2014.07.18

水辺への招待状。
みなさん「ライフジャケット」着けてますか?

「子どもたちにライジャケを!」と毎日発信している小学校の先生にライフジャケットを学ぶ。

こんばんは。水主の糸井です。
もうすぐ海の日。
夏も本番となり、水辺のシーズンへとなっていきます。
家族や仲間、1人でも楽しめる水辺が日本には多くあります。

この楽しい水辺ですが、ときに人の命を奪う事故も。
水に対して人間は、何も装着しない場合、身体全体の2%しか水に浮かないと言われています。
こんな水と人との関係。
特に夏季(6月~8月)における水難事故の件数は、年間の水難事故における件数の約半分に値します。(警察庁の統計によると、平成24年において、年間の水難事故件数は1448件、うち6月~8月の夏季における水難事故件数は714件。
それだけ、多くの人が水辺に触れる機会である夏というシーズン。
それでは、どのようにして、事故なく夏の水辺を楽しむことができるのでしょうか。

今回ご紹介するのは、「子どもたちにライジャケを!」という活動です。
ライジャケ。
つまり、ライフジャケットを子供たちに着用させて水辺での事故をなくしていこうと、個人で活動されている方へインタビューに滋賀県甲賀市へと行って参りました。

滋賀県甲賀市。
集合場所である寺庄駅に来ると、この活動を展開されている森重 裕二さんがかわいい車に乗って登場。ライジャケにサンダルという格好です。いや、それはインタビューする僕も同じ格好。
雨模様の空のため、近くの水辺までドライブしながら、車内にてインタビューとなりました。

②森重さん

滋賀県内の公立小学校にて教鞭をとる森重先生。
レトロな2CVという車に乗って颯爽と登場だが、すでにライジャケ着用済み
「まず、この活動を始めたきっかけを教えてください。」
「いま、この辺りで小学校の先生をやってます。その前はロデオカヤック(川の激流の中を縦横無尽に乗り回すカヤック)を熱心にやってました。そのためか、小学校での川遊びの行事であるギャップを感じる。それは、親や先生たちが水辺でどう遊ばせていいか、どこが危険なのか分からないということ。溺れそうになっている子が近くにいるのに、そのまま川で泳がせていることもしばしばある。これはアカンと思って、まず僕らがカヤック乗るときに着用していたライジャケ(ライフジャケット)を着けさせることを言い始める。みんなにとってはライジャケが当たり前じゃないから、声を大にして言っても通じない。その後にも全国で水辺の事故が多くあり、もっと発信すれば事故が防げるのかもしれないと決意し、2009年にホームページを立上げ、この「子どもたちにライジャケを!」という活動を始めました。」

③車内

「この車いつエンストするのだろう・・・」
こんな不安を抱えながらインタビューする筆者(左)。
「田舎だから、雨天のときはここでの取材がいいですね。」と森重さん(右)
「実際の活動内容はどういったものなんですか?」
「活動内容は単純明快です。「子どもたちにライフジャケットを!」と毎日発信すること。ただ、それだけです。発信を始めた当初はホームページ、ツイッターと利用してきましたが、今ではFacebookを最も利用しています。より多くの人に「ライジャケ」という存在を知ってもらうために、毎日投稿しているのです。1度水辺のハイシーズンである夏季だけ発信していたことがありましたが、大切なのはオフシーズンも同じなのだと感じました。
おかげさまで多くの方から「いいね!」をいただいたりシェアしてくださったりと、年々多くの方に知っていただいています。」

開始当初からこの活動を理解してくださる方から活動の足しにとカンパをいただくこともしばしばあり、これを基にライフジャケットを今までで650個近く購入しプレゼントするという「ライジャケサンタ」という活動も行っているそうです。

④子供用のライジャケ

カンパによって作られた子供用のライフジャケット
「ライジャケサンタ」は子どもたちに水辺での安全というプレゼントを贈る。
国土交通省の認定されたタイプではないが、充分に浮力がある。
「そのカンパを基にデザイナーの方にステッカーや横断幕なども作っていただき、これも配っています。ただ、先生という職業なので販売ができません。なので、カンパいただいた方に直接ステッカーやライジャケを渡すような形なんです。そうやって繋がってきてカンパが集まる。みんなの思いがここに集まっているんだという思いで伝えていく。まずは伝えていく、ただそれだけ。」

⑤ステッカー

カンパによって作られたステッカー
地元のフリーマーケットでライフジャケットの告知を兼ねて来場した方にプレゼントしているとのこと。
けっこう人気ですぐ無くなってしまうそうで。
こんなオシャレな発信方法もある。
「なぜ、「子どもたちに」と限定しているのですか?大人は?」
「この活動を始めた当初は本当に「子どもたち」だけに対象を絞りました。大人じゃなくて、子供。
しかし、年々水難事故の傾向を見ていると、子供が溺れる、それを助けに行った大人が二次災害で溺れてしまうというケースが多いということに気づきました。
大人と子供、特に親子がこんなしょうもないことで死んでしまって離れ離れになるということが1番悲しいことです。大人にも知ってもらうこと。これが子供を守ることに繋がるんだと分かったのです。」
「その心境の変化というものは、何がきっかけだったのですか?」
「自分に子供ができたことです。もちろんその二次災害による被害の増加も大きく影響していますが、自分の子供が大きくなりいろんな水辺で僕じゃない人に案内される。そこで、無事に笑顔で帰ってくること。これだけで親としてはうれしいんだと思えるようになりました。それは、親としても同じで、親としての僕がそんな水辺の事故でいなくなってしまったら、子の笑顔を奪ってしまう。だから、大人にも子供にも知ってもらって、そこから親も子も先生も地域も議論してもらえればいいと思います。僕や僕の活動はそのときのネタにしてもらえればいいと」

熱い議論が車内にて交わされている間に、いつの間にか、車は水辺へと近づいていました。
ここは田村川という川で、まだ砂防ダムのみが上流にある生きている川なのだそうです。上流は鈴鹿山脈。
ちょうど川ガキたちが学校帰り泳ぎに来ていました。これから着替えて帰るところのよう。

⑥田村川

ここ田村川で小学校の行事が行われる。
どこが危険か分かる森重先生と、現場の知識がない他の先生や親とのGAPがこの活動を始めたきっかけとなった。
「この辺の小学生たちは学校が終わるとすぐ近くの水辺で泳ぎに来ます。
学校での行事もそうで、最初の学校の行事でここに遊びにくる。
僕らカヤックやってる人間は水辺でライジャケを着用するというのは当たり前じゃないですか。
事故が起こってから議論するのも大切だけれど、起こる前に議論することが大切。
ここの川を見てください。川はどこも深みがある
この川はまだ生きているから天候次第で川の顔が変わってくる。
大人からしたらなんてことない浅い川でも、子どもからしたら深い場所になる。
僕ら教師の場合、引率しなきゃならないときがあります。
本来は水辺をよく知っている人がいればいいです。下見とかきちんとして。
でも、そんなに水辺のスペシャリストがいないというのが現状なのです。
そんときに「着けてるか着けてないか」で全然ちゃうでしょ。
ってことで、ここの学校は、200人の生徒を持つ学校で200個ライジャケを持ってる。
市に訴えて、200個買ってもらったのです。これでリスクは大きく減らせるのです。」
「200個ですか?!すばらしい行動力ですね。それだけで、リスクというのは減らせます。
水辺で楽しく遊ぶことと、リスクを最小限にすること。この両立が最も大切なんですね。」
「僕は、いつも「当たり前の選択肢としてライジャケを」ということを訴えています。それは、彼ら川ガキや僕ら水遊びが得意な人たちは、水辺で安全に楽しむ知識や知恵がある。川の底に潜む魚を獲るときにはライジャケ着ていたら潜れないから、脱いで潜るという「選択肢」がある。しかし、多くの人は水遊びのための「選択肢」を持っていない。いや、その前に知らないのです。だから、その選択肢の1つとして「ライジャケ」を薦めています。着けていれば浮く。それだけでリスクは減る。」
「「選択肢の1つ」ですか。たしかに僕らは水辺の遊び方、水辺の道具の使い方はいろいろ知っているから、多様に遊べます。その中でライフジャケットが圧倒的に必要なときに着用します。」

たしかに、着けているだけで浮く。
僕も今回の旅のお供に自分のライジャケを持ってきていました。荷物としてはかさ張るが、お守りのようなものなのです。

⑦着用ダメな例

きちんと着用しないと、このようにライフジャケットが脱げてしまいそうになる。
脱げてしまっては、ライフジャケットの浮力を効率良く使えないため、危険である。
きちんとした着用を心がけよう。

子供向けライフジャケットの装着方法
6c68bfb74ee201e70d84d8d13be1f569

「子どもたちにライジャケを!」より引用

しかし、ライジャケもただ1種類ではありません。
レジャー用品店で売っている安い物から、
国土交通省が認定の証である桜マークが付いた救命胴衣
さらに僕が水上アクティビティを行う際に必ず着用し、
今回のように旅先にも持ってきたPFD(Personal Flotation Device) というアメリカ沿岸警備隊が定めた浮力基準を満たす浮力補助胴衣など、多種あるのです。

⑧カヤック

シーカヤックでは、上述したPFDを着用することが基本である。
これには、ポケットやカラビナなど、防水カメラや防水使用にした携帯電話、行動食などを簡単に装備することができるから便利だ。
このtype3は、浮力7.5kg(人間の頭部の平均の重さ)。
また、保温性にも優れ、低体温症の予防にも繋がる。

⑨ヨット

一方のレース向けヨットにおいて着用するライフジャケットは、動きが激しく、狭いヨットの中で効率よく動くため、ライフジャケットの周囲に何も装備しない。落水時に浮力だけ機能するためのライフジャケットを着用する。
「別にライフジャケットを知っている人に主張しなくてもいいんですわ。
詳しい人に議論してもらいたいんじゃなくて、ライフジャケットも水遊びのやり方も何も知らん人に、「そんなんあんねや」と言ってもらえるように。
最近、近所のおばちゃんたちとの井戸端会議で水辺に関する議論に挙がるんです。「何でライジャケつけてないねんや」って。そこが狙ってるとこ。
知ってる人たちや専門的な人たちからの意見は厳しいことも多いですが、全部勉強だと思っています。
それを受けて、もっとベースを広げたいんです。
だんだん広がってきているし、着用してくれる方も多くなってきているから、ずっと続けようと。」
「たしかに、自転車のヘルメットや車のシートベルトのように、着用することで圧倒的に生存率が高まりますからね。」
「ちょっと違います。ライジャケは体験できるということが大事だと思うんです。
自転車のヘルメットと車のシートベルトって体験できないじゃないですか。着用はできるけど、その事故を体験はできない。
ライジャケは水に浸かって浮くということができます。これって着けてない状態だと溺れる人も多いけれど、この着用して浮くことができるだけで充分な予防になると思いませんか?!」

なるほど。たしかにヘルメットやシートベルトの事故体験なんて考えるとゾッとしてしまいました。
ライフジャケットは着用して浮く体験ができる。これが大切なんだと。

「実は、この活動を始めてから、ちょっとした頃に北米から「WEAR IT!」という活動をしている方からツイッターを通してお誘いがありました。この「WEAR IT!」は、もう30年近くライフジャケット着用を推進する活動を展開していまして、毎年5月のある日にみんなでライフジャケットをつけるという記録を作るイベントを展開しています。今年は5月17日に行われました。ギネス記録のようなものですね。それだけでもオシャレだな~って思います。彼らからもいろいろな意見をいただくので勉強になっています。
日本の公的な機関や権威ある団体では、昔からライフジャケットはつけるべきだと主張してきたが、それだけでは事故が減らせていない。もっと手軽にオシャレになるべきものなのかもしれないのでしょう。発信のやり方が大切なんだと思います。議論が高まったら、もっとケースごとにあったライフジャケットを取り入れればいいだけ」

⑩WEAR-IT

北米にて始まり30年以上活動している「WEAR IT!」。
今年も5月17日に「ライフジャケットをみんなで着用する」という記録作りにチャレンジし、世界で6973件(ペット着用例も含む)もの記録が生まれた。(日本では、1356件)
来年はぜひ参加したいものだ。

「「子どもたちにライジャケを!」の成果は何かありますか?」
「成果というものはありません。成果というものは目に見えないほうがいいのです。
何も起こらない。笑顔で帰ってくる。これだけで充分です。だから成果はありません。
僕は小学校の先生なので、商業目的での利用はまずできないし、個人負担は多いもののナンセンスに感じてしまいます。でも商業目的で安全を図るということは、本当の安全を見逃してしまうのではないかと思ってしまいます。だから、データのような成果が僕にはありません。
ただ、身近な人たちやSNSでの知人や賛同者たちが議論をすることが年々多くなってきているというのは感じています。」

⑪SUP

SUP(Stand Up Paddleboard)というサーフィンやウインドサーフィンから派生したパドルスポーツでは、ライフジャケット着用すべきか否か議論が分かれるところ。
まだまだ議論が展開され、安全な遊び方が今後も検討されていくだろう。
ただ、着けるだけで浮くのであれば、機能的なライフジャケット(カヤックで装着するPFDなど)を装着することがリスクを1つでも減らし、安全な水遊びに繋がるため、筆者は着用をオススメする。
最近はSUP向けのライフジャケットも開発されているとのこと。
「これからの目標は何かありますか?」
「これからも同じように毎日発信していくこと。ただ、これだけです。
こんな田舎ですが、発信できる環境はそろっているから、東京でなくても充分に発信できる。
こうすることで、いろんな人が見てくれる。この活動は水辺を語る議論のネタのように使っていただければいいんです。ライジャケは必要だよね。ライジャケはいらない。このライジャケが1番いいんじゃないのか。いろんな意見が出ていいんです。それだけで水辺と自分の命とを向き合うきっかけになるのだから。
そういえば、カンパいただいた方に子供用のライジャケを1つお渡ししたところ、この夏にぜひ使いたいと言ってくださいました。ライジャケのプレゼントが初めての水辺へのきっかけになったのです。」
Ready Set Wear it!
このようにインフレータブル(自動膨張式)ライフジャケットは使用する。
普段かさ張らないのが利点だが、1回限りで専用ボンベを交換しなくてはならないという欠点もある。

⑫インフレータブル(自動膨張式)ライフジャケット

インフレータブル(自動膨張式)ライフジャケット。膨張済み
これを取材中ずっと着用している理由が分かった。
それは、初対面の人とのコミュニケーションの1つ。ネタとしてどんどん自分が使われていくことで、水辺の安全の議論になっていくことを願っている。

 

ライフジャケットが「水辺への招待状」とはなんともオシャレですね。
「当たり前の選択肢の1つ」として水辺の安全を考えるライフジャケット。
そもそも水辺では絶対安全ということはあり得ない。
あくまでその危険を最小限度にすることしかできないのです。なぜなら相手は自然だから。
自然と自分の能力。これを探求することでより楽しい水辺での遊びが生まれますが、多くの方はその「選択肢」を知らないのです。
ライフジャケットのように簡単に体験し、選択肢を増やし、より自分の可能性を広げることができるアイテムが手軽に手に入れることができます。
この夏、水辺へと足を運ぶ前に、ぜひライフジャケットを持って安全に楽しんで水遊びしてはいかがでしょうか。
真の楽しさというものは、リスクを最小限にするということに基づいているのでしょう。
きっと、ライフジャケットというものを知ることが、自分や仲間、家族、そして水辺を見つめなおすきっかけになっていくのです。

⑬最後

PFDを着用した筆者(左)とインフレータブル(自動膨張式)ライフジャケットを着用した森重さん(右)

 

みなさまも「子どもたちにライジャケを!」をチェックして、ぜひご家族やお友達と話し合ってみましょう。
「ライフジャケットってやっぱり大切なのかな?」
「どんな遊びなら安全に楽しく遊べるの?」
「この夏、どこの水辺で遊ぼうか。」
なんて。
子どもたちにライジャケを!ホームページ
子どもたちにライジャケを!Facebookページ

この記事を書いた人

水主(櫓や櫂による舟の漕ぎ手・「かこ」と呼びます)

NPO法人 横浜シーフレンズ理事(日本レクリエーショナルカヌー協会公認校)
帆船日本丸記念財団シーカヤックインストラクター
水辺荘アドバイザー
横浜市カヌー協会理事

糸井 孔帥

東京海洋大学大学院(海洋科学)在学中に、東京や横浜で海や港のフィールドワークをシーカヤックを通して学ぶ間に街中の水辺の魅力に引き込まれ現在に至ります。 大都市の水辺は、多くの旅人が行き交い賑わう場所で、また自然と対峙するアウトドアでもあります。 水辺をよく知ることが、町や歴史や国を知り旅の深みを増す契機となり、 また水辺の経験により自己を顧みる機会となります。 日本各地において水辺の最前線で活動しているプレーヤーの紹介を通して、水辺からの観光、地元の新たな魅力、 水辺のアウトドアスポットに触れる機会を作っていきたいです。 シーカヤックインストラクター(日本レクリエーショナルカヌー協会シーシニア)、一級小型船舶操縦士、自然体験活動指導者(NEALリーダー)。趣味は、シーカヤック・SUP(スタンドアップパドルボード)スキンダイビング・シュノーケリング・水中ホッケー・カヌーポロ・ドラゴンボート、そして島巡り旅。

過去の記事

> 過去の記事はこちら

この記事をシェアする