2018.10.29

東京の水辺最前線。 東京ニューウォーターフロントフロントランナー座談会

水辺に関心のある人なら、このところ、東京の水辺にも様々な動きがあることをご存じだろう。2018年9月18日、東京の水辺に第一線で関わる人達が一堂に会した座談会が開かれた。どんな動きがあるのか、課題は……。当日の様子をご紹介しよう。

座談会冒頭、趣旨説明をするミズベリングプロデューサー・山名清隆氏

それぞれのプロジェクトのエリア図。東京全域にミズベリングの波が広がっている

座談会は参加者5人が現在取り組んでいるプロジェクト概要のプレゼンテーションから始まった。以下、どのようなことが行われているのか、順にご紹介しよう。

東京港をかっこよく!
日の出ふ頭小型船ターミナル整備計画(野村不動産)


井組正嗣氏(野村不動産株式会社 都市開発事業本部 芝浦プロジェクト企画部 企画課 課長代理)

芝浦一丁目で進められている東芝の本社ビル、浜松町ビルディングの建替えを中心とした約4.7haという広大な再開発と軌を一にして進められているのが井組氏が担当する日の出ふ頭小型船ターミナル整備計画。再開発予定地とは芝浦運河を挟んだ対岸にある日の出ふ頭の一部で、東京都港湾局から用地使用許可を受け、建物と芝生広場を整備し運営を行っていくという。

広場と建物を一体として使えるようなプロジェクトが計画されている。時間帯によって多様な使い方が可能だ

2階建ての建物には船客の待合所という従来からの機能に加え、海辺を望めるテラス席のある飲食機能を誘致し、単に必要性から使われる場所としてだけではなく、わざわざ来たい場所に。芝生広場ではマルシェ、スポーツや音楽その他イベントを開催する予定で、開業は2019年夏。

「東京で『海に行く』と聞くと湘南や三浦を想起する人が大半だと思いますが、東京にも海がある。その東京港をかっこよくしたいと考えています。後背地の芝浦まで範囲を広げて考えるとタワーマンションが林立、小中学生の子どものいる家庭も多いので、家族で海辺の良さを味わい、水とふれあい、楽しめる場を作っていければと思います」。

もうひとつ、参加者がおおいに盛り上がったのは30年前、芝浦で一世を風靡した伝説のディスコ・ジュリアナ東京に代表されるナイトエンターテイメントを日の出ふ頭で復活させたいという井組氏の強い思い。当時、ウォーターフロントと呼ばれた芝浦界隈には夜の遊び場が続々登場、賑わっていた。その80年代は日本がもっとも輝いていた時代でもある。当日の30代、40代の参加者には当然、経験のない時代だが、東京の水辺を当時とは異なるやり方で使おうとしている現在、その当時を今に持って来たらどうなるかは関心のあるところ。ぜひ、実現を!である。

浅草・東京スカイツリーエリアに新たな賑わいを
北十間川・墨田公園観光回遊路整備事業(東武鉄道)


岡部泰夫氏(東武鉄道株式会社 すみだミズベリング開発推進部 課長)

古くからの東京観光の定番・浅草と新たな観光名所・東京スカイツリーは距離にして1キロほどしか離れていない。だが、それぞれが独立した観光地として認識されているためか、間に隅田川が流れているためか、回遊して両方を楽しもうという人は少ない。墨田区内の同エリアには江戸情緒あふれる店から昭和レトロ、現代風の個性派ショップまでが揃っているというのに、両者を繋ぐ北十間川、平行して走る東武スカイツリーライン高架橋周辺は人通りも少ない。


浅草から東京スカイツリーへの東西の、北十間川を中心にした賑わい軸と他の名所などとの関係を現した図

その状況を打開しようと東武グループの中期経営計画2017~2020に基づいて立ち上げられたのが、岡部氏が所属するすみだミズベリング開発推進部。具体的には高架下の耐震補強と同じタイミングで行われる東京都の耐震護岸整備、墨田区による墨田公園の整備を機に浅草から東京スカイツリー間に水辺とまちの賑わい交流軸を創出するという。ゆくゆくは北十間川に沿って両国あたりまでその賑わいを広げていきたいというから、下町エリアを変える一大構想である。整備は3者が連携して、公園、区道、高架下、親水テラスを一体的に整備するそうだが、問題はそれ以降。

「2020年にはハード面の整備は終わる予定で、その後、整備した空間をどのように利用し、賑わいを生み出していくかが大きな課題。区や地元とともにこの空間の使い方を検討し始めている状況ですが、何をすれば良いか。上司からは『仕事は自分で作れ』と言われており、鉄道のメンテナンスをやっていた身からすると働き方そのものががらっと変わり、考えながら動き始めているところです」。

その岡部氏に対し、他の参加者からは舟運の可能性や日の出その他エリアとの連携等の提案があった。同様の提案は以降座談会中に何度も行われ、東京の水辺は繋がっていると思ったものである。

汐留川で歴史、緑、都市的空間をフルに味わう
竹芝ウォーターフロント開発計画(JR東日本)


片桐暁史氏(東日本旅客鉄道株式会社 東京支社 事業部 首都圏えきまち創造センター)

山手線の駅のうちで一番海辺に近い浜松町駅から北へ徒歩6分。前述の野村不動産のプロジェクトにもほど近い浜離宮隣接エリアで進んでいるのが片桐氏が担当するJR東日本の竹芝ウォーターフロント開発計画だ。これは劇団四季の劇場跡地などを利用、劇場とラグジュアリーホテル、オフィス、商業施設等からなる複合開発で港区が管理する汐留川に面した立地が特徴。2020年春の開業予定で、水辺に面した広場が作られることになっている。

プロジェクトとその他の交通機関の位置関係、水域の希少性などの説明

この水辺は羽田空港、浅草の中間地点にあたり、伊豆七島への玄関口。首都圏の陸の動脈である山手線と、水の動脈である隅田川から羽田へとつながる水路の結節点でもある。加えて防潮堤のある水域で、水面が安定している上に多様な生態系を備えるという希少性もあるとか。となれば、この水面を活かし、地元に貢献するのはもちろん、地域のブランディング、周辺エリア全体の賑わいに寄与できないかと同プロジェクトでは様々な社会実験を繰り返してきた。

「浜離宮の歴史的で緑のある景観に加え、高層ビルの眺めも楽しめ、自然も豊富。それらの要素を活かして生物多様性に触れるエコツアー、安定した水面を活かしたSUPなどの水上アクティビティ、水上映画鑑賞、水辺バーベキューなど様々な実験を行ってきました。これだけ水に囲まれているのにこれまで触れ合える場が少なかった東京の水辺に、まちづくりと一体になったにぎわいや憩いのタッチポイントが整備できないかと様々な検討を行っています」。

立地を生かし、羽田空港からリムジンボートでホテルにチェックイン、観劇と船のセットツアー、広場と船、桟橋を利用したイベントや水上スポーツなどなど、夢はどんどん膨らむ。実際に何ができるようになるかは行政との協議などを経て今後決まるはずだが、これまでの東京にない楽しい、遊べる水辺を期待したい。

水辺の使い方を提案、まちを変えて行く
東京イーストベイ構想(竹中工務店)


高浜洋平氏(株式会社竹中工務店 まちづくり戦略室 副部長)

江東区東陽町、水辺に面して本社がある竹中工務店が「東京イーストベイ構想」を掲げて活動を始めたのは2年ほど前。対象としているのは隅田川の東、北は小名木川、東は荒川までのエリアで、深川、砂町、新砂、豊洲、有明など8つの地域を含んでいる。これまでのプレゼンテーションに比べると、広域にわたる水辺のまちづくりを描いている。

対象エリアは広大だが、そこにいくつか核を配して水辺を変えていこうという計画だ

2017年10月にまちづくり戦略室が発足し、配属になった高浜氏によるとこの構想は同社の建築からまちへという流れの一環で、「この水辺にこういうものを作りませんかと、観光より生活密着の視点でイーストベイの水辺の価値づくりを提案していく」ものなのだとか。構想内に含まれるエリアごとに何ができるかを検討したり、地域の住民や企業とまちづくりを考えるワークショップキャラバンを始めている。同時にイーストベイエリアのすばらしさをPRする情報発信も始めているという。

たとえば200年の歴史を持つ造船所を通して水辺の文化資源を考えるシンポジウムを開催したり、深川・砂町地区の散歩マップを作成したり、新木場公園で夜間、映画を上映する「ねぶくろシネマ」の開催など。エリアが広いだけにいろいろな活動ができるのが面白そうである。

今後も大阪の北浜テラスを参考にしながら桜並木で知られる大横川の緑地帯に川床を作る計画があるという。「荒川の上流に位置する埼玉県小川町の材を使い、今年は2軒の川床創造を目指し、どうマネタイズするかなどを検討、将来的には川沿いの木質テラス化を目指したいと考えています」。楽しそうな計画に参加者からは連携しようという声も多数。やはり水辺は繋がっているようだ。

清流復活水で水流を復活
官民連携による渋谷川の再生(東急電鉄)


松本久美氏(東京急行電鉄株式会社 渋谷ストリームマネジメントオフィス 文化用途グループ 文化用途支配人)

5人目は2018年9月13日にまちびらきをした渋谷駅南側エリアで、官民連携による渋谷川の再生・遊歩道の整備を担当した東急電鉄の松本久美氏。このエリアでは2013年に地下化した東急東横線旧渋谷駅のホーム・線路跡地およびその周辺敷地にオフィスや商業ゾーン・ホテル・ホールなどからなる35階建ての大規模複合施設・渋谷ストリーム、渋谷駅と代官山駅の中間地点に位置し、東横線線路跡地を活用した複合施設の渋谷ブリッジが開業して話題になった。だが、それと同時に大きな話題となったのはその2つの建物を繋ぐように再生・整備された渋谷川だ。これまで建物にも、人にも背を向けられてきた渋谷川が、官民連携により川沿いに整備された600mの遊歩道と共に賑わいの中心になったのである。

2つの建物の間を繋ぐように遊歩道が整備されているのが分かる

しかも、これまで雨の日以外に水の流れを感じることのなかった渋谷川に水が流れるようになった。新宿区の落合水再生センターで高度処理された下水「清流復活水」を護岸伝いに流すことで常に一定の水量が保たれるようになっているのである。私もオープン後に行ってきたが、水深10㎝ほどと舟運には向かない量ではあるが、水があるというだけで豊かな気分になるのは不思議だ。

さらに川の上にはコンクリートの板をかけて稲荷橋広場、金王橋広場という、2つの広場が新たに作られた。川を利用してこれまでなかった空間が生まれたわけで、オープン以降音楽イベントや学生のパフォーマンス、地元の金王八幡宮例大祭の御旅所など様々な形で利用されており、川沿いの遊歩道を利用してのイベントなども開かれている。

整備プランは渋谷区および、渋谷区が主催の行政・地元・事業者が参加する渋谷川環境整備協議会で議論され、ビル事業の公共貢献ということで民間事業者が工事を実施し、行政資産として整備。今後はどう賑わいを作り上げていくかがポイント。「管理は渋谷区が行います。今後、どのように賑わい出しをしていくかは施設使用者が行政や地域と連携し行うことになります。遊歩道を利用してのヨガや川のライトアップ、キッチンカーを呼んで日常的に人が集まるようにするなど、やれることは多いはず。渋谷で働くクリエイティブワーカーにとって創造的な空間になって欲しいと思います」。

プレゼンテーションに続いてはオフレコの話も含め、水辺活用をしてみて分かったこと、課題、これからの方向その他について出席者、ミズベリング運営者からの質問、相互間のやりとりなどが行われた。そのうち、いくつかについてご紹介しよう。

水辺は長期的展望が必要な公共空間

水辺は公共空間である。関わってみてその特殊性を強く意識したという声が出た。

「今までの仕事とは異なり、自分たちだけの事情で使ってよい場所ではありません。短期的視点で取り組めたり、儲かる場所ではなく、資源を生かしていくことで長期的に価値を上げていく空間、それが水辺ではないかと思うようになりました」(JR東日本・片桐氏)。

長い目でモノを見るという意味では鉄道事業者と水辺は親和性が高いのではないかとミズベリングディレクターの岩本唯史氏。確かに今回の参加者5社のうち、3社は鉄道事業者である。

場所は違っても同じ水辺の活用に取り組むとあって雰囲気は和やかながら、皆さん、真剣な表情

以前は不動産会社に勤務、2年前に転職したという東急電鉄の松本氏は「社内で『線路を背負っており、逃げられないんだ』という言葉を聞き、時間軸の違いを意識した」と語った。地域の価値向上には長く向き合う覚悟が必要なのだ。

もちろん、その意識は鉄道事業者だけのものではない。「東京港は広く、私達がやっているのはごく一部。雪玉が坂道を転がっていく最初のステップのようなものですが、そこをちゃんとやり、広げていけば世間の水辺に対する意識が変わるという実感があります。まちを背負うという意識が出てきています」と野村不動産の井組氏。

水辺活用には行政、地域との連携が重要

長期的な視点に加え、幅広い連携も必要だと岩本氏。それを受けて竹中工務店の高浜氏が地元の祭りやイベントへの参画がずいぶん増えたと活動ぶりを披露した。「以前から本社周辺での近所づきあいはありましたが、最近は街を盛りあげようと地域の皆さまと想いを共有しながら、地域のイベントへ参画できるようになりました。地域のリーダーや行政、学識の皆さまとも、大分お仲間になれた気がしています」。

質問や提案が多かったのも特筆もの。知恵を出しあうことが良い結果に繋がることを期待したい

東武鉄道の岡部氏も会話の重要性を挙げた。「高架下と公園・親水テラスを一体として賑わいを創出していくには行政はもちろん、地元の多くの人たちにも理解をいただく必要があり、時には一対一で話していくことも大事と考えています」。

しかも、水辺の活用は自治体の域を超えることもある。一口に地元といっても広がりもある。「行政をまたいで向う側に行く仕事と考えると、行政のできない仕事でもあるのかもしれません」との岩本氏の言葉、納得である。

まちのために良いことをするために公共空間を使う

では、その行政とどう組むか。

これまでは公共空間を利用して収益を生むことがあまり歓迎されない風潮があったかもしれない。だが、今後はその意識を変える必要があると松本氏。「公共財産をつかってそこで得た収益を使いながら、さらに価値ある空間をつくっていくスキームが必要。公共のため、まちのために良いことをやる、そのために必要なお金を公共空間で生むという考えが広まっていけば、活用例も増えるのでは」。

後半は活発な意見の交換が行われた

東京には水辺のみならず、道路、公園など使える公共空間が多くある。パブリック空間の新しい使い方がまちづくりのカギになると高浜氏。「かつて行政と市民はハチマキまいて対立する時代もあったが、これからは協調の時代であり、官も民間も市民も三方良しを目指して連携できていければ創造的活用が進むのでは」とも。良くも悪くも行政は前例主義。一度評価される事例が生まれれば、次が続きやすくなるのではなかろうか。

実際、行政も変わりつつあるという声もあった。「これまで港湾事業用地に賑わいを目的とした施設が作られたケースはありません。ですが、今回東京都港湾局は前例のない中、実現のためにどうしようかと非常に前向きです」。井組氏の実感である。

みんなが手を結べば変化は大きくなる

座談会を聞いていて、もっともわくわくしたのは登壇した5社が連携しようとしている点である。

資料を手に意見交換、メモを取る姿なども散見された

野村不動産では自社の、水辺にある物件を舟運で繋ぐという話が出たことがあるという。「でも、一社単独で繋いでも魅力的な航路とはなりえないだろう。できれば各社が歩み寄り連携して、誰もが利用しやすい航路を作っていかないと」(井組氏)。

国土交通省水管理・国土保全局河川環境課の吉村謙一氏からは「民間、行政が連携、水辺を活かすことでまちが活気づく方向に持って行きたい」という言葉があった

東京の水辺では舟運はなかなか苦戦してきたトラウマはあるが、高浜氏は「2020年をバネにして5~10分おきに運航している状況や他のモビリティとの連携など利用しやすい仕組みを一旦構築してしまえば定着するかもしれない」とする。大阪では複数の会社、組織がタッグを組み、水辺を使おうとしており、東京の水辺を巡っても同じような動きが出てきても不思議はない。水辺に踏み出した各社が重なる部分で手を繋げば、東京の水辺はもっと楽しく、使える場になるはず。

来春、行われることが公表された「川ろうぜ、街がえようぜ大賞」。ダジャレのようだが、もちろん、本気

そうした気分に呼応するように最後にミズベリングプロデューサーの山名清隆氏から爆弾発表があった。次年度のミズベリングフォーラムでの目玉イベント「川ろうぜ、街がえようぜ大賞」である。まちづくりと川が繋がりつつある今、そこで活躍するユニークな人を表彰しようというのである。一体、どんなものになり、どんな活動が紹介されるのか。来年の春が楽しみである。


前列左から座談会参加者の野村不動産株式会社・井組正嗣氏、東日本旅客鉄道株式会社・片桐暁史氏、東京急行電鉄株式会社・松本久美氏、株式会社 竹中工務店・高浜洋平氏、東武鉄道株式会社・岡部泰夫氏。後列左からミズベリング・滝澤恭平氏、同プロデューサー・山名清隆氏、国土交通省・吉村謙一氏、ミズベリング・岩本唯史氏

【会場は天王洲の水辺】

 

今回の会場は天王洲の水辺に新しくオープンしたレストラン「RIDE」。運営する中川特殊鋼株式会社不動産事業部ビルマネジメント部・佐藤勝彦氏によると同社は天王洲のまちの活性化を意図し、店の前の桟橋を利用して社会実験を積み重ねてきた。ただ、社会実験だけでは続かない。「ぜひ、民間で手を繋ぎ、これからの水辺の使い方を作っていきたい」とのこと。今回のイベントが新たな連携、発展に繋がるものと期待したい。

この記事を書いた人

中川寛子

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30数年不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)「解決!空き家問題」(ちくま新書)等。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

過去の記事

> 過去の記事はこちら

この記事をシェアする