2018.03.16

ミズベリング・インタビュー: 国交省水管理・国土保全局河川環境課 河川環境保全調整官奥田晃久さん 

この業界を選んだ皆様は、いい世の中にしたいという信念があるはずです。

幼少期は瀬戸内海の自然豊かな島で育ち、進学した大学では河川工学を学んだ奥田さん。建設省(現在の国土交通省)に入省し、さまざまな部署を経て、現在は河川環境課で調整官を務めています。そんな奥田さんが実感することは、時代は変化し、次のステップに向かいつつあるということ。高度成長期を経て成熟しつつある日本を、行政マンが国民、市民と対等な立ち位置で、いかによりよく変えて行くかが重要と言います。そのような見通しの中、公共事業をハード、制度をソフトとすると、それらを有機的につなげて活かすのは、結局は人だということを指摘されました。

奥田さんのキャリアは阪神淡路大震災があった翌年荒川下流河川工事事務所(東京都北区)の工務課で工事の発注をする仕事からスタート。その後、横浜国道工事事務所(神奈川県横浜市)で、道路事業の「環境アセス」の担当へ異動し、のちに財団法人の国土開発技術研究センターにて「治水経済調査マニュアル」の研究と作成に携わる。その後、本省河川局河川計画課に配属され、河川法改正に伴い設置された河川整備基本方針・河川整備計画を担当する係の初代係長として就任。のちに大臣官房技術調査室へ。北九州国道事務所で道路事業の調査担当課長を経て、関東地方整備局河川部河川計画課長を担う。その時は、八ッ場ダム(群馬県)事業なども担当。本省治水課補佐、海外勤務、事務所長等を経て、2017年より河川環境課河川環境保全調整官に就任。

海外勤務

大学では河川について学び、入省してからこれまで数多くの部署で仕事をしてきました。河川以外の部署も経験しましたが、基本的に河川がメインです。今は40代半ばとなって、これまでとこれからを見据えられるポジションに来たなと思っています。
多くの仕事をしてきましたが、そのなかでもとりわけ働きがいがあり、自分の仕事の原点を思い出させてくれたのがフィリピンの公共事業道路省での勤務ですね。日本の河川は、どこもほとんど人の手が入って整備されていますが、フィリピンでは社会資本整備が遅れている状況にあり、特にミンダナオ島の紛争地帯等ではほとんど整備がなされていない原始河川のような河川がまだまだあります。流れが突然変わり、家の目の前が突然河川になったといった話を目の当たりにしてきました。
そもそも、フィリピンでは日本で行っているような河川を水系一貫として管理する概念がありません。また、公用語が英語の国であるためアメリカの制度をたくさん取り入れています。しかし、フィリピンは島国で急流河川が多く、日本の長い歴史で培った日本の河川の制度・技術を取り入れたほうが実態に合うのです。必要な事業を現実的にどう実現したらいいかなどもアドバイスしました。困っている人を助けている実感がありましたね。

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川の利活用によっても
生態系の意識が始まる

昔から川を中心に地域は発達し、川から恵みを受け、そこから文化も生まれていると思います。手つかずの自然のままの方がよいと思われている方の中には、利活用が悪だという方もいますが、私自身は利活用と、自然の両者が必ずしもバッティングするとは思いません。無関心層も利活用を通して河川に引き込み、河川環境、さらには生態系のことも考え始めるきっかけになるはずです。歴史を考えても人が河川を活用することは、もともとあった自然の環境と、それぞれ相反するものではないと思っています。昔は川が生活の中心にあった時代もあったわけですから、そうした社会にするためにはどうしたらいいか、なにができるかということを考えています。
そういった考えから、私達は、「河川環境」という言葉を良好な生態系、スポーツ等の健康のための利用や景観等様々な意味での環境を含めて使っています。

コウノトリを指標とした地域経済をより良くする取り組みから学ぶ

我々は、河川を安全に管理し、自然環境をよりよくする事業をやっています。我々ができることは河川区域の中での事業ですが、ただ漫然と事業を行うのではなく、こういった河川環境事業を起爆剤や「てこ」にして、世の中がより元気になれば、という信念を根底に持っています。こういった取り組みの一つに「生態系ネットワーク」というものがあります。関係者で地域の指標となる種を決め、ゴールまでの道筋を共有しながら、関係者・地域一体となって進める取り組みです。
良い例は、兵庫県の但馬地域で、指標種は「コウノトリ」です。河川事業では湿地を再生するとともに、支川との連続性を確保し、魚が流域に上がれるよう段差の解消等を行いました。兵庫県においては、「コウノトリの郷公園」及び「兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科」を設立し、国の特別天然記念物であるコウノトリを保護増殖し、科学の理論に基づいて野生復帰を実践する研究・教育を行っています。流域においては、コウノトリのえさとなる水生生物が増えるようにビオトープの造成、無農薬や減農薬での米作りを行っています。米を育てると同時に多くの生き物を育むという理念で、カエルなどの生息場所を確保し、深水管理での抑草など、農薬に頼らない除草や防除を呼び掛けるとともに、研修会等を通じて生産者に周知も行っているようです。これらの「コウノトリ育む農法」が米や野菜のブランド化につながり、新潟のコシヒカリよりも高価で取引される米を生んでいます。また、観光としてコウノトリを見にくる人も増えています。
地域の人も生態系ネットワークを活用することで、経済が潤い、地域が活性化しています。先日、全国の生態系ネットワーク取組みについてのシンポジウムを開催しました。共催に農林水産省、環境省にも入っていただき、初めて三者で行いました。
環境事業は壊した自然を戻す/マイナスをゼロに戻すだけではなく、環境事業を起爆剤にし、経済面、地域の人々のコミュニティを強くし、多くのことを元気にすることもできます。国土交通省ではその他にミズベリングがありますが、農林水産省、環境省にもそれぞれの施策があるので、そうした支援ツールを使いながら地域を元気にしたいです。

豊岡市加陽地先(上流上閉鎖型)

近畿地方整備局豊岡河川国道事務所提供

NO.からYES BUT・・・.への転換

そこで重要なのは、河川で何か行いたいことを市民に伝えられたとき、行政側が受け入れる度量を持つことです。これまでの河川管理は、基本的には「NO」というような文化でした。ビジネスの世界ではYES BUTが最近のはやりですが・・・。こうした文化が生まれたのも、我々の場合は安全が第一だからです。現場の事務所へ相談にくる案件が、所長まで上がる段階前にNOで止まっている場合があるのです。
なかなか難しいですが、河川の占用手続きを、まずはモデルエリアを決めて、全て「見える化」して、オープンな形でやってみるか等と話しています。また、自治体が事前に活用したいエリアを決めた場合、そのエリアで占用を出す条件を事前にお示しするような社会実験をやるかとも。利用したい人にとって、占用手続きがリスクになっているので、そうやって試験的に試みるということも大きなメッセージになるのではないかと思っています。
いずれにせよ、対等にコミュニケーションをとることが大事です。河川は公共の空間であるのに、行政とは対等ではなく、上からNOと言われては、心象も悪くなります。また、河川に手を出すと面倒臭い、時間のコントロールができない、メドが立たない等と言った声が出なくなるよう改善する必要があると思っています。民間のビジネスは、我々のように一年単位で終結し、また来年にスタートするようなやり方ではありません。仕事のやり方を変えないと、一緒に歩むことが難しいんだと思います。
そうした前向きな取り組みを積み重ねることで、我々の組織全体も変わると思います。

公共事業をハード、制度をソフトとすると、それらを有機的につなげて活かすのは人

これまで、国土交通省は公共事業を実施することが中心でした。しかし、時代は変わりました。公共事業をハード、制度をソフトとすると、公共の空間を生かすため、つまりソフトとハードを有機的につなげるのは、結局それを活用する人。実はそこが足りないのではないかとわかってきました。
ただ、待っていても人は来ません。効果的に実現できる人材を集め、連携し、また場合によっては育てるのがミズベリングだと思っています。ミズベリングでどんな人材が必要かは、私が具体的にイメージしないほうがいいと思っていますが、地域が河川の水辺をどのように使いたいのかをアンテナ高く理解し、人や時代の流れをキャッチでき、皆の核となる人がいたらいいと漠然と思っています。新しい可能性やそこで自分がどのように役立てるかを気づける人なのではないでしょうか。
ミズベリングを通じて、他の河川の使われ方を勉強し、同じ志を持つ人とのつながりもできるでしょうし、新しい可能性も見つかるのではないかと思っています。
ミズベリングでは、今まで以上に河川を利用する人を増やす、新しい利用の可能性を探る、そういったことを期待しています。利用とはイベントだけではなく、例えば昔のように川に向かい合い、情緒を見出せる地域作りも入ります。川から自然を感じたい、と思えるような社会になればと思います。これからは、まちを考えてから、川やインフラをつくっていくことが大事だと思います。

ミズベリングは行政マンを
変えることもテーマ

ミズベリングは、よりよいアイデアを生み出し、民間の人を呼べる呼び水であってほしいと思っています。省内でミズベリングについて深い理解がある行政マンは少ないのが現実かもしれませんが、それを逆手にとり、既定路線がなく自由に発想してもらうことも重要かもしれません。昔から河川の活動をやられている方と、もう一回関係の再構築が必要という行政マン、新規で使う人を増やすこと、今ある既存の団体に若い人が入ることが重要だと思う行政マンもいると思います。外から役所の悪いところをつついていただいて、原動力にしてもらっても構わないと思っています。刺激を受けて、行政マン自身も変わらなければなりません。もしも今の我々だけでミズベリングを担うと、きっと行政の感覚でまとまり、小さく内輪でやるだけになってしまうかもしれません。民間の人は広報力もある。我々行政マンも変わりますので、是非ムーブメントを作って欲しい、作っていきたいと思います。

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成熟した国に必要なこと
公務員のあり方を考えよう

今では、バブル崩壊後の世代がもはや中堅に上がってきています。私を含め中堅の世代が若手の時は、自分の考えや想いを率直に上司に伝えるような文化は正直ありませんでした。私自身は、若い人がフランクに考えたことを相談、伝えられるような仕事のやり方に変えてきています。
これまでの先輩方が、敗戦後の日本を成熟するまで築いてきてくれました。これから大切なことは、その手法をそのまま引き継ぐのではなく、今の時代を冷静に見て、社会にどういうことが求められているかを感じることです。若い人とはその上で、何を次の世代に残していくかを一緒に考えていきたいと思っています。
河川は高度成長期には、残念な扱われ方をしていました。国民の暮らしが豊かになるために、ある意味仕方がなかったと感じることもあります。現在はまだその借金を返しているだけかもしれませんが、ネガティブに捉えず、自分たちの仕事によって、未来に向かってどれだけいいものにしていくかを考えたいです。この業界を選んだ皆様は、いい世の中にしたいという信念があるはずです。
勇気をもって、今までのやり方を変えていきます。

この記事を書いた人

ミズベリング

ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、 水辺好きの輪を広げていこう!という意味。 四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。 あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、 モチベーション、イノベーション、リノベーションの 機運を高めていく運動体になれば、と思います。

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