2015.04.29

東京の水辺を1291人が自転車でゆく!チャリティイベント「バイシクルライド2015イン東京」

水上の乗り物でたとえるならカヌーに近い自転車で
陸上からの水辺を楽しむ。

かつて芥川龍之介は「自分は大川あるがゆえに「東京」を愛し、「東京」あるがゆえに、生活を愛するのである」(「大川の水」)と吐露し、永井荷風は、東京の都会美は「樹木と水流に俟つものと断言する」(「日和下駄」)と綴り、多くの文人に愛された水の都・東京。

今年13回目を迎えたこのイベントは、お子さんからお年寄り、そしてママチャリからハンドバイクまでと、幅広い参加者と自転車が集まって、東京の水辺と運河をのんびり走行して満喫する人気イベント。ですが、それだけではありません。参加費の50%が難病の子どもたちの夢をサポートするボランティア団体「メイク・ア・ウィッシュ・オブ・ジャパン」に寄付されるチャリティイベントでもあって、今年は1291人が参加、総額323万750円が寄付されました。

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江戸の海運コース全27キロを、自転車でのんびり、ゆっくり走行します。

朝7時に本会場である日比谷公園に着くと、ロードバイク、マウンテンバイク、クロスバイク、キッズバイク、ママチャリ、電動自転車、三輪車、車椅子、ハンドバイクが集まっていて、「自転車博覧会?!」と思うほど、さまざまな自転車が勢揃い。

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娘さんを乗せたトレイラー付きのファットバイクにまたがるお父さんは、茨城県からの常連参加者。

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千代田区のレンタサイクル「ちよくる」も登場。体力に自信のない人や遠方からの参加者の幅を広げました。

参加者のファッションもさまざまで、競輪選手のようなフル装備から、おしゃれなウェアに身を包んだ女子チーム、普段着の主婦、背負ったリュックから愛犬は顔を出している方や、ヘルメットに文字メッセージを貼り付けたグループなど、見ているだけで楽しくなってきます。

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この日のアイドルだった柴犬君。じっとリュックの中から水辺ライドを楽しんでいたようす。

海外からの参加者親子がいたので声をかけてみると、シンガポール出身のお父さんはスポンサー会社デルからの参加だそう。「会社をきっかけにイベントを知りましたが、大好きな自転車で東京観光出来るので、今年で3回目の参加です。普段日比谷公園まで自転車で走ったりしますが、このイベントは子どもと一緒に安心して都内を走れるところが嬉しいですね」。

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「東京のさまざまな表情を楽しめるのが魅力です」

参加者の小学生から80代までと幅広く、自転車もさまざま。競技のイベントとは違ってのんびり&お祭りムードも手伝って、知らない人同士でも自転車をきっかけに、あちこちで会話が弾んでいました。わたしはタイヤの太いマウンテンバイクに乗っているので、「このタイヤは何インチ?」とか「乗ってもいいですか?」と声をかけられたりしている間に、あっという間にスタート時間に。

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筆者も愛車サーリーで初参加。いってきまーす!

朝8時に「バイシクルライド2015」と書かれた大きなバルーンの下をくぐって、日比谷公園を出ると、中央官庁が立ち並ぶ霞ヶ関を通り抜け、東京タワーや増上寺がある芝公園を目指します。ルートにはいたる場所に200人を超えるボランティアの方がいて、参加者を誘導して道案内をしつつ「いってらっしゃ〜い」、「楽しんでくださいね!」とニコニコ声をかけてくれます。そのかけ声が「がんばって」よりも多いのは、このイベントが走行タイムを競うレースではないから。あくまで東京の水辺を自転車で楽しむ観光イベントなのです。

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東京タワーの周りは徳川家6人の将軍が眠る増上寺や芝東照宮や丸山古墳、
伊能忠敬記念碑など見どころもたくさん。

規定のルートはありますが、途中離脱もOK!(※ただし離脱した場合は保険の対象外)参加者は東京タワーや歌舞伎座前で記念撮影したり、築地の中央卸売場で食べ歩きを楽しむ人もいれば、隅田川の遊歩道で持参したランチを広げてのんびり休憩したり、それぞれ思い思いの時間を楽しんでいました。

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歌舞伎座のある銀座周辺はその昔、東西を三十間堀川と外濠川、南北は汐留川と京橋川が流れた水の都でした。

家族連れでの参加が多い中、最高齢だったのが、82歳の田中隆さんのご一家。自転車好きの息子さんをきっかけにロードバイクに夢中になった田中さんと奥様は、いまではツールド秩父に毎年出場するほどのサイクリスト。バイシクルライドイン東京は毎年家族で参加、今年で9回目の出場だそうです。「都内在住ですが、都心を走るイベントはなかなかないので、毎年参加しています。参加費の半分が寄付されるチャリティなので、一石何鳥にもなりますしね」とにっこり。確かに、普段クルマが多い都内を自転車で走るのって結構怖かったりするので、こういうイベントでゆっくり走れる機会は貴重かも….。

田中さん親子

カッコいいウェアに身を包んだお父さまは御年82歳で本イベントの参加者・最高齢。
「まだまだ息子には負けられませんよ」とガッツポーズ!

そしてこのイベントでは、普段あまり見たことがないタイプの自転車も多く見ることができました。なかでも初めて見たのが、クランクを手で回して進む3輪の手こぎ自転車ハンドバイク。ハンドバイクで参加できる自転車のイベントはほとんどないそうで、バイシクルライドイン東京のほかは、なんとドイツのベルリンマラソンに出場された経験を持つとか。

ハンドバイク

静岡県からハンドバイクで参加。「車体が低いので、水辺を走ると水面を近くに感じられて、気持ちがいいですよ」

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ピンクのブロンプトンに合わせたコーディネート×自転車模様のウェアがとってもキュート!

隅田川の遊歩道からいくつもの橋を越えていくと、東京がかつて運河だったという歴史を改めて感じさせます。特に月島から新川のあたりは、かつて西からの荷物を運搬した運河が数多く、江戸情緒と下町風情があいまって独特な雰囲気が残っています。

屋形船から漫画家・松本零士氏がデザインした「ヒミコ」まで、新旧の船が行き交う永代橋。

川沿いの景観とフレッシュな空気を楽しんだ後は、丸の内のオフィス街を抜けて、2014年に開業100周年を向かえた東京駅の前を通過。そしてスタバのエイドステーションに到着。第2回大会からエイド協力しているスターバックスは、この日のために近隣店舗から集まった元気いっぱいのスタッフ陣が一斉に、ミネラルウォーターやフルーツジュース、アイスコーヒー、クッキー、バナナなど参加者に盛大に振る舞うのが恒例行事。このエイドステーションを目当てに参加する女子グループもいたほどの人気です。

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エイドステーションでの記念撮影も恒例行事。
かけ声は「バイシクル〜ライド!!!」

エイド前に到着すると、整列した10人ほどのスタッフが拍手と大声援で「おつかれさまでーす!」と出迎えてくれ、食べ物や飲み物を次々と差し出してくれるので、まるで自分がF1レーサーかオリンピック選手になったかのような気分に(笑)。スタッフさんの高いテンションと元気の良さ、参加者の笑顔にパワーをもらって、残りあと8キロのルートへと出発進行!

内堀通りに入ると、皇居沿いの車道が自転車オンリーになって、ぐんと視界が開けてきました。
これは今回のイベントに限らず、毎週日曜開催されるサイクリングイベント、その名も「パレスサイクリング」。
その名の通り、皇居内堀沿いをぐるっと囲む内堀通りの一部、平川門交差点から祝田橋交差点の間の約1.5kmという、普段多くのクルマが行き交う車道を通行止めにして、自転車に解放するーーというもの。春の風に乗ったお堀のせせらぎを感じながら、都心の中心部、しかも4車線もある広い車道を自転車で駆け抜けられるという爽快感&非日常感! 普段見る東京とは、ひと味も二味も違った東京を発見できた1日になりました。

これまで「景観はそう簡単に変えられないもの」と思い込んでいましたが、いつもの通勤ルートを違う道に変えてみたり、乗り物を変えてみるだけでも、都市の景観はぐっと変わって身近になっていく….という、あたりまえのことに気づきました。
もちろん自然景観は一度壊してしまえば、元通りにはなりません。そうした問題も、こうやって安心して都内や水辺にアクセスできることで、街の変化に気づいたり、お気に入りの景観スポットを発見していく中で、街も水辺がもっと「自分たちの場所」になっていくのかもしれません。特に自転車は水上の乗り物でたとえるならカヌーと近いスピードで小回りが効くので、陸上から川の景観を満喫したり、街と水辺のつながりを肌で感じるには最適なのです。
そう、水辺を楽しむエコな乗り物は、船だけじゃないっていうこと!

特に銀座から月島、東京駅にかけてのルートをゆくと、約400年前、徳川家康が湿地帯だった江戸に幕府を開いて始まった東京の歴史や、縦横無尽に水路を張り巡らせた川や運河が、人や物資を運んだり、舟遊びや水の景観を慈しむ文化を生み市民の心と生活に潤いをもたらした、その軌跡をあちこちに感じられます。
….なんて思いを馳せることができたのも、こうしたイベントの中で安心して自転車で走れたから。
普段はクルマが怖くて、あまり都心には自転車で乗り入れしていない私としては、これから都内にもっと自転車レーンが増えるといいなあと願いつつ、会場を後にしました。

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千葉から参加されたおしゃれなご夫婦。「来年も参加しますよ」。

(撮影:石川望、鈴木沓子)

 

バイシクルライド・イン東京のプロデューサーで、実行委員会事務局長の田辺達介さんに話を聞きました。

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イベント立ち上げのきっかけから教えてください
田辺さん
私はもともと自転車の選手だったんです。でも仕事をしてから太っちゃって。ジムに行く時間もないし、自転車通勤を始めました。すると、自転車で東京を走るのは、すごく面白いって気づいたんです。東京は銀座の街から浅草などの下町、東京タワー、築地市場、皇居、お台場など観光名所がたくさんあります。また少し移動するだけで、それぞれ違った趣と表情が見えてくる。その東京という街の匂いを感じながら散走するには、自転車がいちばん小回りが利いて適していると思いました。自転車に乗ると見えてくる景色って全然違うんですよ。目線の高さやスピードが観光にぴったりだし、子どもからお年寄りまで乗れるのでみんなで楽しめますよね。それから私が自転車の選手だった70年代は、クルマを持つことがステータスで、自転車はダサいというイメージがあった。でも実はすごく面白いんだよっていうことを、広く一般の人に知ってほしいと思って立ち上げました。
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コース設定を東京の水辺に着目されたのはなぜですか?
田辺さん
東京はその昔運河で水の都と呼ばれていたことは、意外と知られていませんし、東京に住んでいても普段あまり行かないですよね。いまはオフィス街の茅場町や新川のあたりは、江戸時代から昭和初期まで物資輸送のための重要な運河として、材木や酒樽などを運ぶ舟で賑わいました。また江戸城を守るためにお堀ができたり、日比谷公園も入江でした。江戸の歴史は水がつくったと言っても過言ではありません。そして水辺に行くとその歴史が残る景色や、情緒ある風情がいまも残っています。そのルートと楽しさを紹介したかったんです。何より、水辺を自転車で走るのは気持ちいいですよね。
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これまで大変だったことは?
田辺さん
警察対応ですね。第1回目の開催時はイラク戦争前夜のタイミングで、国内の警備体制も厳しくなっていたこともあって、簡単には許可が降りず、何度も警視庁に通い詰めて、チャリティの仕組みを説明したり、イベントの意義を訴えました。その熱意が伝わったのか、道路使用許可が降りたときには、本当に嬉しかったし、ほっとしました。
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回を重ねるごとに変わってきたことはありますか?
田辺さん
女性参加者が増えたことですね!ファッションもおしゃれだし、女性がさっそうと自転車に乗っている姿はステキだなあと思います。男性も女性も、疲れた顔をして満員電車に乗って通勤するよりも、風を切って前を向いてペダルを踏んでいる姿は凛としていていいなって思います。自転車を乗る層が広がったことを嬉しく思います。それから改めて思うのは、東京の水辺の水質が良くなったなあと思います。私が幼年時代の頃は、隅田川はゴミが多く水も濁っていましたが、ずいぶん水質がよくなったと感じています。
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今後の抱負を教えてください。
田辺さん
いつかニューヨークのように道路を封鎖して開催できれば嬉しいですね。いま皇居の前の内堀通りが日曜日の日中に限り「パレスサイクリング」と言って、自転車に解放されていますが、クルマがない分、視界が開けて皇居の周りの草花が見えて、空気も景色もすごくキレイなんですよ。いつか全ルートで出来たらいいなと思いますね。そしてこのイベントをきかっけに自転車のある生活が広がって、街にもっと自転車レーンが増えるといいなと思います。

この記事を書いた人

編集者・ライター

鈴木沓子

新聞社を経て独立、主にアートやメディア、都市の公共性をテーマに、編集・執筆・翻訳をおこなう。愛車SURLY パグスレーで、川沿いや浜辺など水辺ライドをゆくのが楽しみ。共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)、『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』(パルコ出版)、『BANKSY’S BRISTOL Home Sweet Home』(作品社)など。

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