2015.01.27

ミズベリング インスパイアフォーラム2015
Pre-Interview「川は誰のモノなのか!?」(後編)

川に「大きな物語」が流れているという世の中になれば、
一気に東京は変わる。

市耒健太郎
今、「川」と言ったときに、なぜ東京という都市が背を向けているんだろうって考えるんですね。若者はなぜか「海」を見がちで、大人は「不動産」を見ますよね。なんか川ってものの非言語的なポテンシャルに、世の中の注意関心が向いていないことを大きく変えることが、とにかく重要だと考えるんです。川にこそ、オモシロい物語が流れてるんだぞ。そういう空気になれば、一気にデザイナーが流入して、商業が活性化し、文化が再び花開く。この言葉にならない感覚をどのように川というメディアに作り出せるかが、まずは僕たちの挑戦です。
ミズベリング
確かにひとびとの意識自体が、あまり川を向かってないですよね。
市耒健太郎
もう何年前のこと。とあるCMの仕事に参加してくれた池袋在住の中学生がいたんですよ。で、「今日はありがとうございました」と御礼を述べた後で、世間話をしていたんですね。その前までは岐阜県に住んでいたらしいんですけど、「引越してきて、都会の暮らしはどう?」なんて、たわいもない話でした。すると、彼は「東京は、むちゃくちゃ楽しいですよ。なんだってあるし、便利だし。ゲームもあるし、女の子もたくさんいるし(笑)」。だけど、「好きな子に告白する場所がないんだ。。。」って言うんですよ。もともと住んでいた岐阜だったら、「好きな子が部活の終わる時間に、なんとなく見合わせて一緒に帰ったりして、夕暮れになって、一緒に河原に座って夕日とか見たりできたら、それが好きじゃん!という合図でしょ」なんて。無垢な少年に、グッとくることを言われちゃって。あっ!って思った。

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ミズベリング
たしかに!たしかに!
市耒健太郎
こっちだと「メールで好きだ、とか言わなきゃいけないでしょ」なんてことも言われたんですね。たしかに東京には便利なモノやツールが溢れているけど、そんな感じで胸がキュンとする場所が東京には無さすぎる。
20年ほど前、学生時代に2ヶ月ほどプラハにいたことがあります。貧乏旅行だったので、今日食べるパンの金もおぼつかない。確かビールが一杯7円ぐらいで、ボトルを返すと1円戻ってくるみたいな時代。毎日、橋の上でピアソラとかを聞きながら風景画を売ったりして飲み代を稼いだりしていて。めちゃめちゃ寒いし、つらいけど、夕方の橋から見える川の風景が涙がでるほど美しかった。時代は流れる。都市は流れる。自分の人生も諸行無常だな、と。そんな水辺の風景は一生、忘れられません。都市に悠々と流れる川は、ぼくらの感情や記憶を刺激してくれる文明最高のメディアだと思うのです。

St Charles Bridge Prague

ミズベリング
まさに、川は、感性の集積メディアでもある!
市耒健太郎
一方、東京で、川のことを誰に聞いても、「ああ、なんとか、したいよね」「もっと綺麗にしたいよね」「でも、どうしていいかわからない」「誰に話したらわからない」という返事が力無く返ってきます。もっと言うと、「川=誰のものかわからない存在」になっている。先日、北京に一週間ほど滞在した時も、スモッグのおかげで青空が現れない。誰もが青空は欲しいのに、それをどうしようか、というソーシャルアクションは生まれない。公共物はきれいが一番、気持ちいいが一番な筈なのに、それができない現実がある。日常って、とってもソーシャルな場面の連続なのに…。誰もがそう思うのに、なぜか解決出来ない。なぜなんだ?って考えたときに、ソーシャルなイシューでこそ、「非言語的な美意識」を提供できるデザイナーや「社会への物語」を記述できるクリエイターの出番が大きいのではないか、と考えたのです。
たとえば、これからの社会は、ナノボット(500ナノメーターレベルのロボット)が血管を進んで行って治療して帰ってくる時代。医療が進化して、寿命が伸びて、とても素晴らしいことなのに、僕らが新聞で毎日読むのは、高齢化社会は大変だよ!という暗い視点ばかりです。あっちは科学の進化。こっちは政治的対策….。それぞれで部分最適は素晴らしく進んでいるのに、社会全体の解決策にはまったくいたっていない。だから、ソーシャルアジェンダは、様々な専門家がサイロ(個別の容器)の中にこもってもやっぱりダメなんだと思う。みんなが各々の専門性を持って巣の中から出てきて、フラットに考えないと大きな物語が描けないんじゃないか。それが「恋する芸術と科学」が目指している総合知への社会実験なんです。
テクノロジーと土地固有の問題で掛け算すると解決する問題も大きい。たとえば国土交通省がで提供してくれる河川ビッグデータとスマフォのGPSデータと橋の交通量をかけ合わせたら、対岸との新しい文化圏が作れるかもしれない。同じ川の上流と下流の生活者情報をライブで結ぶことで、河川域文化圏の概念を変えるとか。
僕らの暮らしは、ハードウェアだけがどんどん進化しますよね。アプリやソフトの演算処理能力もどんどん高速になっていく。そんなハードウェアやソフトウェアの進化から一歩引いて「人間」を見てみると、一日中スマホをいじって、アプリダウンロードして、目先しか見ていない生活だし、そんな姿勢は「猫背」だし、僕はあんまりそういう状態って、人間自体が美しく進化している感じがしないんですよ。むしろ、なんだか「ヒューマンウェア」が退化している感じがしませんか? 美しい人間の進化が、ハードウェアに追いついていない感じがするんですよね。そんな時、川こそが、テクノロジーと新しい人間性の掛け合わせを実現できる「都市の装置」になれるんじゃないか、と僕は考えています。

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ミズベリング
今後、雑誌に載せたプロジェクトはどうなっていくんですか?
市耒健太郎
はい。『恋する芸術と科学|Tokyo River Story』では、全部で22のデザインプロジェクトを発表しましたが、そこから社会実装可能なフィージビリティチェックを「経済性」「環境適合性」「地域社会性」「工学的可能性」「建築造形性」の5つの観点から行い、「リバー・ガストロノミー」「江戸の川床文化、再興」「流域圏教育」「川タク」「川族」「リデザイン・ブリッジ」など、7つほどを実現できるように動いています。
ミズベリング
え、7つも? 予算はどうされるんですか?
市耒健太郎
大学との協働研究も開始していますし、市民へのヒアリングも、クラウドファンディングの話しも進んでいます。政府の方も大きな関心をもってプロジェクトの進行を応援してくださっています。これを読んでいただいた企業の方がポーンと応援してくれるかもしれません。どうぞ、よろしくお願いします(笑)
ミズベリング
そうですね。お金がないから出来ないではなくて、産学民が1つの大きな目標に向かって知恵と時間を出し合えば、きっと出来ると信じています。
市耒健太郎
Tokyo River Storyは今後、世界にも飛び出る予定です。アジアや世界の川には、集住→汚染→文明的解決のサイクルがあります。まずは3月にナイロビ・リバー・ストーリーからはじめます。ナイロビ大学と協働でナイロビの川をフィールドリサーチしていきます。それからインド、中国にも取り組んで行きたい。ネットで世界の川文化をチェックできるWorld River Storyをつくっていきたいと思っています。ご期待ください!
→市耒さんたちが運営しているサイトはこちら

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市耒さんたちの取り組みは、文理芸を高次元に融合し、産学民、1次×2次×3次を掛け合わせた未来のワークショップラボのよう。まさにMITのメディアラボのように大学の研究室のような柔軟かつ最先端のナレッジが楽しく融合している知的生命体とも言える。様々な流域文化の発祥ステージである「川」を題材にした再開発プロジェクト。今後もミズベリング・プロジェクトは彼たちのアクションを追いかけていきたい。
29日のキーノートスピーチが、とてつもなく楽しみだ!

プロフィール

市耒健太郎Kentaro Ichiki
株式会社博報堂 クリエイティブディレクター
雑誌『広告|恋する芸術と科学』編集長。一橋大学卒、カリフォルニア大学サンタクルーズ校美術学部留学後、東京藝術大学大学院美術修士課程修了。企業と社会の非連続成長をテーマに、産官学の連携を組みながらクリエイティブチームを率いている。2012年カンヌ国際広告祭審査員。2014年世界経済フォーラムよりヤンググローバルリーダーズに選出。

この記事を書いた人

ミズベリング

ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、 水辺好きの輪を広げていこう!という意味。 四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。 あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、 モチベーション、イノベーション、リノベーションの 機運を高めていく運動体になれば、と思います。

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