2016.09.01

「みんなが先生、みんなが生徒」の水辺づくり

「やったー!浮いたー!」。2016年7月10日、大きな歓声とともに、湖面にヨシ船が浮かびました。舞台となったのは、佐渡島にある新潟県最大の汽水湖、加茂湖です。日本百景に選ばれた景勝地で、カキ養殖業が盛んです。

加茂湖の風景の美しさは、多くの人びとを魅了します。しかしながら、湖の生態系は、危機的状況にあります。排水の流入や護岸整備の影響などによって、健全な水循環が失われ、富栄養化が進んでいるのです。2009年には赤潮プランクトンの大発生により、漁業が大きな打撃を受けました。

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環境悪化の要因の一つとされているのが、写真にある矢板護岸です。湖岸の8割以上が、こうした護岸で囲われています。湖畔の農地を塩水から守り、しっかりとした農道を整備するために、40年くらい前から整備されましたが、地下水の流入を遮断し、渚を消失させ、水環境の劣化を引き起こしました。

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加茂湖の環境を少しでも改善していきたいというのが、地元漁業者の切なる願いです。わたしは、アクションを起こしたいという思いをもつ漁業者や地域の人びとと協力して、水辺づくりの活動を進めています。人びとの連携のプラットホームとなっているのは、「カモケン(佐渡島加茂湖水系再生研究所)」という市民研究所です。2008年7月11日に、漁業者、行政関係者、研究者らが連携して設立しました。

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カモケンが最も力を入れてきたことは、湖岸にヨシ原を再生することです。水質の浄化や生き物の生息環境の改善などの効果が期待されています。また渚のスロープができることで、人が水際に近づくことができるようにもなりました。こごめのいりという小さな入江で始めた活動は、徐々に広がり、今では湖の複数地点でヨシ原再生の試みが進んでいます。豊かなヨシ原を育てるには、毎年の刈り取りが欠かせません。再生には、時間と手間がかかります。環境保全の取り組みを持続的なものにするためには、参加の輪を広げることが不可欠だと痛感しています。

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ヨシ船づくりは、加茂湖の保全の輪を広げるための試みでした。「本当に船なんてできるの?」わたしたちも半信半疑で、製作しました。秋に刈り取ったヨシをソーセージ状に束ね、それらを組み合わせて大きな船の形を作っていきます。カキ養殖で使う黒いロープを船体に巻きつけ、綱引きのようにして、みんなで両側から引っ張ります。きつく締めていくと、船の形が徐々に姿を現します。ヨシという植物に、新たな命が吹き込まれていくようでした。

船づくりには、子どもから大人まで、予想以上にたくさんの参加者が集まりました。また来年も作りたい、そのためにも日々の湖の保全活動に貢献したいと、多くの人が話してくれました。ワクワクすることを一緒に体験すること、特に力を合わせて何かを作り上げることのパワーを実感しました。少しずつ、加茂湖にかかわる人が増えています。人がつながることが、やがて大きな力となると、わたしは信じています。

カモケンのモットーは、「みんなが先生、みんなが生徒」です。フラットな関係をつくり、互いに学び合おうと呼びかけています。さまざまな人の経験、知識、感性を学ぶ場をつくることで、わたしたちは、加茂湖の新たな価値を発見できるからです。これからも、この水辺を舞台に、多彩な声を共有する場をつくり、加茂湖を地域の宝物として育てていきたいです。

この記事を書いた人

豊田光世

新潟大学 研究推進機構 朱鷺・自然再生学研究センター准教授。佐渡島への恋が実り、2015年の秋から島へ移住。島の人びととともに、暮らしやすく魅力的な地域を作るための取り組みを展開しています。専門は環境哲学、合意形成学、環境教育、対話教育。

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