2015.07.23

にぎわいを再創出する歴史的港町・酒田②
地元酒田を漕ごう!みなと一周16kmカヤックツーリング

地図を開いて水路探し!?そこから始まる港町酒田の水路巡り

地図を開いて水路探し!?そこから始まる港町酒田の水路巡り

こんばんは。水主の糸井です。
7月。海の日を過ぎ、日本各地で夏の暑さに直面しているこの頃ではないでしょうか。
夏はやはり水辺のハイシーズン。
海水浴だけでなく、各地の都市の水辺、河川、そして港も賑わいを見せています。
山形県酒田市では、今年も7月にカヤックで地元のまちを一周し水上を見るイベント「酒田みなとカヤックツーリング」が行われます。このイベントを主催する健康づくりを主目的とする地元のNPO法人「元気王国」により、往年の名港・酒田の水辺が開かれてきました。
最初のきっかけは、地図を開いて地元の水路を探していると実は水路を使って酒田のまちを一周できるのではないのか?という妄想を膨らませるという所から始まり、実際にイベントとして実証してみようという動きになりました。
また、イベントに併せ、社会実験としてカヤックの練習を定期的に「朝活」として地元の水辺で行い日常的に利用できる環境に整えていくということも、ねらいの1つです。今年も「酒田みなとカヤックツーリング」は7月26日に実施される予定です。
本稿では昨年2014年に行われた「酒田みなとカヤックツーリング」の様子をお送りし、水路マニアの私が感動した酒田の水辺をみなさまに実況していきます。

 

最上川酒田港位置
山形県酒田港は、山形県を縦断しその文化や産業を育んできた最上川の河口に位置する。
江戸時代には「西の堺、東の酒田」と並び称される日本随一の名港として発展し、現在新たに市民が利用し賑わいを再び生み出していく場として機能しつつあり水辺の街・酒田。詳しくは本シリーズ第1章を参照。

酒田でいちばん暑い夏

今回「酒田みなとカヤックツーリング」という水辺イベントの対象となる山形県酒田市は、北緯38°と日本の北部に位置するため涼夏を期待しておりましたが、この酒田を含む庄内地方特有の気象のため、日中は私が住む東京よりも暑い状況に。
「酒田みなとカヤックツーリング」当日2014年7月26日の気象を見ると、日本海に浮かぶ低気圧へ向かって太平洋から張り出した高気圧から暖かく湿った空気が流れ込む状態でした。
ただ、日本海へと向かう気流は途中標高1000m~2000m前後の山々が連なる奥羽山脈で遮られ、太平洋側から湿った空気が山沿いに上昇すると、水蒸気が冷やされ雲になり太平洋側で雨を降らせます。水蒸気を取られ乾いた空気は奥羽山脈を越え、庄内地方に熱風がなだれ込むのです。
これが「フェーン現象」という気象であり、特に日本海側の地域で多く見受けられる現象です。
この乾いた熱風の影響で、イベント当日は35℃と猛暑日となり、前夜にいただいた酒田の食のおかげでなんとか熱中症から復活したばかりの私の身体をじりじりと炙っていったのです。

2014年7月26日イベント当日の気圧配置図(左)。太平洋高気圧から湿った空気が日本海の低気圧へと運ばれるのだが、途中奥羽山脈に遮られ、乾いた熱風が日本海側の酒田へと運ばれる(右)。

さぁ、そんな暑い酒田港でのカヤックイベントですが、その後背地もまたアツく盛り上がっております。
酒田港の賑わいどころである酒田みなと市場を中心に「みなとオアシスまつり」が開催されています。
みなとオアシスとは、地域住民の交流や観光振興の場として地域に根ざしまちづくりの核として「みなと」を利活用していこうという施設の総称です。
ここでのイベントの一環として、「酒田みなとカヤックツーリング」も位置づけられています。こうすることで、港という少し利用するには難儀な水辺でも比較的認知されやすいのです。

酒田港のみなとオアシスまつりに集まった酒田・山形・東北に関係するご当地キャラクターたち(左)。
本来は一般利用ができない港の倉庫群も交流拠点用地として利用される。(右)

港町酒田を一周してみよう

このイベントの魅力を簡単にお伝えすると、「酒田の港湾区域と河川を利用することで、酒田という歴史ある港町を水路で一周することができる」ということ。つまり、あるエリアを往復ではなく一周できるということは、常に異なる景色を楽しめるということがポイントです。特に水路を使って街中を一周できるという水辺は、水辺の国日本でもなかなか稀な条件なのです。
では、いざパドルとカメラを携えて、水上へと繰り出していきましょう!

酒田みなとカヤックツーリングコース。
まずは地図を広げて好奇心を持つこと。この考えが今回のイベントのきっかけとなった。

朝早く集まった参加者たちは、酒田市民はもちろん東北から関東まで多くの方が募り参加者はスタッフ入れて40名を越えました。
酒田一周16kmを漕ぐツーリングコースと、中継地点である酒田の街中に流れる新井田川からスタートする7kmのビギナーコースとコースを2種に分け、両コース合流して酒田港のゴールを共に目指すというプランです。

選手宣誓を行い、まずはツーリングコース参加者が水面へと離陸していきます。
離陸して第一の水辺は酒田港本港。
港湾区域と定める場所というものは、主に港湾業務に支障を来す活動を嫌う傾向にありますが、これも第1章でお伝えした元気王国の取り組みにより、管轄する港湾事務所からのサポートを受けられる状態になり、より円滑に利用可能な空間になってきたのです。

酒田本港第1船溜まりは、水面へ向かって斜面があり、カヤックにとっては絶好の入水ポイント。

ここは江戸時代に繁栄した酒田港の入り口であり、現在でも漁船や離れ島である飛島までの定期船、石油を運ぶ小型タンカーや、小型の物流船など多種多様な船が行き交う酒田港の表玄関です。
まさに江戸へ出航するような気持ちで、酒田港の出口に設置された白灯台へと向かって漕いで行きます。
酒田に住んでいるカヤックの漕ぎ手の皆さんの多くも、この港湾エリアで漕ぐことが初めてとのことで、「ようやく地元を漕ぐという念願が叶った~」と感無量!

灯台を過ぎ北へと針路を向けると、酒田外港が始まります。
少し沖合いに設置された防波堤により、沖合いよりも比較的穏やかな水域ですが、初めてカヤックの方には最初の難所でしょうか。
ただ、この港湾エリアではサポートに伴走船がいるので上手く利用し少しずつ休憩を取りながら酒田の北に聳える鳥海山に針路を取りダイナミックな景色を楽しんでいきます。

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酒田のシンボル鳥海山、そして酒田の新たな産業である風力発電用の大型風車が臨海部に林立する景色が見える外港エリア。

こうして酒田港北部へとやってきました。
ここ酒田北港は、酒田のリサイクル産業の施設を後背地に持つ静脈物流の要であり、酒田本港とは異なるリサイクルポートという顔として現在機能しています。
左右岸壁には大きなコンテナ船やタンカーなどが接岸している中を参加者まとまって湾の奥にある貯木場跡をすり抜けて水路へと入っていきます。

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貯木場跡を抜けると、ビギナーチームと運営スタッフが応援のため岸壁にて待ち構えている。

ここから、新井田川水系の豊川。
豊川からゴール付近までは水深も浅く、かつ水面から架けられている橋までの高さが低く小型船舶も通れないため、ここで伴走船とはお別れです。
伴走船なしで少し心細いかもしれませんが、カヤックを川幅いっぱい使用して漕ぐ楽しさを味わえる河川をこれから通り抜けていくのです。これも自分の力で水辺を楽しむことができるカヤックの醍醐味の1つ。

豊川に入り巨大船が停泊する酒田北港と比較すると、徐々に川面と川岸との距離は近くなり、また無機質な港湾から両岸が林に覆われ夏草生い茂る平野の中へと水辺の景色がガラリと変わるのです。

ゆったりとした時間が流れるカントリーサイドな水辺。歌でも口ずさみながらゆったりと漕いでいきたい空間。進行方向左手には鳥海山が映える田園風景。

1時間に1本通るかどうかのJR高架下を潜り、水路の交差点を左手へ曲がると、幸福川の始まりです。
徐々に川岸の隣には住宅が見え始め、柵がない川の護岸は斜路になっているので、地元の人が川へ繰り出すには十分な環境が整っています。
東京や横浜などの都市に住んでいて常に水上への動線を封鎖された環境にいる私が嫉妬するほど、街中の河川のあるべき姿がこれから徐々に見えてきます。

再び水路の丁字路が出現。右手へと曲がると、参加者全員と合流します。
ここが酒田で最も注目すべき新井田川の中継ポイントであり、ここからビギナーコースの参加者と合流して、全員でゴールの酒田本港を目指します。

休憩ポイント。ここを中継ポイントとしてビギナーチームと合流。
この中継ポイントの後背地には、酒田海洋少年団が訓練で使用するカッターボートの艇庫があり、新井田川へと降りる階段がきれいに整備されている。
ここで、元気王国がカヤックの練習の場として利用し始めたことで新たな水辺の拠点となってきている。

酒田を象徴する水辺、新井田川から酒田港へ

ここ新井田川は、江戸時代に名港酒田の街中深くへと繋がる内川として利用され、現在でも河川の沿岸部は山居倉庫や港湾施設と調和した景観を持っているのが特徴です。
河川敷は、地元の有志の方で構成される「心のふるさと新井田川の会」により花壇が整備され常に美しく、また街中を通る川沿いの道路から河川敷、そして水上までの動線が一帯となった利用しやすい水辺を形成しているのが最大の魅力です。
新井田川周辺にはスーパーマーケットなどの商店やカフェなどもあり、そして山居倉庫などの歴史的な港湾施設が沿岸に残され、まさに新井田川、そしてその河口に位置する酒田港本港という水辺を中心としたまちづくりが近世から成され現在まで至ります。
そんな新井田川をこれからツーリングしていくわけですが、地元高校のカヌー部が伴漕し、橋からは「心のふるさと新井田川の会」の横断幕が張られ、酒田の街が一体となったパレードのように新井田川を酒田本港へ向けて進んでいくのです。

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他船舶もなかなか通航しないため川幅いっぱいにカヤックが並びツーリングする風景。河岸は歩道があり、すぐ後背地は公道、そして住宅街や商店などが立地する。(上)
河川敷のゴミ拾いや花壇の整備など長年新井田川をきれいにしようと活動を続けてきた心のふるさと新井田川の会が横断幕を作成し橋に架け応援のために駆けつけた。地元の水辺のバトンが繋がっていくような光景。(中)
橋梁が工事中のため注意喚起の看板が見える。これは普段船が通航しないこの河川にて、カヤック航行のためにわざわざ架けられたという。カヤックなどの水上アクティビティが認知されていく過程で生み出されていく大切なサインだ。(下)

地元を再度確かめるかのように漕ぎ進める参加者たち。朝活カヤックの成果を存分に発揮するようにビギナーコースに参加した方も爽快に漕ぎ進め、街中から酒田本港へと抜ける最後の水路に山居倉庫が見えてきました。

山居倉庫裏

現在この景色は観光スポット山居倉庫の裏手なのだが、船から荷を降ろしていた水辺の街としては表玄関がこちら。カヤックで上陸して観光するというのもプログラムの1つになってくるだろう。

山居倉庫へと繋がる橋の上から釣り竿の先端に差し入れが入った駕籠をつけ、水上へと釣り糸を垂らし物資補給作戦。駕籠の中にはパンやプラムが。栄養補給を水上で行い、いざゴールへ!

徐々に水路が開けてきて、今まさに港から船出をしようかという気分になってきます。山居倉庫が立地する新井田川河口から酒田本港にかけて他船舶が両岸に見えてきたので、カヤック参加者はまとまって酒田本港の岸壁沿いを通航していきます。

酒田本港の酒田みなと市場付近で行われている酒田みなとオアシスまつりを横目に手を振りながら進むと、正面右手から空高々と放水が見えます。
これはみなとオアシスまつりに参加している海上保安庁の船舶がカヤックに向けて放水してくるのです。
海上保安庁とカヤックイベントを主催する元気王国とがお互いを認知し信頼しているサインがこの放水なのです。まず他の水辺では見られない光景です。

火照った身体に上から降り注ぐ水が冷たくて気持ちいい。
海上保安庁からこんなサプライズプレゼントがあるフィナーレ。

水路を利活用していくことで復権する酒田の水辺

こうして参加者全員無事にスタート地点であるゴールへと還って参りました。
ビギナーコースは7km、そして一周ツーリングコースは16kmと距離もなかなかあったわけですが、これで酒田は水路で一周できるということが実証されたわけです。
ただ、その証明だけではなく、実際に漕いで見て実感したことは、酒田は元来水辺から生まれた街であり、その水辺の街が人や文化を育み、現在でもその片鱗が街の至る所に残っています。
酒田も含め、日本の往年の名港ほどカヤックにとって漕ぎやすいフィールドはありません。
酒田の町から水面への動線が現在でも残されカヤックの乗り降りには十分利用しやすく、そして港を中心とした水辺の賑わいをサポートする行政があり、酒田という水辺での市民活動はカヤックの導入により再び活力を得て、ちょうど「酒田みなとカヤックツーリング」というイベントをきっかけに再び水辺の文化が花開いていきます。
これから地元だけでなく多様な人たちが酒田の水辺へ親しむ環境が整っていくことでしょう。
カヤックを使い水上に多様な人々が出て行くことが新たな港のあり方です。
水辺は多種多様なの人に見られ利用されることでより美しくなっていきます。その着火をこのカヤックツーリングが担い、そして年々大きく水辺の復権が成されていくのです。

ゴール後の全体写真。
運営を担う元気王国スタッフ、地元水辺に興味を持った酒田市民、酒田港に関わる行政マンなど、オール酒田で臨む実証実験。
それが酒田みなとカヤックツーリング。

このように、地元の水路を漕ぐと一周できるのでは?という疑問が仮説となり、多くの参加者と共にカヤックというツールで一周することにより実証された酒田という水辺の街を漕ぐチャンスが今年もやって参りました!
今年も7月26日(日)に酒田みなとカヤックツーリングを開催します。
酒田の美味しい食と併せて、港町酒田を水上から辿る小さな旅を是非カヤックで堪能してみてください。
申し込みは元気王国のホームページより。
今年も、アツい夏が始まります。

この記事を書いた人

水主(櫓や櫂による舟の漕ぎ手・「かこ」と呼びます)

NPO法人 横浜シーフレンズ理事(日本レクリエーショナルカヌー協会公認校)
帆船日本丸記念財団シーカヤックインストラクター
水辺荘アドバイザー
横浜市カヌー協会理事

糸井 孔帥

東京海洋大学大学院(海洋科学)在学中に、東京や横浜で海や港のフィールドワークをシーカヤックを通して学ぶ間に街中の水辺の魅力に引き込まれ現在に至ります。 大都市の水辺は、多くの旅人が行き交い賑わう場所で、また自然と対峙するアウトドアでもあります。 水辺をよく知ることが、町や歴史や国を知り旅の深みを増す契機となり、 また水辺の経験により自己を顧みる機会となります。 日本各地において水辺の最前線で活動しているプレーヤーの紹介を通して、水辺からの観光、地元の新たな魅力、 水辺のアウトドアスポットに触れる機会を作っていきたいです。 シーカヤックインストラクター(日本レクリエーショナルカヌー協会シーシニア)、一級小型船舶操縦士、自然体験活動指導者(NEALリーダー)。趣味は、シーカヤック・SUP(スタンドアップパドルボード)スキンダイビング・シュノーケリング・水中ホッケー・カヌーポロ・ドラゴンボート、そして島巡り旅。

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