2014.05.30 Fri

船着場と水上交通ルールが
オープンな水辺を生みだす

船着場と水上交通ルールが<br>オープンな水辺を生みだす

ボトムアップのルール作りで先行する大阪方式に学ぶ。

船の発着に欠かせない船着場と
水上交通のルールづくりはどう行われたか?

船着場と水上交通ルールが
オープンな水辺を生みだす

船着場ってなに?

人は船にのって水の上に出るためには、船着場が必要です。身体的な制約から水上を陸上のようには使えない人間は、船という道具を使うことによって水上を最大限活用してきました。船着場は陸上と水上をつなぐために欠かせない存在です。船着場は、ほかの同様の街とのつながりを生むので、周辺ではモノの交換がおこなわれ、商業が栄えます。
例えば、「河岸(かし)」という言葉があります。これは川岸をあらわす言葉であると同時に、市場を表す言葉でもあります。船着場である川岸に商業が栄えたことをあらわしていて、いかに日本人が船着場である港と商業が密接していたかをしめす言葉です。近代化によって生活圏のそばでおこなわれてきた小さな港のアクティビティは遠く離れた立派な港湾へ移っていき、私たちは陸上の生活の豊かさを追い求めるようになりました。

船はどこでも岸に着けるという訳ではありません。水辺にスムーズに接岸できるようになるためには、桟橋はなくてはならないものです。しかし、昨今では、桟橋が自由に使えなかったので、水辺に魅力がうまれてこなかったのです。

ヒトは船着場があることによって、水上に活動の領域を増やすことができます。これは今も昔も変わりません。歴史的に陸上をいかに効率的に活かすか、という時代が続いたので忘れ去られてきました。忘れ去られてきた船着場をどうにか使いやすくするための取り組みが、大阪で行われてきています。今回はその取り組みをご紹介します。そのキーパーソンがNPO法人大阪水上安全協会事務局長の岡崎和清さんです。

okazaki大阪水上安全協会の岡崎さん

30年前の施策がきっかけ

昭和60年、大阪水上バス(京阪電鉄グループ)が水上バスの運行を大阪市内施策の一環としてはじめたときに、既存の舟運事業者との利害調整をする必要性に迫られて、設置されたのが現在のNPO法人大阪水上安全協会の前身の組織です。岡崎さんは当初は水上バスの運航のお仕事をされていて、その後、安全協会専任となりました。つまり、この30年間、水上の利害調整にずっと関わってこられた生き字引のようなかたなのです。
現在大阪水上安全協会は大阪市および大阪府が設置・管理する公共船着場の窓口一元化の施策に従って、10の船着場の管理をしており、平成19年の試行実施を経て平成20年から本格運用をしています。47の団体及び個人が会員として加入している。船着場利用者は届出をすることですべての船着場を使うことができるそうです(有料)。実は関東ではこのような取り組みは最近はじまったばかりです。

Bookmark_of_port_use大阪水上安全協会が管理されている船着場(大阪水上安全協会ウェブサイトより)

大阪水上安全協会は平成16年よりNPO法人になり水上バスから独立して、今年で10年となります。いまでは大阪の水上を盛り上げるためになくてはならない存在です。前述のように、平成19年より、船着場利用の窓口一元化にあたり、大阪府と大阪市から委託されて窓口業務をやられているのも、それまでの水上の利用に関して利害調整をしてきたことが評価されたからと言えるかもしれません。

あたりまえのことをすることで仲良く使えるようになる

「そもそも船着場は公共の施設なんでみんなで仲良く使わなければ、使えなくなってしまいます。」という岡崎さん。意識されているのは気持ちよく挨拶すること。以前取材した奥谷さんも行き交う船の船長さんに必ず挨拶していたが、それは岡崎さんの精神でもあるという。あたりまえのことをあたりまえのようにやることが、公共空間である船着場を円滑に利用するためには、どんな難しい理論よりも重要なんですね。

DSC_0046安全協会が管理している八軒家浜の桟橋と安全協会が入居する川の駅

当事者意識

岡崎さんは安全協会をひとりで切り盛りしています。当然すべての現場に出向いて鍵をあけたりすることはできません。では、どうやって運営しているのでしょうか。岡崎さんは会員に当事者意識をもってもらうことが大切と述べます。「現場でトラブルがおこっても、自分が当事者なんだから、自分でなんとかしなければならないでしょ?」会員制度は利用者に当事者の責任をもってもらう仕組みでもあるんですね。
公共船着場使用のしおり

kasenrule

みんなでつくる水上のルール

現在の旧淀川の安全航行のルールは、もとは岡崎さんが大阪水上安全協会でつくられたルールにもとづいているといいます。

当初は、自由に使えなくなるからルールづくりには抵抗感があったというが、実際は作ってみたらその必要性を感じるようになったという。特にルールがあることによって、新規参入するひともにも優しいという面は重要なのだそうだ。

IMG_7960平成17年に策定されたルール集 現在は大阪府と大阪市の共通ルールへ移行した。

現在の「河川航行のルール」は、大阪府、大阪市、国(近畿地方整備曲)や民間などによって構成される「河川水上交通の安全と振興に関する協議会」にて平成19年に策定されました。ルールには条例のような拘束力ありませんが、みんなで守ろうというスタンスで策定されています。

IMG_7003SUPと水上バスのすれ違い。

地域の実情にあわせたマナーとルール

大阪の水上のマナーのよさについては、筆者も以前の取材で感じるところがありました。以前SUPで土佐堀川を下っていったときすれ違った水上バスは速度をさげ、波をあまりたてないように注意してくれているようでした。

「実は水上バスは、推進装置もプロペラではなくウォータージェットを採用しています。通常こういう重い船体にはウォータージェットは向かないとされていますが、27年前の導入の時点で周囲に迷惑をかけないように導入したと聞いています。」

船は進むときに必ず引き波(航走波)をたてます。引き波はすれちがう船に大きな揺れをもたらすばかりでなく、河川に係留してある船同士がぶつかって損傷を招いたり、桟橋自体や護岸や橋にもダメージを与えます。もともと、船の世界のルールでは、見通しの悪い場所や船着き場の近くはデッドスロー(微速)が大原則なのだが、都心部の河川は狭い上に桟橋などの連続で原理的に守られにくいのです。

「旧淀川の河川は船が通るにはいろんな難しさがあります。橋の桁下高さが低い、橋脚の間が狭い、流れもある。もともと砂利運搬船などの業務船も通っていました。こういう場所にたくさんの船、しかも業務船だけでなく、旅客船も水上タクシーも水上バイクも通るということに30年かけてなってきました。それぞれの船には特性があって、舵の効きやすさや止まりやすさに特に違いがある。
なので、大阪の旧淀川の通航ルールでは特別なエリアを設け、航路のゆずりあいにおいては、船の種類によって優先順位を決めました。これは全国的にも珍しいことだと思います。まず優先すべきなのは舵の効きにくい(まがりにくい)砂利運搬船などのハシケ。舵が効きやすい他の船が気をつかうということになっています。」

通常、国際的な海上運航のルールでは、大きな船が小さな船をよける、ということに決まっています。ところが、大阪の河川にはこれとは異なる、地域の実情にあわせたルールができたのです。例えば、追い越しに関する禁止区域が設定されていて、見通しの悪い所や、狭い場所などの水域の実情にあわせてつくられていることがわかります。似たようなルールは、海の上で世界一混み合っていると言われる東京湾や大阪湾などでも決められていますが、河川では珍しいのです。このルールがあることによって、多くの種類の船が行き交っても問題が生じにくくなっている。

岡崎さんのような立場のひとが取りまとめるからこそ実現したことなんだとおもいます。ルールがあることによって、水上利用の促進と公共桟橋の解放につながっています。全国の水辺が今後解放されていくにしたがって、注目した方がいいポイントだと感じました。

新規参入の道しるべ

岡崎さんのお名前は、以前取材した「御舟かもめ」の中野さん「大阪シティサップ協会」の奥谷さんから聞いていました。彼らは大阪で実際に船を動かしている実践的なひとたちで、しかも新規参入組です。水上の事業に新規参入してくるひとがたくさんいるというのは、東京ではあまり考えられない。
奥谷さんは「最初、こういう(SUPのような)事業をやりたいと思っていろんな人に聞いて回るんですけど、たらい回しの連続で最後にいきついたのが岡崎さん。岡崎さんはやってみたらええんちゃうか、と言ってくれた」と述べる。

「いろんなひとが僕のところに船の事業やりたいと言ってきてくれますよ。12人乗り以下で登録だけなら水上タクシーの事業はやりやすい環境になりましたから。でもね、その人をみて、操船技術だとか人となりだとかみて僕が不安だと思ったら、やめたほうがいいんじゃない?とアドバイスすることもあるんですよ。もっと訓練しないといけないんじゃないかと」と岡崎さん。桟橋でトラブルがあったら、全体に責任が及んでしまうおそれもある。「そもそも人様の命を預かるお仕事でもあるので、そういうことをひきうけるという責任感がなければ舟運事業はできない」と岡崎さんは言う。「僕も水上バスの運航をやってましたから。何人ものお客さんの命を預かって確かに運航してきましたから。」

桟橋の利用の解放が進むうらには、大阪の水上の安全をみなで当事者意識をもって守り抜くという取り組みがありました。
確かな経験のある人が大阪にいて、責任感をもって責任ある仕事を自分でつくってその仕事を信念をもってやられているというのが、水都大阪の強みだと実感しました。

Writer's Profile
岩本 唯史
RaasDESIGN一級建築士事務所代表、株式会社水辺総研代表取締役、BOAT PEOPLE Association理事、水辺荘発起人

公共空間としての水辺がよくなることで、社会がよくなると考える。建築家として建物のリノベーションを主に設計の仕事をしている傍ら、都市をリノベーションするのであれば、公共空間である水辺を外して考えることはできないと考え活動している。BOAT PEOPLE Associationのメンバーとして、いままでさまざまな水辺のトライアンドエラーを繰り返して社会に水辺の空間のあり方とつきあい方を提案してきた。
2005年横浜トリエンナーレ出展作品「Life on Board II」「内閣府都市再生モデル調査事業、FLOATING EMERGENCY PLATFORM」「地震EXPO09(BankART)」「東京アートポイント LOB09-10」など。最近は横浜の水辺を「使い倒す」ことを目的に、水辺のソーシャルスペース「水辺荘」を日ノ出町たちあげ、都市に新しい風景をつくる試みをたくさん行っている。
RaasDESIGN
株式会社水辺総研
水辺荘
BOAT PEOPLE Association

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