしました。

今回のこのワークショップの意図は、どのような水辺でも民間が利用する状況になるためには、関係者間の関係構築において信頼関係が重要で、そのためには相手からお話を聞き、深く相手の意図を知ることが重要で、異なる組織文化の相手でも意図を汲み取ったり理解することが水辺の活性化を行うための官民相互の技能として必要であるという意識からうまれたものです。

受講生の最後のグループワーク発表では、加古川のミズベプレーヤーの声に耳を傾け、異なる立場の相手の意図を引き出すことができた様子でした。

対話の能力

参加者の感想からは「加古川の水辺活用を行う上での、国・市・市民団体等の関わりについて詳細に話を聞くことができ、立場を超えて対話すること、共に行動することの大切さを学んだ」「官民問わず会話をすること。自己完結してしまうのではなく、縦にも横にもつながりを深めることが大切だと感じた」など前向きな感想が聞かれました。

また開催地である地方自治体の水辺のプレーヤーにとっても、関心をもってくれる受講生に対して語りかける機会ができたことは、自らの考えを整理したり、強みの再認識につながったというご意見も聞かれました。

加古川の水辺のプレーヤーたち。マルシェ、スケートボード、大道芸、ヨガ、シェアベンチとそれぞれの活動はまったく異なるが、
加古川への思いを共有しているのは、水辺がきっかけになったからである。

地域ごとに主体的な水辺の利活用が増えていくことは、河川のありかたのおおまかな方向性です。ひとによっては、水辺の利活用自体目的みたいに聞こえてしまうことがあるかもしれません。しかし地域にとっては、各地域にはそれぞれの社会課題があり、あくまで水辺の利活用は社会課題の解決に貢献し、地域をよくするための手段でしかありません。

立場を超えてそのプロジェクトごとに取り組むべき目的の設定をする必要があり、そのためにはまず相互の立場をよく理解し、そのためには対話から始める必要があるのです。

山野課長(左から二人目)が誇りにおもう市民活動推進課のチーム。それぞれが立場を超えて対話してきた。

ミズベリングを通して「立場を超える」は、ずっとメッセージしてきたことでもあります。今回開催地となった加古川市は、これまで加古川市役所や市民の方々が努力してきたこれまでの取り組みによる着実な成長と成果が無形な資産となってこれからの未来におおきく貢献することが予見されました。なかなか触れることができない無形な資産を体験できたことは、受講生にとって得難い経験でした。

加古川市のこれまでの取り組みに祝福をおくるとともに、開催にあたり多大な貢献をしていただいたことを感謝申し上げます。これから都市戦略と一体になった水辺のあり方の議論に一段階ギアがあがると思いますが、着実な成果をあげられてきた加古川市であれば次のハードルも超えられるものと信じております。

この記事を書いた人

ミズベリングプロジェクトディレクター/(株)水辺総研代表取締役/舟運活性化コンソーシアムTOKYO2021事務局長/水辺荘共同発起人/建築設計事務所RaasDESIGN主宰

岩本 唯史

建築家。一級建築士。ミズベリングプロジェクトのディレクターを務めるほか、全国の水辺の魅力を創出する活動を行い、和歌山市、墨田区、鉄道事業者の開発案件の水辺、エリアマネジメント組織などの水辺利活用のコンサルテーションなどを行う。横浜の水辺を使いこなすための会員組織、「水辺荘」の共同設立者。東京建築士会これからの建築士賞受賞(2017)、まちなか広場賞奨励賞(2017)グッドデザイン賞金賞(ミズベリング、2018)

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