2018.07.13

多摩川をどう使いこなすか。

大学生観光まちづくりコンテスト、多摩川ステージ説明会

2018年7月4日。今年で8回目となる「大学生観光まちづくりコンテスト2018」の多摩川ステージ、多摩川下流域3自治体合同説明会が調布市の多摩川近くにあるシェアプレイス調布多摩川で開かれた。 「大学生観光まちづくりコンテスト」は観光まちづくりを通じた地域活性化プランを競うコンテストで、大学生にとっては実践的な教育の場。開催に名を連ねる観光庁以下地域の観光関連団体にとってはこれからの我が国の観光立国推進に役立つ、学生ならではの自由なアイディアを期待する場でもある。 多摩川ステージが開催されるのは2017年に続き、2回目。当日は多摩川下流の神奈川県川崎市、東京都大田区、同世田谷区が参加、各自治体の課題、提案に期待するものを説明した。以下で紹介するが、3自治体は同じ多摩川に面しながらも課題はそれぞれ。ひとつの川をテーマにしながら、これだけバリエーションがあるのは興味深く、また、3自治体が揃って説明に臨むのも珍しいことである。

川崎市の水辺事情

k-138

3自治体最長の30km多摩川と接している川崎市

トップバッターは川崎市。細長い川崎市は多摩川の全長約138キロのうち、市の北端で約30キロを多摩川と接しており、長さで言えば3自治体中最長。どこを選ぶかで多様な提案ができそうである。ただ、接する距離は長いものの、多摩川と並行するように堤防、多摩沿川道路が走っており、そのいずれをも横断しないと川にはリーチできない上、横断できるところも限られる。すぐ近くにあるのに遠い、それが川崎市の多摩川事情のようだ。
続いて川沿いの整備状況が説明された。現時点で行われているのは3点。ひとつは27.5キロに及ぶ多摩川沿いのサイクリングコースの整備。一部未整備の部分もあるが、完成は目前。新しい魅力になりそうである。二つ目が五反田川放水路の整備。工事中で今の段階では姿が見えないが、完成後は新しい水辺空間が生まれる。

左:サイクリングコース整備の状況 右:五反田川放水路の計画

そして最後が多摩川を挟んで川崎市と大田区で同時に整備が進められている、川崎と羽田を直通することになる羽田連絡道路。川崎市側では新しい産業拠点としてのまちづくりも進んでいる。

k-hashi

計画中の羽田連絡道路

さらに川沿いの施設やまちづくりの状況、イベント開催状況などが説明されたのだが、印象的だったのは昨年のコンテストでの提案を実現すべく、オール川崎でバックアップが行われているという点。川崎市を舞台とした提案についてはコンテスト終了後に副市長や国交省京浜河川事務所所長、川崎市観光協会長などの関係者を集めて発表会を行い、提案ごとに必要なサポートが続けられているという。

駒澤大学青木ゼミの提案だったキャンドルナイトのように地域団体と連携、合同で実現に至ったものもある。(リンク先:カナロコ2018年5月12日記事「多摩川にスローな夜を 駒沢大生発案で12日開催・・・」

kawasaki

説明した川崎市水辺活用担当者

大田区の水辺事情

続いての発表は大田区だった。学生の提案に盛り込んで欲しいエリア、それが羽田空港の沖合展開事業によって誕生した羽田空港跡地の2つのゾーン。ここは多摩川はもちろん、海老取川にも臨んだ場所で、第一ゾーンには交通広場、多目的広場、産業創造・発信拠点が作られ、第二ゾーンにはホテルや複合業務施設が作られる。対岸には川崎市が新たな研究開発拠点として開発しているキングスカイフロントという地区があり、その間を前述した羽田連絡道路が繋ぐことになる。

O-02

大田区の対象エリアは、羽田空港の多摩川海老取川沿いの注目の再開発エリアの水辺空間

もちろん、水辺も整備される。第一ゾーンでは整備される堤防の後背地、第二ゾーンでは水辺に沿った親水緑地が作られる計画だ。国際線のターミナルに近く、多くの人が訪れるだろう新しいまちとなれば、提案のし甲斐もあるというもの。後刻の質問エリアでは大田区に質問しているグループが多かったのはそのためだろう。

左:水辺空間の再整備が予定されている 右:学生提案に期待する4つの要素

また、このエリア周辺には他にも魅力がある。ひとつは舟運。飛行機の発着やお台場、東京ゲートブリッジのような東京名所を海から見るコースが可能で、組み合わせれば湾岸満喫の旅ができる。 もうひとつは海辺に集積するスポーツ施設。大田スタジアム、森ケ崎公園、大森ふるさとの浜辺公園などと10カ所以上も集まっており、各種スポーツが楽しめる。しかも、今後、2020年に向けてさらに整備が進む計画という。提案次第では大きな変化が期待できるかもしれない。

左:舟運社会実験のルート 右:周辺のスポーツ関連施設の概要

※大田区では、羽田空港跡地を提案に盛り込んで欲しいエリアとしているものの、その他エリアでの提案も同様に受け付けている。

世田谷区の水辺事情

最後は世田谷区。同区の場合は二子玉川エリア。再開発で新しくなったエリアと古くからある商店街などが含まれ、兵庫島公園、二子玉川公園と2つの公園も整備されている。だが、駅を挟んで東西に長いエリアのため、まち全体としての回遊性が課題だという。また、せっかくエリア全体が多摩川沿いにあるにも関わらず、河川空間を活かしきれていないという問題意識もある。

s-area

世田谷区の対象エリア

二子玉川エリアにはかつて渡し場があり、料亭があり、鮎が名物だった。その賑わいを考えると、川から離れたところだけではなく、水辺での賑わいを取り戻したいということだろう。エリア限定の上にすでに出来上がった建物などがある状況で水辺に人の流れを作ろうという意図だとすると、なかなかハードルの高い課題のようだ。

二子玉川エリアの課題

各自治体の説明の後は休憩を挟んで質問タイム。どんな質問が出ているかを聞いてみたが、現段階では対象地区、テーマまで絞り込めていないグループが多く、自治体が期待するもの、現地の状況などについての質問が多かった。

kawasaki,ohota

今回の説明会への参加者は19大学からの59名(申込みは67名)。全体の参加者は昨年が33大学、54チーム、321名だったのに対し、今年は37大学、74チーム、399人となっており、この8年間右肩上がりに増えてきている。運営に当たっているJTB営業課観光開発プロデューサーの中島浩史氏によると全体として増えているのに加え、多摩川ステージは川崎市の実現を後押しする姿勢などが好評で、応募も増えているとか。多摩川の資源を活かすというテーマの分かりやすさ、積極的な告知も功を奏した。もちろん、そもそもの多摩川の身近さ、魅力もあるのだろう。これから8月の提案提出までの間に学生ならではの面白いアイディアが生まれてくることを期待したい。

編集註*主催者のご意向により、7月30日に修正を加えました。大田区、世田谷区とも、提案地域について当初記事中で限定している場所以外にも区としては受け付けをしており、そのことに対して学生への誤解を解きたいとのことで、修正させていただきました。

mv_logo

大学生観光まちづくりコンテスト2018

ウェブサイト
http://gaku-machi.jp

この記事を書いた人

中川寛子

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30数年不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)「解決!空き家問題」(ちくま新書)等。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。

過去の記事

> 過去の記事はこちら

この記事をシェアする