2019.02.18
オープンスペースビジネス最前線「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」の3年間の実績
初年度3カ月で約3万人が訪れた
新潟市で近年、夏を告げる風物詩と言われているのが、市内中心部を流れる信濃川の河川敷「やすらぎ堤」にオープンする萬代橋サンセットカフェだ。2007年に社会実験として始まり、2018年で13年目(2016年は萬代橋上流、以降は下流で開催)。それだけ続けられていれば、カフェのオープンを夏の到来と感じる人がいても不思議はない。
その信濃川の河川敷「やすらぎ堤」で2016年からさらに新しい試みがスタート、続けられている。「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」である。2011年の河川占有許可準則の改正により、これまで公的利用しかできなかった河川区域で民間事業者等による企業活動が可能になったことが契機となったものだ。
「実際に水面も含めた河川区域を利用するためには法令改正に加え、都市・地域再生等利用区域の指定を受けることが必要でしたが、新潟市ではそれまでに10年間続いていたサンセットカフェに加え、信濃川やすらぎ堤川まつり、萬代橋誕生祭その他のイベントで河川を利用してきた実績があり、それが評価されました」(新潟市都市政策部まちづくり推進課・西野廣貴氏)。
萬代橋から上流の八千代橋間の、国内でも最大級の18haという指定を受け、同年7月2日からスタートした「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」。市とそれまで河川を利用してきた事業者等が集まって「ミズベリングやすらぎ堤研究会」を作って共催という形を取り、有識者、地元の人たちからなる信濃川やすらぎ堤利用調整協議会からの意見を聞きつつ、民間事業者を募り、開催に至った。
「右岸に9店舗、左岸に2店舗の、主に飲食店が出店、7〜9月までの3カ月で約3万人が訪れ、新しい賑わいを生むことができました」(前出・西野氏)。
ただ、手探りで始めた初年度だけに、やってみていろいろ課題も分かったという。ひとつは見た目の問題。水辺近くに置かれたテーブル、椅子がごちゃごちゃした感じで、せっかくの水辺の広々とした景観を邪魔しているのではないかという意見が出た。水道、電気等の配線が堤を横切って店舗が出店する水辺まで伸びているのが邪魔という声もあった。業種の偏りや、ゴミ処理の煩雑さを反省する人もいた。
公募型プロポーザルでスノーピークが選ばれた理由
そうした課題を踏まえ、2017年には事業者間の問題や空間デザイン、現場管理などの全体のマネジメントを行う団体を公募型プロポーザルで募集をした。選ばれたのは新潟県三条市に本社を置くアウトドア用品等で知られるスノーピークだ。
同社が提案したのは「水辺アウトドアラウンジやすらぎ堤」というコンセプト。アウトドアと健康をテーマにして水辺を利用、地域や人に愛される賑わいのある場所を作ろうというのである。具体的には右岸を食事や団欒を楽しむアウトドアラウンジとし、左岸はヘルスゾーンとして健康と身体作りをサポートするエリアと位置づけ、それに合わせた事業者を配することになった。
業種が偏っているのではという指摘に応え、様々な年代、ライフスタイル、家族構成の人が楽しめるようにと出店者を選定した。景観への配慮としては水辺に配した客席に同社のテントなどを利用、すっきりとまとめた。これにはもうひとつ、万が一の出水時に備えるという意味もある。
「初年度は店舗、客席ともに洪水敷に作ったのですが、翌年は店舗を堤上部に、客席であるテント、タープを河川敷に配することで、配線が堤を横切ることなく、いざという時に撤去しやすくしました」(前出・西野氏)。
新潟市側も様々な手を打った。ひとつは利用しやすくするための堤の整備である。排水管の地下埋設や給排水・電源を格納する排水溝の整備、仮設の公衆トイレ設置、さらに夜間も楽しめるように景観照明を設置、開催時に利用できる臨時のフリーWi−Fiも用意した。市広報誌や市政ニュース番組でのPRにも力を入れた。
こうして開催された2年目のミズベリング信濃川やすらぎ堤2017は14店舗で開催され、利用者は前年比1.15倍の3万4400人ほど。初年度は12月までを開催期間としていたが、実際には9月末で閉店した店舗が多かったことから、10月1日までの開催となった。
2年目の成果は各種イベントが充実していたという点だ。定期的に開かれたヨガ教室、カヌー体験教室、親子向けアウトドア体験、マーケット、キャンドル作りワークショップなどなど、様々なイベントが開催されたのである。
「会場である萬代橋〜八千代橋エリアは繁華な商業エリアである万代シテイに隣接、何もしなくても天気の良い日には人が集まる場所です。でも、その空間に散策したり、走ったりする以上の使い方があることを多くの人に体験していただけたことは、水辺の使い方を広げる意味で重要だったのではないかと思います」(スノーピークやすらぎ堤事業運営事務局・捧大輔氏)。
この進化は翌年の2018年にも続いた。ダンスイベントやウェディング(!)、さらには水上に舞台を作っての音楽イベントなどが開かれ、水辺は様々に使える場であることが認識されるようになってきたのである。
水辺で新潟を元気にした先にビジネスがある
また、この年からは多様な来場者が利用しやすいようにと会場のゾーニングなどが行われた。具体的には「BBQゾーン」「ビヤガーデンなど大人中心の飲食ゾーン」「ファミリー向けゾーン」「一人で来た人など向けのテイクアウトゾーン」などが作られたのだ。 雨が降ると人出が途絶える、キャンプ場と違い、何か建てる場合には必ず申請が必要、そもそもイベント用に計画された場所ではないのでテントを張るのに苦労するなど問題、慣れない点もあるものの、運営としては軌道に乗ってきた感があるミズベリング信濃川やすらぎ堤だが、ビジネスとしてはどうなのだろう。
「アウトドアに関心のない人に弊社を知ってもらい、その楽しみを体感してもらえる場として考えており、その目的のためには非常に有効な場です。出店している事業者の中には弊社の調理器具を利用、それで料理を提供しているところもあります。もうひとつ、弊社は新潟の会社であり、地元としっかり組んで盛り上げていくことが何より大事。事業として大きな収益を目指すよりも、水辺で新潟を元気にした先にビジネスがあると考えています」(前出・捧氏)。
スノーピークだけではなく、新潟市もまた、信濃川やすらぎ堤の活性化が生み出す未来に期待をかけている。信濃川は新潟駅、1970年以降に順次再開発された商業エリア万代シテイと古くからの中心市街地古町のちょうど間を流れている。
「元々は新潟港を玄関として栄えてきた新潟ですが、今は駅が玄関口。その変化に伴い、駅に近い万代シテイが賑わうようになりましたが、古町には歴史、文化があり、これを活かさない手はありません。新潟市では万代シテイと古町を繋ぐ都心軸、そこに直行する信濃川を交流軸と考えたまちづくりを行っており、信濃川やすらぎ堤は市の今後に大きな影響を与える存在です」(前出・西野氏)。
キャンプを河川敷でやってみたい
さて、最後に今後について。ひとつ、遠来の利用者を増やすという手が考えられるが、それはまだ先と捧氏。
「利用者アンケートによると100人のうち、県外から訪れている人は10人いるか、いないか。将来的には観光資源とする手も考えられますが、まずは住んでいる人がまちのより良い楽しみ方として水辺に親しみ、幸せを感じていただくことが大事。その積み重ねの先に県外の人たちへの訴求があると考えています」。
ただ、まだまだ、やってみたいことはあるとも。
「弊社の本業であるキャンプを河川敷でやってみたいと考えています。都市の中心にありながら、水辺があり、広い空がある信濃川やすらぎ堤で自然と一体になるキャンプができたら、他ではできない経験になるはずです」。
安全、音の問題の懸念があり、現時点では実現にはハードルもあるというが、聞いているだけでも楽しそうだ。
もうひとつ、2019年に新潟港開港150周年を迎えた萬代橋を挟んで下流の、港湾部分と河川である上流部分を一体として考える活用も模索されている。管轄は異なるとしても川はひとつ。キャンプも含め、現在の問題が今後、検証を重ねることで実現する日を楽しみにしたい。
この記事を書いた人
住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30数年不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に「この街に住んではいけない」(マガジンハウス)「解決!空き家問題」(ちくま新書)等。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。
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