2021.08.17

市民が企画運営するミズベリングの実践 ~東京都府中市の場合~

ミズベリングを市民協働のホットなプラットフォームとして温め続ける

ミズベリングin府中2021

奇跡的に晴れ間がのぞいた2021年7月7日。東京都府中市は多摩川の水辺から、「水辺で乾杯」イベントとして、zoomやYouTubeでのオンライン配信が17時から開始されました。そこでは「生き物」「自然環境」「災害対策」「多摩川流域を考える」「癒し・賑わい」など「水辺」を多面的に切り取ったテーマによる編集動画講座を織り交ぜながら、夜7時7分には、多摩川を挟んだ対岸の稲城市や多摩市も含め総勢50名以上の市民(各市の市長も参加)が笑顔で乾杯を楽しみ、盛り上がる様子がありました。また、同日の午後3時からは有志の市民が集まり多摩川風の道で「ミズベリングゴミ拾い府中」として、美化清掃や七夕飾りを実施しました。2020年の水辺で乾杯が完全オンラインで屋外での活動が行えなかったことを考えれば、同じコロナ禍とはいえ、アフターコロナも見据えたイベントが実施できたと言えます。
東京都府中市では、市民が主体となった、ミズベリング活動を数年に渡り継続実施しているため、その内容をご紹介します。

府中市の水辺

府中市は東京都の中央に位置する人口約26万人の都市です。奈良時代から平安時代にかけて、武蔵国(現在の東京都、埼玉県、神奈川県東部を跨ぐエリア)の「国府」(政治・文化の一つ)が置かれていたのが現在の府中市です。府中という地名は『国府の中』という意味で生まれました。全国の他の地域にもある「府中」と区別するために、「武蔵府中」という呼び方を使うこともあります(例:武蔵府中郵便局、武蔵府中税務署)。今でも、大國魂神社(おおくにたまじんじゃ)を中心に、歴史と文化の香りが漂う、祭礼も頻繁に行われる活気のある街となっています。

府中を地形という面から見ると、南の多摩川が削り取った、河岸段丘である、「国分寺崖線」が北の端を通り、大國魂神社の南側には「府中崖線」(立川段丘)が東西に通っていて、市内の高低差は40mに及びます。府中の中心と言われる大國魂神社周辺は府中崖線の上に位置し、市民からは「ハケ上」と呼ばれ、賑わいがありますが、多摩川が流れる四季折々の豊かな自然を見せてくれる「ハケ下」の魅力も特筆すべきものがあります。かつての府中多摩川では、鮎の投網漁や騎馬戦、川遊び、染物の洗い等、町中では崖線からの湧水があふれ、稲作が盛んだったと言われています。

ミズベリングから立ち上がった市民活動のプラットフォーム

府中とミズベリングとの出会いは、2016年だったと聞いています。京浜河川事務所から周辺市へミズベリング参加への呼びかけがあり、高野府中市長が応じたことが始まりです。2016年6月11日の市長コラムで市長はこう書いています。【「ミズベリング」という言葉に出会いました。(中略)すなわち、環境保全とまちづくりを水辺で進めようとするものです。本市の多摩川沿岸は約9キロメートル。与えてくれた恵みと今なお残る魅力はかけがえがありません。(中略)7月7日午後7時7分のタナバタイムに青いものを身につけて水辺に集合し乾杯をしようというアクションです。私は郷土の森第一野球場南の水辺に行ってみようかな。府中市長 高野律雄】

2016年の水辺で乾杯では、市役所関係者を中心に多摩川沿いに集まり乾杯をしたそうですが、市民には広く知らされず、それを残念に思った市民が、「7月7日の水辺で乾杯の機会を通じて、もっと府中の水辺の魅力を市民が体感できるイベントに企画を膨らませよう」と、いわば「勝手連」のように、実行委員会が立ち上がりました。(「府中でもミズベリングを盛り上げよう!市民の会」)

この会に集まった市民から出された以下の企画を2017年に実施したところ、大好評で、2018年も継続実施し、2019年には府中市との市民協働事業に位置付け実施をしました(2019年は残念ながら雨天中止)。
このミズベリングの市民企画から、自発的に市民が何か主体的・積極的に地域のために動きたいと思ったときに仲間を集めたり、企画を披露する場の必要性が認識され、「act634府中」(あくとむさしふちゅう)という市民団体が立ち上がりました。actはactionのact、行動する市民の集まりという思いが込められています。




行政との関わりやクラウドファンディング

市民団体の企画なので、基本的に活動原資はゼロで、参加する市民は基本的にボランティア。ですので、それぞれのプロジェクトはクオリティの高さよりも各自が「無理をせず、楽しく」関われることを優先しています。資金がかかるところは、クラウドファンディングを実施したり、市の「コロナ禍における市民活動奨励金」を利用したり、知恵を絞っています。また、毎年、ミズベリングのデザインを載せたノベルティグッズを作成しており、それを身に着けて7月7日以降、協力店舗に行くと、サービスが受けられる仕組みなど、地域を巻き込んで関わる人が誰もがwin-winになれる形を良しとしています。

府中市とは、環境政策課、乾杯の河川敷を公園として管理している公園緑地課さんにお世話になっています。水辺の切り口は多様で、市役所の一つの課の所管だけに収まりません。時に縦割り行政の中で、市役所からは戸惑われることもありますが、市民が行政の縦割りに横串を刺すことで、多様な水辺の魅力や大切さが発信されることになると感じています。

2021年の水辺で乾杯

2020年の夏、コロナ禍で日本中が戸惑い、様々なイベントが中止に追い込まれ、分断の混乱の中にあったとき、中止にするのではなく、ミズベリングで「人と人との繋がりの大切さを発信しよう」という意見が出たのも市民でした。オンラインで7月7日夜7時7分に乾杯をし、コロナ禍であっても、繋がり続けることの大切さを皆で感じました。
2021年もコロナ禍は継続していましたが、少しずつ人々の生活もアフターコロナ、ウィズコロナの方向に向かっていることを意識し、リアルとオンラインのハイブリット形式で、感染症対策を施しながら実施するということになりました。1つ1つのイベントは「少人数」で、「分散」して、「短時間」でということを考慮し、企画しました。

多摩川流域を考える(水辺散歩)

また、今年は「府中市の」多摩川だけではなく、多摩川というものを少し俯瞰して考え、「流域」という考え方も取り入れてみようという思いもあり、「府中の街歩きで感じよう!多摩川流域」と題して、「ミズベリング・プロジェクト」ディレクターの滝澤恭平さんにナビゲーターを努めていただきました。6月27日(日)に12名ほどの参加者を得て、実施しました(まち歩きの様子を動画で記録・編集し、7月7日にオンラインで配信)。

当日は大國魂神社大鳥居下に集合し、約1時間半、多摩川の旧河道だと思われる箇所や、微地形を散策しました。府中崖線の南側は、かつて多摩川が氾濫した流域低地で、ところどころ砂が集積したことによる微高地(自然堤防)が形成されているということを、歩くことによって感じることができ、大変貴重な時間でした。私たちが普段何気なく通過している「矢崎町」という地名も、実は昔は微高地になっていて、矢のように飛び出た形から「矢崎」という地名になっているなど、歩くことでしか体験できない内容でした。
参加者からは、「それほど広くない範囲の街歩きなのに中たくさんの面白いことが発見できました」「普段も通っていたけれど気にとめていなかったところばかりで、目からウロコでした」と言った感想があり、続きをまた歩きたいという希望がたくさん寄せられました。滝澤さんのわかりやすい解説が大好評でした、感謝申し上げます。

今年は他にも「流域を考える」という切り口から、稲城市や多摩市とのオンラインによる同時乾杯や、災害対策講座を府中市防災危機管理課から発信してもらったり、ドローンによる災害復興支援の取り組みの紹介、地域にお住まいのナマズ博士によるナマズ講座、当日のごみ拾い活動、七夕への短冊の飾り付けなど、様々な企画を実施しました。(詳細は、「ミズベリングin府中2021」で検索ください。)

今後の活動の行方

東京2020オリンピック自転車ロードレース競技が7月24日、25日に実施され、府中をスタートし、多摩川を渡り、稲城市、多摩市を通って、競技者達が疾走していく様子をテレビで見ながら、7月7日に実施した今年のミズベリングイベントを思い出していました。水辺は本当に、観光、まちづくり、環境、防災、スポーツなどなど様々な魅力発信の切り口があり、これほど、入り口が多様なまちづくりの場もないのではないかと思います。入り口の多様であることは、関わる人も多様であるということになりますが、市民の柔軟な発想と「無理せず楽しむ」というスタンスを貫くことで、地道ではありますが、確実に地域の人々に水辺をもっと身近なものにしていけるのではないかと可能性を感じています。今後とも市民発の身の丈にあった、草の根の「ミズベリング活動」を続けていきたいと考えています。

この記事を書いた人

府中市民  市民活動団体act634府中 メンバー

林瑞恵

任意団体act634府中はミズベリング活動をきっかけに2017年に発足した府中市市民活動センターの登録団体。府中市を始めとする多摩地域の未来のために、まちづくり、自然環境、文化、教育、多世代交流などについて、多様な主体(市民・行政・企業等)の力を合わせて、自由な創意工夫により、様々な取り組みを行っていくことを目的としたプロジェクト型の市民活動を実施。メンバーはFacebookグループ上で100名程度。各プロジェクト5名のコアメンバーが中心となりプロジェクトを動かしている。ミズベリングの他に、「100年ごはん」上映会in府中、「いただきます~みそをつくる子どもたち~」上映会in府中、「みんなで作ろうバリアフリーマップ」など、市民発の企画を各種実施。現在は、「コロナ時代の今こそ!私たちの食や環境を考えようプロジェクト」を企画中。これまでの市民団体、市民活動という枠組みを超えた、ゆるやかなつながりを大切にして、各自の暮らし方、価値観に合わせた活動をモットーとし、「無理なく楽しく」自分の地域を良くするために主体的な活動ができる市民を増やしている。本人は本業はまちづくり系の公務員、市民活動はボランティアとして活動。

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