2020.01.15

住民のパブリック・リビングを大淀川へ

川端康成も愛した夕日が今日も大淀川に沈んでいく。この先時代が変わっていっても宮崎人が残していきたい景観なのです。愛と人情が豊かなこの地で、人は幸せとは何かを宮崎人から知ることになるだろう。一献交わしながら。

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福井県の水辺で大活躍のミズベリスト、おしゃれなり・BAR主宰の田中謙次さんから寄稿いただきました。今回は、宮崎県の水辺の盛り上げをお手伝いしているそうです。今回は、大淀川リビングという社会実験イベントをレポートしてくれました。

私が宮崎の大淀川に関わるようになったのは、2019年2月、『宮崎市街地 水辺の賑わいづくり ワークショップ』の講演依頼を受けたところからでした。
私は、地元で自然の豊かさの中で味わう安らぎや癒しを大人の方に気づいてもらうために、河川敷を利用した水辺のイベント、「おしゃれなリ・BAR」を2012年からスタートさせました。
当時、近所の方が散歩をする程度の水辺の風景が、若者がお洒落をして集まる空間に一変しました。田舎ならではの水辺のリノベーションの活動が宮崎の人にとって共感するところが多かったのでしょう。

宮崎市内は中心市街地を活性化を目指したリノベ物件が目立ち、若者が通りを闊歩している。

2019.11.24 大淀リビング開催

橘橋上流にある宮崎市役所ウラ付近から橘公園円形広場までの約1km区間をイベント会場としました。

実は、宮崎市役所の駐車場は大淀川の河川敷の上にあります。車社会の宮崎の人を駐車場から、メイン会場の円形広場までをどのように移動させるか、が課題となり、その解決のために、Eボートを路線バスに見立てて運行することになりました。
実行委員のみなさんは、委員長の強いこだわりもあり、できるだけおしゃれな演出に努めました。お店も、デザインも、広報も実行委員で行うことで自分事として愛着がわくように務められていたことが印象的でした。私の講演のなかでもアドバイスしたのですが、宮崎のみなさんのネットワーク力と自分事化はすごいです。
そもそも、リビングに見立てるコンセプトは、若草hutte&co-ba miyazakiを経営する今西正さん(「大淀川リビング」実行委員長)をはじめ、若い世代を中心に提案されました。「リビングは、生活・暮らし・生きる場所。家族・仲間・動物・植物も自然と集まるくつろげる場所。 河川敷はみんなのリビングルーム。水辺を眺め、風を感じ、美味しい物を食べ、好きな事して、ゆったりと流れるCHILLな時間。河川をあなたの楽しみ方で楽しんでみましょう。河川の可能性は無限大、アナタの楽しみ方で。」というのです。一見、よくあるイベントのように見えるが、主催者としてのアイデンティティがにじみ出ています。

当日の出店者は、飲食の他、アウトドアショップや地元の航空会社ソラシドエアなど多様な出店がありましたが、中でも上質なランチを提供しようと、テーブルクロスにお花をそえて、宮観ビュッフェを提供した宮崎観光ホテルさんの取り組みは注目されました。これには問い合わせが殺到しあっという間に予約がいっぱいになったそうです。
天候不順で、残念ながら場所を橘橋の下に変えての開催となりましたが、その分お客さんと出店者と実行委員の間に一体感が生まれたように思います。当日、至れり尽くせりのご協力を下さった建設会社には感謝の言葉しかないです。絶妙なチームワークで荒天の中でも安全に開催することができました。

きっかけ

宮崎市の都城地区では「かわまちづくり支援制度」を活用した大淀川に賑わいを創ろうという取り組みが行われてきました。(宮崎河川国道事務所かわまちづくりURL: http://www.qsr.mlit.go.jp/miyazaki/kasen/oyodo/jigyo/miyakonojo_kawamachi.html)
川を活かし、今までなかった新たな体験を提供する活動でエリアマネジメントを行うことも目標とされており、私(田中謙次)が福井県で行なっていたおしゃれな「リ・BAR」を参考にしたいということで呼ばれました。
2018年10月により実践的なアイデアと福井県での取り組みから得たノウハウをもとに、更にかわまちづくりを加速させたいとのことで、講演のために宮崎に伺ったことがきっかけとなって、このイベント「大淀川リビング」に関わることとなりました。

地元のデザイナーも加わっていい感じのチラシとロゴが完成。一気にやる気とアイデンティティが増す。

リノベーションと呼ぶ理由

大淀川河口付近では、観光ホテルが立ち並ぶ昭和20〜40年代、川沿いには歩行者の賑わいがあったそうです。その後、治水対策によって水辺と歩行者にバリアが生まれたことで距離が遠のいてしまいましたが、ロンブルテント(縞模様屋根のテーブルセット)はその後も継承され、景観として今も受け継がれています。堤防にはベンチシートや遊歩道が設けられており、散歩やジョギングなど地域の利用が促進されています。
一方で、国土交通省宮崎河川国道事務所は平成30年より、宮崎のまちにワクワクする水辺をつくりだそうと、桜の下での夜桜会、水辺で乾杯、打ち水大作戦など様々な取り組みを行ってきました。中でも、地元で活動するNPO法人大淀川流域ネットワークと行政がタッグを組んで、夏限定の「水辺のテーブル+(プラス)」の開催は、水辺にテーブルセットをセットするだけで、ピクニックや女子会などグレードアップした利活用を促進しました。
このような活動を通じて水辺の賑わいを定着させるために、おしゃれな「リ・BAR」のようなリバービジネスに注目が集まったようです。大淀川沿いであるというロケーション、市民の方々の意識からして、ここのエリアは単に観光客のためだけではなく、地域住民のアイデンティティの場であるべきであるということがワークショップで整理されたことから、イベントや露店が軒を連ねるものより、住民のリビングの一つとして水辺があるという意識、エリアコンセプトに変化しました。散歩やジョギングのエリアからリビングへの「リノベーション」が求められていたのです。

DIYで什器を手づくり。楽しみながらまちを面白くしていくのもコツ。

宮崎の歴史と現状

昭和20~40年代、大淀川沿いには多くの観光ホテルが立ち並んでいました。宮崎市内にはヤシに似たワシントニアパームやフェニックスが植栽され南国リゾートを感じる風景に、ハネムーン・ブームで日本中の新婚さんが押し寄せたことで、大淀川界隈にも多くの賑わいがありました。宮崎は水害が多いまちでもあり、河川改修工事によって、それまで堤防道路から眺めていた大淀川の風景は、堤防のかさ上げによって遮られてしまいました。利水の為であり仕方のないことですが、昔のように歩きながら水面を見られなくなったのは残念なことです。
現在の宮崎県は、「都道府県「幸福度」ランキング2019」第1位(ブランド総合研究所の実施した「都道府県『幸福度』ランキング」)なのだそうです。そこで、宮崎プライドはどこにあるのか調べてみました。宮崎県はスポーツ活動率やスポーツ用品店店舗数が全国1位です。確かに、スポーツビジネスが盛んでプロ野球キャンプ地をはじめゴルフや多様なスポーツ誘致が得意です。女性の家事参加率や保育園定員充足率が全国1位であり、家庭と保育のイメージが高い。一方で再婚件数が全国1位であったり、20、30歳代の未婚率、男性初婚年齢、第一子出生時年齢がワーストであることから、とにかく若くから家庭と子供を持つことがプライドの一つなのだろう。ちなみに、ラブホテル件数も全国1位でした。また、マンゴーをはじめとする第一次産業従業者数が全国1位であったり、通勤時間が最も短いことなどから、地域の特徴を生かして地域で仕事をすること、つまり、郷土愛が高いようです。以上をまとめると、私は宮崎を「愛とスポーツのまち」と勝手に定義してみました。
全国では、世帯類型別の構成比推移の中で、単身世帯が1990年より2040年推計にかけて39%増加する一方、夫婦と子世代が23%減少すると予測されている(国勢調査と国立社会保障・人口問題研究所のデータより荒川和久氏が作成)。宮崎県も夫婦と子世帯が今後20%以上減少するエリアに含まれています。
「愛」が宮崎人の心に深く植わっているとすれば、全国的なこの問題を解決できるヒントのは宮崎の人々にはあるのかもしれない。

かつての宮崎はフェニックスハネムーンと呼ばれ大勢でにぎわった。(タノタビHPより引用https://recommend-travel.com/miyazaki-aosima-sinkonryokou/)

理念が決まったワークショップ

ワークショップは2019年2月より4回開催されました。ワークショップには、ラジオパーソナリティ、まちづくり系有識者、商工・観光関係者、市民団体やNPO法人、行政職員、そして学生も参加するなどバリエーション豊かな参加者がそろいました。
参加者自身が「ワクワクする水辺」であることを大切に議論したところ、様々なアイデアが出て、水辺で結婚式、まちなかウォークラリー、住民と過ごすチルな時間、スポーツ大会とスポーツBARなど、どのアイデアも「ワクワク」するものでした。
この「ワクワク」をどのように持続可能な賑わいにつなげていくかがワークショップ進行のテーマとなり、議論は徐々に白熱していきました。議論がある程度に詰まり始めた頃、議論もいいけどとにかく何かをやってみたい!という若手グループが現れました。そこで、行動を起こす前に、私たちの活動の「ねらい」を定めることにしました。「ねらい」はいわば、山頂の「旗」のようなもので、みんなが理解していれば、それに向かう行動は多様であってよい。ただし、隣の山に登らないよう、分かりやすく目指しやすいことが必要となる。

ワークショップは多様な職種の方が集まり常に熱気にあふれていた。

大淀川の水辺に賑わいのねらいは、『宮崎と言えば、大淀川の夕日と橘公園やろ!』となった。橘公園の大淀川沿いから、夕日を眺めながら、カンパイする。そんな風景が日常的に見られる水辺の賑わいが継続的に展開されることで、大淀川が宮崎市のシンボルとなり、原風景となり、人々の営みの一部となって人々の心にこれからも刻まれ続けていくのです。
とにかく、一度動いてみよう、というのは宮崎人の気質なのでしょうか?「リビング」の創出を社会実験として取り組むことになりました。
その先には、「民間事業者参入型実証実験」、「都市再生特区の指定」など夢は大きくふくらみます。

アイデアを現実化しコンテンツとしてつくりあげていく

会議の後は懇親会。イノベーションするにはここが重要だったりする

企業の参画

カフェや出版会社、アウトドア関係など多くの企業の参画がありました。中でも、「宮崎観光ホテル」の参入は大淀川を語る上でもとても大きい。そもそも、川沿いに多くの観光ホテルが乱立していましたが、現在はこのホテルのみ。しかし、たまゆら温泉や川端康成などアイデンティティとして重要なコンテンツが当ホテルにはあり、今後のリノベーションを持続可能的に進めるには欠かせないパートナーです。市民からは、「宮観さん」という愛称で呼ばれており、ワークショップなどにも積極的に取り組む社員の方にも、「ワクワク」しているさまを感じられました。

宮崎観光ホテルやマンションが並ぶ通りにはロンブルテントが並び、西洋の雰囲気が漂よう。

今回のイベントの成果

今回は、「水辺をリビングにしてみるとどうなるのか」の社会実験でした。天候には恵まれなかったものの、それでも多くの方が集まりそれぞれの楽しみ方を知ったのは重要な成果です。お客様からは、出店のセレクトに好感をもってもらったようで、興味を引かれる店が多いという意見をいただきました。今後はのんびり川を眺められる場所もあればいいなという、想定したリビングのグレードアップを求める声があがったのも重要なポイントです。出店者からは、荒天時の対応(雨や風が強くなる時など)についていくつかの問題を挙げていただいたことで、水辺をリビングに見立てるときの細やかな対応が今後改良されるでしょう。
全ての人が水辺でワクワクし、楽しみ、次への期待を高めることにつながったのはまちがいない。

今後の方向性

今回は、社会実験としてとりあえずやってみましたが、そこから得られた事象を次へつなげていくことでしょう。特に、宮崎は「愛とスポーツのまち」であるならば、そのことを感じ体験できるエリアに向かうのもよいし、地域住民が自分のリビングとして利用できるようにデザインするのもよい。
大切なことは、自らが描いたねらいを目指し、水辺のあるまちの価値を高めることを続けることです。そのためにも定期的な活動と発信が必須であるとともに、住民の心の中に、『宮崎と言えば、大淀川の夕日と橘公園やろ!』を印象付けていくことが重要なのです。
この夕日がこれからも繋いでいくべき宮崎のアイデンティティ

この記事を書いた人

田中 謙次

越前市生まれ。子どもたちへの川の体験活動や安全指導者でありながら、ランドスケープデザインで「おしゃれなリ・BAR」などリバー・シェアリング・エコノミーに取り組んでいる。氣づきと共感を大切に、不易流行で目指すは田舎ならではの上流社会。

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