2014.09.01

東東京の発信スポット、
水辺レストランカルチャー

バルニバービグループ
佐藤 裕久 代表取締役CEO インタビュー

バルニバービグループ
佐藤 裕久 代表取締役CEO インタビュー

東東京に生まれた新たなムーブメント「MIRROR」

かつて江戸のお膝元であり水運物流の拠点として賑わっていた隅田川界隈は、洒落者が集う街として文化的にも隆盛を極めていました。しかしその後、今日のように車社会が発達し、陸上輸送が主役となる時代の移り変わりの中で、東京の西側の都市的発展が進んでいきます。
そしてまた時代は動き、水辺と東東京に新たなムーブメントが灯る時が来ました。2012年、東京スカイツリーが改行し、今後ますますの発展と変貌、可能性を秘めた「EAST TOKYO」、東京の東側。
その「EAST TOKYO」を拠点に、エリア全体を巻き込んだ新たなムーブメントを呼び起こす水辺レストランカルチャー・プロジェクト「MIRROR(ミラー)」の火つけ役、「バルニバービグループ」の佐藤裕久代表取締役CEOにお話を伺いました。

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「MIRROR」は、完成することのない商業ビル

新たなレストランカルチャーの拠点ビル、「MIRROR」は年月をかけて需要とアイデアを取り入れながら創りあげていったと聞いています。
バルニバービグループ代表取締役CEO 佐藤裕久
そうですね、最初は1階と3階のカフェから始まり、ギャラリーやバーなどを開店し、今の形態に至っています。ただし、7階建ての「MIRROR」も、今は全フロアが商業施設として使用していますが、全フロアを使っているから完成した、ということではないと思っています。それが、「MIRROR」がめざす、通常の商業施設とのもっとも大きな違いではないでしょうか。
多くの商業施設はオープン時が大きな完成形の節目、そしてそこからだんだん消耗・消費していき、ある程度の消費が進んだらリニューアルをかける。その時代を表象する顔となるようなトレンドを取りいれつつ、シンボリックで人気のあるものをつくっていく。
「MIRROR」の意図している考え方はそういった視点とは異なります。その時そのときの世相を映し出し、政治経済、流行、文化、市場など、さまざまな要素を内包する。時代を映し出しつづけていく鏡のようでありたい、そんな思いが込められた商業ビル、新たなレストランカルチャー・プロジェクトです。

MIRROR全体図

「MIRROR」は、お店ごとにコンセプトも内装デザインも異なる、様々な食のシーンを提供する食の複合施設

新たな潮流は、隅田川の流れとともに

「MIRROR」の拠点を水辺の街、蔵前に選んだ理由はなんですか?
バルニバービグループ代表取締役CEO 佐藤裕久
バルニバービグループが運営する水辺カフェに、大阪でオープンした1号店「ムーラン」があります。このカフェを手掛けた時に、おもしろいことに気づきました。行きかう船に乗っている人々がカフェに向かって手を振るんですよ。船のガイドさんも「みなさんこちらムーラン、おしゃれなカフェです~」と言ったアナウンスをしてくれる。川があって、カフェがあって、手を振る人々がいる。そこにはたとえばバスなどでは生まれない、“川だからこそ成り立つコミュニケーション”が生まれるんです。
そもそも私は京都生まれの人間というのもあり、川には慣れ親しんでいました。京都は街中を流れる鴨川があり、“川遊び”という文化があります。川床があったり、ザリガニを獲ったり、キャンプしたり、夏には水遊びをしたり。川の風や水面にキラキラ反射する光、海の近くの下流付近で垣間見える魚やクラゲの姿などを見ていると心も和みます。水辺には、人を惹きつける魅力がありますよね。
ここ隅田川が流れる東東京は古くからの職人文化を大切にする街でありながらも、2012年の春にスカイツリーが開業し、これからますます新たな未来が動き出す、活気ある発信の場所となる地域。さらに隅田川は排水が問題視されていた一時期から脱却し、随分きれいになってきています。おそらく地元の自治体や行政など各方面の長年の努力があってのことだろうと思いますが、こういった歴史的背景があって自然の恩恵を受けられるということを忘れてはいけないし、活かしていくべきだと思います。

そこにしっかりと流れてはいながらもその時そのときの表情を映し出す川の流れのように、時の軸を折り重ねながら時代を映していく鏡のようでありたい。“MIRROR”が目指す先は、時の流れの中にあって移ろいと変わらないものとが同時に存在する、隅田川の姿と近いところにあるのかもしれません。

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水辺に拠点を構える上で、絶対に忘れてはいけないこと

今後の水辺との付き合い方はどう考えていますか?
バルニバービグループ代表取締役CEO 佐藤裕久
そうですね、まず水辺エリアで私たちが事業体を行っていく上で、絶対に忘れてはいけないことがあります。それは、美しい自然のパワーに満ちた川がもつもう1つの側面、凶暴性というリスクです。
ただ単に「水辺のカフェって気持ちいいよね」というそれだけでは事業としてはやってはならない。川は時に、暴れます。この事実は忘れてはいけないし、暴れたときの対策や影響を常に考えていなければならない。いざという時に、どこでお客様の安全を確保することができるか、それをしっかり考える。だから、国や行政が指示するガイドラインの内容も理解できるし、納得できます。
自然の美しさや自然の持っているよさを必要とするのであれば、自然が持っている凶暴性もきちんと受け止める。これからも川は暴れるだろうしリスクももちろんあるとわかってはいるけど、それを上回る魅力や素晴らしさが水辺にはあります。これからも私は、水辺と共存していく店舗をつくりつづけ、新たな水辺レストランカルチャーを発信しつづけていきたいと思っています。

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プロフィール

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バルニバービグループ代表取締役CEO
佐藤 裕久(Hirohisa Sato)

略歴

1961年 京都府生まれ
1985年 神戸市外国語大学中退、アパレル会社で出店計画事業などに従事
1991年 有限会社バルニバービ総合研究所設立、代表取締役に就任
1998年 株式会社バルニバービに組織変更

現在、東京・大阪をはじめ全国に48店舗のレストラン・カフェやスイーツショップを展開。
ヨーロッパの年月を熟成していくスタイルにインスパイアされた感覚のカフェにより、
大阪・南船場の性格を決定づけた仕掛人でもある。
既成概念にとらわれない経営手腕で関西・関東飲食業界を牽引する。
地域に根差した店舗作りを展開する傍ら、商業施設のプロデュースや、起業・経営についての講演会なども行い、幅広く活動する。

著書に「一杯のカフェの力を信じますか?」(河出書房新社)
「日本一カフェで街を変える男」(グラフ社)

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この記事を書いた人

ミズベリング

ミズベリングとは、「水辺+リング」の造語で、 水辺好きの輪を広げていこう!という意味。 四季。界隈。下町。祭り。クリエイティブ…。 あらためて日本のコミュニティの誇りを水辺から見直すことで、 モチベーション、イノベーション、リノベーションの 機運を高めていく運動体になれば、と思います。

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