2018.08.28

羽田空港を望む多摩川河口に 川沿いの遊びと仕事の拠点、「The WAREHOUSE」誕生

国際戦略特区「川崎キングスカイフロント」に、水辺の様々なアクティビティを楽しめるNYブルックリンスタイルのホテル・コンプレックスがオープン

今回訪れたのは、京急大師線終点の小島新田駅から徒歩10数分という、これまであまり馴染みのなかった川崎市の一角。行ってみると、驚いたことに目の前には多摩川の河口が、その向こうには、広大な羽田空港が広がっていた。飛行機が次々に飛び立つ様子は、この地から人や文化、先端の技術が日本中へ、世界中へとつながっていくことを予見させるようだ。

実は、この約40ヘクタールのエリアは、「川崎キングスカイフロント」。以前は、自動車のエンジン工場があった場所だ。現在は、ライフサイエンス・環境分野の研究開発から新産業を生み出す、「国際戦略拠点」として形成が進む。国家戦略特区、国際戦略総合特区などの区域にも指定され、世界中から研究者が集まる場として成長しつつある。

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川崎キングスカイフロントではすでに企業の研究所や工場などが進出。東急ホテルズと示した場所に「The WAREHOUSE」が位置する (出典:http://www.king-skyfront.jp/access/

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右にThe WAREHOUSE、多摩川の向こうに羽田空港が見える(写真/特記以外、滝澤恭平)

この稀有なロケーションに2018年6月、新たに商業施設「The WAREHOUSE」が完成した。その英語名の通り、古びた武骨な倉庫をイメージさせるような、NYブルックリンスタイルがなんとも言えずかっこいい。上層階は「東急REIホテル」の客室や空港を望むレストラン、1階はカフェやワークショップなどを行う工房、川沿いでのアクティビティのベース、コワーキングスペースという構成だ。

ホテルには、周辺にあるライフサイエンスや環境分野の研究機関に研修・発表などで訪れた国内外の研究者、新たなカルチャーの情報に敏感なカップルなどが宿泊するという。ホテルの客室は、やはり古びた倉庫のような独特の趣を演出。たとえば、ざらざらした感触の木毛セメント板という下地材を内装に使ったり、裸電球を思わせる照明を取り入れアクセントにした。
そして、このうえない魅力は、客室の窓やレストランのバルコニーから広がる羽田空港の大パノラマだ。間近で見る飛行機の離発着はダイナミックで、いつまでも見飽きない。

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古い倉庫を髣髴させる外観。2階以上がホテルの客室

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客室は全186室。電球型ランプと無機質な鉄製の配管などで武骨な表情を生む。壁の写真は開港当初の空港の風景

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5階のレストラン&バーや客室からは羽田空港を一望できる

「多摩川や河川敷の自然環境を生かし『遊ぶ』、研究者やクリエイターが互いに刺激し合って『働く』、そして、それらの経験を生かし新たな世界へ『旅する』などのさまざまな場を併せ持つ複合的な施設です。建物の倉庫のイメージは、この地が工業地帯だった時代へのオマージュでもあります」と、当施設の総合プロデューサー、入川スタイル&ホールディングスCEOの入川ひでと氏は話す。

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当施設の総合プロデュースを務めた、入川ひでと氏

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エントランス付近。左がカフェやアクティビティの拠点、右がホテルのフロント

入川氏は、これまで全国でカフェをはじめとする数々の商業施設をプロデュースしてきた人物だ。現在は同社CEOとして、事業開発から業態開発、企業やまちのブランディングまで、幅広い分野を手がける。特に、カフェを核にしたまちの活性化には定評がある。
そんな、さまざまな場づくりに知見をもつ入川氏が、川崎市に位置する「川崎スカイフロント」に着目したのはなぜなのだろうか。

川沿いのアクティビティを楽しみ滞在する新たなスタイル

「川崎キングスカイフロントは、世界各国から最先端の頭脳が集まる場所。彼らにはコミュニケーションの場を要すると直感して、当施設の企画を思い立ちました」
彼らに日本ならではのカッコいい過ごし方を見せたい、という想いもあったという。

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1階の「RIVER CAFÉ」。ランチやディナー、ジャズなどのライブも楽しめる

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同じく1階。右の多摩川沿いにコワーキングスペース、左にバーカウンター

「都心にありながら、近所の川辺で様々なアクティビティを楽しめるホテルがあってもいいんじゃないか。世界中を巡っている教養あるインバウンドだからこそ、興味をそそられると思う。世界の主要都市にある、ゴージャスなホテルとは一味違う方向性です」

多くの人たちの交流の場としてとらえているだけに、準備をすすめているアクティビティは幅広い。スポーツは、多摩川でのカヤックやリバーフィッシング、サイクリングロードでのポタリングやジョギング、河川敷沿いの公園ではヨガなども予定している。

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川沿いでのアクティビティやトライアスロンの基地、「TREX KAWASAKI」。ポタリングに向けバイクのパーツも豊富

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多摩川沿いにはシャワーブースを完備。アクティビティ後に汗を流せる(写真/ダブリューズカンパニー)

「私自身も施設の前の干潟で、仲間たちとフライフィッシングを楽しんでいます。蟹に似せた手づくりの毛ばりで、クロダイを釣り上げたことも。私たちのフライフィッシングは食べるのではなく、自然を知ることが狙い。だから、キャッチアンドリリースが基本です」
水上のサーフボードに立ったまま乗り、オールを使ってパドルするSUPのレッスンも2018年秋にスタートする。
「庭に小さなプールを組み立て、そこにボードを浮かべてヨガのポージングの練習をしてもらう。ここは、SUPヨガの基地として育てることも視野に入れています」
また、河川敷という開放感溢れる環境に音楽を組み合わせ、さらにくつろげる場を演出する。
「1階のカフェから多摩川や付近の緑豊かな景色が目に入ります。夕景を眺めながらジャズやボサノバの演奏を楽しめるライブを定期的に開催していく」

ネガティブな条件が、河川敷周辺の伸びしろを生む

実は、当施設周辺は、河川管理者である国、川崎市、当施設のある民間事業者の敷地が隣接している。そのような状況にも関わらず、河川沿いのサイクリングロードから川崎市管轄の公園、当施設の位置する敷地までがひとつながりのオープンスペースとして整備された。そのため、ランドスケープには豊かな緑が連続し、アクティビティの際には施設からオープンスペースまでスムーズに移動できる。
「このような場合、三者三様の開発をするケースが多いでしょう。今回は、川崎市が旗振り役となり、一体的な開発が実現しました」

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左側の民地から、右側の市の公園まで一体的に整備されている

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敷地から川沿いのサイクリングロードまで直接出られるよう通路を計画

さらに、入川氏はここだけでなく、多摩川沿いの複数箇所の河川敷を積極的に利用し、そのネガティブな一面を払しょくしたいと考えている。
「河川敷やその周辺には、多くのごみが放棄されているような場所も見受けられます。そこをスポーツなどで活用する際には、参加者たちが掃除して綺麗になるのはもちろん、イメージアップに結び付く。ホームレス対策にもつながるでしょう。イベントなどにからめて、周辺に低所得者層に仕事を提供できるとさらにいいですね」
河川敷の周辺にまで、その視線は及んでいる。
「これまで工業地帯であり、労働者のまちであった多摩川沿いの川崎市側は、今でも家賃が安い一方で、空き家が増えつつあります。それらを利用して、たとえば、ホームレスや労働者に向けた住まいや、インキュベーション施設を整えられないだろうか。これまでネガティブにとらえられてきたこの環境にこそ、実は伸びしろがあると私はみています」

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1階ラウンジには東京やニューヨークなど、世界の著名な水辺の都市の地図を展示

数年後に羽田空港から直結。世界はますます近くなる

2020年には、当施設を含む川崎キングスカイフロントと多摩川対岸の羽田空港を直結する、羽田連絡道路となる橋が開通予定だ。この橋を経由するとここまで車なら5分、徒歩や自転車での通行も可能。地下鉄経由と比べて約1/8の時間しかかからず、断然アクセスがよくなる。建設地には干潟が広がっているため、渡り鳥も飛来する。国土交通省の多摩川水系河川整備計画では、貴重な生態系を保持する「生態系保持空間」に位置付けられる。便利になっても、豊かな自然環境は持続されそうだ。

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施設の目前も干潟。水生植物のほか蟹などの生き物も多数見られる

「国内外各地から、川崎キングスカイフロントの研究施設や川崎市方面に直行する人も増えるでしょう。そのような人たちが滞在する際に選ばれる、仕事と遊びの拠点を目指してコンテンツを充実させていきたい。多摩川沿いは東京・大田区側と川崎市側の開発に差がありましたが、橋の開通後は川崎市側も飛躍的に活性化していくのではないでしょうか」と入川氏は結んだ。

この記事を書いた人

介川亜紀

住宅、建築、都市、まちづくりがフィールドのフリーランス編集者。特に建築や都市・まちの「再生」に興味津々で日本全国を飛び回っている。 仕事と並行し、明治大学大学院で再生マネジメントと都市計画を学び2016年修了。

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