2019.10.16

人間中心の道路政策へー国交省ストリートデザイン懇談会発足

台風19号により被災された皆さまへ心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。

今回の台風19号により亡くなった方、ご遺族の皆さまにお悔やみを、また被災された方にお見舞いを申し上げます。各所で大きな被害が発生しており、復旧、復興にも長い時間がかかると思われます。
われわれミズベリングにとってもたいへん重い出来事であり、あらためて水に関わる人間の社会の良いあり方を、これからも考え、かたちにして参りたいと考えます。

●ストリートデザイン懇談会の概要

国土交通省が、「ウォーカブルなまちなかを支えるこれからの時代のストリートの在り方を検討するため」のストリートデザイン懇談会を設置した。

事務局は国土交通省都市局で、関係省庁として国土交通省道路局。オブザーバーには東京都、神戸市、姫路市、(独)都市再生機構が参加、コア委員として、泉山塁威氏、岸井隆幸氏(座長)、小嶋文氏、西村亮彦氏、藤村龍至氏(副座長)、三浦詩乃氏が並んでいる。

この懇談会が設置される経緯としては、国交省がH31.2月に設置した「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」がある。都市の付加価値創出と地域課題解決の場としてのあり方を検討してきたこの懇談会の中間とりまとめとして、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」を実現するための「まちなかウォーカブル推進プログラム(仮称)」が示され、そこでストリート・デザイン・ガイドラインの作成が掲げられた。この取組をさらに進めるために、ストリートの使い方や作り方について、また取組みを支える仕組みなどを議論するために設置されたのが、今回のストリートデザイン懇談会である。
2019年8月29日に第一回、2019年10月1日に第二回が開かれ、ウェブサイトに資料もアップされている。その内容を簡単に紹介する。

●グローバルな広がりをみせる都市の「ウォークシフト」

8月29日の第一回では事務局から懇談会の全体の方向性についての解説からスタート。国交省がこうした取り組みを進める大きな背景としては、都市の「ウォークシフト」という世界的な動きがある。ニューヨークのタイムズスクウェア、パリのエッフェル塔周辺(2024年には周辺の車道を緑地化)、ロンドンのオックスフォードストリート(鉄道開通予定に合わせ2019年末に歩行者空間化予定)など、世界の都市で歩行者のための空間が広がっていること、また日本でも東京の丸の内仲通りや姫路駅前広場、熊本市桜町・花畑周辺地区、福山市福山駅前構想などが「ウォークシフト」に向けて進んでいる。

ウォークシフト化によって、これまでの移動するための「導管」=”リンク”としてのストリートに加えて、”プレイス”という機能が注目される。プレイスとは「空間」、つまりストリート自身が「目的地」として、人々がそこで遊んだり買い物をしたりする「時間を過ごす場所」になる。ストリートがこうした”リンク”と”プレイス”の機能を発揮できるようにするというのが「ウォークシフト」である。地方公共団体がこうした動きを進めていけるように、地方公共団体向けのガイドラインをまとめていくという方向性が示された。

●委員からの発表

委員である三浦詩乃氏からは、『ストリートデザイン・マネジメント「暮らし続けたくなる」まちづくりへ』という発表があった。都市施策の国際的潮流として、「暮らし続けられる都市 Livable City]」戦略があること、そして道路空間に戦略的投資を行い「車のための道路による成長」から、「人の活動のための街路/ストリートによる成長へ」という方向性があるという(詳細はリンク先の資料をご確認いただきたい)。

また同じく委員の泉山塁威氏から、「これから求められるストリート」についての発表。「人中心」のストリートを作っていくためにこれからどんなプログラムが必要なのか、サンフランシスコやニューヨークでの実践例が紹介された。こちらも詳細はリンク先の資料をご確認のこと。

10月1日に開かれた第二回は、「都市生活を豊かにするアクティビティ」をテーマに、ゲスト委員として、泉英明氏(有限会社ハートビートプラン代表取締役)、西村浩氏(株式会社 ワークヴィジョンズ 代表取締役)を迎え開催された。泉氏からは、「物理的な空間を”つくり”、それを住民が”つかう”ことで都市の魅力が育っていく」という発表。ミズベリング視点では、長門湯本温泉街の川を活用したまちづくりの事例、そして道路空間の利活用について「ミズベリングの道路版が必要ではないか」という発言が興味深かった。

西村氏からは、岡山市県庁通りと佐賀市呉服元町の事例から、多様な年齢層を巻き込んだ様々なアクティビティがどう生まれてきたかを紹介。利用者の視点だけでなく、運営する民間と行政の信頼関係の重要性が指摘された。

●人間中心のストリートへ

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ファッションやカルチャーにおいて”ストリート”というフレーズが含意するのは、安価なものを新しく利用することであったり、上からではない草の根的な動きのことであるが、国交省という日本の道路行政のトップが「ストリートデザイン」として取り組もうとしているのも、民間発のそうしたボトムアップ的な方向性への期待があるのだろう。

街を、道を、人間中心のものへ、私たちの暮らしのほうに取り戻していこうというこのチャレンジには、もちろん行政だけでなく、地方自治体や民間、そして市民の働きかけが欠かせない。私たちにとって最も身近で重要な公共空間は道であり、それが自動車中心ではなく、人間中心になっていくとしたら、これはなんとわくわくする政策だろうか。道とミズベの繋がりも含め、今後も注目していきたい。

この記事を書いた人

淵上周平

1974年神奈川県生まれ/ふたご座。大学では宗教人類学を学び、日本各地のお祭りや聖地を巡る。出版社にて編集者、その後WEBベンチャーへの参画、地域活性・社会起業のWEB媒体の編集執筆業などを経て現在にいたる。株式会社シンコ代表。ほかに株式会社エンパブリック取締役など。

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