2016.05.25
私の研究活動と東京川ガール
私は、「東京川ガール」の立ち上げの時に関わらせてもらいました。現在は、大学院で「環境を学ぶ人の学習意欲」について研究活動をしています。簡単に言えば、環境を学ぼうとする人がもっている意欲(やる気)を調べています。「あの人の勉強に対するやる気はすごい」と思われたことはありませんか。少し古いですが「意識高い系」のような言葉で形容されることもあります。
そうして日常的に見られる「学習意欲」の中でも「環境を学ぶ人」の「学習意欲」は、どんなもので、どんな要因から生じるのか、そんなことを調べています。
川に行かずに川を楽しむ
環境を学ぶ意欲を高めるには、実際の自然と触れ合うような体験が大事だとよく言われます。確かに、五感を使っていろいろなことを体験すれば、得るものは多いでしょう。川ガールの取り組みも川に実際に行ってもらうことは目的の一つです。
でも、実際に川に行くのはおっくうだという方もいるでしょう。そんな方におすすめしたいのが、映画の中にみる川です。既に「東京川ガール川活通信」の記事に、石井竜也監督「河童(1994)」の話や「借りぐらしのアリエッティ(2010)」のモデルとなった野川の話が出ています。こうした話題と関連しますが、映画を見ることが川に親しみをもつきっかけになることもあるのではないでしょうか。
映画の中にみる川
映画の中でも川の景観は楽しめます。しかも、どんな時代の、どんな場所にある川でも楽しめます。どこに住んでいても、東京の川はもちろん、海外の川だって見ることができますし、映像さえ残っていれば数十年前の川の様子だって見ることができます。加えて、「借りぐらしのアリエッティ」にみる野川や「時をかける少女(2006)」の荒川河川敷のようにアニメーションの川を見ることもできます。実写では味わえない表現で、川を楽しめるのではないでしょうか。
また映画ならではの要素として、ストーリーと川がどのような関係になっているのかに注目するのもおもしろいかもしれません。例えば、リチャード・リンクレイター監督「Before Sunrise 恋人までの距離(1995)」では、登場人物の男女が、作中の出来事を通してどのくらい親しくなったのかを、川沿いで偶然出会った詩人に作詩してもらうシーンがあります。この詩の内容には”川の流れ”の表現があり、登場人物の関係を川と重ねて考えてしまうシーンです。こうした「登場人物の親密さ」と「川」と「詩」によってストーリーが進行する印象的な場面になっている…と私は思います。
海外にある川の景観を楽しめる何気ない1シーンでも、川がストーリーの中でどんな関係か注目すると、川がより一層印象的に見えてきます。
私の研究にも関係しています
今回の私の記事は、室内にいながら、映画をみることで川を楽しむという提案でした。川の印象的なシーンをみると、映画の中で登場する川に興味が出てきた、実際に行ってみようかなと思う人も出てきます。「あ、ここがあの作品に出ていた川か」と思うと、ただ川に出かけるのと違った味わいがあるかも。
さて、これまで書いてきたことは、一見「環境を学ぶ」や「学習意欲」と無関係に見えますが、実は環境を知りたいという「学習意欲」を高める取り組みに結構関わります。映画に限らず、小説、漫画、写真などを用いることで、「実際に行ってみたい」、「もっと知りたい」などの環境へ「意欲」が向上するかは私の研究活動に大きく関連するのです。そういう意味では、映画を見ることがきっかけで少しでも多くの人が川に興味をもち、川に行ってみようと思う人が増えることは、私にとって大事なことなのです。
この記事を書いた人
東京学芸大学大学院修士課程修了。現在は、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士後期課程に在籍。 修士課程までは、環境教育を専門に、インド原産の雑穀の遺伝的解析等を行ってきた。自らの環境教育に関する研究への動機づけの変化や、周囲に存在する環境学習に意欲の高い学生の意識がどのようになっているのかへ関心が高まる。その経験を基に、現在は環境教育に関わりを持つ学生の「学習意欲」の構成内容と成立要因の把握を、心理測定尺度(質問紙)の作成等の手法を用いて研究を進めている。
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