2014.12.24
商店街×縁日×河川敷=ポスト商店街?
二子玉川の河川敷にある「兵庫島公園」に、一日だけの商店街が突如出現! 多くの家族連れでにぎわいました。
「商店街」のある街が少なくなった…という声をよく聞く昨今。街から「商店街」がなくなると何が問題なのでしょうか。
わたし自身もニュータウン育ちで、映画『三丁目の夕陽』に出てくるような商店街を体験したことがない世代です。
なので“シャッター商店街”の何が問題なのか、身をもって感じられる人間ではありませんが、この「いちにち商店街」のイベントで再現された“商店街文化”と河川敷の利用を通じて「商店街ってこういうことだったんだ」と楽しく体験できました。
今回の「いちにち商店街」は、世田谷区南部「玉川地区会」の中の15商店街が企画したイベントで、各商店街のお店などが河川敷に出店して、野外の商店街を開催するという試み。ただ、そのまま「河川敷に出店」するのではなく、昔懐かしい“商店街文化”を再現させる、おもしろい仕掛けが各所に散りばめられていました。
もっともにぎわいをみせていたのが、子どもがお店の店員としてお手伝いができる、そしてご褒美がもらえる「お手伝い制度」。店頭に張られた「お手伝い募集」の張り紙を見た子どもが名乗り上げると、店内でお手伝いができ、「しごとのごほうび」として地域通貨をもらえるので、それを集めると、豚汁や焼き芋、焼きマシュマロと交換できるシステムです。
あちこちで子どもたちが、一生懸命に綿菓子屋で綿菓子を作ったり、バナナの叩き売りをしたりと楽しそうに頑張っていました。思えば、子ども時代を振り返ると「お店屋さんごっこ」という遊びがあったくらいなので、子どもにとってのお店体験はわくわくするお手伝いだし、大人の仕事の現場を見れる貴重な機会なのでしょう。
子どもたちはお店のテントの中に入って、お店の人に自己紹介をして、仕事を教わりながら参加していく。仕事ってどんなものかを感じながら、「お店屋さん」と「お客さん」の関係性から一対一の関係になっていく。何が「まち」や「商店街」をつくるのかというと、やっぱり「建物」じゃなくて、人のつながりなんだなと思いました。そして、子どもたちが、家族や先生ではない大人の人と一対一で話して、何かを教わるというナナメの関係が生まれるのも、現代ではあまりない機会なのかもしれません。
バナナの叩き売り、逆バンジージャンプ、福引き、芋煮、チンドン屋さん…。
縁日や移動遊園地にも近い多彩な仕掛けを見ていると、商店街に限らず、お買い物の楽しさは、それまで知らなかった異文化や世界に出会うかもしれないことだとしみじみ思いました。そして商店街は「売る人と買う人」以外のかたちで、人と人とがうっかりつながっていく可能性がある場所で、そのつながりや交流から生まれるにぎわいや活力が地域社会の源だったのかもしれません。また商店街と河川敷は“みんなの場所”という公共性が重なるので、相性がいいのではないかと感じました。(実際に運営や許可の面では大変なのかもしれませんが)
「商店街」×「縁日」×「河川敷」で再現された“商店街文化”は、
商店街を知らずに育った私にとっても、その魅力を充分に感じることができた一日でした。
(写真/西端智幸)
このイベントの企画にたずさわった二子玉川商店街理事の橘たかさんにお話を伺いました。
- 企画の発端ときっかけを教えてください。
- 世田谷区には世田谷区の商店街が集まった連合会がいくつかあって、わたしが理事をしている二子玉川商店街振興組合は玉川地区会という連合会に加盟しています。今回、玉川地区会で商店街をもっと地域の人に身近に感じてもらおうということで、各商店街を紹介する新聞をつくりました。そこで、この新聞づくりをきっかけに集まってアピールするイベントを地区会の青年部が中心となってやりましょうという流れになりました。今回初めての試みです。
- なぜ河原に商店街を作ろうと思ったんですか?
- 今回のイベントの目的は、“昔ながらの商店街のにぎわいを再現して多くの人に体験してもらいたい”ということだったんです。商店街の魅力って、お買い物ができるというだけでなく、お店が集っている空間で、地域の人同士の交流や活気をもらえるところでもあるのです。河川敷なら広いし音も気にすることなく自由にその賑わいをみなさんに体験してもらえるのではないか。何より河川敷は気持ちがいいはずと思いました。
- 確かに、“にぎわい”を再現できる場所はあまりないですよね。
- そうですね。はじめから「河川敷で」と考えていました。屋外のオープンスペースだと偶然通りかかった人にも気づいてもらえると思いました。
- 二子玉川には大きなショッピングモールが出来ましたが、それ以降、商店街のにぎわいも影響を受けていたりするのでしょうか。
- おかげさまでそうでもありません。ショッピングセンターの良い影響で、二子玉川自体は人気が高くなり、空き店舗がみつからないくらいです。ショッピングモールよりも、むしろ商店街の中にマンションが建つことの影響の方が大きいように感じます。商店街のにぎわいと住宅地の静けさって、共存できるようでできないんですね。住宅地では音や匂いも気になりますし、一方で商店街の真ん中にマンションが建つことで商店街の連続性が途切れて、そのことで「商店街のにぎわいがなくなったね」と感じるお客さんもいるようです。そこが今の課題ですね。
- 昔懐かしい商店街の雰囲気が再現されていましたね。
- これからの世代である子どもたちにも商店街ならではのふれあいのある文化を体験してもらいたいと思ったので、子どもたちが参加できるしかけを考えました。商店街のお買い物って、お金を出して何かを買って終わりではなくて、人が出会ったり、交流したり、一緒に汗をかくという点にも魅力があると思うんです。その商店街の魅力を子どもも大人も一緒に体験してもらえるようにしました。お金を持って来なかった子どもたちも、キチンと参加できるお手伝いがあり、お手伝いをするとご褒美がもらえる。子どもたちにとっては、お店でお手伝いをすること自体が楽しかったようで、大好評でした。「仕事のごほうび」だった焼き芋はあっという間になくなってしまったんですよ。
- 大成功でしたが、河川敷という場所柄、大変だったところはありますか?
- 河川敷と言っても場所が公園でしたので、レアケースだったのかもしれません。
使用許可に関しても、商店街連合会のイベントということもあり、世田谷区商業課の方が間に入ってくださって密に連絡をとって調整をしてくださったので、比較的スムースにいったようです。大変だったのは、会場となった河川敷の現場を実際に使ったスタッフが誰もいなかったので、手探りの状態で準備したこと。それから、お天気です。お天気については本当にドキドキして、これはもう神頼みしかありませんでした。それから河川敷という場所を利用するので、集まった子どもたちが川で遊びはじめてしまった点が少し困りました。結局、川原でスタッフが子どもたちに危険なことをしないように声をかけ続けたのですが、それなら最初から川に親しんでもらうようなプログラムを考えておき、禁止するのでは無く楽しんでもらいながら大人の目を確保し安全性を担保しておけばよかったなと思いました。
新聞社を経て独立、主にアートやメディア、都市の公共性をテーマに、編集・執筆・翻訳をおこなう。愛車SURLY パグスレーで、川沿いや浜辺など水辺ライドをゆくのが楽しみ。共訳書に『海賊のジレンマ』(フィルムアート社)、『BANKSY YOU ARE AN ACCEPTABLE LEVEL OF THREAT【日本語版】』(パルコ出版)、『BANKSY’S BRISTOL Home Sweet Home』(作品社)など。
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