2015.07.16
脱サラして船業界に飛び込んだ!江戸文化と水辺カルチャーを伝える小舟「みづは」の物語(その1)
自分たちのこだわりで舟を造ってしまった!佐藤さんの小舟「みづは」
ミズベリング活動を楽しむ人たちの中には、「水辺活動を仕事にできたらいいのに」と思う人もいるのではないでしょうか。かくゆう筆者もそんな淡い夢を見る1人です。
東京運河に、会社勤めの立場から、一艘の小舟を所有し船業界へ乗り出したご夫婦がいます。しかも、小さいながらもオーダーメイドの旅客船を作ったというのだから驚きです。「舟あそび みづは」を創業して2年の佐藤さんご夫婦を訪ね、水辺を知るからこそのこだわりあふれる船「みづは」を見せていただき、事業に乗り出したきっかけ、水辺で事業を興すにあたり障壁となったこと、それをどう乗り越えたかなど、起業までの道のりを伺いました。
佐藤さんご夫婦と待ち合わせたのは、東京運河の水辺でいまとてもアツいスポット「日本橋船着場」です。ここは2011年に現在の日本橋(20代目)架橋100年を記念して作られた桟橋です。ここができたおかげで水辺にアプローチしやすくなり、複数の会社が様々な船によるこの桟橋発着のクルーズ企画を手がけられるようになりました。
待ち合わせ前にちょっと見ているだけでも、ひっきりなしに様々な船が出入りし、お客さんが乗り降りしています。
そんな日本橋船着場で、白いシャツにブルーのスカーフ。「舟遊びみづは」のボードを手にしたみづはの船主であり、取締役船頭の佐藤勉さんと出会いました。これから、駐艇場である東京湾マリーナに帰港するみづはに載せていただきながらお話をお聞きすることになっています。
午後2時半。その日最後の運航からみづはが帰ってきました。日本橋をくぐって船着場に近づきます。白ベースやカラフルな船が多い中、茶色いシックな色合いの「みづは」は少し異彩を放って見えます。
運航は、ガイド役の佐藤美穂さんと船長の勉さんの2人で主に行い、受付などは時々アルバイトの方が来ているそうです。
船を桟橋につけ、お客さんをおろし、挨拶もそこそこに船に乗せてもらいました。
せかされた理由はこれ。水上バスとして運航されている船が桟橋が空くのをすぐそばで待っていたからです。「水上バスはダイヤがあるので、時間にはシビア。配慮して桟橋をあけるようにします」と美穂さん。水辺には関係者にしかわからない見えない優先順位があるんですね。
乗船して一番最初に目に飛び込んでくるのが、このおおきなテーブル。江戸の水路マップが書かれています。美穂さんのお父様が手書きされたのだとか。
数々の橋も特徴とらえて書かれています。「ここを走っていきます、と説明するとお客様にもわかりやすく好評です」と美穂さん。
こちらは神田川・日本橋川の水路マップです。
ちなみにみづはのロゴもお父様デザイン。上半分は清洲橋をイメージ。下半分が舟と波。
とことんこだわって、新造船の制作へ
さて、みづは取材にあたり、わたしはひとつの問いを持っていました。それは、「新しく舟を造ったのはなぜか」ということです。素人考えかもしれませんが、中古船を購入しそれをカスタマイズして事業を始めた方が現実的だと思うからです。サラリーマンの世界から舟の業界に飛び込んだお二人が造った舟はどんな舟なのか、そこにはどんな情熱が込められているのでしょうか
美穂さんと一緒に開放感のあるデッキ席へ。さあ、これから駐艇場である東京マリーナまで、ミニクルーズ(しながら取材)です。屋根のない座席に座ってみると、視界が広くて気分爽快!風も気持ちいい!
「そうでしょう?舟の仕事をするということになって、絶対この空の広さを感じる外の座席は必要だと思ったのです」と美穂さん。「でも、天候の悪いときにお客さんが震えながら乗船するのというのは嫌でした。だから屋根も欲しいと思いました」。なるほど、みづはは屋外と屋内両方のスペースがあります。
前半分が屋根なしのデッキ「舟桟敷(ふなさじき)」で、後ろが屋形「舟水屋(ふなみずや)」。定員12人全員が屋外デッキにいることもできるし、12人全員で屋形に入ることもできるくらい広々としています。
船は美穂さんお気に入りの水路の一つ、亀島川を行きます。この川は2つの防潮水門で区切られており、水面が穏やか。他の水路と比べても、陸と水辺の距離が近いのが特徴です。
亀島川をはじめ、東京運河を行くときにポイントになるのが、低い橋の下をくぐること。このぐんぐん迫る土木構造物と普段見ることのできない橋の下側を見られるのが、醍醐味の一つですよね。
みづは建造も、「なるべくたくさんの橋をくぐりたい」というのが一つのポイントになったそうです。「この舟は船底が浅いのが特徴です。喫水がだいたい50センチくらいしかないんですよ。さらに水面から2メートルの高さというのが造船時の希望でした」。潮が低いときや川底が浅い水路を行くとき、潮が高いときに低い橋の下を通りたいときなど、とにかく、低く浅く、運河の運航に対応しやすい舟にしたかったそうです。通常の舟だと喫水は1メートルくらい。水面から2mの要望は、造船時にさすがに難しいといわれて実際は2.2メートルくらいにおさまりました。
- どうして中古船を改造するのではなくて、新造船制作を思い立ったのですか?
- 私たちも最初は中古の舟に手を入れることを考えました。でもたとえば、自分たちの希望する舟の幅は3.5メートルだったのですが、漁船は2.8メートル。希望する高さに改造するにも、上を切らなきゃならない。なるべく船底が浅くて高さも低く、屋内も屋外もあって、トイレも完備しててって、希望を集めてみたら、改造に適した中古船もみつからず、もう新しく作ってしまえということになったのです
- 舟内のしつらえにもこだわりがあるんですよね
- 室内にいても江戸の雰囲気が味わえるように、和モダンをテーマにしています。江戸のすだれやテーブルクロスの江戸更紗などは職人さんに依頼して作ってもらいました。クロスを聚楽風にしたり、網代のような天井など、工夫を凝らしました。照明は薄く、はめ込み式にして、外国人など背の高い人に圧迫感のないように配慮しました。テーブルはオーダーして作ってもらったものです。仲の良いグループ向けには中央対面テーブルに、個人客の多いときには外の景色も楽しめるよう窓向きにと配置換えできるようになっています。
テーマは「スモールラグジュアリー」。上質な空間で居心地よく過ごしてもらいたいと、調度品にもこだわり、冷暖房完備。トイレの清潔感にも気を配っているそうです。
また、特徴の一つはエンジンを外にだした「船外機」。目が届きやすいためメンテナンスしやすいそうです。船体を横に動かすサイドスラスターも外付けしています。
サラリーマンだった佐藤さんご夫婦。熟考を経て、ボードデザインからてがける旅客船建造というステップを踏むことになったのですね。
しかも、起業の勉強中に出会った縁でボートデザイナーの中尾浩一さんのところにおしかけて(!)ボートをデザインしてもらい、観光船の造船の経験がある静岡の岡村造船所に依頼し、オーダーメイドの旅客船を作ることに至ったというのですから、こだわりが光ります。
(造船の様子などはこちら みづはHP )
リポート後半では、どんな思いがあって水辺起業への一歩を踏み出したのか、障壁があるのかどうかなどを佐藤さんにインタビューします。
大阪出身横浜在住。実家は大阪で海運業を営む。 BankARTスクール「これからどうなるヨコハマ」に水辺班メンバーとして参加。放送局キャスターを経て、現在は二児の育児のかたわら「ヨコハマ経済新聞」「子育て情報紙ベイ★キッズ」などでライターとして活動中。
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