2014.12.03 Wed

にぎわいを再創出する歴史的港町・酒田①
酒田にてカヤックイベントを主催する元気王国の取り組み

にぎわいを再創出する歴史的港町・酒田①<br>酒田にてカヤックイベントを主催する元気王国の取り組み

山形県酒田という歴史的な水辺でカヤックを使ったイベントを立ち上げたNPO法人 元気王国
健康づくりを主目的とする元気王国が地元水辺の利用を狙う

地域での健康づくりを目指す元気王国の水辺へのチャレンジに密着

にぎわいを再創出する歴史的港町・酒田①
酒田にてカヤックイベントを主催する元気王国の取り組み

こんにちは。
吹き始める木枯らしにもうすぐやってくる冬を思い出す今日この頃ですが、
今年も多くの水辺を季節を追うように旅してきた水主の糸井です。

さて、そんな水辺を巡る旅先で私が今年最もインパクトを受けた水辺を今回ご紹介いたします。
対象となる水辺は、酒田という街です。
2014年7月末に、私は山形県酒田市において実施された「第2回 みなとカヤックツーリング」という水辺のイベントに参加してみました。
酒田という歴史ある港の中をカヤックを使って酒田市民の有志、そして市外や県外から参加するカヤッカーたちと共に、酒田港1周16.2kmを漕破するという、とても面白いイベントです。

このカヤックでの酒田港ツーリングというイベントを通して、酒田という由緒ある水辺の街に住む市民と、その水辺の管轄をする行政との絶妙なタッグを、シリーズ「にぎわいを再創出する歴史的港町・酒田」として3回に渡りお送りいたします。

具体的には、今回このイベントを主催した「NPO法人 元気王国」理事長の佐藤さんとのインタビュー、イベント本命の「酒田港一周ツーリング」、そしてイベント会場となった酒田港を担当する役所との意見交換会、この3つに分け酒田という水辺を紹介していきます。

まず本稿で紹介するのは、酒田という水辺に着目した「NPO法人 元気王国」理事長の佐藤さんの活動についてです。
酒田という歴史ある水辺を紹介しながら、その取り組みを追っていきましょう。

港町酒田に潜入せよ

酒田という山形県屈指の水辺の街をみなさんはご存知でしょうか。
山形県内を縦断するように流れる最上川の河口に位置し、正面は日本海に開けているという、立地としては申し分のない天然の良港なのです。

山形県全体および周辺地図。最上川という大きな河川が縦断し、酒田へと注ぐ。
上流へと向かう船には、塩や砂糖、海産物、木綿や茶が載せられ、
下流へと向かう船には米や紅花、大豆などが載せられ舟運の場として機能していた。

最上川は山形県米沢市内から新庄市まで内陸を北上、その後西へ転進し酒田から日本海へとを流れる一級河川で、その支流を含めた流域面積は山形県の7割以上を占めています。
みなさんが良く利用するであろう「駅」という言葉は、もともと古代律令制に伴い整備された官道において馬を乗り換えるターミナルであったのですが、
この山形県(当時出羽国)では「水駅」というものが存在し最上川水系の要衝に舟の乗継場があったとのこと。
出羽国は険路のため馬という陸路の交通だけの移動よりも、最上川という水路を利用することも選択肢の1つとして考えられていました。
中世以降も官道としてだけでなく水運としても利用され、上流域と下流域を結ぶ重要な道だったのです。

そんな最上川の河口に位置するのが酒田という港町。

酒田港の位置。北にはシンボルとなる鳥海山そびえ、北西には飛島が見える。

古代から中世にかけて、坂田あるいは砂潟という名の町は最上川河口の砂洲に栄えていました。
繁栄のきっかけは、江戸時代初期に河村瑞賢という商人が、酒田を起点とした下関経由の江戸まで至る西廻海運(北前船)の整備したことで、酒田はその周辺地域である庄内だけでなく日本全体において重要な拠点となってきたのです。
並行して最上川舟運の開発も行われてきたので、より効率的な水運利用が行われてきました。

小鵜飼船。
最上川舟運のメインとなる250俵を積載できる艜船(ひらたぶね)に対して、50俵積載と小型。
上流部の川幅の狭い水路にて近距離輸送手段として重宝された。

そのため、最上川河口の酒田から上流の米沢までの縦軸、酒田から日本海を通り下関経由で大消費地大坂・江戸とを結ぶ横軸が交錯する重要拠点(チョークポイント)が酒田であったのです。「西の堺」に並び「東の酒田」と称され日本最大の水辺の街でありました。

そんな酒田港は商人や船乗りなど多くの人々と物、そして情報で大賑わい。
「ほんまに酒田は良い湊、繁盛じゃおまへんか」と酒田甚句に歌われるように西の言葉も飛び交い多くの人々が交流しています。
まず酒田港で上陸した船乗りたちは、酒田の港すぐそばにある日和山で日枝神社を参詣。


日枝神社鳥居(左)と本殿(右)
佐藤さんを始め地元の人たちの幼少期はこの辺が遊び場だったという。

その後、酒田の町中へ繰り出していくとのこと。
ある人は夜の街で遊びほうけ、ある人は女房に渡す酒田土産を探し、ある人は相馬屋の奥深くで密談をすると。

多くの商人が利用した相馬屋。
赤を基調とした広間では飲み食い大いに騒ぎ、倉を利用した密室のような部屋では密談をしていたとのこと。

その中で日本最大の地主と謳われる本間氏が登場。
本間氏は、防風林や灌漑事業で酒田のインフラを整備していったのです。
私腹を肥やすことよりも公共事業へと投資し、さらに町と共に発展するという本来の商人の在り方を見ることが出来ます。

本間家別荘
諸国の珍石が庭園に使用されている。
酒田へと運ばれた石を冬季の荒れた海で仕事を失くした人たちに救済事業として造園ための人員へと登用したという。現在は美術館としても機能。

江戸明治と繁栄した港町も、鉄道の登場や道路網の発達という交通網の変化により舟運文化が絶えて衰退していきます。
港という場所は、生き物のように変遷していくもの。
時代の趨勢、船舶や鉄道を含む交通網の変化により立地が変わっていくのです。
そんな酒田という歴史ある水辺を新たな活力で復権していこうとする動きがあるので、私は見逃さずに潜入してきました。

米穀倉庫として機能していた山居倉庫、そのケヤキ並木。
建物は現在農協が管理し、12棟残っている。一般公開されているのは3棟。

酒田の水辺を開放せよ。元気王国の挑戦

今回、酒田において開かれるイベント「第2回 酒田みなとカヤックツーリング」を主催する「NPO法人 元気王国」とは、どんな団体なのでしょうか。
理事長の佐藤 香奈子さんにお会いしたのは、もともと別のイベントでした。
それは、「酒田飛島カヤック横断」という毎年6月上旬に行っているイベントです。
この酒田から飛島までの距離はなんと約40km!
しかもずっと海岸が見えるような沿岸域航行でなく、日本海の大海原へと繰り出し水平線の向こうに見える離れ島・飛島を目指すのです。
そんな無謀とも思えるイベントを発案し運営する方々であるなら相当な海も猛者であろうと考え、私も今年6月に飛島横断を挑戦してみました。
結果、海の状況は大時化。横断は断念し、酒田港と飛島間を繋ぐ定期船にカヤックを載せ飛島へと渡り飛島カヤックにてイベントは終わりを告げました。
そこで、「この飛島横断もいいですが、ぜひ酒田港一周ツーリングに参加してください!」と佐藤さんに言われ、私は今回取材のため再び酒田を訪れました。

飛島近海の海は美しい。
変わった形の島々が広がっている。

そもそも、飛島横断という40kmもの海原をカヤックで漕ぐというイベントを作ったのですから、普段カヤックに関するお仕事をされているのですか?
いえ、ぜんぜんそういうわけではないんです。
カヤックは学生のときに始めましたが、東京やニュージーランドで趣味の延長で活動していたくらいで。
地元である酒田に戻ってからもカヤックの活動をしていましたが、
たまたま雑誌の取材で飛島を案内したことがあり、「いつかは飛島横断してみたい」と書いたことがきっかけでした。
雑誌を見た方からの問い合わせが多くなり決行を考え、まずは海上保安庁に相談してみたんです。
すると回答はシビアなものでした。「なぜカヤックでやるのか?」と。
海上保安庁としてはダメという権利もないですが、最初の3年間はただ怒られながら指導受けていた状態です。
また、イベントの復路は酒田と飛島を繋ぐとびしま丸に積載して酒田へと帰りたかったのですが、こちらの交渉も難航しました。
この飛島横断を企画サポートしてくださる遊快倶楽部さんがうまく対応してくださり、徐々に認知されるようになり、現在カヤックを載せることが可能になってきたのです。


酒田と飛島を結ぶとびしま丸でのカヤック積載風景。
島国である日本では、多くの貨客船が島々を結んでいるが、船にカヤックを積載できるかは船会社とそれを求める乗客次第なのだ。

なんと大胆な!僕は、その飛島横断に際し水平線の彼方にあるであろう飛島を探し身震いしたのを覚えております。
それでは次に、今回のイベントを主催された元気王国の活動を教えていただけますか?
元気王国は、介護予防のための健康づくりをサポートすることを目的として2006年に立ち上げた会社なんです。
元気王国のスタッフは、あくまで健康づくりが主体です。
運動支援で介護を側面からサポートする運動指導員として地域に貢献するべく、酒田のシャッター街と化した商店街の真ん中に空き店舗対策として元気王国の店舗を構えました。
その場所は、私が子供の頃に実家のスポーツ店「とがしスポーツ」があった場所だったのですが、1976年に酒田で大火事があって商店街全体が焼失後、人通りが多い国道7号沿いに現在はスポーツ店を移しました。


商店街の中央に位置する元気王国の店舗。

健康づくりを目的とする元気王国とは別でとがしスポーツ店を経営されているわけですが、今はmont-bellの店舗としても機能しています。
なぜ、mont-bellという大型アウトドアブランドを入れたのでしょうか?
地方都市の個人経営しているスポーツ店って、ここ1~2年でその数が半減するんじゃないかと言われています。
その原因の1つは少子化と、それに伴う学校の合併です。
スポーツ店というものは子供の買い替え需要が大切なのですが、少子化により子供の絶対数が乏しく、また学校の合併が拍車をかけます。
一方、ネット販売の浸透や大型店舗の地方への進出が広がっていって、このとがしスポーツも含め多くのスポーツ店が厳しい経営状況に陥っていたのです。

そんな中、並行して活動する元気王国では、mont-bellが主催する環境スポーツイベント「Sea to Summit」の地域への導入に成功することができました。
「Sea to Summit」は、その名の通り海から山頂までを人力で目指し、その中で人と自然の関わり方を再考するイベントなんですが、おかげで多くのことを学び多くの繋がりを得ることができたんです。
そんな状況で、私はモンベルショップがこの地域に必要だと感じていたたため、モンベルショップとしてとがしスポーツを一新させたのです。
こうして、地域のスポーツ店としてだけでなく、全国展開しているアウトドア店としても機能することができるようになったので、より活動に幅を持たせることができるでしょうかね。


今年4月にプレオープン、6月末にグランドオープンした「とがしスポーツ mont-bell room酒田店」にお邪魔。

飛島横断で認知され活動の幅が広がったこと、mont-bellの「Sea to Summit」の導入など、今までの活動が上手く反映され、今回のイベント実施に至ったのでしょうか。
その2つは大きいと思います。
どちらも、行政や地域からの理解を得る、そして運営するスタッフの確立。これが大切です。
例えば、「Sea to Summit」に関しては、
まず対象となる鳥海山は県を跨いでいるため、4つの市町村に説明に行かなければなりませんでしたが、なかなか1年目では足並みが揃いません。
1番大変だったのは、山岳のガイドさんたちへの説得でした。
対象となる鳥海山自体範囲が広いので、一般の人たちを入山させるのは危険と判断されたのです。
1年目は怒られ続けましたが、年々コミュニケーションを取れる環境となり、4年目となる今年は前向きな意見や検討案が出てくるいい環境となりました。
「Sea to Summit」は複合競技なので、全体をまとめるというよりも、それぞれの現場や行政の理解を得ること、これが大切だということを学ぶ機会となったのです。


とびしま丸から眺める庄内平野のシンボル鳥海山。

飛島横断もそうですが、安全を最優先に考えながら、粘り強く目標達成のために活動し理解を得る。その傾向が大切だということが分かりますね。

実は、今回の酒田一周カヤックイベントの発端となったのは、「この酒田港って一周できるよね?」というある酒田港湾事務所長を当時担当されていた方がぽつりと言ったことからでした。
地図をよく見ると、港と街中の水路を使用すれば、この酒田という街を一周できるのです。
この酒田港の所長さんは、「Sea to Summit」に積極的に参加していたことがきっかけで、いろいろ水辺の利用についても相談に乗ってくださる方です。
そこで酒田港という水辺に関わる役所の方も紹介してくださり、2013年に酒田港カヤックツーリングの第1回を開催するに至りました。
昨年のものは、本港前からスタートし、新井田川の入り口に位置する山居倉庫での往復という漁協や港湾に配慮し距離を短く取りましたが、
今年は一周16kmを漕ぐと大きく踏み切りました。


酒田港を分類すると、3つに分けられる。
江戸時代からメインの港である本港地区。
沖合いに位置する外港地区。
リサイクルポートとして静脈物流を担い、かつコンテナバースが設置されている北港地区。
そして、新井田川の水路を通ることで酒田という水辺の街を一周できるのだ。

ここ庄内や東北地方からカヤッカーが多く集まったわけですが、一般募集で初めてカヤックをやる方も参加できるのが、この第2回目の目玉と聞いてますが、いきなり16kmを参加させるのですか?
いえ、今回のコースは2ブロックに分かれています。
一周16kmのコースと、途中新井田川から参加するビギナー向けの約5kmのコースです。
一般募集で初カヤックを参加するビギナーの方は、前もって朝練があります。
最近流行っている朝活のように「カヤック練習会」をこのイベント前後で7回開催してきたのです。
予め練習をしておくことで、より楽しいツーリングとなりますからね。
もちろん、今回助成いただいた日本財団さんの考えでもあったので朝やってみましたが、最近までカヤックなんて考えたことなかったような方達が、水辺に触れる機会としてビギナーコースを設けることができたので、これからも地元の水辺を利用していく層を厚くしてきたいですね。
カヤックやカヌーのイベントというものは、だいたい参加者が固定となる傾向が高いのですが、そうやって層を広げる活動をしていくことができる環境は大切ですね。
今後はこの活動をどのように発展させていくのでしょうか?
この酒田港、特に新井田川は利用がしやすい河岸なので、これからもカヤックの活動を展開していきます。
同じ庄内ですが隣町の湯野浜温泉を経営する若手からは、酒田のカヤックでの活動を参考にして温泉宿のオプションツアーとして海水浴場の堤防内でやりたいという要望もあがっています。
このように酒田のみに限らず庄内全体として活動を展開しながら、元気王国は健康づくりという軸として、
地元の人が庄内だけで活動を留めるのでなく、将来日本や世界へとステップアップしていくための場を提供できる団体として機能できればと考えています。
この庄内を含めた東北、日本の各地にその機運が高まっていると思うんです。
例えばカヤックのガイドなんかも、この庄内を含めた東北はとても活動するには良好なフィールドなので、もし誰か変わった人がいたら紹介してください。
こっちの人は方言で最初は何言ってるか分からないでしょうけど、ご飯はとても美味しいからぜひともお待ちしております。


山形県だけでなく隣接する秋田県や新潟県、太平洋側の三陸地方までアクセスが可能。
写真は、新潟県村上市にある名所「笹川流れ」にて

たしかに、こちらのご飯は絶品なのです。
実はこの取材、私は熱中症の状態で臨んだわけなのですが、イベント前夜に呼ばれた会食で頂いた海の幸や「むきそば」のおかげで全快したのです。まさに医者いらずの食。

食という魅力だけでなく、酒田という多くの人々との交流を許容できる気風があるからいろんなアイデアが産まれて活力となっていくのですね。
佐藤さんのように活動が有機的に紡がれていくだけでは事は成し得ません。同じ考えを共有する仲間や団体、そして他地域の人々もが参画できる枠組みであること、
そして行政が上から目線でなくサポートに回り、かつ積極的にイベント参加を促すこのような気風は、昔から培われてきた商人の気風なのです。

そんな商人たちも見ていた変わらないこの景色、日本海に去く夕日を水辺で堪能しながら、明日のイベントに備えましょうか。

酒田港本港でサンセットカヤック
夕焼けは1日の終わりではない。これからアツい1日が始まるという思いにしてくれる。そんな景色だ。

NPO法人 元気王国ホームページ
NPO法人 元気王国Facebookページ
とがしスポーツFacebookページ
鳥海山Sea to Summit 2014


酒田関連地図。

Writer's Profile
糸井 孔帥
水主(櫓や櫂による舟の漕ぎ手・「かこ」と呼びます)

NPO法人 横浜シーフレンズ理事(日本レクリエーショナルカヌー協会公認校)
帆船日本丸記念財団シーカヤックインストラクター
水辺荘アドバイザー
横浜市カヌー協会理事

東京海洋大学大学院(海洋科学)在学中に、東京や横浜で海や港のフィールドワークをシーカヤックを通して学ぶ間に街中の水辺の魅力に引き込まれ現在に至ります。
大都市の水辺は、多くの旅人が行き交い賑わう場所で、また自然と対峙するアウトドアでもあります。
水辺をよく知ることが、町や歴史や国を知り旅の深みを増す契機となり、 また水辺の経験により自己を顧みる機会となります。
日本各地において水辺の最前線で活動しているプレーヤーの紹介を通して、水辺からの観光、地元の新たな魅力、 水辺のアウトドアスポットに触れる機会を作っていきたいです。
シーカヤックインストラクター(日本レクリエーショナルカヌー協会シーシニア)、一級小型船舶操縦士、自然体験活動指導者(NEALリーダー)。趣味は、シーカヤック・SUP(スタンドアップパドルボード)スキンダイビング・シュノーケリング・水中ホッケー・カヌーポロ・ドラゴンボート、そして島巡り旅。

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